17.プレタポルテとオートクチュール(ウエスト・サイズ・ストーリー)
気にしてる方・・・ごめんなさい<(_ _)>
針仕事。それは、根気と根性と弛まぬ努力と技の結晶である。~ある工房職人の言葉~
◇
学園女子の一部集団にとってウエスト・サイズの話題が禁句となってしまった事件について。
この事件の背後には双白百合印の新製品ばかり売り出している店の影響力が絶大にあったという。
アーデルハイド親衛隊員のみならず、王都や周辺都市、貴族領に至るまで、高カロリー高タンパク質の急激な過剰摂取により、ドレスや服を仕立て直す必要に迫られているのだ。
これは実は由々しき問題であり、非情に情け容赦の無い取捨選択を迫られる大問題へと発展している。
何故か?
即ち、食材などの調理は、材料と道具さえあれば、比較的少ない人数で賄える。
これは、小さな食堂で食事をすれば分かると思うが、厨房で調理を行う者は一人か二人。
それに完成した料理を運ぶ者さえ居れば、調理と提供併せて3~4人でも人手があれば、一度に数十人を相手に料理を提供出来てしまうのだ。
一方、裁縫などの針仕事はそうはいかない。
元々、貴族の衣服は本人の体系に合わせてのオーダーメードが主流であり、そこに裾直しや襟直し、破れた箇所への当て布やボタン付けなどのメンテナンスは想定していても、急激に肥大化したウエストサイズの拡張などというデザイン変更さえ伴う要求に、針子が何人居ても間に合わないのだ。
悲鳴を上げる工房が幾つも増え、農家や周辺の集落から急遽針さえ扱えれば、多少の腕は伴わなくとも構わないからと人手をかき集めても、まるで土石流の如くに増える一方の注文に、とうとう服屋が根を上げたのだ。
「もうこれ以上サイズ直しは無理でさぁっ!!
他を当たってくだせぇっ!!」
常ならば、貴族相手に上品ぶって、口元にピーンと細長く伸ばした髭を撫で撫で、気障ったらしく横文字ばかりを並べ立ててはお世辞やおべっかを巧み操り、少しでも値の高い品を選ばせようとする細身でザンス言葉を使ってインテリを気取った有名デザイナーが裸足で土下座しながら泣き言を言いながら断って来たのだ。
「まあ、なんということザマしょ!」
「あーたくしなんて、これで四軒目でござーいますわぁー!」
「んっまっ、わーたくしは五軒目ザーマスわぁ!」
「困ったことになりましたわねぇ・・・。」
「「「「ハァ・・・。」」」」
四人のデップリとウエスト周りも含めて全体的にフクヨかになり過ぎた有閑マダムたちは、それぞれにお付きの執事や従者を従えながら、王都の有名どころの店々を回っては断られるを繰り返していたのだった。
「それよりも、わたくし、心配ですの・・・。」
この中では比較的線の細いと言えるマダムが呟いた。
「なぁーんザァましょ?」
かつては美しさと知性を兼ね備えたであろう丸眼鏡ザーマスマダムは、今や小太りを通り越して肥満としか形容しようが無い幅広な身体を翻して聞いて来た。
「その・・・ そろそろ、アレ、の時期でございましょう?」
小太りと表現する範囲で肥満化を留めた先程のマダムは、若干蒼い顔をしながら季節ごとに行われるであろう学園行事を間接的な表現で表すと、次々とマダムたちも首肯し始めた。
「んっまっ! アレですわねっ!?」
「アレですわねぇ・・・。」
「そうですわねー・・・。」
幅広丸眼鏡ザーマスマダムと横広マダム、豊満マダムの三人が思い当たった行事に、次々と顔の表情を曇らす。
「それなのに・・・どこのオートクチュールもサイズ直しを引き受けてくれないのですもの・・・プレタポルテも当ってみようかしら・・・。」
ちなみに、周知のこととは思うが、敢て説明を入れると
オートクチュール=オーダーメイドの服を仕立てる店舗のこと。
プレタポルテ=高級既製服を扱う店舗を指している。
肥満化した有閑マダムたちが戦慄している『アレ』とは、一体どのような学園行事なのかは一旦置いておくが、『服』に関わる行事であることがヒントになるのだろう。
四人のマダムたちは立ち話をする間も惜しいとばかりに、次々と待たせていたそれぞれの馬車に乗り込むと、三々五々に各方面へ散って行った。
◇
「ねぇ、ユーリ。
アンタさ、最近随分太ったんじゃない?」
「ぇ・・・!?」
以前アーデルハイドへ手紙を届けに使い走りをさせられた子爵令嬢ユーリは、近頃すっかりポッチャリさんになってしまっていた。
「そ、そんなこと・・・
無い・・・にょ?」
親友の問いかけに、ビクっと身を浮き上がらせかけたユーリ嬢は、語尾を心細さが表れるのかフェードアウトするように消えかかってなんとか答えた。
「何故疑問形だし。」
ジト目で睨みつける友人。
鋭い追及は躱せていないようだ。
そうだ、ここはなんとか上手い言い訳を考えださなければ・・・。
頑張れ私っ!
「だってぇ・・・・ と、とにかく、太ってなんて無いよ!
そ、そうよ、アレよ、アレ、せ、成長期っ!」
お、なんとかその場凌ぎのつもりで口から出まかせを言おうと思っていたら、なんか上手いい訳が出て来たわ!
ヤッタネ!
私っ!!
「うん、成長期よ、成長期。
もぉーうヤダー!
カーラってばぁ!」
このまま切り返せば、きっと親友だって「そうね、成長期よね、私が言い過ぎたわ、ゴメンネ。」と笑って答えてくれるに違いない!
ってゆーかそれ以外に選択肢は無いと思いたいわ!!
「お前がそう言うんならそうなんだろうな。
お前の中ではな。」
「おぅふっ!」
ひ、酷い・・・。
何この生ゴミでも見るような冷たい目つきは。
私たちいつだって友達同士じゃないっ!?
カーラ、貴女はいつからそんなに辛辣な言葉を投げつけるような心の淋しい人になってしまったというの?
「そ、そんなに冷めた目で見つめないでぇぇぇぇぇっ!!」
「だったら、もっと痩せたら?」
「それが出来てたら苦労し無いわぁぁぁぁっ!!」
そうなのだ、以前アーデルハイド様に手紙を届けに行った頃の私と比べて、当社比1.5kg程、そう、ほんのちょっぴりだけ・・・その・・・フクヨかになってしまったのだ。
※本当は、10kgくらいをしっかりと皮下脂肪を溜め込みました。
なお、160cmほどの身長は変わっておらず。
「それにしても、どーやったらこれだけ短期間でここまで肥満化が進むのよ?
鏡見てごらん、鏡。ホッペタなんてパンパンよ?
身体の輪郭変わってるなんて、あり得ないっしょ?
普通無理っしょ?」
「だってぇ・・・。」
ユーリの脳裏に浮かぶのは、告白以後も親衛隊の縦の繋がりがあるシャーロット辺境伯令嬢の元で連日行われるお茶会の光景だった。
不思議なことに、手紙による告白が失敗し、失意のシャーロット辺境伯令嬢の元へ、連日のように荷馬車で大量の菓子類や揚物(フィッシュ&チップス)などが届けられるのだ。
差出人は相変わらず不明のままだが、花束と共に送り届けられるカードには、必ず
『傷心のシャーロット辺境伯ご令嬢と親しいお友達の方々へ。僅かばかりではございますが、慰めになれば幸いです。』
と達筆で一言だけが添えられているのだ。
失恋の痛手に、連日お茶会を開いては暴飲暴食を繰り返していたシャーロット嬢は無論だが付き合わされているユーリたち取り巻きにも被害は及んでいた。
消費し切れないほどの高カロリー&高タンパク質な食べ物に、家族へお土産などとして手渡していた結果、最初は喜んで受け取っていた者たちも、徐々に不気味さと恐怖を感じる頃には手遅れだった。
~ ウエストサイズ・ストーリー ~
「ウ・・・ウエストがっ! わたくしの自慢のウエストサイズがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「い・・・イヤーーーーーーーっ!!」
「こ・・・コレが・・・わたし・・・・・(肥大化)」
50名でも食べきれない&毎日では飽きる提供品に、周囲のお友達まで巻き込んで、劇的に大改造されてしまった見事なウエストが誕生しました!
なんということでしょう。
あれ程までにガリガリに痩せて、薄くて寂しかった腰回りが、料理人の見事な計らいにより、僅か短期間で小洒落てフクヨカな腹回りと、二段に重ねてもゆとりのある柔らかくて弾力と触れる者に暖かみを感じさせるモダンな段々腹へと生まれ変わりました。
これからは、決して「キミ、ガリガリだね」等とは言わせません。
包容力と温もり、この二つを合言葉に意中の殿方もきっと振り向いてくれることでしょう。
~ Fin ~
「ってナニ勝手にBGMまで流して私の不幸をイイ感じ風にまとめようとしてくれたんじゃぁぁっぁいっ!!」
「だってーアンタずっと俯いて下腹ばかり気にしてんだもん。」
「だからってねぇ・・・。ふぅ。」
「それにさ、ウエストサイズが上がったってことは、他のサイズだって大きくなってるっしょ?
特に・・・胸とか?」
「え・・・う・・・うん・・・。
そ、そだヨー?」
「ヲイっ!
何故目を反らすし!?」
「だってぇぇぇぇ・・・
ふぇぇぇーーーん。」
哀れなことに、ユーリ嬢の場合、元からの寸胴に近い体系に腰回りだけが肥大化してしまった結果、逆にビア樽体系へと近づけてしまっていた。
つまり、胸や尻には脂肪があまり溜らず、腹回りだけが見事に肥大化。
結果、立派な麦酒樽が完成していたのだった。
「うーん。
コレは手の施しようが無いわね・・・。」
「ふぇぇぇぇぇええんっ」
そうなのだ、後悔はいつだって先には立ってくれないのだ。
◇
その頃、王都伯爵邸の一室では、こんな会話が交わされていた。
「お嬢様。例の計画は順調に進んでおります。
現在までの達成率は、約96%。
十分に成功と言って遜色ないかと思われます。」
「そう。いつもありがとうね。ミラ。」
定時連絡のために、屋敷へ戻っていた白髪赤眼のメイドから報告を受けるソフィーが、座っていた椅子をクルリと回転させて両側にカーテンがたわんで掛けられている窓の外へ視線を向けた。
「やはり、容易い物ね。普段あまり美味しい物を食べていない者たちへ差し入れという名の攻撃は。相手がこちらの真意に気付かないんですもの。」
そうなのだ。
初期から双白百合印の大量の菓子類を送り付けたのは、『既にこちらが貴女たちの企てを知っているのよ』というソフィーからのメッセージでもあったのだが、残念ながらシャーロット始め、貴族の女子であるにも関わらず見抜けた者は居なかった。
続けて大量の菓子類など、高カロリー&高タンパク質の品々を連日のように。
実際には2~3日続けて送っては、中休みを与え、ちょっと不安を感じる頃に再度送るを繰り返した。
ちなみに、与え続けたのは、二つの理由からだった。
一つ目は、シャーロット辺境伯嬢を中心に敵対勢力を集めさせるために。
二つ目は、攻撃と気づかれずに報復攻撃を成功させるために。
結果は見事に成功を収めている。
「今回は、比較的貧しい層の者たちが結託しての行動でしたから、こちらも素早く情報を掴み、対処することが可能でした。」
メイドは淡々と事実と結果だけを纏めて述べた。
報告を受けたソフィーも満足げだった。
「そうね、それで次の動きはありそうかしら?」
既にシャーロットのグループは敵では無い。
であるならば、他に警戒すべき者たちはいないかを確認しなければならない。
「現在までのところ、約2つのグループが次の作戦を練っているようです。
一つは伯爵令嬢連合。
もう一つは侯爵令嬢を筆頭とする者たちです。
それ以外では、掴み切れてはおりませんが、個別に攻撃を仕掛けてくる者たちがいてもおかしくは無い状況のようです。」
メイドが告げた内容は、ほとんどがこれまでの情報と一致しており、想定の範囲内であった。
「そう。続けて見張らせて。動きがあれば私へ報せるように。
それから、学園でアレが近づいているから、お兄様の周囲のハエどもへは更なる警戒を強めて頂戴。」
「畏まりました。」
そう告げると、メイドは見事な一礼を主人へ捧げると、部屋を出て行った。
「一雨来るかしら・・・?」
窓を眺めていたソフィーはポツリと呟いた。
湿った空気が屋敷の窓を軽く撫でながら過ぎ去って行った。
筆者も違いが良く分かっておりませんでした。
ウィキペディア万歳!




