42.図書館令嬢物語② ― ザルツブルグ連盟発足 ―
私が、アーデルハイド様を意識しだしてから、幾日が過ぎたかしら。
ある日、ふと数少ない親友の一人が、そわそわと彼を視線で追いかけている姿を目にしてしまったの・・・。
焦ったわ。
だって、彼女の容姿は同性である私から見ても、十分に魅力的で、彼に告白なんてされたら、先に結ばれてしまう可能性だって高いんですもの。
私は、勇気を振り絞って相談があると言って、彼女の気持ちを確かめてみた。
「ねえ。聞いて欲しいことがあるのだけれど・・・。」
「どうしたの? レベッカ。」
彼女は、学年が上がるごとに数が減って行く、初等部からの持ち上がり組みの親友の一人で、祖父の代から辺境伯の称号を戴いている。
私の侯爵家よりは、経済的にはそれほどではないけれども、そのせいもあり、現在は学園寮で、従者も無く一人で生活しているそうだけど、広大な開拓地ということは、いずれは並び立つ存在にだってなるかもしれない。
愚か者は目先を見るけれども、賢い者や目端の利く者であれば、辺境伯だって、十分魅力的な領土持ちだと私は思うの。
「実はね・・・・。私。すごく気になっている人が居るの・・・・。」
生まれて初めて、自分の本当の気持ちを、それも、聞く相手も同じ人を好きになっているかもしれないと思いながら、あえて口にするのだ。
卑怯だと思われるだろう。
ずるいと思われるだろう。
だけれども、醜い私に、どうやって容姿に恵まれた貴女たちに先んじる方法があると言うの?
他に方法があれば、教えて欲しいくらいだわ。
「貴女が興味持つなんて、よっぽどのお相手なのね。
それは、どこの誰なの?」
「うん。あのね・・・。」
少し不安げな表情になりながらも、それでも彼女は私に訊いてくれた。
好きになった相手は誰か? と。
だから、私も勇気を出して言ってみよう。
「偶然ね。図書館で会ったの。
初めて会った時は、それほどでも無かったんだけど・・・・。
なんかね、何回も図書館で会っちゃって・・・・。
私、本くらいしか取り得ないし。
『図書館のメガネ女』とか言われちゃってるし・・・・。
へへ・・・・。
あ、彼の話しだったわね。
ゴメンネ。
それでね、彼、すっごく優しいのよ。
だって、他の男子と違って、絶対に私のことを悪く言わないでくれてるし・・・。
水色の綺麗なサラサラした髪の毛が、すっごく綺麗で、まるで流れる川の水をそのまま髪の毛にしたら、あんな風なんじゃないかしら、ってくらいだし。
瞳も透き通っていて、吸い込まれそうなくらいな、エメラルドを瞳に嵌めたら、あんな感じかしら・・・・。
細く伸びた手足も、しなやかで繊細な指先も、スラリとした背格好も・・・・。
きっと、あんな風に美しい人は、心の中も綺麗なんじゃないかしら・・・。
私、生まれて初めて、男の人でも、苦手って感じずに、顔を見ておしゃべりができたの。
この私が、よ?
これって、きっと・・・。
ううん。絶対に。
『運命』なんじゃないかって思ってるわ。
物語りの中に登場する、赤い糸で結ばれた二人。
でも、私みたいな不細工じゃ・・・・。
彼みたいな素敵な人には、不釣り合いよね・・・。
やだ、私ったら、何を言っているのかしら。
はしたないわね。」
親友に済まないと思う罪悪感と、照れ隠しもあって、気が付くと一気に胸の奥にある想いを吐き出していた。
「ウソ・・・・。
レベッカ・・・・ 貴女もなの・・・・?」
私の言葉を聞く途中から、彼女の眼は驚愕に見開かれ、口はOの字に開いていた。
やはり、彼女もまた彼を慕っていた。
もうすぐ高等部へ進もうかという、中等部三年のある日の出来事だったわ。
◇
それから、私たちは高等部へ進学した。
クラスの何割かは、家の事情により中等科卒業と同時に、領地へ戻り、アーデルハイド様が孤独に過ごす時間も増えていたっけ。
ところが、そんな一年目のある日を境に、気が付けば彼の周囲には、アドルフと言う名の男爵家の子息と二人の見目麗しい才色兼備な令嬢が侍るようになってしまっていた。
完全に出遅れてしまっていた。
悔し涙を何度流したことかしら。
眠れぬ夜を過ごし、私は決意したの。
「どうせ、誰も近づけないのならば、全員がこれ以上彼に気安く近寄れない仕組みを作れば良いのだわ。」と。
◇
これまで図書館で読み漁った本の知識と、少ないながらも培ってきた人脈を駆使した結果、同学年と同じクラスの女子から50名ほどの志を同じくする者たちに声を掛けることが出来たの。
「皆様。本日は、私の屋敷へようこそ。」
「お招きに預かりまして、光栄ですわ。」
「レベッカ様。日頃はなかなかお話しする機会もございませんでしたけど、これからは仲良くしましょうね。」
「レベッカ。今日はありがとうね。」
「お招きありがとうございます。」
彼女たちは全員が、アーデルハイド様を慕う者たちばかり。
実は、ボッチ体質な上にコミュ障入ってる私一人じゃ、ここまでの人数だって集められる自信なんて無かったんだけどね。
「今日は、皆さんでお茶会を楽しもうと思いましてね。」
「まあ、よろしいですわね。」
「私、お茶会大好きですわ!」
「ええ、ええ、私もですわっ!」
「女子だけのお茶会。素敵ですよね~」
私とその友人だけでは、せいぜい10名か多くても15名くらいかな。
今回は、同じクラスの女子にさり気なく『アーデルハイド様への告白方法について、相談したいの』と切り出したところ、大物が釣れたわ。
私と同じクラスの辺境伯爵家の令嬢の一人が、同じ想いを寄せる同級生や後輩たちにも呼びかけてくれた成果ね。
そこで、私は思い切って胸に温めて来た構想を打ち明けてみたの。
「本日は、皆さんにお話ししたいことがありますの。
ご承知の通り、この場に集われた皆さんは、同じ殿方を恋い慕っている同好の士です。
ところが、最近になり意中の殿方の周囲に、好ましからざる輩が現れました。
アドルフさんは、同性でもあり、むしろ喜ばしい存在かもしれません。」
ここで、コホンと軽く咳ばらいをしてから、続ける。
「しかし、エリカ侯爵令嬢とクララ伯爵令嬢。
このお二人の存在は、許容しかねます。
可能であれば、全力で排除したいものですわね。
しかし、このお二人は、学力・容姿・財力・家格、すべてに於いて、軽々しく除けるものではございません。これもまた厳然たる事実。
そこで、私は皆さんに、一つの提案があるのです。
実は・・・・。」
ここで『アーデルハイド親衛隊』構想について、説明する。
1つ、アーデルハイド様を慕う者たちによって構成される。
2つ、構成メンバーについては、先ず一番身近に居るクラスメートが最優先で告白権を有すること。
3つ、一度告白したならば、その権利を未だ告白できずにいるメンバーへ譲渡すること。
4つ、なお、告白の権利は、上位30名のクラスメート及び両隣のクラスから、『親衛隊』に所属する者が最優先されるが、上位メンバー公認の下であれば、例外も許されること。
5つ、『親衛隊』を通さずに抜け駆けした者には、全力を用いてでも、なんらかの報復措置を講じること。(※実家の影響力行使を含む。)
最初期は、これで十分だろう。
実際に、私の説明を聞いていた50名ほどの令嬢たちの表情は、明るかった。
なにせ、50名ほどしか集まっていないのだ。
その中で、上位30名が告白を終えれば、自分たちにも告白最優先権が回って来る。
その上、例外措置として、上位30番以内の者が認めれば、告白しても構わないという抜け道も用意されている。
駆け引きが得意な貴族令嬢たちであれば、この意味に気付かないはずが無い。
「素晴らしいですわ!」
「本当に!」
「私、賛同します!」
「私もっ! 加盟します!」
「私も私も!!」
一人が賛同すると、その場に集まった令嬢たちが次から次へと賛同していった。
「それなら、親衛隊の会長を決めた方がよろしいのではなくて?」
辺境伯令嬢シンシアが、賛同と共に提案して来た。
無論、人の集まりだから、ある程度の組織化は考えてはいた。
だが、自分の思い通りに行くかは、正直分からない。
「そうですわね。仮にも『親衛隊』と名乗るのですから、代表者を立てる必要があるかとは思うのですが・・・。」
急いてはことを仕損じる。
ここは、一番慎重に進めなければならないだろう。
どれだけの緊張と駆け引きを求められるかは、未知数だけど・・・。
そう私が覚悟を決めていたら
「私は、発起人であるレベッカさんでよろしいと思いますわ。」
シンシアが、あっさりと兜を脱ぐかのように、自分の影響力を弱めて構わないと宣言した。
正直、彼女こそが一番このグループの中で、友人の数も多く、リーダーに相応しいと思える人物だったのだから。
「え?」
「なにを驚いていますの?
私は、そうですわね、『副会長』。
このポジションをいただければ、異論はございませんわ。
誰か、異論のある方はいらっしゃいまして?」
戸惑う私に微笑むと、シンシアは周囲を睥睨した。
誰も反論する者は表れなかった。
会長に私。
副会長にシンシア辺境伯令嬢。
アーデル様と同じクラスの女子には、最初に30番以内の番号から10番までを割り振り。
残りの11~30番までの数字と50番までの数字を、隣のクラスや同学年の希望する女子に割り振る。
こうして、私ザルツブルグ侯爵家で行われた最初のお茶会で、『アーデルハイド親衛隊』は小さく産声を上げた。
それは後の世に、所属する者にだけ分かる隠語呼称として、発足当初の屋敷の名から命名された『ザルツブルグ連盟』とも呼ばれる王国内に隠然たる勢力を誇る組織の、細やかな始まりに過ぎなかった。
以前名前だけ登場してたシンシア辺境伯令嬢もようやく登場しました。
(。-∀-) ニヒ




