71.和菓子風スイーツの脅威 ― ずんだもあるでよ! ―
それから一週間ほど過ぎて、王都『プロネシス商会』は、予想外の大打撃を受けていた。
店の多くは一時閉鎖という形で、従業員の半数以上を自宅待機としなければならなかった。
王都周辺でも、取引先から『ザルツブルグ家との関係を改善するまで』という条件での取引停止が相次ぎ、まともに商品を販売することも出来なくなってしまった。
一部の店舗と本領がある東部地区では、順調に売り上げを伸ばしてはいるものの、ドル箱であるはずの王都とその周辺都市では、売り上げ減を強いられているのだ。
そこへ、一人の女性の来訪が支配人に告げられた。
「これは、初めまして。
私は、『プロネシス商会』の支配人を任されておりますブレインと申します。
お客人。」
少しやつれて、頬がこけてしまっている支配人が、それでも底意地を見せるかのように優雅に一礼して見せた。
「これはどうもご丁寧に。
私は、ザルツブルグ家の人間です。
直系ではありませんが、傍流というやつでして、オルティアと申します。」
応接室へ通された見目麗しい女性は、隠すことも無く平然と告げた。
支配人は、ザルツブルグ家の名を聞いた瞬間に、迂闊にも身を強張らせてしまったが、自制心を取り戻そうと必死な様子だった。
「・・・・なんとっ。
ザルツブルグ家とは・・・・。」
若干動揺の残る声ではあったが、それでも、支配人は平常心を取り戻したようで、来客の全身へ観察するような視線を走らせた。
「まあ、そう構えないでくださいな。
お気楽にお聞きくだされば良い内容ですから。」
「はて・・・・その内容とやらは、私どもにどのような関係があるものですかな?」
「こちらの資料をご覧くださいな。
お話しはそれからですわ。」
オルティアと名乗った美しい女性が、手にした書類を支配人の手へ渡して来た。
警戒しながらも受け取ると、目を通す。
読み終わった支配人の顔には、驚愕の表情が浮かんでいた。
「・・・・こ、これは・・・・。」
「見ての通り、“買収案”ですわ。
私たちの『ドライローゼス商店』が、貴方達の『プロネシス商会』を買い取り、吸収してしまう。
いわゆる『M&A』というやつね。」
素っ気なく、『朝には必ず紅茶が付き物でしょ?』とでもいう様な気軽さで、支配人を始め全従業員の未来を左右されてしまうような提案が告げられてしまった。
「無論、支配人である貴方を始め、全従業員には、決して悪いようにはしません。
ご存知かもしれませんが、私たち『ドライローゼス商店』は、王都を中心に販売勢力を飛躍的に伸ばしておりますの。
貴方や従業員の皆さんは、一人残らずこちらで身請けすることを保障しましょう。
お給料についても、一時的には若干さがるかもしれませんが、努力次第では現在の数倍でも獲得可能になるでしょうね。」
これは完全な買収工作だ。
支配人には理解できたが、今は時期が悪すぎる。
今目の前にいる人物が支配人となっている『ドライローゼス商店』が、健康食品をメインにしながら、販売攻勢をかけてきており、尚且つ、取引相手からも打ち切り申し込みが続出したままなのだ。
弱り目に祟り目とは、良く言ったもので、現状ではジリ貧が目に見えている状況なのだ。
そこへ、今回の買収の話しだ。
支配人は、苦渋の決断を迫られたと受け取ったのか、しばらく目を白黒させているばかりとなってしまった。
「私の方は、お返事はいつでも構いませんわ。
その代り、お返事を伸ばせば伸ばした分だけ、そちら様の売り上げは減り続け、買収条件は、益々厳しくせざるを得ないでしょうね。」
それだけ告げるとオルティアは美しい所作でお辞儀をすると、退出してしまった。
望まぬ来客が帰ってしまった後の『プロネシス商会王都本店』では、原材料の不足や来客減による販売不振が続いており、日持ちする健康食品などはともかくとして、スイーツ類などは最盛期の半分以下に減っている。
そこへ、チラホラとまばらに買い物客が訪れているだけで、目に見えて衰退という言葉を実感せざるを得なかった。
◇
客足が遠のいている『プロネシス商会』とは対照的に、ここでは次から次へと押し寄せる中で、決して時派手さは無いが、技巧の高さを感じさせるスイーツを売り子たちが宣伝している。
「いらっしゃいませー」
「『ドライローゼス商店』新作続々発表でーす!」
「こちらの試食品もどうぞー!!」
王都繁華街でも、一等地と言われる場所に店舗を構えた『ドライローゼス商会』では、“日本の和菓子”をイメージさせるようなスイーツの数々が発表されていた。
「こちらの『求肥』というお菓子は、チョコレートよりも低カロリーで甘さがしっかりと味わえるんですよー!」
「ワラビモチは如何ですかー!!
モチモチしっとりで美味しいですよぉー!」
「新発売キナコモチも上品な美味しさですよー!!」
ショーケースに所狭しと並べられた和風菓子の数々は、これまで王都で生活している者たちにとっても物珍しい品ばかりのようで、次々と飛ぶように売れて行く。
「ズンダダンゴお持ちしましたー!!」
「キナコパウダーお持ち帰り用袋3袋ですねー お包みします。」
「朝食やお茶請け用に、豆スコーンや豆マフィンは如何ですかー?」
「ドライフルーツもお待たせしましたー!!」
日頃から高タンパク室や高カロリーな食べ物を口にする機会が多い貴族を中心に、庶民でも買える値段設定から、客が途切れると言うことは無く、長蛇の列が形成されていた。
「これで、レベッカお嬢様考案のレシピがソフィー嬢にも負けないということが証明されているようね。」
支配人室と書かれた2階にある一室の窓から、オルティアが嬉しそうにこの光景を見下ろしていた。
「ええ。どうやら図書館で読んだ本の知識も、無駄ではないということが証明されて、私も嬉しいわ。」
来客用に設けられたソファーへと深く腰を掛けているのは、レベッカだった。
「それにしても、よくあんな素朴な味しかしない豆菓子を改良しようなんて思いつきましたわね?」
オルティアが不思議そうに問いかけると、レベッカはなんでも無い事の様にふわりと笑いながら告げた。
「あら、だって東洋という遠い地方では、豆を様々に加工して食していると文献に記されているのよ?
私たちだって、同じ人間ですもの、美味しく食べられる方法があるなら、試してみるべきではなくて?」
そうなのだ、今回のソフィーが所有する『プロネシス商会』への対抗策として売り出し中の『ドライローゼス商会』が扱っている和風菓子の数々は、レベッカが日頃図書館で読んでいた本の中に掛かれているレシピなどを参考にして、王国の人々にも合うように味を調えられたスイーツだったのだ。
ある意味では、日頃『図書館令嬢』などと揶揄されていたことへの反撃も兼ねて、一石二鳥だったのかもしれない。
「それで、副学長の方は?」
「ええ。私たちから提供している資金を使って、学長選へ出馬するために着々と手筈を整えているわ。
近いうちに報告が上がるでしょうね。」
「それは楽しみですこと。」
学園内での婚約発表により、周囲へ公式の婚約者であると認識させ。
目新しい健康食を兼ねた和風菓子の数々により、ソフィーの資金源である『プロネシス商会』を封じて見せ。
その上、ソフィーの最大の協力者となる学園長を引きずり降ろそうとまでしているらしい。
ただでさえ、王都に勢力を誇るザルツブルグ家の威光を恐れて、取引を中止してしまう商会が続出する中で、ソフィーに反撃の一手は打てるのだろうか?
ずんだもちとキナコさえあれば、人(私)は生きて行けるのです。
あ、あと、わらびもちと黒豆マフィンと黒豆スコーンと・・・・
(¯﹃¯*)
得意技が封じられちゃったソフィーがどうやって反撃するのか・・・・
まあ、今まで散々無双しちゃったので、今回は良いお灸になるのかな(?)と。
― らくがき ー
ソフィー&アーデル(ソ・ア)
ソ「まあ。お兄様!
大変ですわっ!!」
ア「だから、毎回お前は何を大変だと・・・・?
主語を言え! 主語を!!」
ソ「・・・・今回」
ア「うん?」
ソ「遂に私たちの出番がありませんでしたわっ!!」
ア「なんだってぇーーーーーーっ!?」
ソ「今気づきましたの?」
ア「いや、ちょっとノリで(汗」
ソ「あの単細胞な作者が私たちの存在を忘れないでいてくれれば
良いのですけど・・・・。」
ア「うん。それには激しく同意するわ。」




