44.裏切りの告発と黒百合
事が事だけに、迂闊に外部へ漏らす訳にも行かない。
一先ず、王都伯爵邸へバイエルと共に戻り、更なる事情を詳しく聞き出すことにした。
屋敷の談話室には、執事長ポール、副執事長マシュー、メイド頭カーミラ、僕付の執事ハンス、護衛隊長のギュターブ、そして、ソフィーに集まってもらった。
「それで、詳しいことを聞かせてくれないか?」
「分かりました。実は、以前から僕なりに伯爵本領の動向を探らせていたのです。
それで、今日の午後に、本領へ使いに出していた僕付きの執事が、ある手紙を持ってきたのです。
これがその手紙です。確認してください。」
バイエルの専属執事が懐から、大事そうに一つの便箋を出して見せた。
「この手紙は?」
ポールが手に取って確認する。
「父上の側室のサビーネが産んだ弟のマーロンと妹のミリアが結託して、ザルツブルグ侯爵令嬢へ宛てて書かれたものです。」
更に、もう一つの便箋をも懐から出してくる。
「こちらが、ザルツブルグ侯爵令嬢から、二人へ宛てて書かれた手紙です。」
「・・・なんという・・・・。」
バイエルが次々と告げる驚愕の事態に、カーミラが驚きの声を漏らしてしまう。
「僕にも見せてくれ。」
「どうぞ・・・。」
改めて手紙を受け取り、内容を確認する。
『親愛なるザルツブルグ侯爵令嬢様。
私は、ツバイシュタイン伯爵家に連なる者で、マーロンと申します。
尤も、連なるとは言え、母は側室故に、継承権はございません。
しかし、私は、貴女様と協力することで、双方にとって最善の結果が出せることを知っております。
最善の結果とは、貴女様が求めておられる我が兄アーデルハイドを、ザルツブルグ家へ婿入りさせることにより、貴女様のお立場が劇的に変化されること。
我が領地に於いては、侯爵家との繋がりにより、更なる兵員及び権力強化が図れること。
本来であれば、兄を裏切る行為ともなり兼ねないこのような振る舞いは、私も望むところではございません。
しかしながら、隣国における政情不安は、刻々と変化する社会情勢とも相まって予断を許してはくれません。
兄一人を差し出すことで、我が領土と王国の民の安寧が得られるのであれば、私は裏切者の誹りを受けても構わない覚悟で、貴女様へこの手紙をしたためました。
我が妹も、私の苦渋の選択を支持してくれております。
きっと我がツバイシュタイン家の者たちも、一時は私を責めるでしょうが、必ずや後には正しい決断であったと、理解してくれることでしょう。
どうかご一考を。』
なんてこった・・・・。
「これを本当に伯爵領から持ち帰ったと言うのか?」
「おそらくは、ザルツブルグ侯爵家へ送る親書の下書きとして書かれたものかと。」
弟の専属執事ティムが、渋い表情を保ちながら答えた。
「明確な敵対の意思ですわね・・・。」
ソフィーもバイエルの方を見つめながら呟いた。
「ええ。これは明らかにアーデルハイド兄上に対する裏切り行為です。
見過ごす訳にはまいりません。」
義憤に駆られてか、やや興奮気味に答えるバイエルだった。
無理もない。12歳という若さに、正義の人と呼ばれるインテグラ先輩からの薫陶を受けているのだ。
僕だって、17歳とまだまだ若輩者と呼ばれる年齢もあり、母違いとは言え、弟と妹から裏切られたかもしれないと聞かされて、冷静ではいられなかった。
「こちらも、ご確認を。」
もう一通のザルツブルグ侯爵令嬢から、マーロンとミリアへ宛てて書かれた手紙の写しを受け取った。
『親愛なるマーロン様。ミリア様。
私は、ザルツブルグ侯爵家の家紋を負う一人。レベッカと申します。
貴殿からの申し出、歓迎したく愚考致しました。
つきましては、アーデルハイド様との婚約発表の期日を定めたく、ご相談致します。
なるべくなら、早い方が喜ばしく、学園祭終了直後にでも、発表をしたいと望みます。
手紙にも述べられていたように、貴方がたの英断と正義の行為とは、必ずしも他者の共感を得るには、時間が必要でしょう。
しかし、私は貴方がたの正しい決断を心から嬉しく思い、歓迎します。
貴方がたの勇気と好意に対して、親愛の情を込めて私もどうか以後はレベッカとお呼びくださいませ。
お早いお返事をお待ちしております。
貴方がたの少し年上の親友レベッカより。』
僕が手紙を読み終わると、ソフィーが受け取り、素早く手紙へ目を通す。
そして、すぐにまた、繰り返し目を通す。
それを三回ほど繰り返してから、ポールへ手渡した。
「どうしたんだい?」
何か気になる点でもあったのだろうか。
少しだけ気になって、ソフィーに聞いてみる。
「いいえ。何でもありませんわ。
アーデルお兄様のお手を煩わせるなんて・・・。
少々許し難く感じておりましたの・・・。」
「そうか。なら良いけど・・・。」
いや、良くは無いけど、
「兄上。僕の忠誠心は、お疑いになるべくも無く、我がツバイシュタイン伯爵家とアーデエルハイド兄上へ注がれております。努々(ゆめゆめ)お疑いになられませぬように。」
「ああ、分かっているさ。」
そうなのだ。
同じ母親から生まれた弟バイエルは、常に僕を兄と慕い、一歩でも二歩でも身を引いて、僕を立ててくれている。
幼少の頃より、「将来の夢は、アーデルお兄様を支えて、立派な伯爵家の人間として、お仕えすることです!」などと明言して憚らない、出来た可愛い弟なのだ。
ちなみに、容姿も僕によく似ており、少年趣味ホイホイなどと学園内では噂されているらしい。
我が弟よ。同じような苦労を僕もしてきたぞ!
まあ、そんな感じで、似たような苦しみを共有する弟と僕は、大変兄弟仲が良い。
現在も、父上からの命令とは言え、「アーデルハイドには嫡男として、領地経営の前に、王都別宅の指揮を任せる。執事長ポールの助力を得ながらでも構わない。少ない奉公人を上手く纏め上げ、将来の領地経営の手習いとせよ。」と僕には命じられている。
対して、弟のバイエルには「お前には、兄から離れて、兄の目が届かない視座から、物事を見、友誼を得よ。そして、将来アーデルハイドと共に領地経営でその経験を活かすのだ。」と命じられ、現在も学園寮で生活しながら僕を支えてくれている。
そんな献身的な弟の忠義を、僕が疑うはずが無い。
「兄上。お気を落しませんように。
僕が付いています。それに、王都伯爵邸のみんなだって・・・。」
「ああ、ありがとう。バイエル。」
いつの間にか、ソフィーの姿が無くなっていた。
きっと、バイエルが齎した情報にショックを受けたのだろうな。
後で慰めに行ってやらなくてはならないかな・・・。
◇
ソフィーは、自室に居た。
白髪頭で赤眼をしたメイドと共に。
「ミラ。」
「ハイ。お嬢様。」
影の様に付き従うメイドは、スゥっと体重を感じさせない所作で正面へ進み出た。
「バイエルの手紙の件、任せるわ。
それと、ザルツブルグ侯爵令嬢へ親書を届けて頂戴。
黒百合も動かして構わないわ。
他にも幾人か接触しておきたい人たちもいるから・・・。」
「畏まりました。お嬢様。」
愛する兄の窮地に、独自に動くつもりであろうか。
メイドは、主人への一礼を残すと、速やかに部屋を出て行った。
最初は、某ギャグ漫画の玉ネギ頭の部隊とか憧れてたんですけどね・・・
そこまで徹底した統一感のある装束を思い浮かばなくって・・・(泣)
とりま、黒百合隊で(`・ω・´)ゞ




