66.妹と僕② - 10歳の頃の思い出『そうだ! 船を作ろう!』 -
これは、僕たちが子どもの頃の思い出だ。
それは、ある良く晴れた日のことだった。
季節としては、多分だけど、7月とか8月くらいで伯爵領でも一番気温が高い頃だったと思うんだけど、大きな湖で水遊びをしていたときの話しだ。
「ソフィー。
なにしてるんだい?」
先程から、妹のソフィーが何度も湖と畔にある林とを往復する姿が気になった僕は、好奇心から声を掛けてみた。
すると、妹は嬉しそうに手にした木の枝を僕に差し出してきてこう言った。
「何って、実験ですわ。
アーデルお兄様。」
ソフィーは、二つ年下の妹で、8歳で、人形のような愛らしい容姿とは裏腹に、結構アクティブな遊びも大好きで、おままごとや人形遊びもするけれども、野山を駆け回ることも大好きな幼女だ。
「実験?」
「ええ、実験ですわ。」
こんな湖と林で、一体なんの実験だというのだろうか?
そもそも、8歳児が言う『実験』など、所詮はそういう単語を覚えたから、使ってみたいだけじゃないのかな?
そう言う僕も、この当時は10歳だから、偉そうには言えないけど。
「実験だなんて、大げさだな、どうせ大したことないんだろ?」
「あら、成功したら、お兄様と二人で向こう岸へ行けるはずですわ。」
え?
そんなに壮大な計画なのっ!?
聞いた僕の方がビビってしまった。
「向こう岸ってまさか!?」
「ええ、お船を作っておりますの。」
ニッコリとした笑顔で、木の枝を見せるソフィー。
でも、やっぱり無理だよね?
「そんなに小さな船で、どうやって向こう岸まで行くつもりなんだい?」
「あら、これは試作品ですわ。
試作を重ねて、大丈夫になったら、大きいのを作りますのよ。」
なんてこったい!
僕は、最初から実物を組み立ててから、実験するものだとばかり思っていたら、僕よりも年下の妹の方がしっかりしているだなんて。
ガーンと頭を殴られたようなショックを受けた。
「・・・・そうだったのか、僕またてっきり、最初から大きいのを作るものだとばかり思い込んでいたよ。
ソフィーは賢いんだね。」
ちょっと、プライドが疼いたけど、ここはやはり年長者として度量の広い所を見せたくって、まあ、良いトコ見せたかったってだけなんだけどね。
「お兄様。千里の道も一歩から。
最初から大きいのを作ってしまうと、沈んでしまった時に、材料が二度と使えなくなってしまいますわ。
さっきから、何回も中くらいをつくってみたけど、全部沈んでしまったから、近くの枝が足りなくなってきてますの。
お兄様も一緒に集めてくれたら、もっと早く完成できると思うのですけど・・・・。」
そう言いながら、チラっと僕を見つめるソフィー。
なんだよ、感心して損したよ。
先に何回も失敗してんじゃんか!!
そう思ったけど、仕方ない、ここは兄として、可愛い妹に力を貸してやるか。
「そうだったのか、良いよ。
僕も一緒に枝を集めてやるよ。」
「ありがとう。アーデルお兄様。」
ニコニコと上機嫌で僕を見つめる妹。
僕も張り切って、林の中から使えそうな枝を探すことにした。
大きな枝やら、小さな枝、様々な種類の枝から、最初は試作用に腕位の長さの枝を集めることにした。
そうやって、二人で集めた枝を、屋敷から持ってきたヒモを使って、束ねて行く。
「良いか、ソフィー。
なるべく、真っすぐな枝を束ねるんだ。
そうすれば、隙間が少なくて、沈みにくくなるんだぞ。」
年長者だし、経験者として、良いところを見せたくって、偉そうに指示する僕の姿を、尊敬の眼差して見つめる妹。
とっても気分が良いな。
そうやって、しばらくの間小枝とヒモとで格闘した結果、なんとか不格好ながらも、船みたいな形のモノが完成した。
「できたー!」
「まあ! 私が作るより上手!
さすがお兄様!」
なんか、更に褒められてとても嬉しいぞ。
「よし! 実験だ!」
「うん。」
湖の岸辺まで、二人で壊れないように、手にした船を水際まで運ぶ。
「さあ、浮かべるぞ!」
「うん!」
二人でそっと水の上に浮かべた小舟は、最初はユラユラと水の上を浮かんでいたのだけれども、すぐに隙間から水が入ってしまい、プクプクと半分以上沈んだ状態になってしまい、まるで丸太で作ったイカダのようになってしまった。
これでは、到底船とは呼べない。
「あーあ・・・・。」
「せっかく作ったのに・・・・。」
二人とも意気消沈してしまう。
「そうだ。きっと僕たちが作る船には、頑丈さが足り無いんだよ。
もっと、鉄やクギなんかを使えば、丈夫で沈みにくい船が出来るんじゃないかな?」
我ながら、ものすごい名案が浮かんだように思う。
僕のアイディアを聞いていた妹も、顔を輝かせて頷いてる。
「きっとそうですわ!
さすが、アーデルお兄様!!」
一度や二度の失敗では諦めないぞ。
こうやって、尊敬してくれる妹が期待の眼差しで見つめて来るんだ。
必ずや期待に応えてやるのが、兄ってやつではないだろうか。
僕は、屋敷の中から普段はあまり使われていないような、ガラクタや釘なんかを集めて来た。
正直、鉄なんかをどうやって加工したら良いのか、全然分からなかったから、それっぽく船の内外へハリボテみたいに打ち付けたり、装飾代わりにノリで張ったりして使ってみた。
それから、ビンを浮き輪代わりに使ってみたりして、試作船を何隻か湖に浮かべてみる。
「これだけ作ったんだ、どれかはきっと成功するよ。」
「ええ、お兄様と私で向こう岸へ渡るためにも!
みんな、お願いね!」
「いくら手作りで可愛いからって、船に向かってお願いなんてしたって、意味ないだろ?」
「気持ちの問題ですわ、気持ちの!」
ソフィーの可愛い声援が利いたのか、複数の船が水の上を進みだした。
ある船はゆっくりと漂うように並みに揺られたかと思うと、そのまま波間へと沈んでしまった。
別の船は、少しだけ進んだけど、波を被ると、呆気なく沈んでしまう。
そんな感じで、次々と沈んでしまう小舟たちを、成すすべもなく見守るだけだった僕たち。
でも、そこから湖の中央へ向かって、ゆっくりとだけど進んでゆく小舟も幾つかはあった。
結果、ビンを浮き輪の代わりに使用したのと、ツギハギだらけな小舟が、岸からどんどんと離れ、湖の真ん中目指して波に揺られて行った。
ここまでは順調だった。
しかし、僕たちは幼すぎた。
“浮力”という概念や“強度”について、無知だったのだ。
まあ、しょせんは10歳の男の子と8歳の女の子が作り出す『船モドキ』である。
『実験』の成功に気を良くしたソフィーは、僕へそのまま無茶ぶりをしてきた。
「アーデルお兄様!
次はもっと大きなお船を作りましょう!」
「よし! 今度はもっと大きな枝を集めなくちゃ!!」
こうして、僕とソフィー、二人の子どもが乗れる大きさの船を作ることになった。
子どもの頃の工作って、ちっとも思うように出来なくって、何度も何度もやり直したっけなぁ
なんて、少し懐かしく思い出しながら書いてみました。
(`・ω・´)ゞ




