54.アーデルハイド廃嫡疑惑終焉と父上からの密書
それぞれが、学園祭の準備に励む中、不穏な動きがまたしても学園地下の一室であった。
300名ほどの男女が集まり、一様に水色三角錐の頭巾を被っている。
「同志諸君っ!!
間も無くだっ!
間も無く、我らが悲願は達成されるっ!!」
いつもの扇動者が、壇上で注目を集めながら大声で叫ぶ。
「勇敢にも一人の我が同士が、アーデルハイド様への『告白』を果たしたっ!」
「「「おぉーーーーーーーっ!?」」」
ゴクリと唾を飲みこむ者たちや、思わず声を漏らしてしまう者たちが続出する。
周囲に動揺と、同等以上の期待が満ちる。
扇動者は、尚も持論を続ける。
「結果は、願わくは成就して欲しいと私も望む。
だが、彼女が先駆けとなった今、私もまた、そろそろ表舞台へ出るべきだろう。
私が誰かは、同志諸君の中でも大凡の検討くらいはついていることだろう。
だが、私がこの頭巾を外すのは、アーデルハイド様への告白が終わった時だ。
その時が来たならば、堂々と諸君の前へ素顔も本名も晒して見せると約束しよう!」
多くの聴衆が前のめりに身体を傾けて、興味を示す。
「そして、私が素顔を晒す時こそが!
現体制打倒が叶ったその時であると宣言しようっ!!」
聴衆の興奮が一気に高まる。
「平等で自由な告白の権利を我らの手にっ!!
ジーク・アーデルっ!!」
心臓へ向けて、右拳をトンっとぶつけると、エルの字に曲げて見せた。
「「「「「「ジーク・アーデルっ!!
ジーク・アーデルっ!!
ジーク・アーデルっ!!
ジーク・アーデルっ!!」」」」」
聴衆もまた、心臓へ拳をぶつけてから、右手をエルの字に曲げ、鳴りやまぬ喝采を上げ続けた。
そこへ、普段であれば、拍手喝さいで集会を終えるところだが、今日は趣が違った。
一人の水色三角頭巾をかぶった少女が、前へ進み出て来るなり、暴言を吐いたのだ。
「まあまあ、随分とまた、大げさな集会ですこと。
私、ちょっと、いえ、大分?
呆れてしまいましてよ?
ねえ、お兄様。」
「・・・・。
今、僕に話しかけないでくれ・・・・。」
先程から床へ這いつくばっている細身な男子生徒が、応える。
「まさか、そんなっ!?」
そのたった一言に、集会室に集まっている少女たちがざわめく。
そう、ソフィーと僕。
二人で、頭巾をかぶってこの馬鹿らしい集会に参加していたのだ。
僕たちは、頭巾を脱ぎ捨て、聴衆の前にその顔を晒す。
「っ!?」
「キャァっ!!」
「嫌っ!!」
「なんで・・・・っ。」
次々と悲鳴があがる中で、二人でツカツカと壇上へ登ってしまった。
ちなみに、先程まで自分の名前を連呼されていた僕は、目には涙を溜めて、耳まで真っ赤だ。
マジで死ぬほど恥ずかしかったのだ。
ソフィーが扇動者の前に立つと、ビシッと、人差し指を突き付けながら言い放つ。
「犯人は、貴女です!
シンシア辺境伯ご令嬢。」
「っ!?
・・・・どうして、それを・・・・。」
正体を見破られたことで、驚愕にガックリと項垂れてしまう扇動者。
ソフィーは構わず、彼女から頭巾を外してしまう。
そこには、確かにフワッとした感じの栗色の巻き毛が特徴で、パッチリとした目元に、プックリとした唇が愛らく、可愛い系美少女なシンシアの素顔が露わになった。
ソフィーは、そのまま構わず、タネ明かしをしてゆく。
「先ず、第一に、今回の騒動の黒幕は、全てシンシア辺境伯令嬢あなたですわ。
そして、扇動者の真似事をしていた台本は、全て、インテグラ辺境伯令嬢が書いた物を使用していた。
きっと、インテグラ先輩が演説しているように見せかけたかったのでしょうね。
その意味では、インテグラ先輩も同罪。」
スラックス姿で、三角頭巾を被っている一人の麗人を指差すソフィー。
先に正体を暴かれたシンシアの顔は、悔しそうに歯軋りで歪んでいる。
「何故それを!?」
フフン。とドヤ顔で
「理由は幾つかございますわ。
先ずは、お兄様の廃嫡騒動について。
これは、伯爵家本領へ確認へ執事を送っておりますけど、ブラフでしょうね。
私の手の者からは、一切情報が上がってこなかった事もそうですわ。
マシューには、ちょっとした骨休めも兼ねて、本領の様子見へ行くようにと、私からも告げてから行かせましたわ。
間も無く帰ってくるでしょうけどね。」
マジか。
そこまで知ってたなら、どうして今まで黙っていたんだよ!?
僕の内心を読んでか、素知らぬすまし顔で続けるソフィー。
「では、ここからは、謎解きですわね。
1.情報は常に一人からしか発信されなかったこと。
つまり、弟のバイエルからだったことですわね。
それも、かたよった情報だけだったのですもの。
2.バイエルが、最初に連れて行った先がインテグラ先輩だったこと。
犯罪の原則に、最大の利益を得るものが、犯行動機がある者だと言われておりますわ。
3.同時進行で、扇動者が表れ、『親衛隊』内部の不満分子を煽りだしたこと。
レベッカ会長を引きずり下ろしたい者、それは動機がある存在ですわね。
4.インテグラ先輩は、常にお兄様と行動を共にすることが多くて、扇動者までは、同時刻には不可能な事。これは協力者または、首謀者の存在を意味しますわ。
5.『親衛隊』でレベッカを会長の座から引きずり下ろすことで、一番利益を受ける者。
つまり、今回はシンシア=副会長、貴女ですわね。
そして、私はレベッカと文通をして、裏付け調査をしたら、案の定、ガゼルは一度も訪ねてすらいないし、彼女は現状維持で満足しているみたいだから、改革は望まないって返事でしたわ。
ついでに言うと、勝手に自分の名前と家名をアーデルお兄様廃嫡の悪役として使われたことを、とぉーっても怒ってましたの。
それで、即答で私との共闘を喜んで受け入れてくれましたわ。
後は、『親衛隊』から、私の庇護に入った者たちを、この集会へ紛れ込ませて様子を教えて貰っておりましたから、全部筒抜けでしてよ?
タネを明かせばとーっても簡単でしたわ。
如何かしら?」
ポカーンと呆けたように、自分たちの計画がザルだったことを指摘されて、涙目になってしまうシンシア。
インテグラ先輩に至っては、可笑しそうに自棄気味に笑っている。
そこで、僕もまた、ソフィーの指摘に付けたしで自論を伝えてみる。
「実は僕も、今回の騒動には、当初から違和感を感じていたんだ。
最初に、バイエルが先輩に僕の廃嫡について話したと言った時です。
先輩は、『それ以上の深い事情とやらについては、一切聞かされていないから。」』と言いました。
ところが、その直後に廃嫡に関わっているのが『ザルツブルグ侯爵家』だと、断言していました。
僕には、この二つの言葉に、違和感を感じていました。
そして、突然の先輩からのあの第三音楽室での告白です。
返事は、『学園祭最終日』。
いつもの先輩なら、その場でだって返事は構わないように見えるのに、何故、僕との会話の返事だけは、待つ必要があったのか?」
「実はこの前も、この場に僕も潜んで、シンシアと先輩たちが何を企んでいるのか、ソフィーと一緒に見ていました。」
「「っ!?」」
二人とも、驚愕に目が見開かれる。
え、だって、あんなヘンテコな被り物して、全員が正体不明な状態なら、誰だって自由に出入りできるよね?
「そうしたら、シンシアが『学園祭最終日』って。
つまり、最終日が、僕から先輩への返事をするタイミングだし、もしも、僕がOKしたら、その後でシンシアが僕のところへ来るつもりだったのかなと。
実際には、もう少し早かったみたいだけどね。」
遂に観念したとばかりに、インテグラ先輩が、少し壊れたように、フラっとしながら、独白しだした。
「ハハハ・・・・。
やはり、君たち兄妹には、敵わないようだな。
全く、シンシアから計画を聞かされた時には、ボクは、もう少し冷静だと思い込んでいたようだ。
そうか、分かったよ。
アーデル。」
自暴自棄になったのか、僕の後ろへ素早く回ると、僕の首を後ろから締め付ける様にしながら、片手で紋章の入った小刀を喉元へ突き付けてきた。
「っ!?」
「ひっ!」
「まぁ?」
周囲でことの推移を見守っていた生徒たちから、悲鳴や驚きの声が漏れる。
先輩は、油断なく周囲を睨みつけながら、普段とは違う、悪役に酔っている様にニヤリと口元を歪めると、それらしく告げた。
「おっと、動かないでもらおうか。
もう少しだけ、このままでいさせてくれ。
どうやら、ボクは、君に本当に『恋』をしてしまっていたようだね。
でも、そのことに気が付かずに・・・・
いや、気付いていたんだろうな。」
愛おしそうに、僕の首へ腕を絡ませながら、後ろから顔をグイっと抱き寄せる。
小刀は尚も、僕の喉元へ突き付けられたままだけどね。
「だからこそ、君への告白では、『恋愛感情などでは無く、純粋に打算で動いている』だなどと、本心を偽ってしまったのだろうな。
その事実を、こんな形で気がつくだなんて・・・・。
やはり、ボクは、『恋』で狂わされていたみたいだな。
だからこそ、普段はやらないことを仕出かしてしまったのだろうな。
陰謀、謀略、策略・・・・どれも、日頃のボクでは、決して手を出そうとは思いもしなかったろうね。
でも、そうでもしなければ、君とは結ばれない。
いつの間にか、そう考えていたんだから、なるほど、冷静さを欠いていたのは、ボクも同じだったようだね。
情けない話しさ・・・・。」
独白は終わったようだ、少しだけ、先輩の腕の力が緩む。
この隙に、ほどこうと思えばほどけたけど、今はもう少しだけ先輩の癇癪に付き合っておこう。
なにせ、ソフィーのお陰で、殺意の有無は即座に見抜いてしまえるという特技が備わってしまっているから、インテグラ先輩が、自白のためにこうしているのだと、判ってしまっているから。
ソフィーに日頃刃物を突き付けられ続けたお陰というのも癪だけど。
「ところで、ソフィー君。
君に一つだけ、確認したいことがあるのだけれども、良いだろうか?」
既に毒気は抜かれてしまっているようだけど、ついでとばかりに、ソフィーへ視線を向ける先輩。
ソフィーはそれを泰然と受け止める。
「なんですの?
私に応えられることなら良いのですけど?」
こんな時でも、緊張した様子も見せずに無邪気にコテンと可愛らしく小首を傾ける。
もう少し僕の心配でもしてくれたらどうだろうか?
「先日の焼き菓子さ。」
え、ナニソレ。
僕は何も聞かされていないぞ!?
「あー あれですの?」
だから、ドレ!?
ハテナマークが乱舞している僕を無視して、二人で話しを進めないで欲しいなぁ・・・・。
「そう、アレさ。
どんな思いが込められて、ボクの所へ届けられたのか、確かめてみたかったんだ。」
二人の話しぶりから、なんとなくは、「ソフィーが何か贈り物をしたらしい」とは察せられるけど。
「そうですわね・・・・。
本当に聞きますの?」
「頼む。教えてくれ。」
こんな時でも、会話の主導権をさり気なく奪うソフィーも凄いと思うけど、素直に頭を下げる先輩も先輩だな。
「それなら、答えは『簡単』ですわ。」
「え?」
「インテグラ先輩は、パウンドケーキと同じ。
全てを同じ分量だけ混ぜれば出来る。
『単純で、簡単な女性だ』という、私からの皮肉でしたの。
なにせ、ご自分の配下であるベゼル騎士令息を、わざわざ『私の顔見たさ』だなどと偽らせて、潜り込ませるのですもの。
貴族年鑑にも、しっかりと『ベゼル騎士家=インテグラ家からの傍流』って明記されておりましてよ?
その辺りが疎かですと、私、些か興覚めしてしまいますわ。」
ガーンっと頭を殴られたような、強烈なショックを受けたと一目で分かる程、顔の隅に、真っ黒な射線を引いて、床にくず折れてしまう先輩の姿は、大分哀れだな。
お陰で、小刀を突き付けるどころではなくなってしまい、僕も解放されたけどね。
先輩が沈黙してしまうと、シンシアが顔を真っ赤にしながら、ソフィーに食って掛かって来た。
「私のは、説明しなくても分かってますわっ!!
『トライフル=つまらないモノ』でしょ!!」
シンシアが、怒り心頭とばかりに、床をゲシゲシと踏みつけながら、ソフィーへ牙を無噛んだばかりに喚いた。
「ええ。良く分かりましたわね。クスッ」
最高の笑顔で応じるソフィー。
オイオイ。
「貴女の計画は、本当にズサン過ぎて、最初から最後まで、『つまらないモノ』でしたもの。
ピッタリな言葉でしょ?」
やっぱり、お前の後ろには、先の尖った尻尾が隠れているだろ?
「キィーーーーーーッ!!
クヤシイッ!!」
本当にハンカチを噛みながら、地団太を踏む人って居たんだ。
場違いだけど。ちょっと感動しちゃった。
「それで、インテグラ先輩。
先日のお返事ですけど・・・・。」
「分かっている。
もう、もういいんだ。
これ以上は・・・・。」
「ご期待に沿えなくってすみません。」
僕は、ペコリと頭を下げて、先輩への返事の代わりとした。
こうして、僕の廃嫡騒動は呆気なく幕を閉じてしまった。
本当に、一体なんだったんだろうか。
ちなみに、小刀まで持ち出して、僕たちを脅したインテグラ先輩だけど、特に処分は無し。
理由は、『小刀は護身用具であり、武器にはあたらない。』だから、武器の使用によって、僕を害そうとしたとは見做されなかったこと。
もう一つの理由は、あの場に集まっていた者たちが、全員『ザルツブルグ連盟』の加盟者だけであり、内輪の出来事として、内々に処理されてしまったからだ。
まあ、我が伯爵家へのケンカというよりも、一方的に横恋慕してきただけだからね。
その代りといってはなんだけど、シンシアは副会長を辞任。
Noも2番から400番へ降格。
政治的影響力も排除された。
インテグラ先輩は、Noを16番から399番へ降格。
割と平然としていたけどね。
結果、レベッカ会長の一強は続き、30番以内に新たに欠番が2つも生じたままとなっている。
もしかして、この結果っていうのは、ソフィーやレベッカにとって、都合が良い状態が続いているのではないだろうか?
でも、逆説的に考えると、それはイコールで、僕への告白制限が続いているという意味らしいから、僕が護られていることになるのだと、後から気が付いた。
そーゆー『親衛隊』なら、存続してても良いかも?
うん。僕にとっても好都合だし、このまま卒業まで何事もなく平和に過ごしたいな。
◇
アーデルハイド廃嫡騒動後日談
「只今戻りました。」
「お帰りなさい。マシュー。」
「マシューお帰り。本領はどうだったい?」
王都伯爵邸付きの副執事長マシューが約一か月ぶりで戻って来た。
到着の報告へ談話室へ来たマシューを、ソフィーと僕が迎えた。
「ハイ。皆様お変わりも無く。
旦那様も、奥方様も、お元気でした。」
「それは良かった。」
やはり、報告ではマーロンもミリアも僕に対する反意などは全く無く、ザルツブルク侯爵家との繋がりなど、微塵も無かった。
要は、僕への告白までの時間稼ぎと、味方と思わせるためだけの『なんちゃって謀反計画』だったから、当然と言えば当然なのだけど。
「それで、一つだけ。
旦那様より、若様へ密書をお預かりして参りました。」
はて、父上が僕への伝言とは何だろうか?
マシューが恭しく手渡して来た通信筒を受け取り、蜜蝋に家紋入りでの封が施してあるのを確認する。
ソフィーが興味深そうにこちらを見つめているけど、密書だからね?
僕宛てだし、見せちゃダメだからね?
◇
仕方が無いから、さり気なく、談話室から、自室へ戻ると、ナイフでリボンを切り、蜜蝋を剥がすと、通信筒を開封する。
「コレは・・・・?」
中には、確かに父上の筆跡で短く記されていた。
『アーデルハイドへ。
今回の騒動については、マシューより報告を受けた。
委細に付いては、お前に任せる。見事治めて見せよ。
追伸―お前の婚約者については、既に決めてある。
成人までは伏せるが、惑わされないように。』
おや?
僕が知らなかっただけで、我が家では既に僕の婚約者が決まっていたらしいぞ。
なんてこったいっ!?
未だ一波乱あるのかな・・・・。
※変更済み。
ザル計画に免じてお許しをっ!!
<m(__)m>




