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妹がヤンデレ過ぎて怖い件について  作者: 所天駄
第一章 妹と僕 ― アーデルハイド親衛隊は妹の旗下へ従属するか? ―
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8.アーデルハイド親衛隊 ~ そは鉄の掟也や ~

アーデルハイドが手紙を受け取った翌日の放課後。


学園内の某所では女子の集団が一つの部屋で密会をしていた。


「それで? 会員番号116番ユーリさん。

首尾よく手紙は渡せましたのかしら?」


豊かに波打つ緑色のミディアムヘアをサイドでお団子にした碧眼の美少女が振り向きざまに声を掛けて来た。


「ええ、手筈通り、例の二人が居ない時間を見計らって、アーデルハイドターゲットへ渡しました。これで、私の会員ナンバーをも少し上に上げていただけるのでしょうか・・・?」


「ええ。成功の暁には、わたくしから会長に掛け合ってあげましょう。

アーデル様とのお茶会が成功した暁には・・・ね。」


「はいっ! 是非とも成功するように私もなんでもやります!!」


「それでは、前祝として、細やかだけど労いのお茶会ティーパーティを開きましょう!」


周囲に集まっていた10名ほどの若い少女たちは、嬉しそうにそれぞれ手にしたティーカップを片手に祝杯を挙げた。


なんのことは無い、アーデルハイド親衛隊、通称アーデル隊(アーデル様を愛でる会)会員ナンバー10番、二学年シャーロット辺境伯爵嬢が、自分より年齢も身分も会員ナンバーも低い一学年の子爵令嬢ユーリを利用して、ラブレターを届けさせたのだ。


そもそも、なんでこんなにも回りくどい方法を取るのか?


答えはソフィーの存在なのだが、残念ながら親衛隊のメンバーはその事実を知らない。


親衛隊の認識では、憧れのアーデルハイドを周囲には常に双璧のように学年首位で伯爵令嬢のクララと、学年3位の侯爵令嬢エリカが立ちはだかっており、なかなか近づけないという事だけだった。


アーデルハイド親衛隊の存在を知る者は、アーデルハイドへ想いを寄せる数だけ居る。


しかし、そこはやはり貴族社会。


想いを伝えるにも序列を作り出してしまい、会員ナンバーが古い者程、優先的に告白して良い決まりになってしまっていた。


会員ナンバーが30番以内であれば、いつでも想いを伝えても構わない。


その代り、一度告白して夢破れた者は、下位の者へナンバーを譲渡する。

これが本来の取り決めだ。


しかし、そこにも抜け穴があり、空席ナンバーがわざと設けられている。


会長や上位の者たち程、一度優先権を手にすると、手放したがらない。


そして、学生期間を終えれば、親衛隊も除籍となる。


こうして、空位のナンバーは、より上位のナンバーの者たちの手で政治的駆け引きの道具としても利用される余地が生まれたのだ。


現在の所、アーデルハイドへ想いを伝えて受け止めてもらえた成功者は居ない。


成功率0%。最難関最重要作戦ミンション・イン・ポッシブルと呼ばれ、いつしか親衛隊員同士でも、なかなか告白へ踏み切れない者たちが増えている現状を打破しようと、シャーロットは難関へ挑んだのだった。


「ところで・・・ お茶会へはどうやって繋げるのでしょうか・・・?」


「まぁ、貴女。

たった一度だけのお使いで会員ナンバーが上がるとでも?」


遠慮がちに聞いてみたら、藪蛇だった・・・。


ユーリは少し泣きたくなった。


しかし、シャ-ロットはさも当たり前と言いたげに、次の指示を飛ばしてきた。


「さぁ、来週はこの手紙を渡すのよ。」


「・・・はい。」





本当はユーリだって、直接自分の気持ちをしたためたラブレターを渡したかった。


入学式の直後に、うっかりアーデルハイドと廊下でぶつかりそうになって以来、胸のトキメキが止まらないのだ。


一目惚れだった。


この世にこれ程美しい男性が居るとは思わなかった。


スラリと伸びた細く長い手足、儚げで中性的に見える美貌。


薄水色でサラサラとストレートに背中まで伸びた髪に長い睫毛。


陶芸家が作り出したとしか思えないキメ細やかで白い肌。


「大丈夫?」


と掛けられた声でさえ、天上の調べかと心振るわせる美声だった。


完璧。


その一言以外にアーデルハイドを表す言葉が思い浮かばなかった。


「ふひゃいっ!?

だ・・・・だいじょびゅでふゅ・・・・。」


あまりの美しさに我を忘れ、噛み噛みでなんとか受け答えするも、意識はすっかり美貌に釘付けとなってしまっていた。


「うっしゃぁぁぁぁああああぁぁぁぁ・・・!!

この学園に入って・・・・ 

良かったぁぁぁぁぁあああっ!!」


次の瞬間には我を忘れ、思わずガッツポーズを決めると、公衆の面前であるという現実さえ忘れてしまい、淑女らしからぬ大声で叫んでしまっていた。


「何っ!?

突然どうしたのっ!?」


「あ・・・ なんでも・・・

なんでも、ありましぇん・・・。」


美しい貌が不意に戸惑いの表情を表す姿にすら見とれてしまう。


前後不覚な上に、挙動不審となってしまった彼女は、更に不可解な動きをしてしまった。


消え入るように尻すぼみとなってしまった返答もそこそこに、ボンっと顔を赤らめると、操り人形のようにクルリと向きを変え、クラウチングスタートでダッシュしてその場を逃げ出してしまったことを悔やんだのは、寮の一室へ帰ってからだった。


ちなみに、ユーリのこれまでの人生で一番良いスターティングとダッシュだったことを記念に記しておこう。 (何の記念だよ。)


「なんで・・・ なんで、あの時、あの場で、名前と学年、好きな食べ物とか

髪型聞いてこなかったのよぉぉぉぉぉおおおっ!!」


「あぁぁぁぁぁぁ!! もぅ!! 

私の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」


一人自室で出来なかった数々を思い、ベッドへ身を投げ出してジタバタしながら自分自身へ怨嗟を上げていたユーリは、天啓を受けた。


そうだ、聞けなかったならば、聞けば良いじゃなぁーい!


もぅ。

ユーリってば、あわてんぼうさんなんだから、テヘっ。


と、誰が聞くでも無い寮の一室で自問自答をした結果、翌日の朝には早起きをして、自室を飛び出し、アーデルハイドの噂を集めようとしたのだ。


最初に聞き出そうとしたのは、同じ学年の女子だった。


「アーデルハイド様ってゆーお名前なのね・・・。

フフ・・ウフフフ・・・。

ウッヘッヘ」



次に、彼が取っている科目を調べ上げている所へ、上級生からの呼び出しを受けてしまったのが、アーデルハイド親衛隊へ入隊させられるきっかけであった。


曰く、『どこの馬の骨とも知れぬ、ポっと出の一年生なんぞに、我らが愛しの君、永遠のアイドルであらせられるアーデルハイド様に告白なんぞ許せない!』。


曰く、『告白したきゃ、アタイ等を倒してから・・・ もとい、順番待ちしているわたくしたちが告白を終え、結果が出てから出直しなさいな。』


曰く、『抜け駆けしたら、一生わたくしどもの実家の力の限りを尽くして、貴女の家へ嫌がらせをする。最悪家名断絶も覚悟なさいっ!』


侯爵家令嬢から準男爵、騎士階級まで、上級生とは言え、理不尽にも程がある。

だが、この話には恐ろしい実話が含まれていると後日知らされた。



とある伯爵令嬢が親衛隊に所属せずに、果敢にも王子様アーデルハイドに告白してしまったのだ。


幸いにして、アーデルハイドが本気とは取らず、交際には至らなかったものの、後にその伯爵令嬢は学園を去った。


裏で親衛隊員たちが総力を挙げた結果らしい。

無論、表に証拠が残るようなヘマはしない。

謀略・諜報・陰謀あらゆる手練手管を行使した結果、なんと最後には伯爵家までもが没落してしまったと言うのだから女の恨みは恐ろしい。


以来、アーデルハイド親衛隊の名は、アーデルハイドを愛する全ての乙女にとって不文律となり、『デート達成』(ゴールする)までは誰一人として抜け駆けしないことを固く誓った同好の士となった。


親衛隊の中でも、序列以外にも影響力の強さは当然異なり、自称四天王、自称鉄壁の〇〇、自称疾風〇〇・・・のように、水面下でも蠢き合い、時には協力し、時にはライバルとしてお互いを蹴落とそうとしたりと、ある意味学園生活のスパイスともなっている。


そんな彼女たちにとって最大のイベントこそが、アーデルハイドとの『お茶会=デート』。


貴族の子女たる者、気軽に肌を重ねるだとか、婚前交渉ヤってしてしまったなどの醜聞はスキャンダルであり、一生結婚できない原因とも成りかねないのだから、そのような疑われる行為に関することには細心の注意を要した。


だからこそだ。


『サロンでのお茶会』であれば、公にアーデルハイドと二人っきりになれる。


吟遊詩人など、小銭を握らせて沈静化可能だ。


後は、若い二人が・・・。


まあ、それは本人たち次第であり、必ずしも密会が願い通りになるかは不明だ。


確かなことは、不義密通がバレれば最大の恥部、醜聞となり、一生に悪影響を与えかねないということだ。


貴族である親の庇護という最大の加護を失うことは、貴族令嬢たちにとっても望ましくは無いことだから、アーデルハイドへの熱狂はしつつも、過度な干渉は出来ない。


そんなもどかしさを楽しむのも親衛隊の特権なのかもしれない。


唯一の例外的存在が、常にアーデルハイドの側近くに侍っている二人。


即ち、侯爵令嬢エリカと伯爵令嬢クララの存在だ。


この二人は、体育以外のほとんどの教科でアーデルハイドと重なっており、常にどちらか一人でも側にいて、アーデルハイドと他の女子が会話しようとすると、さり気なく阻まれてしまうのだ。


肝心のアーデルハイドがそのことに気付いてすらおらず、他の女子にそれ程関心も向けないために、余計に声を掛けずらい状況が続いていた。


だからこそ、乗馬体育の終わりは、親衛隊所属の女子たちにとっては数少ないチャンスだった。


この時間であればエリカもクララも周囲に居ない。


念のため、会員ナンバー10番、シャーロット辺境伯爵令嬢が、自分よりも身分も会員ナンバーも低い子たちに声を掛けて周囲を固め、さり気なさを装いながら、ユーリという手駒を使ってラブレターを渡すことに成功させたのは、近年稀に見る親衛隊の快挙であった。


この日は、放課後に関わった親衛隊員全員がシャーロット辺境伯爵の学園内にある寮の一室へ集められ、前祝いのお茶会ティーパーティーが催された。


「ところで・・・ 

この大変美味しいスイーツの数々は・・・?」


「一体どうしましたの?

これまでいただいてきたマフィンやスコーンも美味しゅうございましたが・・・?」


主催者であるシャーロット嬢へ向けて、羨望の眼差しと共に見慣れぬ菓子の一つが掲げられた。


「ああ、それでしたならば、私の力強い協力者の方が差し入れしてくださいましたのよ。

おっほっほっほっほ。」


そうなのだ。


正体は明かしてはくれぬが、次週へ向けた戦勝祝いのお茶会ティーパーティーへ『辺境伯ご令嬢であらせられますシャーロットお嬢様とそのお友達へ』と花束を添えて送り届けられた菓子折りには、昨今王都で話題の新製品ばかりが山盛りで並んでいたのだ。


荷馬車一台分にも及ぶその量に驚きはしたものの、配下の者たちへ振舞っても余りある物量に、普段はここまで大盤振る舞いをしないシャーロットも、終始ご機嫌で下賜することにしたのである。


「まぁ! そうでしたの!!」


「大変美味ですわぁ!!」


「本当にっ!!

私先程から手が止まりませんの・・・

ウッフッフ。」


「わたくしもですわぁ! 

おっほっほ!」


並べられた数々の色取り取りのスィーツ類の中でも抜きん出た菓子類として、最近王都で話題の双白百合印のダイジェスティブビスケットやトリュフチョコ、揚げワッフルが大量に卓上に並べられ、集まったうら若き貴族令嬢たちのハートと胃袋を無遠慮に鷲掴みにしてしまったという、人知れず細やかなエピソードがあったとか。



すみません。前後少し読み返してみたら、若干チグハグに書いていたので、修正しました。

(`・ω・´)ゞ



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