科学の世界の日常 運動会 肆
次は確か、一、二、三学年合同色対抗障害物競争だったか。
そんなことを考えながらクラスの観覧席の後ろの少し開けたスペースに影を落とし、無重力場を作って読書に耽る。
読み始めてすぐ、横から声を掛けられた。
「おう、ムト。さっきは圧倒的一位だったな。やっぱり魔法はずるくね?」
「何だ、ヤマか」
僕が声のした方を見ると、僕の学校に少ししかいない友人の一人、灰谷火山が立っていた。
こいつは誰とでも仲がいいという印象が強い。一年次の最初の体力測定の時に魔法もあって異常な記録を出した日からよく話しかけてくる。今ではクラスは違うが、こうして声をかけてくるマメな奴だ。
「魔法は僕の個性であって別に禁止されてるわけでもないし、ずるくない」
そう言いながら体位を整えてから魔法を解除して地に足を着ける。
「それで、お前はまだ出る種目はあるのか?」
「ああ、結構たくさん出ることになっててな。あとは障害物競争と綱引きとドッジボールとリレーだな」
「多いな。さてはお前、種目決めで話を聞かずに全部適当に答えたな?」
大当たりだ。笑うしかない。
「そういうお前はどうなんだ?」
「障害物競争と変則ドッジだな。手加減してくれよ」
ヤマが出る競技というか、僕が出る競技は最初の徒競走を除けばチーム戦だ。僕自身が戦力として有利に運べるのはほんの一部だけだ。だからこそ、僕の返答は、
「やなこった」
さて、ヤマと話してたら障害物競走の用意が始まったな。今からまた本を読み始めてもすぐに中断する羽目になるだろう。
そこでアナウンスも入る。明須井さんがこちらに向かって歩いて来ているのも見えた。
さて、この三学年合同色対抗障害物競争は各学年から四名ずつの十二人のリレー形式になっている。僕が担当となっているのは最初にして最大の難関と言われる的当てだった。用意された十個のボールを全部投げ切るか、約五十メートル先に用意された小さい的にボールをぶつけなければ襷を次の人に渡せない。ここでボールを当てれる人を入れれるかどうかでだいぶ時間が変わると言われている。なおボールは十メートル以上前方に飛ばさないと投げたとカウントされないため、ここの担当になる人は事前にボール投げのテストをしているらしい。なぜか僕はした覚えがないが、「科刺川君なら大丈夫」と、やらなくてもいいことになっていたらしい。
まぁ実際問題はない。始まってすぐ、僕はボールを持つと、前に構える。ボールと的の距離を計測、あとはボールにベクトルを与えて的に当たるコースで射出する。次の人に襷を渡すまでに用いた時間は僅か三秒だった。
あとは他の選手次第で、僕にはどうしようもない。結局、青組はヤマの白組に負けて二位だった。