2.王立学園 ~ 『青い血=特権階級』子弟のみ ~
僕が通っている王立学園は、所謂王族や貴族の子弟向けに作られた学校で、幼年部を除く小学部から高等部までの12年間通うことが出来る。
大学は、それぞれの適性や希望などに合わせて、自由に選択することも出来るが、海外へ留学したり、研究機関などが充実している大学院のある所へ進学したがる者も多かった。
僕は未だ高等部二年なので、進路のことを決めるにはもう少しだけゆとりがあるし、どのような進路を選んでも、最終的には父上の跡を継いで伯爵領の領地経営に落ち着くことが決まっているので、しばらくは修行も兼ねて、好きな道を選んでも構わないと言われている。
どんな経験であれ、社会へ出て働くこと自体が、将来の領地経営に役立つと父上も伯爵家の者たちも信じているからだ。
時々父上からは「挫折したって構わないんだ。若いうちなら、何度でもやり直しがきくんだからな。私のようにある程度年齢を重ねてしまうと、一度の失敗の責任が重くて、周囲も、自分自身でさえ許しがたくなってしまうものだ。」と言われたことがある。
自分一人のことであれば、どんな失敗をしたって、所詮は自分一人で済む。
だが、家族を養ったり、ましてや僕みたいに伯爵家の一族、使用人、領土の民の暮らしを護らなければならない立場になれば、簡単に失敗することは許されない。
だからこそ、父上は身軽なうちに、領地を継ぐ前に、失敗を経験しておけと助言をくださるのだと思う。
そんな領主の顔を見せる時の父上は、本当に恰好良く見え、普段の娘に激甘な姿が嘘みたいに思える。
そんなところはやはり、僕が尊敬する父上だ。
僕も、いつかは父上のような立派な大人になって、伯爵家を継ぎ、領地経営に腕を振るいたいものだ。
◇
『王立学園』
それは、王侯貴族の子弟が通うことを念頭に作られた、王都でも数ある学校の中でも、一番贅を凝らして作られた伝統校である。
敷地面積は王宮の次に広いと言われ、王都の城壁に隣接して作られた外壁と呼ばれる場所に、わざわざ城門まで新設して、内壁と呼ばれる従来の城壁内からも行き来できるように造られた。
無論、新しく造られた城壁から外へ直接出ることもできる。
敷地面積、およそ180ヘクタール。平方キロ換算すれば180万平方キロとなる。
現代風に言い換えれば、野球場一つを約一ヘクタールとするなら、約180個分の広さとなるだろう。
森やボートが浮かべられる池、教職陣とその家族が暮らす戸建て住宅や職員寮がある。
また、基本的には完全個室で、棟によっては従者部屋付きの学生寮。
学舎は昔の城塞を改築したもので、大きな城のようになっており、地上5階、地下二階の総七階建ての城に尖塔が幾つか付いている。
王立で王侯貴族が通う学校とはいえ、ある程度の自主独立性や自治権も与えられているため、単なる学校というよりも、一つの小さな領土のようになっている。
そのため、ここの学長になれるということ自体が大変名誉な地位でもあるため、伝統的に内部では派閥争いさえ起きていると言われる。
職員は、教師陣も合わせて1500名ほど。
その家族や従者などは合わせると5千名ほどがいる。
在校生徒数約8千人近くとその従者も合わせて、学園だけで総勢三万人を超える人々が暮らすことになる。
その内訳として
初等部 6年制 約4000人。
中等部 3年制 約2400人。
高等部 3年制 約1200人。
彼らが計12年間ここで学ぶことが可能で、卒業後は様々な分野へ就職、進学することも可能だ。
ちなみに、経済力などにより、卒業と同時に領地へ帰る者、転校生も一定数いるため、学年が進むごとに人数は自然と変動する。
総学生数は、王国数千家と言われる貴族の子弟や王族から送られてくる子供たちだけで、8千名近く。
それに従者や護衛など身の周りを世話する者たちが付いて来るので、大まかに2万人程が加わる。
単純計算で一人頭3人の従者が居る計算となるが、そこは貴族の家柄や資産によって当然異なる。
貧しい貴族であれば、従者無し、学生のみとなり、逆に大貴族などで資産があるなら、5~6人を従えても構わない。
そこは、学生の身分という間は、ある程度は制限されるが、アーデルハイドのように隣接する王都内に邸宅がある大変恵まれた者たちは、無理して学生寮に入らずともそこから通っても構わないのだ。
教授陣も充実させており、各界で名を挙げた者や成功者と呼ばれる者たち、研究や論文、実験等で優れた成果を挙げた者たちが、金に糸目を付けずに研究費や実験室付きで集められるのだから、平民が通う学校の貧乏校舎が哀れに思えてしまう程である。
無論、富裕層と呼ばれる大富豪や大商人の家からの入学希望者も居るが、身分の違いから丁重にお断りされる。
金でも婿入りでも、養子でも何でも良いからと、なりふり構わず貴族の身分を手に入れられれば、通うことも可能となるが、そのような新興勢力の貴族は、陰で成金趣味と冷やかされ、なかなか旧勢力の貴族たちの交わりに入れてもらえなかったりするので、途中で挫折して、やはり庶民の富裕層向けの学校へ転校してしまう者も多い。
それほど、『青い血』と呼ばれる貴族たちの結束は固く、王家をはじめとする貴族社会へ新たな庶民の血を入れるなど考えようともしないのだ。
しかし、そんな結束でさえ、基本的には自分の領土や家を護ることが最優先であり、今の王国に留まっているのも、忠誠心や義理人情などという金にもならないもののためではない。
東西南北や得意分野など、あらゆる分野で派閥が出来ており、徹底して利害関係が一致しているからだというのだから、貴族社会は恐ろしい。
では何故、王立学園に莫大な税金が投入されているのかと問われれば、王族が貴族たちに気を使って、自分たちの国に留まれば、子弟たちに恵まれた勉学の環境を提供できるという『飴』でもあるのだ。
その上、王立学園で貴族の子弟と王族同士が親しくなれれば、将来自分の派閥になんらかの形で味方を増やすことも出来るかもしれない。
◇
そんな王立学園の朝は、それほど早くは無い。
もともと、貴族の子弟向けに作られた学校であり、庶民と違って朝食も優雅に取る者たちも多いので、9時から授業開始となる。
生徒たちも、敷地内にある寮から通う者も居れば、アーデルハイドのように、王都にある別宅から通う者たちも居る。
そんな中で、朝から元気に挨拶を交わす男女の姿があった。
「おはよう。クララ」
「おはよう。エリカ」
「二人とも元気そうだな、おはよう!」
「あら、おはようアドルフ。」
「おはよう。アドルフさん」
タータンチェックを基調としたブレザーの学園服に身を包んだ三人とも、美男美女で、どこからも見ても淑女、貴公子然としており、いずれ名の恥じぬ貴族の出であろうことは一目瞭然といった整えられた容姿をしていた。
瞳と同じ青色の髪を腰まで伸ばして後ろに束ね、夢見る少女といった163cmほどのクララは、学園内でも人気者で、アーデルハイドと恋仲ではなかろうかと噂されている美少女の一人だ。
深い紫色の長髪にゆるいウェーブがかかったエリカは、目元が涼し気な正統派美少女といった感じで、175cmのスラリとした長身姿は凛々しくも見えるらようで、同性の隠れファンも多いらしい。
アドルフと呼ばれた180cm程の濃い金髪を短く切り揃えてある青年は、着痩せするタイプらしく、既に完成された騎士の彫刻像のような鍛えられた肉体美を制服に包み、常に自信に満ちた覇気を感じさせる美丈夫であった。
この三人が、現在王立学園高等部二年生の中では、常に成績上位を争う関係でありながら、仲良くしている姿は、周囲の者たちを寄せ付け難いものとしていたが、本人たちはちっとも気にしてはいないようだ。
教室の中を見回したアドルフが、その友の姿が見えないことを不審そうに二人に尋ねた。
「ところで、今日はアーデルハイドはどうしたんだ?」
「さぁ? いつもならこの時間には着いているはずなのに・・・?」
「ご病気かしら?」
エリカとクララが少し心配そうな声を交わしていたちょうど同じころに、話題のアーデルハイドが、まさか妹にいいように足止めをくらっていたなどと、誰が想像できたであろうか。
◇
「まったく! ソフィーのせいで遅刻させられるなんて!!
いい迷惑だっ!!
なんだって僕ばかりが・・・。
ハァ」
アーデルハイドが教室へたどり着いた時には、既に二限目の途中であった。
授業中に教室に入る気まずさと言ったら・・・。
冷たい視線を向けてくる教授に、すみませんとペコペコと頭を下げて、クスクス笑う同級生たちから逃げるように座席に着いたが、内心は穏やかではいられなかった。
◇
それからようやく昼食時間となり、学生食堂で食べようか、軽食でも買ってサロンへ行こうか、それとも、一旦家へ・・・ は、再びソフィーに足止めされたら恐ろしいし、片道一時間は掛かるので、止めておこう。
そんな風に頭を悩ませていると、いつものように声を掛けてくる友がいた。
「アーデルハイド、どうしたんだ?
珍しいじゃないか、お前が遅刻して来るなんて。」
「ああ、ソフィーのヤツだよ・・・。」
すると、顔色を変えて心配そうに僕の顔を見下ろして来た。
全く、高身長な人間は、自分よりも背が低い者と会話するときくらいは、目線の高さを合わせて欲しいものだ。
「妹さんが?
どうかしたんだっ?
まさか、病気じゃないよな!?」
「待て待て、落ち着け、ソフィーは元気だ。
むしろ元気を持て余し過ぎて困っている。
おかげで、今朝は足止めされてしまって・・・。」
心から困ったものだと実感を込めて言う僕に、とんでも無い答えが返って来た。
「贅沢な悩みを持つ友よ。
お前、一度死んでみるか?
あれ程可愛くて魅力的な女性が妹だなんて・・・。
よし、今すぐお前の家に俺が住むことにしよう!
お前、今日から俺の部屋に住んで良いぞ!」
ヲイヲイ。
友よ。前もかっ。
ていうか、お前、学生寮で一人暮らしだったよな?
従者無しで僕に生活しろと?
いくらなんでも、そこまで図々しい奴だとは思わなかったぞ。
「マテコラ!
どこからそんなブっ飛んだ発想が出てくるんだよ!!
お前の学生寮の部屋に僕が引っ越して、お前がソフィー目当てに別宅へ来るだと!?
駄目だ駄目だ!!」
妹を涎を垂らした狼の前に放り投げるようなものだ。
誰がこんな女ったらしに、大切な可愛い妹を渡すものかっ!!
「そんな連れないことを言うものでは無い。
住めば都とも言うぞ。友よ。」
そう言いながら、僕に向かって近づいて来るのはなんなんだ?
その眼はなんだ、その手はっ!!
「僕に向かって流し目を使うなっ!!
うなじをなぞるな!!
それでもって、顎にクイっと手を当てるなぁぁぁぁっ!!
周りの女子が変な期待を込めて僕たちに注目してるじゃないかぁぁぁぁっ!!」
マジで勘弁して欲しい。
こんな真似されるから「見た目も中身も本当は女子なんでしょ?」なんて言われえるんだ。
ちくしょうめっ!
「おいおい、俺はいつだって、お前と言う友を男娼として迎えることだって考えるんだぜ?」
マテゴラ!
まるでプロポーズみたいな臭い台詞キメてんじゃねぇぇぇぇぇっ!!
「キャァァァァァアァァーっ!!」
この瞬間。教室中に黄色い歓声が爆発的に巻き起こった。
何事が起きたのかと、教室の近くに居た生徒たちや先生たちまでが集まってしまったのは計算外だったが。
無論、アドルフがアーデルハイドに懸想してるなんて事実は全くなくて、周囲の女子の視線と女性にも見える中性的な友をからかうための演技だが、周囲はそのように見てはくれない。
はしゃいでヒソヒソと、興奮冷めやらぬように噂し合う者たち。
鼻血が止まらないのか、血の池を量産して、慌てた友達からハンカチを詰め込まれる者たち、「やっぱりあの二人は・・・」なんて、拡散しようと教室を飛び出していく謎の集団など。
アドルフの茶目っ気のせいで、今日もネタにされてしまった。
僕の青春を返せっ!!
続く・・・かな?
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