55.『学園祭』へ向けて ― アルファ vs デルタ ―
王立学園が誇る、年中行事『学園祭』。
Noble's determination(貴族の決意)と公称され、若い王侯貴族子弟たちが、協力しながら盛り上げていく。
ただし、入場制限があり、一般への公開は一切してはいない。
学園内へ見学に入れるのは、王侯貴族とその関係者、つまり従者までだけだ。
学園祭が開催される期間は、5日間。
現代日本での二日間とか三日間という短期間で終わる学校行事とは規模が違う。
各日程ごとに、最大の見せ場があり、ちゃんと学んだことを披露するステージがあるのだ。
王立学園が誇る、年中行事『学園祭』。
『Noble's determination』(貴族の決意)と公称され、若い王侯貴族子弟たちが、協力しながら盛り上げていく。
ただし、入場制限があり、一般への公開は一切してはいない。
学園内へ見学に入れるのは、王侯貴族とその関係者、つまり従者までだけだ。
学園祭が開催される期間は、5日間。
現代日本での二日間とか三日間という短期間で終わる学校行事とは規模が違う。
各日程ごとに、最大の見せ場があり、ちゃんと学んだことを披露するステージがあるのだ。
初日は、『模擬騎馬戦』。
男子生徒の見せ場でもあり、高等部一学年からの騎乗訓練発表を兼ねている。
中等部からも騎乗できる生徒は参加可能だ。
ただし、中・高等部男子全員参加のため、騎乗出来ない者や苦手な者には、歩兵役が待っている。
毎年若干の負傷者も出てはいるが、それでも大変盛り上がる演目であり、男子生徒はこの日のためにと、日頃の辛い『地獄の特訓』を耐えているのだ。
二日目の盛り上がりは、『模擬店』。
模擬店は、クラスや学年、個人出店も可能だ。
これは、貴族の財力を見せつけるためであり、学園内でも毎年個人出店者が多数いる。
遠方からの物産展も兼ねているので、貴族間交流などの促進にも役立っている。
三日目は、『詩会』。
学園園庭にて全学年自由参加であり、テーマも自由だ。
男女共に参加は可能だが、毎年女子学生が上位入賞を占めていたりする。
恋歌、哀歌、自由題目があり、保護者による見学でも人気の発表の一つだ。
四日目のメインは、『弁論大会』
体育館にて終日行われ、採点には本校の教授陣が厳しい眼差しを注いでいる。
ここで優秀な成績を収めた者へは、王城での外交や文官としての道が拓かれやすい。
貴族の次男坊や三男坊以下は、はりきって発表したがる者も多い。
五日目は、『閉会パーティー』
前半は挨拶と会食。後半ダンスタイムで、それぞれが着飾り、腕を披露しあう。
毎年、被服部門から、生徒がデザインした最新のファッションが発表されたりしているので、こちらも人気が高い。
インテグラがアーデルハイドに依頼したのは、二日目の『模擬店』でのバンド演奏披露での助っ人だ。
◇
あれから、大きな変化は今のところは無い。
10月中旬となり、来週から始まる『学園祭 ―Noble's determination(貴族の決意)―』へ向けて、いよいよ授業が全て休講となり、一週間の丸ごと準備や予行演習に使えるようになった。
僕たち男子はと言えば、午前中は四つのチームに分かれて、毎日演習を繰り返している。
中等部1200名ほどと、高等部600名ほどの男子で、合計1800名ほど。
それを、均等割りにして450名ほどで四チームに分けてある。
Aチーム。通称 アルファー。
Bチーム。通称 ブラボー。
Cチーム。通称 チャーリー。
Dチーム。通称 デルタ。
僕が所属しているのはデルタチーム。
通常は、三学年男子から隊長が選ばれるのだけれども、アドルフが隊長を務め、僕が参謀というポジションで落ち着いてしまっている。
昨年の学園祭での演習で、当時の三学年男子が最初は隊長を務め、途中までは有利に動いた居たのだけれども、相手チームの奇襲により、隊長が真っ先に討たれてしまい、隊長の名前から『ドンファンの悲劇』と命名されて語り草となっている。
そんな中で、アドルフと僕が逆転劇の中心となって以来、デルタチームでは卒業までとはいえ、アドルフ隊長と僕が参謀と言うのが定着してしまっている。
ちなみに、学園最後に他の上級生相手に模擬戦をやったところ、やはり、アドルフと僕の組み合わせが最強で、他の隊長や参謀での組み合わせでは五分五分か、負けが多くなりやすかったのも原因だろう。
この四チームリーグのルールは簡単で、所謂フラッグ戦と呼ばれるものだ。
高等部男子を中心とする騎馬隊と、中等部男子が中心の歩兵隊。
これらを率いて、敵陣へ乗り込み、フラッグを回収すれば勝利。
無論、敵の隊長や参謀を倒せば、得点は更に追加される。
戦闘ルールも明確。
現有する全ての武具を用いて構わない。
但し、財力に物を言わせての物量作戦は禁止。
予め審判へ申請し、限られた資材や武具・防具を用いてであれば、許可される。
あくまでも、『模擬戦』のため、殺傷の能力は最小限にて。
たとえば、戦斧であれば、刃は落とした状態、尚且つ、刃には宛て布にチョークを塗して、切込みの際に、致命傷部位へチョークが付けば、落伍判定とする。
弓矢も、矢じり無しに先端部へ布で丸めた物へチョークを塗り、当たり判定とする。
当然、騎兵による突撃すらも、落馬で失格。
ジャベリンも同様に布にチョークで、致命傷部位に当たれば、落伍判定対象となる。
どこまでも、『模擬戦』の範疇を逸脱しないように、尚且つ、王侯貴族子弟に大きな後遺症が残るような怪我をさせない『スポーツ』であることが前面に押し出されている乗馬がメインな競技なのだ。
故に、相手チームへ故意に負傷を負わせた場合には、即失格となる。
判定は、この日のために審判として呼び寄せられている王立騎士団からの騎士たちが、各署へ配置されて下す。
彼らもまた、貴族の次男坊以下で優秀な人材をいち早く発見し、確保したいのだ。
◇
試合開始前、僕は今回の作戦会議で、デルタチームの全員へ一つの策を授けている。
「敵陣へは、アドルフを先頭として切り込んで貰う。
アドルフであれば、個人戦で勝てる者が居ないからだ。
残る後方陣地には、歩兵集団のみ残すように配置する。
騎兵は二手に分かれて、左右から敵陣を挟撃するように。」
「おい。それだと、敵騎兵への備えはどうするつもりなんだ?
歩兵では、騎兵に勝てないだろう?」
アドルフが心配そうな声を上げる。
彼の心配は当然だ。
騎兵一人は、歩兵五人にも相当する戦力とも言われる。
場合によっては、十人とも。
それ程に、歩兵と騎兵では、相性が悪すぎるのだ。
「気にするな。
策はある。」
「そうか。分かった。
後は任せた!」
やはり、親友だ。
このような場面でこそ、日頃の信頼関係が活かされるのだ。
「ああ。後顧の憂いなく、存分に暴れて来いっ!」
丁度そこへ、試合開始を告げるビューグル二重奏が高らかと鳴り響いた。
アドルフは副官に任じた同級生と共に、騎乗してアルファチームの陣地へ切り込んで行った。
◇
学園の広いグラウンドと周囲のなだらかな丘や池の畔が戦場として用いられる。
その様を、学舎のテラスや尖塔などの高い所から見下ろす学生たちが大勢いた。
「あ、アドルフが動いたみたいね。」
「そうみたいね。アドルフさんが動いたと言うことは、アーデルさんは、どうしているのかしら?」
「なにやら、フラッグの近くで一騎だけ残ってるみたいだけど?」
エリカとクララの二人もまた、尖塔の一つに設けられているテラスから、紅茶を片手にオペラグラスを覗き込んでいた。
「たった一人で、どうするつもりかしら?
手前には、中等部の歩兵しか置いていないみたいだけど・・・。」
「なにやら、策がおありなのでは?」
二人が見守る中、敵であるアルファチームにも動きがあった。
騎兵隊と歩兵隊を前後二つに攻撃と守備に半分ずつで分け、前衛集団が騎兵と共に歩兵集団を率いて攻めて来たのだ。
その姿を見ていたエリカが思わず呟く。
「どうするつもりなのかしら・・・。」
◇
アドルフに騎兵全てを委ねてしまった僕の手元には、中等部の歩兵集団しか残ってはいない。
こちらの布陣は、手前の両側に小さな林がある窪地に、ややなだらかな丘が要害となっている地形の頂上に、フラッグが立っている。
思った通り、相手チームは定石通りに、騎兵と歩兵が一体となっての攻防戦を仕掛けて来た。
とはいえ、人馬一体となっての攻撃何て、歩幅が合わな過ぎて不可能だ。
煽情へ辿り着くと、こちらには騎兵隊が居ない。
通常であれば、ここで騎兵対騎兵戦となり、歩兵は歩兵同士での戦闘が行われる。
こちらに騎兵が不在なのを見たアルファ隊の騎兵たちは、今がチャンスとばかりに、勇ましく声を挙げながら我先にと突撃して来る。
後方から遅れて、歩兵隊が遅れじと声を挙げて徐々に追いついて来る。
「よし。今だっ!
デルタ-1(ワン)、2(ツー)! やれっ!」
僕の合図で、両側の林の中へ潜ませていた歩兵隊5名ずつが、地面へ浅く埋めていた荒縄をピーンっと限界まで引き上げ、予め林の中の木に打ち付けておいた杭に巻き付ける。
「おわっ! 危ないっ!! 縄が仕掛けられているぞっ!!」
「わっ!?」
「うわぁっ!!」
最前線へ出ていたアルファチームの隊長らしき騎馬武者が、僕の仕掛けた荒縄に気付いて叫び声を挙げた。
そのせいもあり、突撃していた馬から落馬した者は、僅かに5名ほどだった。
が、それで良いのだ。
元々が、荒縄による罠は、本命では無い。
「次! デルタ3,4,5,6、7撃てっ!」
敵騎兵隊の足止めが出来たので、弓隊50人による連続一斉射撃の餌食となってもらう。
「わっ!?」
「クソっ!!」
「ひっでぇっ!!」
「グワっ!!」
「あひぃっ!」
「あっ・・・♡」
「グヘェっ!」
若干変な奇声も混じってた気がするけど、効果は絶大だった。
時速50~60キロほどで突撃してくる騎兵隊に、正面から弓矢を放っても、あまり致命傷とはなり難い。
しかし、目立つ荒縄で足止めが適った以上は、単なる的だ。
僕たちの陣地で、審判を務めている王国騎士たちが、相手チームの騎兵たちへ容赦無く、次から次へと落伍判定を下して行く。
これで、先の荒縄落伍と合わせてざっと60名ほどが脱落した。
それでも、未だ20名ほどの騎馬隊が荒縄を飛び越えて突撃してきている。
「次っ! デルタ8,9,10,11,12! フォーメーションA」
僕の掛け声に合わせて、大盾を構えた中等部生徒たち100名が、四角い陣形を作る。
側面と頭上高くに盾を構えることで、敵からの攻撃が通り難くなり、強制的に通路へ誘い込む形となった。
「デルタ13,14,15,16,17! フォーメーションB」
合図に合わせて、通路へ20騎ばかりを誘い込んだ大盾歩兵隊へ、更に新手が投入されて人工的な袋小路を作り、相手を閉じ込める。
「クッソ! こんな盾如きっ! 打ち破ってやるっ!!」
「応っ! 蹴散らせっ!!」
相手チームの騎兵たちは、頭に血が上ったのか、冷静な判断が下せなくなっているらしい。
もしも、馬で大盾を構えている中等部男子へ怪我でもさせたら、その時点でアルファチームの敗北となるというのに。
「デルタ3,4,5,6,7撃てっ!」
構わず、弓兵に袋小路内で身動きが制限されている騎兵隊への射撃を命じた。
「クっ!?」
「ひ、卑怯だぞっ!!」
「グワァっ!!」
「後は任せた・・・・。」
「わが生涯に・・・ 悔いしかねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「OH! YESっ♡」
結果は、相手チームの騎兵隊を全滅させることが出来た。
少し遅れて、後ろからやってきた相手チームの歩兵隊は、頼りの騎兵隊が先に全滅させられている姿を見て、若干戦意喪失したようだ。
「まだだっ!!
未だ我々は負けてはいないっ!!」
「そうだっ!!
見たところ、敵の騎兵は一人だけだっ!!
俺たちが数で押せばっ!!」
「「「「「応っ!!」」」」」
そうなのだ。
未だこちらは、相手の騎馬兵80名ほどを退場させただけであり、攻め手の歩兵部隊、約150名ほどは無傷で残っているのだ。
「デルタ総員っ! 登頂っ!!」
一斉に300名からの歩兵隊が、僕の合図とともになだらかな丘の頂点へ集合して見せると、相手チームから驚きの声が挙がった。
「な・・・・ デルタは半分を隠していやがったのか・・・っ!?」
「これじゃぁ、俺たちの約二倍からの兵力が、陣形的に有利な丘へ集中して陣取っているのか!?」
「・・・・騎兵すら居ない状況で、二倍の兵力相手だと・・・。」
「ええいっ! 俺たちがフラッグさえ奪ってしまえば、逆転するんだっ!!」
「そうだそうだっ!!」
なんとか、萎えそうな気持と士気を立て直そうと、勇気のある男子学生たちが気勢を挙げるが、一度下がってしまった士気を立て直すことは、プロの軍人でも難しいだろう。
そこへ、学園のテラス席から、試合終了を告げるビューグル三重奏が高らかに鳴り響いた。
「なん・・・だと・・・・!?」
「俺たち、負けちまったのかっ?」
「一体どうして・・・・?」
僕が敢て時間稼ぎのために、敵の半数を惹き付けている間に、アドルフが全ての騎兵を用いて、左右時間差挟撃を見事に成功させてくれたのだ。
単純計算でも、騎兵の数だけなら相手守備隊の二倍。
先ずこちらから80名ほどの騎兵で、一隊を先に攻撃して、相手の70名ほどの騎兵を惹き付けさせる。
騎兵が全て敵陣地から出払ったところへ、逆側から、残りの70名の騎兵を一気に投入すれば、残りの150名ほどの歩兵との戦闘となる。
あとは、騎兵隊による俊敏さでフラッグを急襲すれば、短時間で奪うことが可能となる。
悔しがるアルファ隊の学生たちには悪いけど、これもまた勝ち負けがある競技の宿命だろう。
「やったな! アーデルっ!!」
騎馬隊を率いて戻って来たアドルフが、開口一番に褒めてくれた。
まあ、今回は相手チームも僕と戦うのが初めての人も多く、デルタチームも中等科を中心に良く聞き従ってくれていたお陰も大きいのだけれども。
そんな僕の気持ちにはお構いなく、先輩や同学年、後輩や中等部の生徒にまでもみくちゃにされながら、色々な言葉を浴びせられてしまった。
「すっげーなー お前っ!!」
「流石は俺の後輩だっ!!
これからも、お前の采配にならば喜んで従うぞっ!!」
「本番も頼むぜっ!!」
「先輩・・・♡」
「僕っ! 一生ついて行きますっ!!」
「兄貴って呼んでイイですか・・・・?」
なんか、どさくさに紛れて変なのまで混ざっていないか?
とりあえず、本番前の予行演習とは言え、勝利は嬉しいものだろう。
「でも、良いのか?」
「ん? なにが?」
「本番前に、こんな手の内を敵に晒してしまって。
敵に対策を打たれるぞ?」
「ああ。別にいいんだよ。」
「?」
アドルフは不思議そうに巨体に首を傾げているけど、僕は心底構わないと思っている。
こんな奇策は、一度使ってしまえば、次は通用しなくなるのだ。
むしろ、相手が対策を施してくれれば、それでも構わないのだから。
「お前を敵に回す方が怖そうだな・・・。」
「フ。今更そんなことを言うか?
友よ。」
「まあ、俺がお前に敵対するなんて、死んでも無いけどなっ!
むしろ、お前の配下でも、俺は構わないんだどな。」
「・・・アドルフ?」
相変わらず飄々としているせいで、どこまでが本心で、どこまでが戯れなのかが分かりにくい奴だな。
でも、嬉しそうな表情には、偽りが無いのだと思う。
こんな感じで、僕たち男子学生は、連日自分たちの隊を二つに分けての模擬戦を行ったり、時には相手チームとの共同での演習を行いながら、当日へと備えて行った。
※変更済み
『学園祭』と『廃嫡疑惑』を二つに変更。
すみません(;´・ω・)




