22.舞踏会の華 ~エリカ嬢の場合~
『queen of night』は、王立学園で行われる行事の中でも、華やかさが目立つものの一つだ。
この時代、男尊女卑の傾向が強いものの、やはり隠然たる影響力や権力を持っているのもまた女性である。
そんな王国の中でも、貴族の女性に生まれた者に自由恋愛や勝手気ままな結婚など許されない。
貴族の家に生まれた瞬間から『青い血』の一員として、交友関係から婚約、結婚に至るまで、全てが『家と領土を護るため』に行われる。
そんな彼らに一服の清涼剤、気晴らしにもなるのが学園生活で一年に数度行われる舞踏会だった。
一度目がこの『queen of night』と題した訓練したダンスの披露会。
二度目が学園祭最終日に行われる舞踏会。
三番目が、『プロム』と呼ばれる卒業式での舞踏会だ。
高等部に所属し、心密かに憧れていた相手と、手を重ねて踊り合う。
そんな夢のようなひと時が公然と許されるのだ。
学園の広々としたエントランス・ホール前の石畳には、ひっきりなしに馬車が止まっては、貴人たちを恭しく降ろして行く。
いずれも劣らぬ装いをした淑女然とした少女たちと、それをエスコートするタキシード姿の少年たち。
普段の学生服姿では決して目に出来ない姿の数々がエントランス・ホールへと吸い込まれて行く。
エントランス・ホールには、学園所属の従者たちが待ち受けていて、舞踏会会場である大広間へと学生たちを誘導していく。
ランプやシャンデリアの輝きで通路も明るく輝き、昼間とは違う装いをしてる。
美しく着飾った高等部の生徒らと、学園の教授陣がウエイターやメイド姿の者たちから冷えた飲み物の満たされたグラスを受け取り喉を潤す。
舞踏会が始まる前なので、控室で休んでいる者たちも多いが、特定の相手が決まっていない者たちは、少し早めに来て会場で見つける方法もある。
そんな学生たちの中で、一際存在感を放つ者が居た。
鍛え上げた上腕筋と逆三角形体系をタキシードに包んだ姿は、紳士というよりも戦士と形容した方が相応しいかもしれない若者だった。
そこへ、一人の美しい女性が声を掛けた。
「あら、アドルフ。
意外ね、あなたがパートナーを連れていないなんて?」
深い紫色をした長く美しい髪を後ろに纏めて上に上げ、一部を垂らしながら額を広く見せることで美貌を引き立たせている。
髪と瞳の色に合わせたかのような、紫を基調として胸元をザックリと開き、豊かなボリュームを目立たせながら上品さを保ち、刺繍の付いた片方だけで止めるドレスを着たエリカがそこに居た。
「お前こそ、婚約者殿はどうしたんだ?
見たところ一人のようだが?」
少し意地悪な質問かもしれないが、エリカ程の家柄であれば、この場に婚約者が居ない方が珍しいのだ。
「私の婚約者は勿論、アーデルハイド一人だけよ。
でも、彼ったら恥ずかしがりやなのよ。
きっと後から来るわ。」
勝気なエリカらしく、パートナー不在も気にした風も無く言ってのける。
しかし、知らないなら一つ告げておこう。
「そうか?
あいつなら妹連れて控室で休んでるぞ?」
先程、少し早めに来てエントランス・ホールから入る学生たちをチェックしていたのだ。
「・・・やられたか。」
少し俯いて、爪を噛むエリカの姿は悔しそうにも見えるが、相手は妹だろ?
「うん?」
アドルフは少し戸惑ったように頷いて見せたが、次の瞬間の申し出は想定外だった。
「仕方が無いわ。
今夜限りのパートナーとして私の隣に居ることを許すわ。」
「お前なぁ・・・。
フゥ。仕方ない。
俺もどうせパートナーを見繕ってたところだ、利害一致ってことで。」
瓢箪から駒が出てしまった。
少しだけ、ほんの一瞬だけ戸惑ったもののアドルフは互いの利害関係を思い出しながら、一時共闘姿勢の申し出を受け入れてくれたエリカへ手を差し伸べた。
「そう、お互いの利害一致よ。」
「なら、お手をどうぞ。
お姫様。」
そう言うと、アドルフは片膝を着いて伸ばして来たエリカの手を恭しく取って見せた。
「そう言やあ、クララは?」
「ああ、あの子なら『このようなイベントは苦手ですわ。』の一言でバックレたわよ?」
「・・・あいつめぇ・・・去年はアーデルハイド独り占めしようとして、お前と二人で張り合ってたくせに・・・。
まぁ、今回は仕方ないか。」
そんなこんなで、思惑も色々、下心も色々ありながら、舞踏発表会(queen of night)は幕を開けようとしていた。
今まで空気だった二人にもスポットを。
ショート・ストーリーで本日三投稿目
明日からは、また一日一話かな?




