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妹がヤンデレ過ぎて怖い件について  作者: 所天駄
第二章 学園祭編 ―悪役令嬢暗躍―
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37.王都伯爵邸 ~ 悪役伯爵令嬢奇襲編 ~


火曜日、午後の4時限目の馬術が終わり、シャワーを済ませて中庭へ来た時だった。

今日は珍しく、アドルフも馬具の調節をすると言って厩舎に残っており、僕一人で歩いていたんだ。


「あ、あのっ!」

「アーデルハイド先輩ぃー!」

「ん?」


なんだろう、突然一学年の女子二人から声をかけられた。


「今度の土曜日、歌劇をご一緒に見に行きませんかっ!!」


銀色のツインテール少女がそう言ってきた。


歌劇のお誘い?

あれ、先週ソフィーと一緒に見に行ったばかりだけど、他の演目かな?


「今ー 王立劇場でー

悲恋物のやってるんですー」


青に近い薄い紫色した髪を後ろに編んで纏めてある娘の言葉で分かった。


「あ・・・。」


やっぱり、ソフィーと一緒に見に行ったヤツだ。

面白い話しではあったけれども、二回も見に行くのは悪いけどちょっと・・・。

二人とも、僕がうっかり声を漏らしてしまったから、不思議そうな顔をしている。


「え?」

「いや、ごめん。

それは先週の土曜日に妹と一緒に見に行っちゃって・・・。」


僕のすまなそうな表情と、素直に妹と見に行ったことを伝えると、二人とも大分ガッカリした顔をして俯いてしまった。


「あー・・・。」


それでも、気を取り直したのか、銀髪ツインテールの子がなおも誘ってくる。


「そ、それではっ! 王都で噂の噴水付きのカフェテラスのあるレストランでお茶をっ!」


あ、そこもソフィーとお昼飯を食べたばかりの店だ。

どうして、こうも重なる場所ばかりなんだろう?

念のため、他にソフィーと一緒に行った場所も伝えておこう。


「そこも、先週土曜日に・・・。

他にも、ザンスル・プレタポルテ店と図書館と、王室御用達ダンカンへ行ったばかりなんだよね。ごめんね。」


本音を言えば、いきなり初対面の子たちから誘われても、ちょっと驚くし、女の子二人に僕一人じゃ何を話せば良いのか分からないし・・・。

頭の後ろを掻き掻き、遠回しにお断りしておこう。


「え・・・。

先輩・・・・。」

「し、失礼しましたぁー・・・。」


どうやら、僕に一緒に行く気が無いと伝わったらしく、二人は転げるように走り去ってしまった。ちょっと悪いことしたかな、とは思うけど、仕方が無いよね。





ティファニーとイヴォンヌの二人は、アーデルハイドと別れてから、足早に寮の自室へと戻った。

アーデルハイドと会話することが出来たことを喜ぶ以上に、誘おうと思っていた場所が悉く先回りされていたことに、疑問を感じていたのだ。


「ど、どう言うことよ!?」

「偶然にしてはー 出来過ぎているのー

私たちがー前々から練りに練ってー 計画したのにー」


そうなのだ、まるで全てを見透かしたかのように、先手を打たれてしまったように感じら得る。偶然だとしても、一つや二つならそうだろうと思う。

しかし、今回はアーデルハイドと一緒に回ってみたいと思っていた場所の多くが重なっているのだ。


「一体どこから情報が漏れたのかしら・・・?」


いくら首を捻っても出てこない答えの糸口を、ティファニーはついに、側近くに仕える者たちに求めてしまった。


「爺!」


側近くに控えていた初老のロマンスグレー男性が進み出た。


「ハイ。お嬢様。」


背筋をピーンと伸ばし切り、一分の隙も無い。

見事な姿勢だ。


「よもやとは思うけど、裏切者が居ないか調べて頂戴!」


鋭く告げるティファニーの声に、憶することも無く、彼は答えた。


「まさかっ! そのような。

私どもは代々お嬢様のご実家であられる伯爵家にお仕えしている者たちから、王都学園寮でもお仕えしております。

裏切者など、出ようハズがございませんっ!」


確かに、ティファニーの家からも、イヴォンヌの家からも、代々それぞれの伯爵家に仕えている者たちから、選抜して三名ずつを王都へ連れてきている。


彼らの忠義は、これまでも変わることなく二人を支え続けてくれている。

そんな彼らを一瞬とはいえ、疑ってしまったことに罪悪感を覚えた。


「そうよね・・・。

悪かったわ。つい、疑心暗鬼に捕らわれていたみたい。

今の指示は、取り消すわ。ごめんなさい。」


素直に自分の非礼を詫びるティファニーへ、初老の執事も安堵の色を浮かべてくれた。


「いえいえ、そのような。

お嬢様が私どもに謝られる必要はございません。

ただ、使用人としては、忠誠心を疑われるようなことがあれば、余程のことでも無い限りは、失望してしまうものなのであると、お若いお嬢様にも、ご理解いただければ。」


「ええ。ありがとう。これからもわらわが道を誤りそうになった時は、今日みたいに正して頂戴ね。爺。」


周囲で二人の会話を聞いていた他の使用人たちも、ティファニーの実直な姿を見て嬉しそうにしている。


「ところでー」


イヴォンヌがティファニーへ視線を向ける。


「うん?」


視線を受け止めるティファニー。


「これからー どうするー?」


そうなのだ。

必要なのは、疑心暗鬼に捕らわれることでは無い。

どうやってアーデルハイドまで辿り着くかだ。


「そうね、どうやら、アーデルハイド様の近くには、私たちの邪魔をしてくれる妹さんという存在があるみたいね。」


どう考えても、そうとしか思えない。

まさか、デートの迎撃を可能とする存在が居るだなんて、予測もつかない。


「そうみたいねー」

「それならば、わらわに良い考えがあるわっ!」


ティファニーは、イヴォンヌの耳元へ口を近づけると、ヒソヒソと計画を告げた。


「っ!?

本当にー そんなことするのー?」


慌てたように、ティファニーの顔をマジマジと見つめるイヴォンヌ。


「それしか無いわっ!

私たちが、アーデルハイド様と直接お会いして、もっと長くお話しすればきっと分かってもらえるハズよっ!!

全ては、アーデルハイド様と結ばれるためっ!!」


フンスっと固く握りこぶしを作りながら、鼻息も荒く立ち上がるティファニーとは対照的に、イヴォンヌは不安そうな顔をしていた。


「私たち二人で協力すれば、きっと不可能は無いわっ!!」

「だと良いのだけどー・・・。」


果たして、ティファニーの考えだした作戦とは、一体どのようなものなのか。





王都伯爵邸では、敷地へ入る前に周囲をグルリと張り巡らせた背の高い柵がある。

柵の出入り口は、東西にあるが、普段使われているのは、西側ゲートだけで、時々必要な時にだけ、東側が使われる。


西側ゲートには、護衛隊詰め所があり、出入りする人々や来客のチェックをしている。

そこへ、水曜日夕方5時半ころに大きな荷物が届けられた。


「お届けでーす。

ポアゾン家とペリゴール家の伯爵令嬢様より連名にて、アーデルハイド様へ、ペルジア産の絨毯の贈り物とのことでーす。」


配達に来た荷馬車業者は、普段から伯爵邸へ届けてくれている信頼のおける業者だ。

長大な包装紙に包まれている絨毯の全容はすぐには確認できないが、先ずは護衛隊長が確認する。


「念のため確認するが、怪しい物は入ってはいないのだな?」

「ヘイ。俺が絨毯を販売している店から直接じゃないんで、分かりかねますけど、学園学生寮の執事さんから頼まれましたんで。」

「学生寮からか・・・。」


ギュスターブは、学生寮からの荷物であれば、下手な真似はするまいと思った。

学園の敷地から、直接この王都伯爵邸まで運ばれた物であるならば、大丈夫だと判断したのだ。


「分かった。こちらで引き取ろう。

イワン。こいつを屋敷へ運んでおけっ!

ご苦労。下がって良いぞ。」


一番ガタイの良いイワンコフに、長さが3mはあろうかという絨毯を運ぶように命じると、荷馬車業者には下がって良いと告げた。





「アーデルハイドお坊ちゃま宛ての荷物を届けに来ましたー。

よっせっと。」


イワンコフが2m近い巨体から、絨毯をボフっと床へ降ろす。

中央は空だが、長大なロール状になっているため、それなりの重量がある。


そこへ、執事長のポールが立ち会う。


「随分大きな品ですな。

中身は?」


荷車業者から聞かされた情報をそのまま伝える。


「ペルジア産絨毯だって聞いてます。」


ポールは自慢のカイゼル髭を撫でつけながら、絨毯へ検分するような鋭い視線を放つ。


「それはまた、上等な品を。

送り主は?」

「ポアゾン家とペリゴール家の伯爵令嬢お二人からだそうです。」


イワンコフは、そのまま先程と同じように、業者からの情報を正確に伝える。


「フム。特に敵対者リストには名前も無いが、交友の深い家でも無い。

すると・・・アーデルハイド様へのご機嫌取りか?」


訝しがるような視線の先には、先程までと変わらず転がったままの絨毯が横たわっている。


「よろしい。執事隊2名と白百合隊4名ばかり立ち会う者たちを。

護衛兵たちにも、8名ばかり寄越すように。」


イワンコフとフォッカーが指示を受け、その場を去る。





イワンコフ以下、護衛隊8名は、訳も分からないまま軽装とはいえ、武装した状態で招集をかけられた。


執事隊2名と白百合隊4名も、同様に槍や刀で武装している。


「ポールさん。全員揃いました。

一体なんだって言うのですか?」


フォックスという若い護衛隊員が、首を傾げながら訪ねると


「では、よろしいかな?」


ポールは気にした風も無く、絨毯を巻いてある包装紙と紐に手をかけた。


「各員、絨毯へ警戒態勢っ!」


その場に集まった半分ほどの者たちは首を傾げながらも、指示に従い武器を絨毯へ向けた。

残りの半分の者たちは、緊張した面持ちで、手にした槍や刀を絨毯へ向け続けている。


「セイっ!」


年齢不詳だが、初老と思われるポールのどこにこんな力があるのだろうと、周囲が驚くほどの怪力で、巻かれた絨毯をクルクルっとトイレットロールでも転がすかのように、エントランスホールの中央へ向けて拡げてしまった。


「!?」


次の瞬間、その場に集まった者たちの目に、信じられない光景が飛び込んできた。


「っわっ!?」

「目がー・・・目が・・・回るーーーっ・・・・」

「っ!? こ、コレは・・・っ!?」


ポールが拡げた絨毯が、二人の美少女へ化けてしまったのだろうかと、一瞬だがその場に居た者たちは勘違いしそうになるほど、突如として拡げた絨毯の端に少女が出現したのだ。


「やはり、潜んでおりましたか。」


眼光の鋭さと威圧感を増した口調で、ポールは少女たちを射貫くかのように睨みつける。

そこへ、武装している護衛隊と執事、メイドたちが刀や槍で取り囲んでいるものだから、二人はすっかり竦み上がってしまった。


「ヒッ!!」

「ゴ、ゴメンナサイーっ!!」


ティファニー嬢とイヴォンヌ嬢であった。


二人とも、室内着ではあるものの、控えめな凹凸をなんとか際立たせるように、身体にピッタリ張り付くような衣装を選び、香水の香りが強くしていた。


「それで? 当屋敷にどのようなご用件で?」


睨みつけながらのポールが怖い。


「す、す、す、す、す、すみませんっ!!」

「ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴメンナサイっ!!」


すっかり震え上がってしまった二人は、ジャンプして床に頭を擦り付けるように見事な五体投身の姿勢で、謝るばかりになってしまった。


「フム。これでは埒があきませんな。

カーミラ。あとは、同性である貴女達に任せます。

若様やお嬢様のお手を煩わせることのないように。

内々に処理しておいてください。」

「畏まりました。」


普段であれば、温厚な好々爺然としてるポールだが、一度ひとたび緊急事態となれば、武人としての本能が最優先されるのか、つい眼光鋭くなってしまい、抑えられない。


ここは、震える少女たちの処遇をメイド頭であるカーミラへ委ねて、侵入者があった事実をアーデルハイドへ伝えに行く。


その間に、カーミラが取り調べをするのだ。


「それで、お二人は一体何の目的で、当家へ侵入しようと思ったのですか?」


「アーデルハイド様にお会いしたくて・・・。」

「そうなんですーーー・・・。」


すっかり項垂れて、半分魂が抜けてしまったようになっているティファニーとイヴォンヌが語る内容は、次のようであった。


1.どうしてもアーデルハイドと直接話しがしたかった。

2.できれば、そのまま一夜を過ごしても構わないと思っていた。

  (おしゃべりとか夜更かししながらお茶をするとか、その後の展開は流れ次第で~)

3.できれば、一晩一緒に過ごすという既成事実で、伯爵家の妻、もしくは側室でも構わないから、婚姻の流れを作りたかった。

4.そうすれば、邪魔する者も居なくなると考えた。


カミーラ始め、その場に居合わせた者たちが二人の話しを聞けば聞くほどに、溜息しか出てこない内容だった。


「よろしいですか? 私はカーミラと言いこの屋敷ではメイド頭を務めさせて頂いております。

ですから、貴女方の家の人間でも、使用人ですらありません。

でも、その私から聞いても、お二人の考えは身勝手であり、幼すぎます。」


改めて他人から指摘されると、二人はビクっとなり、俯いてしまった。


「貴女たちは、恐れ多くも『伯爵家』の『ご令嬢』なのですよ?

貴族ですら無い私が言うのもなんですが、『貴族』とは、己の享楽に耽るための地位や名誉では無いのではございませんか?」


正論だ。


「私ども平民は、逆立ちしたって、貴族にはなれません。

仮に、ご主人様である伯爵様が、ありえませんけど、お戯れで私やメイドに手を掛けたとしても、その上、子を成したとしても、手切れ金やわずかばかりの畑地を与えられて、お役御免となる。

それが私どもですから。」


多くの場合、それが事実だ。


「であるならば、そのようにしてまで守らなければならない『貴族』という尊い地位を、名誉を、このように悪戯に汚すことは、私には理解出来かねます。」


見た目は20代後半にしか見えないけど、口調や佇まいから、年齢はもう少し上であろうかと思うけど、貴族以上に貴族の誇り高さを理解してそうな指摘だ。


「お二人のように、可憐でまだまだこれからの将来もあるお方が、夕刻とは言え、人を騙すような方法で、無理やり坊ちゃまに会いに押し掛ける。

同じようなことを、逆にお二人がされたならばどう感じますか?」


花がしおれるように、更にシュンとなってしまった。


どうしてだろう。

イヴォンヌに計画を打ち明けた時には、あれ程上手く行くと楽観してたのに。

むしろ、高揚感すらあって、驚くアーデルハイドの胸へ向けて、ダイブする妄想まで現実のように感じられたのに・・・。


「・・・ごめんなさい。ご指摘の通りです。

わらわが同じことをされても、ちっとも嬉しくなんか無いです・・・。」

「あたしもー ごめんなさい・・・。」


すっかり沈み込んでしまい、大人しくなった二人へ、カーミラが微笑みかける。


「確かに、使用人の私が言うのもなんですけど、当家のアーデルハイド様は、素敵な殿方です。

もう20年程も磨きを掛ければ、旦那様にも劣らない、大人の色気を備えた殿方に成長することでしょう。


しかし、お近づきになりたいのであれば、突然襲撃するような真似は、土足で人の心に上がり込むようなものです。

手順やマナーを守って、その上で親しくなれば良いのです。」


大人の余裕というやつだろうか。

ゆとりさえ感じさせるカーミラの言葉に、二人の少女は教師でも見つけたかのように目を輝かせた。


「「師匠ーーーーっ!!」」


声を揃えて、カーミラの手を両側からガバっと掴んだ。


「へ?」


間の抜けた声を上げるカーミラ。


「あーあ、姐さん、ヤっちまいましたか・・・。」


護衛隊のオーバンが呆れたように天井を仰ぐ。


メイド長カーミラ。

お淑やかで、淑女然とした彼女には、ある特技がある。

本人は無自覚なのだが、時に少女限定で『憧れの人』として認定されてしまうのだ。


以来、時々アーデルハイド目当てでは無く、カーミラから大人の女性としての嗜みを学ぶために、王都伯爵邸を熱心に訪れる二人の少女の姿が目撃されるようになったという。


ちなみに、侵入という迷惑を掛けた詫び料は、今回に限り、高価なペルジア産絨毯一本で済ませてもらいましたとさ。



ちなみに、絨毯に身体を潜めての出会いは、有名な古事のリスペクトです。


これで、ティファニー&イヴォンヌ二人の伯爵令嬢編は、一区切りとなります。

ティファニーのことをアーデルが忘れているのは、助けたことも含めて、あまり気にしていなかったから。

困ってる一年生に声を掛けただけという、彼にとっては特別でも何でもなかったのです。



未だこれから10月『学園祭編』がしばらく続く予定かな(?)・・・(白目)


お正月も一日一投稿で~


まったりマイペースで書いてみようかと思います。

(`・ω・´)ゞ


※追伸-最初に投稿した時に、抜け落ちてた分を(コッソリ)加筆してあります。


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