36.ソフィーのデートフラグ・クラッシャー! ~ 全デートプラン迎撃 ~
さて、ティファニーとイヴォンヌが、憧れのアーデルハイドとのデートを夢見て下見をした日の別の時間帯に、男女四人を乗せて王都内を移動する馬車があった。
「お兄様。私今日はショッピングにお付き合い頂きたいですわ。」
「そうなのか? どの店が良いんだ?」
「そうですわねー。あのお店にしてみようかしら?」
一代の馬車が、瀟洒な造りをしたプレタポルテの店の前に止まる。
「いらっしゃいませー ソフィー様。
毎度ご贔屓にありがとうザンス!」
出っ歯に両側がピーンと伸ばした髭の店主が、煙の出そうな超高速の揉み手で近づいて来る。
「あら、店主さんもごきげんよう。
今日も見に来たわ。」
慣れた様子で、店内を見回すソフィー。
「ハイハイハイハイっ!
いつでもご覧になってくださいませませでザンスよー!」
ヘコヘコと腰を低く屈めながら、ソフィーの周りをクルクルと回りだす店主。
やけにハイテンション過ぎて、耳が痛くなりそうだ。
コイツ、ちょっとウザイナ。
僕がそう感じていると。
「今日はお兄上様もご一緒なのでございますねーでザンス!
よろしければ、こちらの秋物などいかがでごザンスかー?」
スッキリしたデザインだけど、僕の髪の色に似た薄い水色のストールを勧めて来た。
「んー ちょっと地味かな?」
「そうでごザンスかぁー?
お兄上様の髪の色とお揃いで、ピッタリだと思うんザンスけどねー?」
なおも、スリスリと揉み手でストールを進めて来る店主。
「あら、アーデルお兄様なら、もっと色の濃い方がお似合いでしてよ?
店主さん。青いストールは無いのかしら?」
ソフィーの一言に過剰に反応する店主。
「それならば、こちらにあるザンス!」
ソフィーの言葉が終わらないうちに、彼の手には先程までの薄くて淡い水色よりも、もっと深くて濃い青色をしたストールが掲げられていた。
「お兄様。羽織ってみてくださいな。」
「うん。」
勧められるままに、軽く羽織ってみた。
「まあ。やっぱりお似合いですわ!
お兄様は、綺麗でサラサラとして、それでいてお空のような素敵な髪の色をしているんですもの、そこへ淡い色では、アクセントが弱いかと思いましたけど、同系統の色でも、濃淡で引き立つ場合もありますのもね!」
僕には良く分からないけど、ソフィーが言うのならきっとそうなのだろう。
「とりあえず、このストールと、他にも青色の物があれば見繕ってくださるかしら?」
「畏まりましてございますザンスーっ!!」
店主の言葉遣いが興奮のあまりか、どんどん怪しくなって行くが、品は悪くないみたいだから、まあ良いか。
「あれ? ソフィー、さっきの水色のストールはどうしたんだい?」
「ああ、あれならそちらの棚の隅へ置いておきましたわ。
きっと他に気に入る人がいるかもしれませんもの。
クスっ」
それもそうだよね。
僕やソフィーが買わなければ、他にも買いたい人が居るかもしれないもんね。
「他にも、お兄様のナイトウェアとか、室内着を幾つか見繕って欲しいんだけど。」
「ハーイ、ハイハイハイハイハイ、ザンスっ!」
大喜びな店主が、擦り切れんばかりの揉み手を続けながら、店内の棚から見本やら、製法前の生地を選んでくる。
「これなど如何でございましょう?
セリカの国より取り寄せました絹という生地ザンス!
お色の方は、お好きな色に染めてから仕立て上げるザンスよ!」
幾つかある布の中から、一番上等そうな、滑らかで肌触りの良い布を勧めて来る。
「とても良い肌触りね。良いわ。
これでナイトウェアを二着仕上げて頂戴。
私とお兄様。お揃いにするわ。
色は、赤と青でお願いね。」
ソフィーの注文に、店主は飛び上がらんばかりに喜ぶ。
「毎度ありーーーーーっ!!
ザンスっ!!」
「ハンス。他のと一緒に支払いしといてね。」
僕たちの側近くに控えていたハンスが進み出る。
「畏まりました。」
他にも幾つか、僕用にとソフィーが選んでくれた衣類と、ソフィーが自分用にとオーダーをしてから、昼前に僕たちはその店から移動した。
◇
昼食は、王都で最近話題になっているらしい噴水が近くにあるカフェテラスへ案内された。
ソフィー名義で予約していたらしく、オープンテラス席と店内の席がある。
僕とソフィーは、二人で個室へと案内され、お供をしているハンスとミラの二人は御者のヤンと共に個室近くの席へ座る。
「お兄様。ここのお店は、海老料理が有名みたいですわよ?」
「そっか。それじゃ今日はソフィーのお勧めに任せるよ。」
そこで吟遊詩人が奏でる恋愛歌を聴きながら海老一匹を丸ごと使ったという名物料理を堪能した。
食事が終わると、王立劇場のBOX席にてソフィーが以前から行きたがっていた恋愛物の歌劇を鑑賞し、僕の読みたい本を探しに図書館へ向かった。
「あれ? あそこに見える二人は・・・ 学園の生徒じゃないかな?」
「お兄様。お知り合いですの?」
僕たちが図書館へ到着すると、ちょうど馬車へ乗り込んで出発する寸前の若い女性の姿を見かけた。
「ううん。時々学園で見かけただけだから、親しい訳じゃないから。」
「そうですの。さ、参りましょう!」
ソフィーが僕の腕に抱き着くようにして、グイグイ身体を押し付けて来る。
「分かったから。そうやって身体を押し付けなくっても・・・・。」
◇
それからしばらくの間、僕たちは図書館で過ごした。
図書館では、閲覧は自由にできるけど、効果で貴重な本が沢山あるので貸し出しはしていない。
ちなみに、どうしても欲しければ、本屋で買うか、複写師という専門の技術を持った人を雇い、図書館側の許可の下で、写本を作るという方法もある。
僕が好きな作家の本は、閲覧中なのか見当たらなかったけど、普段はあまり読まない物語りなんかが近く近くの棚にあったから、そちらを読んでみた。
「そっかー、伝説に登場する『巨大な木馬』をわざと敵に贈り付けて、奇襲攻撃を仕掛けるなんて発想が面白いな。」
「なんのお話しですの?」
ソフィーが人目も気にせずに、僕へ顔を近づける。
ちょっとドキっとしてしまうけど、兄妹だから、まあ良いよね。
「うん。古代の戦争の伝説さ。
敵に降伏したと見せかけて、巨大な木馬をプレゼントした話しさ。
すっかり油断した敵が、宴会を始めて、酒に酔ったところで、木馬の中から武装した兵士が現れて、敵を倒して、敗北から勝利を治める物語だよ。」
「騙し打ちですのね。」
「まあ、そうなるよね。
でも、圧倒的不利を覆すには、そのくらいしないと勝てないって教訓でもあると思うよ。」
古代の伝説に胸を躍らせている僕へ、ソフィーは悪戯っぽく微笑みながら
「それなら、私もお兄様の胸の奥へ、巨大な木馬をお贈りしたいものですわ。」
なんて言うものだから、僕は返答に困ってしまう。
こんな時、気の利いたセリフの一つでも思い浮かべば良いのだけど、生憎僕の語彙の中には、そんな言葉は持ち合わせていない。
そんな風に図書館で充実した時間を過ごした僕とソフィーは、日も暮れてきたので、予約済みの店で食事をしてから帰ることにした。
◇
予め予約しておいた夕食を王室御用達のシェフが居るレストランへ馬車で乗り付けると、黑い制服姿のドアマンが扉を開きながら迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。アーデルハイド様。ソフィーお嬢様。」
「いつもありがとう。サム。」
「サム。少ないけど、取っておいて。」
ソフィーがチップを渡すように促すと、後ろからハンスが銀貨をサムへ渡す。
「いつもありがとうございます。
今夜は、レディ・フランチェスカの生演奏がありますよ。」
そうサムがウィンクしながら教えてくれた。
僕たちは礼を告げると、豪華な調度品とシャンデリアの灯りが煌々と照らす屋内へと進んだ。
「これは、お待ちしておりました。
アーデルハイド様。ソフィーお嬢様。」
「今晩は。ダンカンさん。」
「ダンカン支配人。お出迎えありがとうございます。」
50代の中肉中背ながら、蜂蜜色の髪を後ろに撫でつけ、決して目立たないけれども存在感を放つ支配人が迎えてくれた。
彼自身が侯爵家の人間であったけれども、跡継ぎでは無かったため、騎士の称号を得ると独立して、この由緒あるレストランを買収し、王家御用達にまでのし上げてしまったという異色の人物でもある。
通常、王家御用達は、ほとんどが新たに選ばれるよりも以前から付き合いのある伝統と信頼が最優先されるのだが、ダンカンの場合、自身が侯爵家の人間である人脈と信頼を担保に、王宮とのパイプを総動員して遠縁にあたる側室の一人に試食させるまで漕ぎつけてしまったのだ。
結果は、彼の指導と監督の下で作られたコース料理が王族にも認められ、以来、彼の店へは度々シェフを連れて王宮まで来るようにとお声が掛かるようになってしまった。
シェフが王家御用達になったというニュースは、当時の貴族界でも話題になり、連日予約と来客が途切れることの無い人気店となっている。
そんな店に僕たちが出入り出来るのも、父上とダンカンがかつての上官と部下だったという繋がりもあり、多少の融通は利くのだ。
更にダンカンは、レストランでの食事に妥協しないばかりか、連日のように王都や周辺都市で話題になっている音楽家を連れて来ては、生演奏を披露しながらの食事を提供してくれるから、人気は衰えを見せるどころか、益々上昇し続けている。
今夜は名手と名高いレディ・フランチェスカのチェンバロの澄んだ音の生演奏を聴きながら、ゆったりとした気分でフルコースを味わい、昼間に歩き回った場所や出来事、鑑賞した歌劇のことなどで会話が弾み、ソフィーと二人で一日中楽しめたことに満足していた。
こうして僕たちは屋敷への帰路に着いた。
「ウフフ。」
揺れる馬車の中、いつにも増して、ソフィーの機嫌が良さそうだ。
「どうしたんだい?
そんなに嬉しそうにして。」
「フフ。なーんでもありませんわ。」
そう言うと、悪戯っぽく笑って、また僕の腕にしがみ付いて来るソフィーの顔は、本当に幸せそうだった。
そんなソフィーの姿を見れたから、僕も嬉しくなって、幸せな気持ちで明後日からも学園生活を励めそうだ。
◇
屋敷へ戻り、自室で着替えを済ませた僕へ、一言ソフィーが
「アーデルお兄様。今日はデート楽しかったですわねぇー♪
ウフフ。」
「・・・・へ?」
鳩が豆鉄砲喰らったら、こんな間の抜けた表情をするのかと言うくらい、僕は間の抜けた顔をしていたことだろう。
デ、デート!?
え?
ソレって何だっけ・・・?
いや、マジで分かんない(汗)
え?
え?
だって、僕は妹と二人で、仲良く楽しく出かけただけで・・・
デートっていうのは、好意を持つ男女が、二人で楽しく出かける!?
え?
コレってデートになるのかっ!?
うーん。
自力では解決できないソフィーからの爆弾発言に、しばらくの間とはいえ、僕は無限ループのように、自問自答の思考回路に閉じ込められてしまった。
ちくしょう!
これも一種の罠かぁっ!?
ティファニー嬢とイヴォンヌ嬢が実行(動く)する前に、既にソフィーが先手を打って彼女たちのデート希望コースをほぼ迎撃&クラッシュしてしまうと言う・・・。
ちなみに、どうやってデート希望コースを入手したかは、きっと深く考えちゃいけません。
二人が予約したお店の従業員を買収するとか・・・(* ̄  ̄)b シー




