41.アーデルハイド危機一髪!~ ライフゲージはゼロ!? ~
危なかった・・・・。
それは丁度、白髪メイドが留守の間だった。
涙目になり許しを請う僕は、間一髪(パンツ一丁)のところで、決死の救助隊が扉を蹴破って突入してくれたお陰で助け出された・・・。
フゥ。
ともかく、ソフィーからの僕への『拉致監禁と拘束生活』という危機は、一先ず去った。
「大丈夫ですか? 兄上。」
「ああ、僕は大丈夫だよ。
ありがとう、バイエル。
それより、どうしてここへ?」
利発そうな少し薄いライトグリーンの髪と瞳が澄んだ、僕を若干幼くしたような少年が、僕を窮地から救い出してくれた。
普段は、王立学園寮に従者と共に住んでいる、中等部一学年に所属している弟のバイエルだ。
「どうしても何も、インテグラ先輩から聞かされて、ビックリしましたよ!!
真面目な兄上が、連絡も無しに、一昨日から丸三日間も学園へ来ていないって。」
意外な人物から、更に意外な名前を聞かされて、僕も驚く。
「そうか・・・。
そういえばお前、インテグラ先輩と知り合いなのか?」
「知り合いも何も、インテグラ先輩とは、学園委員会でいつもお会いしておりますから。」
『学園委員会』とは、所謂『生徒会』みたいなものだ。
王立学園には、初等部、中等部、高等部と、三部がある。
それぞれに、『生徒委員会』と呼ばれる選挙で選ばれる生徒代表が居て、更に、三部の代表が時々集められる『学園委員会』があるのだ。
インテグラ先輩は、圧倒的な人気と爽やかな弁舌で、高等部代表役員だ。
そして、弟のバイエルは、一年生だが、書記として『中等部生徒委員会』に所属しており、そこでインテグラ先輩とも知己を得たのだろう。
「そうだったのか。先輩が心配してくれたお陰で、お前に伝わったという訳なのだな?」
「そうです。屋敷に来てみれば、ポールもカーミラさんもソフィー姉上からの命令で、手出し無用とか言われていて、逆らえずにいたみたいでしたし、僕が来ていなかったら、どうなっていたことでしょうね・・・。」
まあ、言葉にして表現することが出来ない様な、 “ピー” で、 “ピー” 、な光景が繰り広げられていたかなと。
「ありがとう!
本当にありがとうっ!!」
(もう少しで連載が終わってしまうところだったよ・・・・。)
「兄上・・・? 一体誰に向かって言い訳しているのですか?」
「いいや、気にしなくって良いよ。大人の事情ってヤツさ。」
「はぁ? まあ、助け出せたみたいなので良いですけど。
ところで、騒動の原因になった、ソフィー姉上はどうしますか?」
沈静化のために、止む負えず突入と同時に、ポールの手刀により、意識が刈り取られていた。
「もう大丈夫だろう。
幸い、ポールの突入が素早かったお陰で、突入前後の記憶も飛んでいるかもしれない。」
「だと良いのですけど・・・。」
バイエルたちに助け出された僕は、とりあえず、自室へ戻り、ソフィーのことも自室のベッドへ横にして様子を見ることにした。
しばらくして、白髪メイドが戻って来たけど、「面白そうですね。」と一言だけ言うと、ニマニマしながらソフィーが眠るベッドの側の椅子に座ったまま、動こうともしなかった。
やがて、見張りを兼ねて側近くで待機していたメイドの一人からソフィーが目覚めたと聞かされ、僕とバイエルは部屋へ向かった。
「お兄様・・・・。」
「大丈夫かい?
ソフィー。」
「姉上・・・。」
僕とバイエルの問いかけに、大分落ち込んだように、項垂れたまま力無く頷き返すソフィー。
「私・・・ 夢でも見ていたのでしょうか・・・・?」
「そうだな。きっと悪い夢だったんだ。」
幸いなことに、ポールの手刀によるものか、少しだけ記憶が抜けているようだ。
ここは、これ以上の暴走を防ぐ意味でも、『夢だった』と信じ込ませなければ。
「そういえば、お兄様。」
「なんだい?」
「拘束具は、どうやって解きましたの?」
そこはしっかりと覚えていたんかーいっ!?
「バイエルが解いてくれたんだよ。」
「姉上。いくら姉上とは言え、性質の悪い冗談はお止めください。」
「・・・・仕方ないわね。
それで、私はどうしてベッドで横になっていたのかしら?」
ここで、何か上手い理由を伝えなければ、更なる暴走へ突入されてしますかもしれない。
頑張れっ! 僕。
「それはな・・・・。」
「過労です。」
突然ベッドの横から、白髪メイドのミラが感情の篭らない声で告げて来た。
「そ、そうなんだ、過労だよ。きっと。ずっと三日間も僕のことを見張るつもりで、寝不足やらで、過労だったんだよ・・・ きっとね・・・。」
なんのつもりで、ミラが過労だと援護射撃をしてくらたのかは、意図すら不明だが、ここは盛大に同調させてもらおう。
「姉上。たかが冗談で、過労とは、本当に笑えないですよ!
姉上にも、伯爵家令嬢として、もう少し慎みとか、女性らしさをですね!」
僕のことを尊敬して止まない弟が、ここぞとばかりにソフィーへ小言を言う。
弟よ。ほどほどにしておけ。
虎の尾を踏むと、痛い目だけでは済まなくなるぞ。
「あらあら。バイエルったら。
つい昨年まで、本宅へ帰省した雷の夜の度に、私の寝床へ潜り込みたがって居たのは・・・ 誰だったかしらね・・・。」
「・・・ぅっ。」
「時々、私の寝床で、おねしょしてしまった時には、誰にも内緒でシーツ交換するのに、苦労したものだったわぁ・・・。
私の胸元へ、甘えて顔を埋めて来た可愛らしい弟は・・・・ 誰だったかしら・・・?
ねえ?」
ソフィー。その辺にしておいてやれよ。
背伸びしたい年頃の弟の可愛らしい痴態を聞かされて、周囲に控えていたメイドたちの口角が上がっているぞ。
そして、そんな周囲の女性陣のニヤケ面を見せられたバイエルのライフは既にゼロだぞ。
涙目で顔を真っ赤にしながら、バイエルは去り際に
「そ、そういえば、学園委員会の仕事を思い出しました。
僕は、帰ることにします。アーデル兄上。ソフィー姉上。ご機嫌用。」
「ああ。助かったよ。ありがとうな。バイエル。」
「お達者で。」
僕は、心からの感謝を込めて、ソフィーは素っ気なく、それぞれ見送りの言葉を述べた。
今回は、本当にバイエルのお陰で、間一髪で助かった。
◇
学園内の建物の尖塔の一つに、『学園委員会室』と呼ばれる専属の塔がある。
二頭立ての馬車に揺られて、学園へ戻ったバイエルは、自室へ戻らずに、この塔のとある一室に居た。
部屋には、この部屋の主が一人で報告を待っていた。
「只今戻りました。」
「うむ。で、どうだった?」
「はい。やはり、先輩の言う通りでした。」
代表室と呼ばれる学園委員のトップが、幅広い机からバイエルを迎え、そのまま視線を真っすぐに向けた。
「そうか・・・ で?」
「ええ、間一髪のところで、救出に間に合ったようです。」
「それは重畳。ご苦労だった。
今後も、しっかりと頼むぞ。」
凛々しい姿は、異性だけでは無く、同性すらも魅了するであろう。
タータンチェックを基調としたブレザーに、スラックス姿の麗人は、労いと同時に、心からの信頼をこめた声音と視線を、12歳の少年へ向けた。
「ええ。僕にとっても、尊敬して止まない兄上ですから。
姉上の暴挙をこれ以上見過ごす訳には、参りません。」
バイエルは、硬く決意したように、力の籠った真っすぐな視線で頷き返した。
「それで、例の計画の方はどうだい?」
彼の決意を汲むと、彼女はそのまま話題を変えた。
少年にも不満は無いようで、むしろ、尋ねられたことに喜びを浮かべている。
「はい。どうやら、目立った動きはありませんが、こちらから仕掛ければあるいは。」
「そうか。これもまた我らが悲願達成のために必要なことだ。
取り掛かってくれるかい?」
命令ではなく、お願いとでもいう風に、未だ幼さの残る少年へ優しく問いかける。
「勿論です。僕にしか出来ないことがあれば、何でも言ってください。
先輩の力になれることならば、必ずや多くの者たちのためになることですから。」
「そこまで信頼してくれているのか。
ありがとう。必ずや、君の期待にも応えてみせよう。」
年長者の余裕だろうか、泰然と構えたままで、確信の籠った力強い返答だった。
まるで、これから行うことが既に成功が約束されていると感じさせるような。
聞く者が他に居れば、その圧倒的な自信の源がどこから来るのかと、そのような疑問を微塵も感じることなく、信じてしまうほどに人を惹き付ける眩しさを感じさせた。




