魔法の世界の日常 魔物討伐演習 参
現在森の中を進軍していた。先頭をヤタ、次に僕とファーナ、後ろにユリーとハルだ。
しばらく歩いて森の奥へと向かうと、生まれて初めての魔物に遭遇した。記念すべき一匹目、ゴブリンだ。
こちらが発見すると同時に向こうもこちらに気付いた様子だ。
「皆、戦闘準備」
短く指示を出す。ヤタが剣を抜き、魔法職三人も杖を構える。僕もファーナより少し前に出て槍を構える。
ゴブリンは手に持った木の棒を適当に振り回しながら、一番近くに居たヤタに飛び掛かる。
ヤタは剣を横薙ぎし、ゴブリンの持つ木の棒を叩き折る。同時にヤタは剣から手を放し、隙だらけのゴブリンの腹に掌底を打ち込む。
「ふぅん、はぁっ」
ヤタの叫び声に併せてゴブリンの体は五メートル程吹き飛ぶ。
「凍てつく氷塊よ、渾身の力をもって一筋の線となり、敵を撃て。アイスショット」
ユリーの魔法が、吹き飛んだゴブリンに追撃を掛ける。
しばらく様子を窺うが、倒れ込んだゴブリンに起き上がる様子は見られない。
「思ったよりあっけなかったな」
僕はそう呟いて戦闘状態を解除する。近付いて見てみると、ユリーのアイスショットがゴブリンの胴に風穴を開けていた。
「魔物の魔石はだいたい心臓部にあると言われています」
ファーナの言葉を聞き、僕は槍でゴブリンの胸を軽く切り、手を突っ込んで魔石を引きずり出した。
飛び散った血は洗浄の魔法で消滅させた。
「これをあと二つ集めたら今日の課題は終わりか」
「これなら昼前には終わっちゃうんじゃないかしら」
皆も初の実戦ということで警戒していたのだろう。あっけなく一匹倒せたことで緊張が緩んだ様子だ。
それから、更に森の奥へと向かって進んでいくが、なかなか次のゴブリンを見つけることができない。
「ねぇ、なんか西の方が騒がしくない?」
ヤタに言われて西の方に注意を向けるが、結構な森の中だ、木が聳え立っているだけで、よく分からない。
だが、僕以外は何かに気付いた様子だ。
「確かに、なんだか魔力の乱れを感じます」
「結構大規模な魔法を使ったようね」
「ん。熱を感じる。多分火系統」
皆がそう言って僕の方を見てくるが、僕には何もわからない。わからないままでは判断のしようがないので、仕方ない、探知系の魔法を使おう。
探知系といって真っ先に思い浮かぶのは、千里眼だ。
見たい方向に、見たい時間だけ魔力を放出する、魔力が光子の存在と揺らぎを感知、感知した情報からその場の景色を把握する。放出した魔力から僕の下へと情報を送るプロセスがないのは不思議だが、これで遠くの景色を見ることができる。欠点として見ている間、酷い耳鳴りに見舞われる。また、魔力消費が結構でかいため、長時間の使用はできない。
早速、千里眼を発動し、西の方向を窺う。耳鳴りに顔を顰めながら確認した状況は、かなりの速度で燃え広がる真っ赤な炎と、その炎から全力で逃げる学園の生徒十名、そして彼らと並走するゴブリンや動物達だった。
「うっわめんどくさ」
森林火災だー。
みんなー、火を扱う時は周囲に気を付けようね。