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妹がヤンデレ過ぎて怖い件について  作者: 所天駄
第二章 学園祭編 ―悪役令嬢暗躍―
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32.王都伯爵邸 第二種戦闘配置発令っ!


10月を迎え、学園内も次なる行事『学園祭』へ向けて、ゆっくりとだが気持ちと行動も併せて準備へと向かっていたとある日のことだった。


その日は、穏やかな天候で秋晴れと呼ぶに相応しい良い天気だった。


僕もその日の学業を終えて、屋敷へ戻り、妹のソフィーと共に談話室サロンの一つで、暖炉を前に優雅に手にしたティーカップ片手に軽い茶菓子を口にしていた。


「フゥーっ。平和だなぁ・・・・。」


暖炉の前で、喉を鳴らす愛猫のクレオを撫でながら、ニコニコとご機嫌なソフィーの姿を眺めているだけでも幸せそうだ。


ところが、不心得者という存在はこのような平和な団欒のひと時にさえ、意地悪をするらしい。


unknownアンノウン発見! 総員第二種戦闘配置っ!!

繰り返すっ!

unknownアンノウン発見! 総員第二種戦闘配置っ!!」


アナログ拡声器メガホン片手に、ギュスターブ小隊長の叫び声が穏やかな静寂を突き破った。


途端に、半鐘はんしょうと呼ばれる緊急事態を告げる釣り鐘が甲高く鳴り響く。


「何事だっ!?」


誰何する僕に、側近く控えていた執事長のポールが鋭い眼光を光らながら応じた。


「敷地内への侵入者でございます。

若様とお嬢様は、このままこちらでお待ちください。

状況が分かり次第、次の指示をお出しします。」


「そうか。分かった。」


侵入者など、ここ今年の春先にソフィーが王立学園で僕と一緒に通って以来だな。

あの当時は、連日大変だったっけ・・・。





毎日のように、馬車で伯爵邸の敷地内へ無断で強硬侵入を試みる馬鹿どもやら、単身屋敷内へ侵入しようとする阿保が多すぎて、僕たちは辟易したものだった。


如何せん、相手の身分が高い大物も大勢居たので、『貴族敷地及び邸宅への不法侵入罪』による処分をチラつかせながら交渉しても


「その程度で侯爵家が屈するとでも!?」と逆切れされたり

「我が辺境伯家は、代々続く名門で、その程度では処分などされん!」とか

「貴殿の家柄と、我が伯爵家は同格では無いか? 

であれば、友の家を訪れるのに一々アポイントなど要らぬであろう!」等々。


数え上げればキリが無いほどのへ理屈やら見苦しい言い訳、弁解に辟易したものだ。


中には、僕が未成年であり、歳も17歳と若くて、次期当主とは言え、未だ伯爵の身分では無いことを理由に難癖付けたり、恫喝して来る愚か者も居たっけ・・・。


恋は盲目。


ソフィーの儚げな美しさという眩しい光に、盲目状態となって理性も知性も品性すら忘れ、浅ましく言い寄る魑魅魍魎の類に僕も決然とした態度で臨まなければならなかった。


「分かりました。

では、公爵殿。今回の不祥事への謝罪の意思が見受けられないということは、ペナルティもいとわないということですね。


貴殿の領地へ当領地から輸出している麦の割合を、次の取引から50%減らしましょう。丁度、隣接している辺境伯の領地から、麦の発注を大幅に増加したいと申し出がありましたから、良い機会でしょう。

今後もこのような不埒な行いを続けるなら、我が領地からの麦輸出は停止させていただきます。」


他にも、侯爵領から伯爵領への輸入品目への関税引き上げ措置について説明を始めた途端に、「許してくれ」と見事なジャンピング土下座をして謝って来たのには参った。


ちなみに、貴族家では、愚かな当主は家臣や周囲の手によって失脚もしくは、蟄居ちっきょという強制排除も起こり得る。何せ、百や二百では済まない人間が、一人の愚かな当主の責任で迷惑を被るのだ。

ならば、そうなる前に、迷惑を起こす原因を排除しようとするのは当然の自衛手段だろう。


王政とは言えこの時代の地方領主は、まるで独立した小さな国の領主であり、地方領主一人が持つ軍隊で、他国と戦争出来るだけの規模や財力を持っていた。


故に、侯爵だろうが王族だろうと、交渉が決裂すれば戦争にだって発展する。


王都に屋敷を構えると言うことは、現代でいえば大使館を設置しているようなものだ。

未成年とは言え、王都での僕の立場は伯爵代理となる。

場合によっては、僕の裁量で戦争だって起こり得るのだ。


だからこそ、『年端も行かぬ美少女目当てに不法侵入して戦争になりました』なんて不名誉な理由では、どうやったって領民や兵士たちが納得しないであろうことを見越して、こちらも強気の姿勢が可能となるのだ。


一口で『貴族あおいち』と呼ばれる者たちは、王国内だけでも数千家。


貴族の格があるのもそうだが、当然貧富の差もまた存在する。

僕の家は、領土防衛の最前線に位置していることもあり、領土も領民も兵士の数でも他の領地に比べて多い。つまり、それだけ力があると言うことだ。


それだけに、欲望丸出しでなんとか近づきたい、誼を結びたいと願う者たちの数も多いのだ。


そんな風に、他にも同様の恫喝を含む謝罪請求の数々を個別の侵入者どもに食らわせて、全てを追い払うまでに約一月ひとつきを要したものだ。





そんな春先の出来事を思い出しているアーデルハイドとは別に、肉体労働者へいしたちは、敵味方不明な侵入者のあぶり出しに追われていた。


「猟犬部隊っ! 放てっ!!」


ワンワンッと吠えたてながら、敷地内へ侵入した正体不明の侵入者を追い詰めるべく、シェパードと呼ばれる軍用犬が群れで放たれる。


身動きと速度重視のための軽装の武装した護衛隊の兵士たち24名が屋敷周辺に展開する。


屋敷の内部は、白百合隊と称する武装メイド20名、精鋭執事隊8名が守備している。

本来メイドは非戦闘員なハズなのだが、何故か王都伯爵邸ではそうなっている。


他にも、非戦闘員ではあるものの、戦闘経験のある従者20名を加えれば、過剰戦力と呼べるだけの防御部隊が伯爵邸には常駐している計算となる。





その後、徹底した包囲網と執拗な捜索活動の結果、侵入者はアッサリと捕まった。

猟犬部隊に追い詰められて、敷地内に植えてある木にしがみ付きながら、尻に齧りつかれている所を確保された。


どこの馬の骨とも知れぬ非公式な侵入者風情を、いきなり屋敷に入れる訳にも行かず、現在は護衛隊の詰め所の普段は食堂や作戦会議などで使う広間で、ゴツイ兵士たちに取り囲まれて取り調べを受けていた。


「うぅう・・・ すみません・・・・。」


見れば、ソフィーと同じくらいの顔にソバカスのある顔立ちの整った少年だった。

左の目元下には、泣き黒子が可愛らしく少年の気弱さを際立たせている。

亜麻色の肩まで伸ばした髪をおかっぱ風に切り揃え、内側にカールしている姿は、年齢的な幼さもあるせいか下手をすれば少女にさえ見える。


特に怪しい所持品も無く、着ている服も簡素で身動きをしやすいような物だが、見る者が見れば値打ち物だと分かる仕立ての良い衣服だった。


「職務上確認しなければならないが、貴官の所属、及び姓名は何という?」


オーバンという名の細身だが知性を感じさせる兵士の一人が誰何した。


「ボ、ボクは、ベゼル、シュラーケン家のベゼルと言いますっ!

シュ、シュラーケン家は、代々続いている騎士階級で、王都近郊に領地もそれなりにありますっ!!

け、決して怪しい者ではありませんっ!!」


この時代、先祖代々から続く家柄ほど長ったらしい正式な名前を持っている。

だが、そんな口上を長々と述べるのは、結婚式などの式典だけで、普段は略称を用いることが多い。


少年が告げたシュラーケン家も、確かに貴族廠きぞくしょうが発行して、毎年更新される『貴族年鑑』の騎士階級に掲載されている名門騎士の一つだった。


「それで? そのシュラーケン家のご子息が、何故このような時刻に事前の前触れも無く、しかも、無断で、王都伯爵家所有の別宅へ侵入しようとしたのですかな?


未だ日も沈む前ですし、告げようと思えば、先に使いくらい送れたはずでしょう?」


執事長であるポールの指示で派遣されていたマシュー副執事長が鋭い眼光を放ちながら尋ねる。


「あ・・・あの・・・ 先日、学園で行事がありましたよね?

queenクイーン ofオブ nightナイト』です・・・。」


その一言を聞いた一同の頭の中には、共通した不安が生まれていた。

またしても、春先の再来か、と。


「それで?」


あくまでも冷ややかにマシューは先を促す。

なおも変わらぬ鋭い眼光に、ベゼル少年はべそをかくように侵入の言い訳を続けた。


「そ、それでですね・・・。

あの、そのぉ・・・・。」


モジモジと恥ずかしそうに、照れながら身を捩る少年。


一同は『やはりか』と自分たちの胸中をよぎった不安の正体が正しかったことを確信する。


「それで・・・。

このお屋敷に住んでいるというアーデルハイド様の妹君であらせられる・・・。

ソ、ソフィー様のお姿を一目、一目で良いから、もう一度目にしたくってっ!!」


少年以外の全員が、一人の例外も無く天井を見上げた。


― 嗚呼。少年よ。

君が幻想を抱いて、恋焦がれている深窓の令嬢なんて、この世のどこにも存在していないのだよ。 ― 


この場に集まった全員の胸の内の思いが、ついに見事にシンクロした瞬間だった。


副執事長のマシューと護衛隊の取り調べの結果、確かに捕まった少年は、シュラーケン騎士家の嫡男で、ベゼルという名も本当らしかった。


身元が確認されるまでの間は、士官用の個室営倉で拘留していたが、王都から早馬で一時間ほどの距離のあるシュラーケン家へ報せを送り、折り返し執事が早馬で駆けつけたお陰もあって、保釈されることになった。


「私は、シュラーケン騎士家に仕える執事長フリードと申します。

この度は、我がシュラーケン騎士家の嫡男、ベゼル様が伯爵家へご無礼を働きましたことを謝罪いたします。」


40代半ばほどのオールバックが良く似合う黒髪丸眼鏡の執事が恭しく頭を垂れる。


「本来であれば、厳重抗議の上、シュラーケン騎士家には、国王陛下を通じて訓告処分を下すところでしたが、何分未だお若く、当家のお嬢様へ横恋慕されたご様子。

若気の至りと言うことで、今回に限り不問と致します。

しかし、次はありませぬ故、そちらでも厳重に取り締まって頂きたい。」


相手方の執事と年齢的にも近い副執事長のマシューが、鋭い眼光で威圧しながら申し渡す。

対するフリードは、憶する様子も見せずに、淡々と謝罪の言葉と共に詫びの品を渡して来た。


「こちらは、ベゼル様がお騒がせしましたお詫びでございます。

何分、そちら様の伯爵家と比肩する程の家格もございませぬ一介の騎士家故、僅かばかりではございますが、迷惑料としてお納めいただければと願います。」


金貨二十枚と双白百合印クロスリリーの入った健康食品詰合せだった。


物価も若干高めな王都はともかく、地方であれば金貨二十枚もあれば、四人家族が約一か月それなりに生活できるくらいの価値なので、今回は実害も無く、迷惑料としての性質のものなので、詫びとしては十分であろう。


ちなみに、逆に伯爵家が騎士家に同様の迷惑をかけた場合には、四倍が相場となる。

迷惑の度合いにもよるが、家の格と金貨の枚数にも、失礼にならない程度の相場があるのだ。


詫びの言葉と品物が手渡され、正式な手順が踏まれたので、ベゼル少年は釈放となった。


「せ・・・せめて・・・せめて一目だけでもぉぉぉぉぉぉぉぉっーーーーーっ!!」


ドップラー音を残しながら、執事のフリードが用意した馬車へ投げ入れられると騒動の原因ベゼル少年は去って行った。


「フウ。これにて一件落着ですな。」


「そう願いたいですね。」


取り調べから釈放までを付き合わされたマシューとオーバンが顔を見合わせて笑いあった。


内心では、二人とも屋敷への侵入が果たされなくって心底ホッとしていた。


― お嬢様がふざけて仕掛けた数々の罠が発動した後だったら。

そう思うと、少年が敷地内で保護されたことは行幸ですらあったのだから。 ―


こうして、王都伯爵邸での侵入者騒動は幕を閉じた。



ちなみに


伯爵領護衛隊での戦闘態勢設定としては~


第一種戦闘配置 = 戦争状態(敵対勢力判明=攻撃)

第二種戦闘配置 = 臨戦態勢(敵対勢力不明・索敵)

第三種戦闘配置 = 警戒態勢(武装待機=通常)


第四種はありません。

つまり、普段からある程度の警戒態勢は出来ていて、

いつでも即戦闘へ突入できるように備えているのですね。


警戒態勢とは、別物なので、第一種警戒態勢となると発見=攻撃になるかと。


国境沿いに敵対勢力がある精鋭兵ならではということで~

※他の領主は、それぞれ警戒態勢や段階が異なるかと。


金貨の価値は、大雑把ですけど

白金貨(約10万円)

金貨 (約1万円)

銀貨 (約千円)

銅貨 (約100円)


都市部ではともかく、物価の安い地方では20万円もあれば、夫婦と子供二人での生活だけなら可能。

小銭や五千円単位が無いのは、もし値段に見合わない場合には、単価の安い品をオマケに付けて買い物させるから。~貨幣経済と物々交換が入り混ざった感じ。


例:魚一匹が仮に銀貨一枚では高いなら、銅貨を釣り銭で渡せるけど、10円や50円みたいな少額だと、釣り銭代わりに屑布や木屑を渡す(商品価値無いけど、雑巾や当て布、焚き付けに使える物等)


逆に、金持ちや裕福な貴族は、釣り銭分を受け取らずに、チップ代わりに上げてしまうのが伊達。

「キミ、釣りはいらないよ。取っておきたまえ。」←こんな感じ

ケチ程少額。当然気前よく支払う貴族程人気者。



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