58.決勝戦とソフィー暴走気味!?
午前中の騎馬戦では、4チームともに全身全霊で相手チームを倒そうと、ガッツリとぶつかり合い、皆興奮気味に互いの戦い様を褒めたり、からかい合ったりして、意気揚々と学舎へ向かった。
昼食を摂るためだ。
昼食は、二通りの食べ方を選べる。
一つは、学生食堂へ行き、大勢でワイワイ会話などを楽しみながら食べる。
もう一つは、観戦に来ている家族と共に持参した食料や外で簡単な調理をしながら食べる。
この日は、中等部男子1200名に、高等部男子600名、その他にも、応援している女子生徒等や、観戦に集まっている父兄やその従者たちなどで、普段よりも倍以上の人数が集まっている。
そこで、初日の今日だけは、学園食堂が様変わりして、昔の要塞スタイルでの食事となっている。
豪華な造りをした幅の広いテーブルやスプリングの利いた椅子は撤去され、野戦場を思わせるような、兵士たちが使う簡素で頑丈な机と椅子に並べ替えられている。
だが、この席でさえも、隊長や副隊長、参謀迄の士官専用であり、一般の兵士たちは座ることは許されない。
食堂のメニューも、普段のコース料理などは無い。
所謂ブッフェ形式と呼ばれる、立食で好きな食べ物を、好きな量だけ取り放題で摂るのだ。
貴族とはいえ、こんな席でまで、従者や執事に食べたい料理を取りに行かせるのは、むしろ無粋と言うものだろう。
集まった者たちは、自分の手でトレーと皿を持ち、食べたい料理を選んで行く。
食堂内は、既に大勢の男子学生や、彼らを取り巻く女生徒らで溢れかえり、何処に誰が居るかなど分からないくらいになっている。
僕とアドルフ、二人の副隊長のダニエルとデービッドは、料理を選んだトレーを並べて、同じ士官専用の席に座っている。
皆一様に興奮した様子で、選んだ料理を片手にしながら午前中の戦いについて、熱く語り合っている。
「アーデルっ! 今回もお前の策が冴え渡ったなっ!!」
「まあ、今回は地形にも恵まれましたからね。
ダニエル先輩も騎兵別動隊の指揮、お見事でしたよ。」
「お前に言われると照れるな。」
ダニエル先輩は、上級生で年齢は僕たちよりも一つだけ上なのだが、昨年共に戦って以来、アドルフと僕に従うことを潔く受け入れてくれている。
「歩兵隊も、落伍者が少なくて済んだぞっ!」
「デービッドも、中等部男子学生の指揮、見事だったよ。」
本当は、デービッドも騎兵戦も得意な同級生なのだが、歩兵に敢て騎馬戦の戦い方を経験している者を指揮官として加えたのだ。
「先輩、デービッド、アーデルも午後も頼むぜっ!!」
アドルフが祝杯代わりに、手にしたグラスに果汁とシロップを炭酸で割ったノンアルコールカクテルを満たして掲げて見せたので、僕たちもグラスで応じる。
「「「応っ!」」」
練習試合までは、お互い本気では無く、なるべく手の内を晒さないようにしながら進んできているが、本番では、練習時よりも落伍判定者が多くなってはきている。
気を引き締めて行かなければ。
そうして、僕たちは騒がしい中ではあるけれども、掻っ込むようにして慌ただしく昼食を終えた。
◇
食事を終えて、午後の模擬戦に備える間、少しだけ時間がある。
そういえば、ソフィーは今日は来ていないのかな?
ふと、そう思って、城の上に設けてあるテラス席を見に行こうかなと思った時だった。
「アーデルじゃないかっ!」
「インテグラ先輩。」
城の屋上に設けられているテラス席の一角に、インテグラ先輩が丈夫な布地で覆われた壁の無いテントの様な屋根の下で友人たちと寛いでいるところへ出くわしてしまった。
「良かったら、お茶でも飲んでは行かないかい?
ちょうどバンドメンバーもほとんどが一緒に君の見事な戦いぶりを観戦していたところなんだ。
本当に凄かったなっ!」
えーっと、そのバンドメンバーの皆さんが、手ぐすね引いて待っているような気配をヒシヒシと感じるんですけど・・・・。
「いえ、僕はちょっと家族が来ていないか、様子を見に来ただけですので。」
ソフィーを探したいんだよね。
まあ、インテグラ先輩なら無理に引き留めはしないと思うけど、一応断りはしておこう。
「そうか、それは引き留めてすまなかったな。
だが、午後の戦いも期待させてもらうよ。」
「ありがとございます。」
やっぱり、あっさりと解放してくれるようだ。
本当にこの先輩はイケメン女子力が高いな。
「ええ。とりあえず、行ってきます。」
「ああ。武運を祈っている。」
インテグラ先輩に見送られて、城の上にあるテラスを探してみたけど、残念ながらソフィーの姿を見つけることは出来なかった。
尖塔の方まで探す時間は無いから、一旦試合に戻ることにしよう。
◇
第二回戦決勝。
同時並行で、三位決定戦も行われている。
~ドベ決定戦とも陰口を叩かれているけどね。
第二回戦決勝『ブラボー vs デルタ戦』
隊長であるスチュアートの判断により、ブラボー側は正攻法を選んだ。
「どうにも、アーデルハイドの手が読めない。
全騎兵で攻撃するかと思えば、全軍守備へ切り替えてみたりと、変幻自在だ。
本戦前の演習でも、正攻法で攻めて来ることもあったしな・・・。
という訳で、ここは正攻法で探りを入れようと思う。
下手に大くの偵察を放って、全滅などさせられても、こちらが不利になるだけだ。
半数守備で半数攻撃だ。
もしも、今回も全軍守備だった場合、少数による攻撃では、有効打を与え難いからな。
。
いざとなったら、ベゼル、お前が伝令として守備隊へ援軍要請に戻るんだぞ。」
「分かりました。」
側近くで騎乗しているベゼルが、首肯する。
「それでは、皆。この作戦で良いな?」
「「「「「応っ!」」」」」
隊長である彼の判断に、異を唱える者は居なかった。
こうして、ブラボーチームは、スチュアート率いる攻撃隊と、副隊長率いるフラッグ守備隊の二つに分かれた。
そうして、会敵予想ポイントへ両軍が進み出た時だった。
騎兵80余りが、少し離れて付いて来る歩兵を時々待ちながら行軍しているところに、少し前へ先行して、騎乗して偵察をしていた中等部男子学生が戻って来たのだ。
「デルタチーム前衛と思われる騎兵隊が見えますっ!!」
「思ったよりも素早い動きだな・・・。
全軍っ! 止まれっ!」
スチュアートが手を直角に曲げて、拡げて見せた掌を、グーへと握りしめて見せる。
馬たちは、急には止まれないものの、馬首をグルリと回したりしながら、隊長であるスチュアートの周囲に集まる。
「何騎くらいだ?」
「数は不明です。こちらと同数か、あるいはもう少し多かったようにも見えました。」
スチュアートは素早く考え込む。
今回のデルタ側の作戦が、全軍による守備では無かった。
であれば、これまでの戦闘から、全騎兵による攻撃か。
それとも、決勝戦でもあるので、敢て正攻法を選んだ結果なのか。
「どう思う?」
作戦参謀であるウィンストンに聞いてみる。
「うーん。騎兵全騎投入にも思えるな・・・。」
「やはり、お前もそう思うか?」
「ああ。確認してみないと分からんが、今回は騎兵が先頭に出ているとなると、その可能性も高いだろう?」
「そうだな・・・。」
アーデルハイドが参謀となると、どうしても慎重にならざるを得ない。
「よし、歩兵隊と合流するまで、ここで待機だ。」
騎兵は、鎧姿でも騎乗しているため、巡航速度として40~50キロくらいの速度での移動が可能だ。
それに対して、武装して早歩きとはいえ、歩兵は、1キロを移動するのに15分ほどは掛かってしまう。
この差は如何ともしがたい。
◇
ブラボーチーム側が、もう間もなく歩兵隊が見えて来るであろうと、周囲を警戒しながら見回している所へ
ヒュンッ!
「ぐあっ!?」
ヒュンッ!!
「うわぁっ!?」
次から次へと弓矢が降り注ぐ。
「馬鹿なっ!? デルタ側の歩兵は、どうやって移動したんだ!?」
奇襲攻撃に戸惑い、混乱しているスチュアート先輩らブラボーチームの面々だったけど、僕たちは容赦無く弓矢を射続ける。
「おいおい、弓矢は歩兵だけじゃないだろ?」
「僕たちも弓は得意ですからねっ!」
アドルフと僕、それにデルタチームから25騎ばかりが、早駆けしながら、馬上から弓矢を射かけているのだ。
同行している審判役の王国騎士たちによる落伍判定が、次々と下される。
そこへ、味方の騎兵たちが続々と到着し、水平に構えたままの槍を次から次へとぶち当てる。
80騎から居たブラボーチームの騎兵に対して、こちらは全騎兵150を率いて来たのだ。
ほぼ2対1での騎馬戦は、デルタチームのワンサイドゲームと化していた。
「クッ・・・ まさかこれ程素早く動いていたとは・・・。」
「逆ですよ。スチュアート先輩たちが、僕の奇策を警戒して、慎重に行動してくれたお陰で、僕たちの方が待ち伏せすることが出来たんですよ。」
こうして、デルタチームは落伍者騎兵5名だけで、ブラボーチーム騎兵80名を全滅させることが出来た。
「よしっ! このまま全軍進撃するぞっ!」
「「「「「応っ!」」」」」
アドルフの号令に騎兵145騎、歩兵250名が応じる。
そうなのだ。今回の戦いでは、守備隊僅かに50名ほどを残すだけにして、400名による総力戦を選んだのだ。
蛇足説明になるけど、守備隊にわざわざ50名ほどを残したのは、万一威力偵察で15名とか送られてきたら、一蹴されてしまうから、念のためそれなりの兵力を残した。
「アーデル。攻撃は最大の防御って言葉を、決勝戦で使うとは思わなかったぞ!」
「むしろ、この作戦はお前向きだろ?」
「嗚呼。俺向きだっ!!」
アドルフが嬉しそうに舌なめずりをして、ブラボーチーム側の守備隊へ突撃して行った。
◇
結果発表
優勝 デルタチーム(2連勝)
準優勝 ブラボーチーム(1勝1敗:決勝敗北)
3位 チャーリーチーム(1勝1敗)
4位 アルファチーム(2連敗)
こうして、僕たちデルタチームは、学園祭での模擬騎馬戦に全試合勝利を治めての二年連続優勝を果たすことが出来た。
城の上に設けられたテラス席では、アドルフやデルタチームの戦士たちを褒め称える歓声が沸き上がり、紙吹雪やら投げテープ、『祝デルタチーム優勝!』と書かれたくす玉まで割られていたっけ。
模擬戦の勇戦を称えて、表彰式が行われる。
「優勝。デルタチーム。知・体・技共に優れた成績を修め、遺憾なく発揮されたことを認め、これを表彰する。第13代学園長クラテス・デュ・バスチーユ公爵。」
壇上で、学園長からアドルフが優勝旗を受け取り、僕が賞状を受け取る。
その場に集まった者たちからの鳴りやまない拍手とファンファーレが響き渡る。
僕たち二人は、皆からもみくちゃにされながら、優勝旗と賞状を掲げて見せ、英雄のように迎えらて、模擬戦を終えた。
この後は、勝利を祝っての戦勝記念パーティーが行われたけど、もう皆馬鹿騒ぎ過ぎて、何が何やら。本当に心の奥底から笑えるパーティーだった。
◇
決勝戦で勝利を治めたその夜の出来事だった。
「お兄様。知略が冴え渡り、とっーても素敵に活躍されてましたわね♡」
あれ?
僕が一生懸命探したのに、その時には見つからなかったけど・・・。
一体どこから観戦していたというのだろうか?
「え?
ソフィーいつの間に!?」
「あら、私、学園長にお呼ばれして、貴賓席で観戦しておりましたのよ?
ミラとポール、アンジェリカを連れておりましたの。
表彰式は、ごちゃごちゃしそうだったので、お暇しましたけど。」
一体いつの間にっ!?
そうか、僕はずっとソフィーのことだから、テラス席から見てくれているのかなと思っていたら、まさかの教授陣や招待されている貴賓席からの観戦だったとは。
完全に意表を突かれた。
「お兄様は、戦勝祝いで楽しんで来られましたの?」
「ああ、お陰でアドルフやらチームメイトから散々胴上げやら乾杯を繰り替えされちゃったよ。」
目を細めて、値踏みするかのように視線を送って来るソフィー。
ここでうっかりインテグラ先輩からの告白なんて聞かせたら、平和が一瞬で悪夢に取って代わってしまいそうで怖いな。
「それは良かったですこと。
明日は、模擬店ですわね。」
「ああ、そうだな。
僕の店は、フォッカーとジェーコフがハンスと一緒に用意してくれてるから、顔を出しておけば良いと思うよ。
そうだ、良かったらソフィーも一緒に行かないかい?」
僕がそう告げると、満開の華が咲いたように、パァーっと笑顔になる姿も可愛いな。
「嬉しいですわっ!
明日の朝一番で行きましょう♪」
わぁ。
出来れば今日の疲れを癒すつもりで、明日はゆっくりと寝坊してから行きたかったんだけどなぁ・・・。
まあ、言い出したのは僕なんだから、良しとするか。
「良いよ。」
そう微笑んで応える僕へ、またしてもソフィーは心を搔き乱すセリフを聞かせてくれる。
「ついでに、お兄様に見てもらいたいものがございますの。
それから、お兄様のお疲れを癒すためにも、今夜は私がお風呂でお身体を洗って差し上げますわ!」
ソレだけは絶対にダメだっ!!
「いや、それは丁重にお断りするよ・・・。」
お兄ちゃん。
恥ずかしいじゃ済まなくなっちゃうじゃないか。
「あら? 遠慮なさることございませんのにー
お兄様は恥ずかしがり屋さんなのですわね。
ウフフフフ」
その後、本当に風呂場まで裸タオルで背中を流そうとして侵入して来たソフィーを追い出すために、メイド隊まで協力させてようやっと一人で背中を流せるまでに30分は余計に時間が掛かってしまったけどね。
それから、僕の部屋では、先回りしてベッドにガウン一枚で潜り込んでいたソフィーを、部屋から追い出すのにも一時間。
ハァ。
どうしてこうも、今夜に限ってこうまで積極的なんだろうか。
男性だけではなく、女性も、昼間の様な激戦を観戦すると、興奮するものなのだろうか?
僕には未だ良く分からないけど、ソフィーの行動を見ているとそう思えてしまう。
今日は本当に忙しくって、目まぐるしい一日だったなぁ・・・・。
※変更済み




