43.魅惑の歌姫(デーヴァ)と扇動者(アジテーター) ― ジーク! アーデル! ―
「アーデルハイド。もう大丈夫なのか?」
「ええ、先輩にもご心配をお掛けしてしまい、すみませんでした。」
数日ぶりに学園へ登校した僕を、放課後の第三音楽室でインテグラ先輩が迎えてくれた。
「それでは、音合わせと行くか。」
「はい。」
バンドメンバーは既に集まっており、インテグラ先輩はヴォーカル。
他にベースやドラム、数名のバックダンサーまで居る。
あれ?
今回初めて参加させてもらうけど、全員女性の先輩ばかりだな。
とりあえず、チューニング済の自前のギターを構える。
フレットにしっかりと左手で弦を当て、親指を裏側に固定する。
長く引くと指がちょっと痛くなるので、ピックを使って演奏練習を始める。
指定されたギターコード表に従って、時に激しく、時に柔らかく、インテグラ先輩の美声に合わせてあっという間に練習時間は過ぎ去ってしまった。
「流石だな。」
「本当! アーデルハイド君って器用なのねっ!」
「うんうん!」
上級生の女性たちから褒められると、少し照れ臭い。
「いやあ、それ程でもありませんよ。
それよりも、皆さん本当にお上手ですね。
特に、インテグラ先輩の声の張りと伸びには、驚かされましたよ!」
「フっ。君にそう言われると、流石に私も少し照れるな。」
そう言いながら、軽く流し目からのウィンクって、どこの宝〇スターですか。
生まれ持ってのスター性というのは、インテグラ先輩みたいな人の存在感を指すのだろうと、すごく納得してしまった。
今日は、なるべく距離を保って、突然抱き着かれたりはしないように、警戒していたお陰もあり、練習を終えて無事に屋敷へ帰ることが出来た。
◇
アーデルハイドが帰った後の第三音楽室には、インテグラと三学年の女生徒たちが、楽器を片手に練習後の打合せをしていた。
「諸君。いよいよ学園祭も近づいてきている。続けて気を引き締めて行こう。」
「「「「「ハイっ!」」」」」
インテグラが檄を飛ばすと、その場に居た者たちは、声を揃えて応じた。
この時期、学園祭への備えも兼ねて、各教室や部屋でも同様の光景が繰り広げられていた。
◇
王立学園が誇る、年中行事『学園祭』。
『Noble's determination』(貴族の決意)と公称され、若い王侯貴族子弟たちが、協力しながら盛り上げていく。
ただし、入場制限があり、一般への公開は一切してはいない。
学園内へ見学に入れるのは、王侯貴族とその関係者、つまり従者までだけだ。
学園祭が開催される期間は、5日間。
現代日本での二日間とか三日間という短期間で終わる学校行事とは規模が違う。
各日程ごとに、最大の見せ場があり、ちゃんと学んだことを披露するステージがあるのだ。
初日は、『模擬騎馬戦』。
男子生徒の見せ場でもあり、高等部一学年からの騎乗訓練発表を兼ねている。
中等部からも騎乗できる生徒は参加可能だ。
ただし、中・高等部男子全員参加のため、騎乗出来ない者や苦手な者には、歩兵役が待っている。
毎年若干の負傷者も出てはいるが、それでも大変盛り上がる演目であり、男子生徒はこの日のためにと、日頃の辛い『地獄の特訓』を耐えているのだ。
二日目の盛り上がりは、『模擬店』。
模擬店は、クラスや学年、個人出店も可能だ。
これは、貴族の財力を見せつけるためであり、学園内でも毎年個人出店者が多数いる。
遠方からの物産展も兼ねているので、貴族間交流などの促進にも役立っている。
三日目は、『詩会』。
学園園庭にて全学年自由参加であり、テーマも自由だ。
男女共に参加は可能だが、毎年女子学生が上位入賞を占めていたりする。
恋歌、哀歌、自由題目があり、保護者による見学でも人気の発表の一つだ。
四日目のメインは、『弁論大会』
体育館にて終日行われ、採点には本校の教授陣が厳しい眼差しを注いでいる。
ここで優秀な成績を収めた者へは、王城での外交や文官としての道が拓かれやすい。
貴族の次男坊や三男坊以下は、はりきって発表したがる者も多い。
五日目は、『閉会パーティー』
前半は挨拶と会食。後半ダンスタイムで、それぞれが着飾り、腕を披露しあう。
毎年、被服部門から、生徒がデザインした最新のファッションが発表されたりしているので、こちらも人気が高い。
インテグラがアーデルハイドに依頼したのは、二日目の『模擬店』でのバンド演奏披露での助っ人だ。
◇
そんな、学園祭の準備で、周囲が慌ただしくなりつつある中で、不穏な動きがあった。
学園地下1階の昼間でも光が届かない一室で、異様な集会が開かれていた。
「我々は、今こそ立ち上がらなければならないのだっ!」
「「「「「オォーーーーーーーッ!」」」」」
タータンチェックを基調としたブレザー姿から、学園の生徒であることは伺えるものの、全員が薄い水色の円錐形のような被り物をしているために、その部屋に集まった者たちの顔は一切見えない。
「今こそっ! 我々の手で、自由を掴み取るのだっ!!」
「「「「「オォーーーーーーーッ!」」」」」
100名は居るであろうかと思われる場に、一段高く講壇が設けられ、そこに立つ声からかろうじて女性だと分かる者が、先程から気勢を上げているのだ。
その場に集った者たちは、一際声が高く呼びかけられる度に、更に熱狂的に応じている。
もし、第三者が居たならば、どこかの国の独裁者の演説姿を想起したかもしれない光景だった。
「自由を我が手にっ! ジーク! アーデルっ!!」
壇上の女性が、右手を心臓にトンっとぶつけると、そのまま一際高く、右腕をLの字のように曲げて掲ると、その場に集った若い女性たちが全員、同じようにLの字に曲げた右腕を高く掲げて見せるのだった。
「「「「「ジークッ! アーデルッ!!
ジーク! アーデルっ!!
ジーク! アーデルっ!!
ジーク! アーデルっ!!」」」」」
一種異様な興奮の坩堝がそこには形成されていた。
扇動者。
雛壇の上に立つ者には、この称号が相応しいのかもしれない。
アーデルハイドの身に、また一つ、危機が近づいているようだ。
◇
学園祭の準備で、慌ただしく過ごしていた僕の所へ、第一報が告げられたのが、そんな集会が学園のどこかで開かれている時だった。
「兄上! 大変ですっ!!」
「そんなに慌ててどうしたんだ? バイエル。」
珍しく弟のバイエルが、僕の居る高等部まで訪ねてきたかと思えば、予想外のことを告げて来た。
「伯爵本領に居る弟と妹が裏切りましたっ!
兄上を廃嫡させて追放し、マーロンが嫡男になり、伯爵領を継ぐと画策している証拠が見つかりましたっ!!」
「なんだって・・・!?」
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