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妹がヤンデレ過ぎて怖い件について  作者: 所天駄
第一章 妹と僕 ― アーデルハイド親衛隊は妹の旗下へ従属するか? ―
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15.王都伯爵邸護衛隊 ~ 修羅の群れ ~

俺の名は、ギュスターブ。


王都伯爵家別邸勤務の護衛隊と呼ばれる精鋭兵の一人だ。


何故俺たち護衛隊が精鋭兵だって呼ばれるのかって?


それは、俺たちの領主であられる伯爵様の領地が国境付近にあり、常に他国の侵略や侵攻の危険に晒されていて、緊急時に備えて日夜訓練に励んでいるからさ。


お陰で俺たち護衛隊の実力は、王国でも随一だと評判だ。


そんな精鋭揃いな俺たちの間でも、更なる最前線と呼ばれている場所がある。


古いことわざに

『戦場へ行くなら、行く前に一度祈れ。

航海するつもりなら二度祈れ。

結婚するつもりがあるなら三度祈れ。』

というのがあるらしい。


俺たち護衛兵の間では、三度の祈りじゃ足りない。


『王都伯爵家別宅へ行くなら、覚悟を決めろ。』


ともっぱら言い合っている。



何故かって?


最重要人物であり、同時に最重要警戒人物でもあるソフィーお嬢様の存在だ。


その見た目に騙されちゃいけない。


如何に清楚で可憐で、美の結晶のような容姿をしていようと、彼女は真正の悪魔だ。


いや、正確には『あるスイッチが入った状態に限り狂戦姫になってしまう』と表現するべきなのだろうな。


先日屋敷内で騒動が起こった時、俺は初めて生で狂戦姫バーサクモードになったお嬢様を見た。


信じられない程美しく、同時に死神の姿を彷彿とさせていた。


一目でヤバイと俺の本能が警鐘を鳴らし続けていた。


執事長のポールさんが留守だったせいもあるが、この日、俺たち王都伯爵邸付き護衛隊は久々で実戦を体験した。


副執事長のマシューさんが執事の一人であるフォッカーを寄越して緊急事態が告げられたことが、俺たち護衛隊にとっては始まりだった。


「ギュスターブ小隊長! 緊急事態発生っ! コードS発令っ! 

対お嬢様近接装備の上、至急屋敷内エントランスホールへ救援要請ですっ!!

繰り返しますっ! 

緊急事態発生っ! コードS発令っ! 

対お嬢様近接装備の上、至急屋敷内玄関エントランスホールへ救援要請!!」


正門近くの護衛隊詰め所に駆け込むなり、フォッカーが告げた内容は、屋敷内で一番最悪の事態が起こっているという報せだった。


交代での休暇や見回りに出ている連中を除いて、詰め所内には14名の隊員が出動準備済で居たが、口々に呻き声を上げたり、愚痴を零したものだ。


「コードスペシャル発令だと・・・。」


「なんてこった・・・。」


「クッソ、俺が本宅こうほう勤務になってから起こりやがれってんだっ!!」


詰め所内のバケツを蹴り飛ばして憂さを晴らそうとする隊員も居た。


「落ち着けっ! 冷静になるんだっ!!

野郎どもっ! 仕事だっ!」


俺の命令で、警護中は決して脱ぐことの無い鎧の関節部分の紐などを締め直し、フル装備に近い形で装備を整える。


「それでは、お早い到着をお待ちしておりますっ!!」


伝令役を終え、見事な敬礼の後、踵を返して屋敷へ戻るフォッカーの背中に向けて、俺は声を掛けた。


「ああ、後は俺たちに任せろ。」


それから隊員全員の装備を点検し直し、総勢14名での出動となる。


「イワン。

お前装備間違えているぞっ!」


「え? 

対お嬢様近接装備って、この大盾じゃないのか?」


「馬鹿者っ! それは実戦向けの大盾じゃないかっ!!

万が一お嬢様に怪我でもさせてしまったならば、どう責任を取るつもりなんだ!?

お前と言う奴はっ!! 

まったくっ!!」


「は、ハイっ!」


部下の一人が、日頃から少しだけ抜けたところのあるイワンコフ隊員に、装備の過ちを指摘した。


「ほらよっ。

こいつが対お嬢様近接装備専用の大盾だっ!!」


そう言って、表面が真っ白になった状態の大人でも全身がスッポリと隠れるほどの大きな盾を手渡した。


「あ、ああ。

でも、何で表面がビッシリと真綿で覆われているんだ?」


シミや汚れ一つ無い、綺麗な状態でフワフワな真綿を気持ち良さ気に撫でながらゴツイ身体をしたイワンコフが首を傾げた。


「お前っ、イワン・・・お嬢様を倒すのが目的じゃないんだぞ。

大盾で俺たち護衛隊がお嬢様を取り囲む。

すると、手も足も出なくなったお嬢様が大人しくなる。

そうすれば、俺たちの任務は完了さ。

子どものお使いよりも簡単な仕事だろ?」


側にいたもう一人が、賢しげに作戦概要を説明してくれた。


これで、全員に周知徹底する手間も省けた。


「なぁーんだ、そうだったのかぁー。

早くいってくれよぉ。

ハッハッハッハッハッ」


良し、そろそろ、頃合いだな。


「さて、今オーバンが説明してくれた通りだ。

俺たちはこれからソフィーお嬢様の癇癪を宥めに行くんだ。

決して傷一つでも残す様なことがあっては許されん作戦だ。

全員その一点だけは絶対に守るんだぞっ!

いいなっ!」


「「「サーイエッサーっ!」」」


フォッカーが屋敷へ戻ってから左程時間を置かずに俺たちの出撃準備は整った。


流石は王都伯爵邸付きの精鋭兵揃いだ。


一糸乱れぬ練度の高さを示している。


無駄な会話は一切しない。


必要な事は全て出発前に伝えたからだ。


時は丁度夕暮れ時、ある地方では『逢魔時トワイライトゾーン』とも呼ぶそうな。


昼と夜が混じり合う時、古来から災厄や魔と遭遇する確率が高くなる時間帯という意味らしい。


俺たちは、詰め所から500m程離れた場所にある王都伯爵邸内へ馬車で駆けつけ、素早く降りると邸内へ一気に突入した。





「こ・・・コレは・・・一体・・・・!?」


平時であれば、花瓶に花が飾られ、数々の調度品と共に執事やメイドなど、屋敷で働く使用人たちが出迎えてくれる玄関エントランスホールには、倒れ伏した者たちが死屍累々と呻き声を上げながら例外なく突っ伏している。


放射状に拡がって倒れる人、人、人・・・。


その中央部分に、標的おじょうさまはクレイモア片手に一人立っていた。


「あぁぁぁら・・・ アナタたちもぉ・・・・私ぃをぉ・・・

邪魔しよぉうとぉ・・・ 言うのかしら・・・?」


「ヒッ! バ・・・バケモノっ!!」


一番身体が大きくて力自慢のはずのイワンコフが悲鳴を漏らしてしまった。


「コラっ! イワンっ! 

貴様お嬢様に失礼だぞっ!!」


「す・・すいみあせんこってぇ・・・。」


「お前、噛み過ぎだろ。」


「だってぇ・・・。」


はち切れそうな筋肉に包まれた巨体を乙女のように前に手を合わせてモジモジする漢の姿程見苦しい物は無いと、この場に居た護衛隊員全員の心が一つとなった。


「ふぅ、イワンのお陰で少しは緊張が解けたな。」


「ああ、ありがとな、戦友ともよ。」


「ギュスターブ小隊長っ!!」


「ああ。」


軽く目とハンドサインで散会を指示する。


「と、いう訳で~ お嬢様っ!

すんませんけど、もうちょっとお淑やかにしてくだせぇっ!!」


大の大人の男性が14名。


真綿で覆われているとは言え、全身を覆い隠す程の大きな盾を構えて素早くソフィー一人を二重に囲んだのだ。


6名が第一陣となり四方から隙間なく盾で取り囲み、その後方を残り8名がぐるりと取り囲む陣形となった。


通常であれば、これで暴徒は鎮圧できる。


通常であれば。


「ふぅーん・・・ やっぱりアナタたちもぉ・・・私のぉ・・・邪魔おぉ・・・

すぅ・・るぅ・・・つぅ・・もぉ・・・りぃ・・な・の・ねぇ・・・。」


ソフィーお嬢様の俯いた顔からは表情が伺えないハズにも関わらず、展開している護衛隊全員の背筋に冷たい刃が押し付けられたような悪寒が走った。


「総員っ! 逃げるなよっ!! 

ここが踏ん張りどころだぁぁぁぁっ!!」


「「「オォーーーっ!!」」」


身動きなど無駄。


一切の抵抗など無力化出来るハズだった。


「えっ?」


「ふわっ!?」


「うぉうっ?」


「うへぇいっ!?」


「ふっぶぅわぁっ!?」


「ぐへぇいっ!!」


「ふぶっ?」


ソフィーお嬢様が一瞬だけ姿が歪んで見えたかと思った次の瞬間だった。


十重とえ二十重はたえに取り囲んでいたハズの護衛隊総勢14名の身体が、次から次へとポーン、ポーンと宙に浮いていたのだった。


ソフィーは、ただゆらぁーりと揺れて、前進して見せただけにしか見えなかった。


しかし、実際には、手元が目にも止まらぬ素早さでクレイモアを左右に振られたかと思った瞬間に、護衛隊員が宙へ飛ぶ様は、悪夢としか思えなかった。


「い・・・一体・・・一体何が・・・!?」


最後に俺の身体まで宙を舞った。


信じられないことにクレイモアの腹の部分でパッカーンとゴルフのように打ち飛ばされたのだ。


「ぐへぇっ!?」


全身鎧装備フルプレートアーマーに、大きな盾装備。


ポーンと自分の身長と同じか、それ以上の高さまで放り投げられてから床へと叩きつけられるのだ。


無傷では済まされない。


盾も併せて総重量約50kgにも達しようかと言う自重があり、重さそのものが凶器となり止めを刺した。


最初に地面に叩きつけられた衝撃で全身に痺れが走り、身動きが取れなくなる者が続出したのだ。


そこへ、20kgはあろうかという大きな盾が持ち主を追うようにして落下してくる。


衝撃に次ぐ衝撃が重なり、酷く耳鳴りがして全く何も聞こえなくなってしまう。


結果、起き上がることはおろか、立ち上がることさえ不可能となってしまった。


中には、そのまま意識まで失ってしまった者たちも多く居た。


「ハ、ハハ・・・

う・・・嘘・・・だ・・・ろ・・・。」


床に倒れ伏す部下たちを眺め、俺もそのまま意識を失ってしまった。





目覚めた時には、出動した警護隊員の14名全員が詰め所内に設けてある救護施設のベッドへ寝かされていた。


隣のベッドで鼾をかいて眠っているイワンコフの反対側に横たわっていたオーバンが涙目で言った。


「た・・・隊長・・・俺・・・俺、怖かったッス。

超怖かったッス! 俺・・・俺・・・・。」


「大丈夫だ。

もう何も心配することは無い・・・

大丈夫だ・・・。」


何が大丈夫なものか。


根拠も自信も何一つ提示出来はしないけれども、今はただ幼児の様に怯えるオーバンを宥めることしか出来ないのだから。


そうか、最前線は伯爵領土にある国境付近とおくにあるのでは無かったのだ。


一番自分自身を鍛え、精鋭兵を更なる高みへと導いてくれる実戦。


戦闘手段のありとあらゆる方法と知略の限りを掛けて、生き残りを追い求める最前線は、王都伯爵邸別宅ココにこそあったのだ。


「フッ。まさか、女子供一人沈静化出来ないなんてな・・・。

精鋭だ王国最強だと持ち上げられていたが、やはり未だ未だらしいな。

よし。明日から護衛隊の引き締めをやり直さなければな・・・。」


ようやく落ち着いたのか、涙の跡を残したまま寝入ってしまったオーバンの頭から掌を離すと、一人決意を新たにするのだった。


今更だけど、護衛隊員目線からのラブレター騒動の場面を書いていなかったなと。

前後して読み辛かったらすみません。


ブクマ&登録ありがとうございます!

励みにしながら書いてます(`・ω・´)ゞ

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