20.「土って何でできているの?」ソフィーの素朴な疑問
「アーデルお兄様ぁー♪」
「うん?」
不意にソフィーが夕食を終え、暖炉のある談話室で読書をしてる僕の後ろから覆いかぶさるようにして抱き着いて来た。
なんかほんのり柔らかい感触がプニっと頭に押し付けられているようだけど、きっと気のせいだ。
気にしちゃ駄目だ。気にしちゃ駄目だっ!
「明日は何の日か、私知っておりますわ。」
「え? 明日?
・・・あー、明日は学園行事の『queen of night』があるな。」
「そうですわぁ!」
「それで?
学園行事はお前には関係無いだろう?」
「あら、お兄様。知りませんの?」
「何を?」
「私、成績優秀者なものですから、特別課外特待生として在籍はしておりますのよ?」
「へ?」
いつの間にそんな制度出来てたんだ・・・・。
というか、ソフィーの口から出まかせの可能性も・・・。
いやいや、頭から妹を疑うようなことはしちゃイカンだろう?
それにしても、そのような制度なんて入学前の説明でも聞いたことが無いぞ・・・?
え、というか、妹は学園に学籍を持っているということか?
だとすれば、確かに学校行事への参加は認められる。
だがしかし・・・。
「アーデルお・に・い・さ・まー?」
「分かった。分かったからソフィー。
その手にあるマインゴーシュは仕舞ってくれ、な?」
思考の海に耽ってしまいそうになった僕へ向けて、ソフィーの右手には装飾の施されたマインゴーシュと呼ばれる両刃の直刀が握られ、僕へ向けられていた。
僕が考え事してる間に殺意向けるのは辞めて欲しいんだけど・・・。
「え?
それじゃあ、ソフィーも参加するつもりなのか!?」
「あら、私授業を受けることは難しいですけど。
というか、つまらないから受けたくありませんけど。
最初から受けるつもりもありませんけど。
行事は別ですわ。」
「ヲイっ!」
謝れ。
すべての教育に携わる者と熱意を持って教鞭を取ってくださる全教授に謝るべきだろう台詞をサラっと吐くなよ。
「いくらなんでも、それは言い過ぎだろう?」
「あら、お兄様。
そうは仰いますけど、私の質問にすら応えられない先生方なんて、教わる意味がございまして?」
言われてみれば確かにそうだ。
だがしかし、学園の教授陣は皆高水準な人材ばかりで、王国はもとより、周辺諸国でも高く評価される者たちばかりだ。
そのような人材に、たかが15歳程度の小娘が質問をして、応えられないということがあろうか?
「お前、以前も家庭教師の先生を退職させたって言っていたけど、一体どんな質問をしたんだ?」
「あら、簡単な質問でしてよ?
きっと、お兄様でもお答えになれるんじゃないかしら?」
聞けば聞くほど、疑惑が増す言い方だな。
僕でも解ける質問に、学園で名声を得ていた元学部長の教授が、応えられないなんておかしいじゃないか?
「言ってみろ・・・。」
「では。
お兄様。」
妹は、少し真面目な顔をするかと思ったら、むしろご機嫌そうにニコニコしながら一言を放った。
「土は何で出来ていますの?」
「ハイ?」
土?
土ってアノ土だよな?
他にどの土があるのかって話しだけど。
「土って、地面にある土だよな?」
「そうですわ。」
ソフィーは普通にニコニコしながら首肯する。
「土は・・・。そりゃ塵とか、葉っぱが分解されたり、砂や小石が混ざっていたり・・・。
そんな感じで出来ているに決まっているだろ?」
他に何と答えれば良いと言うのだろうか?
「それでは、その小石とか塵と呼ばれる物は、一体何で出来ていますの?」
「え?」
そんなこと、考えてみたことすら無かった。
応えに詰まってしまう。
「お兄様が仰る通り、土とは、小石や塵、砂などで出来ていますわよね?
では、その塵や小石、塵などの最小と思われる物は、一体何で出来ていますのかしらね?
ある学者さんは、『地・水・火・風・金などの五大元素』によって構成されている。
なんて仰るけど、私には、最初の地すら解明されていないように私には思えますわ。
ましてや、掴むことも出来ない水や火をどうやって元素だと言うのかしら?
風なんて目にすら見えないし、金については、高額で少量しか出回っていないのに、どうして元素なんて言ってしまえるのか、私、不思議ですの。」
そんな疑問の応えを、この時代で出せる人間が存在しているのだろうか?
むしろ、僕はそちらの方を疑問に思ってしまった。
錬金術の基本と言われている元素の存在なんて、普通の人なら「そうか」と思ってしまうものを更に疑問を感じるなんて。
「えーと、ソフィーさんや?」
「なにかしら? お兄様?」
尚もニコニコと穏やかな表情で、むしろ柔らかくとさえ言えるほどに満足げに、僕の困り顔を見つめる妹の視線が痛い。
「そんな難問の答えなんて、一体誰が出せるというんだ?」
「あら? 疑問に感じるからこそ、追及したくなるんですわ。
だからこそ、私は全ての先生方にこの質問をして、それぞれの所感をお聞きして、更なる疑問の追及をしているのですわ。」
規格外。
僕の頭に浮かんだのは、そんな単語だった。
15歳にして、この世の理を探ろうとし、お茶請けで商売を軌道に載せ、時々キレては僕に襲い掛かってくる妹。
それが、ソフィーという美しくも可愛らしい少女だ。
「それより、お兄様。
明日お召しになるタキシードは、一度お袖を通してみた方がよろしいのではありませんこと?」
「ああ、そうだな。」
参ったと両手を挙げて、僕はソフィーの疑問に答えられないことを認めた。
成程、これでは各界で活躍している著名な学園の教授陣でも妹に学問を教えることは困難かもしれない。
とりあえず、今夜はこれ以上深く考えるのは止めて、タキシードの確認だけにして寝よう。
うん。きっと深く考えちゃいけないんだ。
ちなみに、アーデルハイドへ渡そうとされたお誘いの手紙の類は全て親衛隊員たちの手で廃棄済みなので、知らぬは本人ばかり也。
子どもの頃の素朴な疑問ですよね。




