16.少女と仔猫の出会い物語
先に断言しておきます。
「ヤっちまいました・・・。」と。
話しは前後するけれども、これは少女が仔猫と出会った時の物語だ。
ある日、伯爵領に贈り物と称して隣国の領主から珍しい血統書付き品種だという仔猫が贈られてきた。
送り主の意図としては、せいぜい
『仔猫なんぞ贈られても世話も大変だし、見た目が可愛いのはせいぜい仔猫のうちだけで、いずれ成長するにつれて憎々し気な態度や気まぐれさに怒りを覚える日も来るであろう。
そして、もし気に入らなくなって殺したなどと伝わって来たならば、それを口実に難癖つければ良かろう。』
などという意地の悪いものであったかもしれない。
丁度タイミング良く、僕とソフィーが春期の長期休みで王都から本宅へ戻っている時だったので、父上から籠に入れられた仔猫を見せられた僕は、欲しいとは思うものの、他国からの贈り物ということもあり、少し気後れしてしまった。
ところが、そんな僕の気持ちや送り主の意地の悪い意図を知ってか知らずか、ソフィーがこの子猫を一目見て気に入ってしまったのだ。
「お父様! この子私にくださいな!」
「ああ、いいとも。
だが気を付けるんだよ。
見たところ未だ幼く、母猫から離されて気が立っているらしい。
見知らぬ土地に急に連れて来られて、見知らぬ者たちに囲まれているのだから当然と言えば当然だろうな。
仔猫とは言え、爪も牙もある、十分に気を付けるようにな。」
「ありがとうございます!
お父様!」
そう言って、抱き着く愛娘に父上は終始顔の表情を緩めたままだった。
「では、私は仕事に戻る。
ソフィーのことは任せたぞ。
アーデル。」
「はい。また夕食でお会いしましょう。父上。」
「ああ。またな。」
忙しい父上は、そのまま屋敷内にある執務室へと戻って行かれた。
残されたのは、僕とソフィーと籠の中の仔猫だけとなった。
「飼うって言うけど、こんなに警戒して怯えているんだから、抱くのは明日にした方が良いんじゃないか?」
「大丈夫っ!
私ちゃぁーんとこの子と仲良くなって見せますわっ!」
言うなり、籠の蓋を開けて中に居る仔猫を取り出そうとするソフィーだったが、肝心の仔猫が毛を逆立ててかなり怯えている。
フッシャァァァァアァァァァァァァァァァッ!!
シャァァァァァァァァァァァァァーッ!!
フゥゥゥゥゥッ!
フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
ウァォウァォウアォウアォゥゥゥッー!!
オアオアオアオアオアオアオアオアオアオアオアオフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
アオアオアオアオアオアオアオァォゥウウウウッ!!
仔猫は全身の毛をこれでもかと逆立て、小さな体の喉の奥から精一杯に威嚇の唸り声を発し続けており、爪を立てて引っ掻こうとするなど一向にソフィーに懐く様子は無かった。
「大丈夫、大丈夫よ・・・。
ホラ、怖くない・・・。
怖くない・・・。」
不意に伸ばした手の平に恐れを成したのか、果敢にも子猫がソフィーの指に小さな牙を突き立てて噛付いてしまった。
フゥゥゥゥゥゥッ!
ウワァウッ!!
ガブリっ!
「っ!?」
しかし、ソフィーは噛まれて痛いはずの指を引っ込めようともせず、痛さを堪えて噛まれたままにする。
「落ち着いて・・・落ち着いて・・・良い子・・・良い子・・・。
大丈夫・・・。大丈夫だから・・・。
ホラ、怖くない・・・怖くない・・・。
怖くない・・・。」
思いっきり噛付いてソフィーの美しい手の平を傷付けてやろうと足掻いていた仔猫は、不意に喉の奥からの唸り声を上げるのを止めていた。
すると、フッと力が抜けるように噛付くのを止め、顎を離したのだった。
それどころか、額をグイグイと手の平に押し付けて親愛の情を示し始めたのだった。
「ね?
怖くないでしょう?
アナタは怯えていただけなんだもの。
もう怖くは無いわよね?
私とお友達になりましょう?
ホラっ!」
今度はソフィーが伸ばした手を拒むことも無く、子猫はそのまま抱かれるに任せて身を委ねるのだった。
先程までとは打って変わりグルグルと喉を鳴らして居心地良さそうに抱かれる仔猫の姿に、僕も羨ましくなって
「ソフィー、その・・・
僕にも抱かせてくれないかい?」
「いいですわよ。
さぁお兄様の広い懐に抱かれてきなさいな。」
「いや、僕そんなに幅広くないし・・・
身長だって・・・。」
「私にはお兄様の存在が大きいのですから、そんなの関係ありませんわ。
さあ・・・・・。
・・・この子・・・
・・・お名前をどうしましょう?」
「その前に、その仔猫必死でお前にしがみ付いて離れたがらないみたいだけど?
ちょっとショックだわぁ・・・。」
「あら? 未だ私以外には懐けませんこと?
仕方ありませんわねぇ・・・。」
それから、しばらくの間、ソフィーは仔猫の名前を考えることにしたらしく、30秒ほど黙り込んだかと思ったら、ニコーっと満面の笑みを浮かべて
「良い名が思い浮かびましたわっ!」
「おお、どんな名前だい?」
「ええ、偉大な猫に育つべく、私が歴代の勇者の名前に因んで考えましたの。」
「うん?」
えっと、偉大な猫って・・・?
なんだろう?
戸惑う僕を他所にソフィーは一気に名を告げた。
「ウルトラ・スーパーサンダー・ソニックスペシャル・ワンダーグレート・ジュリアスアレキサンダー・ボナパルトジークフィリート・ディアボロカエサル・マルコムキング・ヨハネスジグムント・カインリッヒフリードリッヒ7世!
では如何かしら?」
長っ!
てか、なんて言ったっけ?
「・ ・ ・ 。」
僕は、たっぷり深呼吸が出来るくらい沈黙した後でようやく答えることが出来た。
「うん?」
「ですから、この可愛らしい仔猫の名前ですわ。
偉大な猫に育つに相応しい名前だと思いませんこと?」
「うん。
ソフィー。
あのな。
お兄ちゃん、今の名前一度じゃ覚えられないと思うんだ。
悪いけど、もう一度言ってくれるかな?」
「あら?
聡明なお兄様でもこれだけ長いお名前ですと一度では難しいのですわね。
宜しいですわ、良ーくお聞きくださいませ。」
そう言うと、ソフィーは一度コホン、と可愛らしく咳払いすると大きく息を吸い込んで一息に名を繰り返した。
「スーパーウルトラサンダー・ワンダーグレートソニッククリスタル・ゾディアックサイバーベーダー・ロマノフジュリアスボナパルト・ハインリッヒジークフィリート・ヨーゼフディアボロカイザー・キングマルコムマックステッド・ジグムンストヨハネスティーゲルロンメル・ウルリッヒカインリッヒフリードリッヒ・ザルツブルグペーターセンアレキサンデル3世! ですわっ!」
あれ?
ちょっと待て、さっきと微妙に名前が変わっているような・・・?
しかも、なんか微妙に長くなってね?
「ごめん、ソフィー。
もう一回言ってくれるか?」
「もう、お兄様ったら。
これが最後ですわよ?」
そう微笑むと、もう一度深呼吸をしてさっきよりも明らかに長い名前を並べ立てた。
「サンダーライガーベーダー・ボナパルトロマノフウルリッヒ・ビッテンフェルトキタノテイオウトウカイテイオウ・ワンダーグレートソニッククリスタル・ゾディアックロマネコンティ・アンネローゼスジークフィリーデル・スターロンローゼンマイヤーピヨートル・ヨーゼフディアボロカイザー・マルカムキングデッカード・ジグムンストヨハネスティーゲル・ジュゲムジュゲムカイジャリスイギョノスイギョウマツ・アーノルドジュリアスボナパルト・カインリッヒジュリアスフリードリッヒ・アームストロングカルバリンマンチェスターグランツ・アレキサンデルバルキリーパットントゥールハンマー9世! ですの!」
「・・・。
うん。もういいよ。
ソフィー。」
お前、絶対僕に覚えさせるつもり無いだろ?
「ウフフ・・・。」
超絶に無駄に長い名前を次々と呼ばれ続けていた仔猫はといえば、どこ吹く風とソフィーの腕の中で眠り込んでいた。
可哀そうに、余程疲れていたのだろうな。
◇
それからしばらくの間、子猫の名前で遊んでいたソフィーだったが、ある時ふとこんなことを漏らした。
「あら? この子、女の子でしたのね・・・。」
「散々歴史に名を遺した偉人やら伝説の名前をディスって付けた挙句がその落ちかいっ!」
呆れる僕を気にした風も無く
「そうですわっ! クレオ!
今日からお前の名前は、クレオですわっ!」
そう告げると、子猫は嬉しそうに一声
ウゥーーーナァン
とコロコロと鈴を転がしたような綺麗な鳴き声で返事をしたのだった。
「お前も無難な名前になって、良かったな・・・。」
相変わらず僕を含めてソフィー以外には抱かれようとしたがらない仔猫が初めて僕の足元へやって来て身体を擦り付けた日の出来事だった。
その後、しばらくしてからアーデルハイドたちは仔猫を連れて王都の別邸へ戻った。
僕は進級して二学年へ、ソフィーは女子専門中等科を卒業して僕と同じ王立学園へ入学するために。
ファンの皆さま。ごめんなさい。<(_ _)>
誠心誠意謝ります。謝罪します。
でもでもでも、アノ名場面大好きなんですっ!!
どこかでリスペクトしてみたい気持ちが爆発してしまいました。
悔いはありません(キリッ)
活動報告なるものを恐る恐る書いてみました・・・。
良かったら読んでみてくださいませ(*- -)(*_ _)ペコリ
ちなみに、無駄に長いだけの名前は適当です(´・ω・`)
気分転換兼ねて短編代わりに書いてみましたが、明日から本編に戻る予定です。




