97.混乱の終息
コンコンコン。
そこへ、王宮内の談話室への来訪を告げるノックが響き渡る。
「どなたかしら?」
「入れ。」
マリーネが鷹揚に誰何したかと思えば、アルベルトが入室を許可してしまった。
王宮の主なのだから、当たり前と言えば、当たり前ではあるが、先にこの談話室を利用していたのは、マリーネとルドルフ、ヨーゼフの三兄姉たちだ。
若干の戸惑いの表情を見せたが、国王である父親に逆らえるはずもなく、無言で扉を見つめた。
「お邪魔します。」
「「「「「国王陛下。」」」」」
アドルフを先頭に入室してきたのは、王立学園の生徒らだった。
その中には、アーデルハイド親衛隊から、エリカの元へと移ったはずのユーリやインテグラらの姿もあった。
「あなたたち、一体何の目的で!?」
「お前たち、どうしてここへ?」
「・・・・。」
床にへたり込んだままのヨーゼフを除く二名から、口早に問いただされる。
「そりゃ当然、俺の命を狙ってくれた真犯人に、引導を渡すためだ。」
「「ハァっ!?」」
サラリと軽い口調でアドルフが獅子の様な笑顔で、直球ストレートに、先程からの話題を核心を口にした。
「許す。言ってみろ。」
二人が騒ぎ出す前に、アルベルトがアドルフに話を先へ進めるようにと促してくれたお陰で、妨げられる心配なく、要件へ移れそうだ。
「先ず、第一に、俺の命を狙った暗殺者集団。
ありゃ、王宮からだ。
しかも、王族以外に用いることすら許されていない連中をわざわざ使ってくれてありがとよ。
『国王直属暗部』通称『道化者』コイツらは、本来であれば、国王以外の命令を聞かない。
だが、お前たち三人が結託して、『次期国王として命令する』と称して、国王の許可無く動かした。
これだけでも、十分に王位継承権剥奪に値する。
しかも、暗殺対象が何故か俺だった。
身分の低い側室の子である俺だ、放置しておけば良かっただろうに。
だが、こんな俺でも一応は『王族の端くれ』だ。
王族の命を狙った者は、たとえ同じ王族であろうとも、発覚した場合には、死罪だ。
覚悟できてんだろうな!?
あぁぁん?」
「「「ヒッ!!」」」
元から高身長で、逆三角形という騎士然としたアドルフに凄まれて、三人はすくみ上ってしまった。
「何故だ?
何故アドルフの命なんぞ狙ったんだ?」
一気に年齢以上に老け込んでしまったアルベルトが、悲しそうな視線を三人に向けると、一様に気まずそうに眼を逸らしたが、マリーネが唇を震わせながら、小さく呟くように答えた。
「・・・・許せなかったからよ・・・・。」
「え?」
王子と王女以外の全員が首を傾げた。
「だって、そんな、側室の子が、私たちと同じ『王族』だなんて、許せなかったのよ!!」
「そ、そんなくだらない理由で、命まで奪おうとしたのか!?」
アドルフが襲い掛からんばかりの勢いに全体重を乗せて、マリーネの胸元を掴み上げた。
対するマリーネは、勇敢にも恐れる風も無く、キっと眦を上げて、ポロポロと大粒の涙を零しながら、なお、アドルフを睨みつけていた。
「僕たちだって、ソフィーやアーデルハイドたちと一緒に楽しく、仲良くしたかったんだ・・・・。
でも、このままじゃ、ソフィーはアドルフに取られると思ったし・・・・。」
「アーデルハイド様だって、私よりも、エリカや他の娘たちに取られそうだったし・・・・。」
マリーネとルドルフが動機を白状した。
「つまるところ、横恋慕というやつか。
たとえ、そうだとしても、許される罪では無い。」
一言で両断したが、父親として、苦渋に満ちた声と表情であった。
◇
それから、憲兵隊による丁寧な事情聴取が行われ、王子、王女ら三人の動機が、先に自白した通り、アーデルハイドやソフィーと結ばれたいがための身勝手な犯行であったこと。
身分の低いアドルフを亡き者として、自分たちが親友となり、近づきたかったことなどが語られた。
そして、王家直属暗部である『道化者』たちを無断で使用した事実も、先に捕らえられていた者たちの自供により、立証された。
元々彼らは『国王陛下』の直属であり、王命以外に従わなくても良い存在故に、アドルフ襲撃も、わざと妨害される場所や時間を狙ったことも併せて報告された。
一国を治めるべき王の後継者としての皇太子。
その責任や義務を考えるとき、今回のルドルフ第一王子、ヨーゼフ第二王子、マリーネ第一王女の蛮行は、許されるものでは無かった。
エリカについては、彼らとアーデルハイドを繋ぐための協力には参加していたが、アドルフ暗殺計画には一切関与していなかったことが証明され、処分保留で自宅謹慎となった。
「よって、第一王子であるルドルフ、第二王子ヨーゼフ、第一王女マリーネ。
彼の者たちを廃嫡とする。
三名とも、修道院送りだ。
今後、婚姻関係や王宮へ復帰すること、まかりならん。」
「「「仰せのままに。」」」
襲撃された当人であるアドルフやソフィー、アーデルハイドらからの助命嘆願もあり、王国内での社会的な地位や立場から、一切身を引き、修道院にて、静かに政治犯として余生を過ごさせることが彼らへの罰となった。
本来であれば、処刑が既定路線であり、断頭台で露と消えるべきところを、恩情によって、生きることを許された彼らに、異論はなかったようだ。
◇
ちなみに、ソフィーがエリカらの動向を逐一正確に把握していたのは、『黒百合隊』と称する情報収集のみに特化したアーデルハイド親衛隊員たちから正確な情報を得ていたお陰だった。
『黒百合隊』の指揮官は、白髪赤眼メイドのミラだ。
「以上が今回の騒動の顛末でございます。
お嬢様。」
「ありがとう。ミラ。」
「私はいつでもお嬢様と共に在ります。
これまでも、これからも。」
片膝を付いて、まるで女王陛下にでも仕える女騎士の様に、永久に変わらぬ忠誠を誓うミラであった。
ソフィーは、心の底から嬉しそうにその姿を眺めている。
次で最終話の予定です。




