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第32話 「闇の軍勢 対 光の軍勢」その2~Story of HIKARIチーム(後編)~

 肩車をした子供達が、再び天井付近の小窓らしき穴から外の様子を伺っていた。

「あの人達凄いよッ」

 アウルとリュウジの攻防に目を輝かせながら天辺に立っていた子供が言った。それを聞きつけ、フェインが駆け寄り、酒樽に飛び乗った。

 靡くローブから砂埃が飛散し、手で払う老人にはお構いなしに、フェインは小窓に額を押し付けた。

 遠くで、リュウジがダークスパイデスを蹴散らす光景を目にすると、フェインは、遠くの空に小さく見えるエクスフェリオンの姿を捉えた。


 重たい鉛色の雲が幾層も交じり合い、その隙間から現れた翼を持つ人型のクリーチャー=ダーク・リーパーが、全速力で空を駆けるエクスフェリオンに襲い掛かる。

 数十体のダーク・リーパーは、これから行う殺戮に胸躍る子供のように、互いに交差したり、旋回しながら船を囲み接近を続けた。

 その様子を伺いながら、リュウセイ、ロイド、マリカ、そして、エクスフェリオンの船員達が空に顔を向け、それぞれ別の方角の敵を睨み付ける。

「なぁ、マリカさん」

「何だ?」

 リュウセイの問いかけに答えるマリカ。

「アイツ等も、普通の攻撃が効かんのか?」

 マリカは、追い風に乱れる長い金の髪を、指でかき上げながら答えた。

「ダーク・リーパーの素材を知っているか?」

「ダーク・リーパー?」とリュウセイが質問で返した。

 すると、ロイドが歩み寄り、口を開いた。

「ダーク・リーパーは聖地ヒューディン大陸に住む清い種族。エルフに闇の力をブレンドして創り出されると聞いた事がある」

「ブレンドって……」

 その言葉が意味する事……。それは勿論、自ら進んで配合させられる訳でも無く、強制的である事に間違いは無い。

「つまり、元々が実体を持っているのであれば、物質でのダメージはある程度は通用する。だが、光の力を使うのとでは、相手の装甲は土と岩程も変わる」

「岩であろうと砕いてもうたら終わりや」

 その言葉にマリカは鼻で笑った。


 その時、バーンニクス城に張り巡らされた結界付近から、強烈な閃光が発生した。

「アイツ等、もう使ったんか? 閃光弾を」

 あまりの眩さに手で顔を覆う一同。

 その隙を突いて、ダーク・リーパーが一気に襲い掛かって来た。


 金きり音のような奇声を発しながらエクスフェリオンの甲板に飛び降りようとする。

 リュウセイは、舌打ちをしながら手首のブレスレットを輝かせた。

 ブレスレットの小さなスフィアが碧く輝き、手の中にエネルギーソードが現れる。

 グリップ部の赤いボタンを押し込むと、ほどばしるエネルギーの火花が発生し、リュウセイの集中力によって、その火花が集束し、光の長剣へと姿を変えた。

 そして、船首に着地しようとした敵に突進しながら腹を横に一斬りした。

 肉が焼けるような音と共に、ダーク・リーパーが怯む。黒紫色の皮膚から、緑色の血液らしき液体が垂れ流れた。

 だが、ダーク・リーパーにとって致命的なダメージでは無かった。再び体勢を立て直し、リュウセイに襲い掛かる。

「おい、お前の血は緑血球みどりけっきゅうでも入ってるんかよ!?」

 リュウセイは、今度は容赦なく、首を刎ね飛ばした。


 マリカが指先から放った一筋のリボン状のエネルギーが、マリカの意のままに空を飛び回り、次々とダーク・リーパーを串刺しにしてゆく。

 その後ろで、重厚な勇者の鎧に身を包むロイドは、スフェニスソードを額に当て目蓋を閉じた。

「先祖代々伝わる勇者のつるぎよ。我に力を」

 すると、スフェニスソードの鍔に填め込まれた青い石が輝いた。剣先までに光のヴェールが現れ包み込む。長身の刃に刻み込まれた古代の文字が光を放ちクッキリとその文字を浮かび上がらせた。これこそが、勇者の剣=スフェニスソードの真の姿でもある。

 ロイドは、勇ましい井出達で、迫り来るダーク・リーパーを一刀両断にした。


 甲板で次々とダーク・リーパーを倒してゆく三人に、船員達が持つ透明のクリスタルから発せられるライトグリーンの放物線が援護する。

 その様子を全く気にも留める事なく、船長のガイは、遠くの山の向こう一点だけを見つめ、舵を切っていた。

 浮遊船を操縦するには、特に全速力を引き出す為には、操縦士に徹するしかない。それ故、ガイは船の護衛を彼らに委ねていた。

 そこに不気味な笑みを見せながら一体のダーク・リーパーが歩み寄って来た。

 ガイは、視線を動かす事無く、ベルトに挿していたリボルバーを抜き取ると、ダーク・リーパーの額を撃ち抜いた。

 そして、応戦している仲間に向かって声を掛けた。

「おいッ!! 一匹逃してるぞ。しっかり頼むぜ」


 船員達の持っているクリスタルは、使い捨ての武器らしく、二十人ずつに分かれたチームが入れ替わりにエネルギーを発射し、次のチームと入れ替わり、新しいクリスタルを取りに行く。


 みんなの必死の応戦も虚しく、雲の上から降り、数を増すダーク・リーパーに、焦りを募らせたリュウセイは、甲板の脇の木箱を足で押し開け、閃光弾を取り出した。

 そして、レンズを指で押し込み、分厚い雲の上に目掛けて投げようとした。

「届くのか?」

 三体のダーク・リーパーを斬り伏せたロイドがリュウセイに訊ねる。

「まぁ、見てろ」

 そう言うと、リュウセイのバトルスーツが膨張した。

 ジャンパーウェアの下のシャツが肌に吸い付き、筋力を増幅させる。

「俺の剛速球は……」

 肩や腕のシャツが撓り音を上げる。

「時速ッ……」

 足腰のバトルジーンズが引き締まり、サイバーブーツが甲板の床にめり込む。

「三百キロじゃぁぁッッッッ!!」

 リュウセイが腕を振りかぶるや、メカニックボールは弾丸の如きスピードで遠くの雲に消えた。


 閃光弾が光を放つまで、残り約七秒……。

 必死に応戦するも、数を増すダーク・リーパーを抑える事は出来ない。

 左手で舵を持ちながら、マストにしがみ付き降りてくる敵をリボルバーで撃ち、後方の敵に銃口を向けるガイ。

 ダーク・リーパーの鋭い爪を紙一重で避けながら、懐を切り裂くロイド。

 マリカも、幾ら力があると言っても自分の力の残量を計算しながら戦っているが故に、大技を出せずに応戦している。

 リュウセイは、噛み付こうと飛んできたダーク・リーパーの顔面に渾身のストレートを放ちながら、人生で一番長い七秒間を感じていた。


 五秒……四秒……。


 更にダーク・リーパーが増える。


 三秒……。


 ロイドは、思った。

 まだバーンニクスを飛び立って時間も経っていなければ、目の前の山も越えていない。

 こんな状況でセーデンの本拠地まで辿り着けるのか?


 二秒……一秒……。


「伏せろぉぉぉぉおおおおッ!!」

 リュウセイの掛け声で、全員が顔を伏せ、しゃがんだ。

 同時に、強烈な閃光が雲間からほどばしり、ダーク・リーパー達の断末魔が閃光弾が弾ける音と共に轟く。

 ダーク・リーパーの体から、闇の奇声物が掻き消され、無数の耳の長いエルフが生き絶えたまま、雨の如く地上へ落下していった。

 光が治まり、その光景を目にした一同に複雑な思いが過ぎる。

 その思いをマリカの一言が拭い去った。

「ダーク・リーパーになった時点で死んでいる。哀れむ必要は無い。マインダーと同じだ。なっ」と最後にリュウセイに目をやった。

 リュウセイは、再び身構えると、雲を睨み付けた。

「時間稼ぎは出来たけど、まだまだ来るぞ」

「望む所だ」とロイドが光る剣を構えた。


 そして、数分後。

 目の前の山に近づく程に黒くなってゆく雲の隙間から、ダーク・リーパーが大量に現れた。

「来よったでぇ」

 ガイは、しっかりと舵を握りながら足許のレバーを踏み、マストの向きを微調整した。

「頼むぞ。船がやられたら終わりだぞッ……!?」

 そうガイが言い終えようとしたとき、言葉が止まった。

 リュウセイ、ロイドも、雲間を睨み付けながら呆然としていた。

「やっと、御出でなすった」

 マリカは、白い羽衣の帯をキツク締めながら睨み付けた。


 雲間から現れたのは、巨大な暗黒の龍だった。

 蛇の様に長く、大木の様に太い。全身に黒い鱗を纏い、紅く光る眼が残像を残す。

 長い二本の髭が生える口許が開くと、どんな獲物でも喰らう事が出来るほどに鋭く尖った歯が無数に見える。

 その龍を見て、マリカがゆっくりと名前を口ずさんだ。


「闇の神獣……邪龍王じゃりゅうおう


「おいおい、空の支配者のディアグロドラゴンよりも何倍もデカイやんけ」

 後退りをしながら、リュウセイは引きつった笑みを見せた。

 すると、マリカは懐からディアグロドラゴンの召喚石を取り出すと念を送り始めた。

「お前使えるんか?」と言う、リュウセイの言葉を無視しマリカは光る召喚石を空に投げた。

 そして、ガイに向かって叫んだ。

「一気に突っ切れッ!!」

「あぁ、解ってる」

 ガイは、もう一度スピードレバーを限界レベルまで押し込んだ。

 瞬間的に速度が上がり、後方の壁やマストにぶつかる一同に構う事無く、エクスフェリオンは、邪龍王の腹の下を掠めない程にまで降下しながら前進した。


 振り返るマリカの視線の先で、召喚石が弾け、砕けた粒が煙となり集まり出す。そして、ディアグロドラゴンとなると、自分よりも数倍も大きな邪龍王に突進していった。

「頼んだぞ」

 エクスフェリオンはダーク・リーパーの攻撃に会いながらも、応戦しつつ先へと進んだ。


 青い体のディアグロドラゴンは、ダークリーパーの攻撃を優雅に旋回しながら交わし、邪龍王に向かって突き進んだが、邪龍王が狙うはディアグロドラゴンではなく、エクスフェリオンだった。

 急旋回し、長い胴体をうねらせる。

 ディアグロドラゴンは、召喚主であるマリカを守る為に、全速力で邪龍王の前に立ちはだかると、翼を広げてエネルギーを充填し始めた。

 小さな光の粒がドラゴンの翼に集中し、背ビレを伝い、咥内へと集中する。

 口から溢れんばかりに濃縮されたエネルギーの塊から、発せられるオーラだけでダーク・リーパーが蒸発してしまう。恐らく、エルフ自身が蒸発してしまっているのが原因だろう。

 真っ直ぐに向かってくる邪龍王に向かって、ディアグロドラゴンは渾身の「ヘルズブレイズ」を放った。

 大気を貫き、雲を消し去りながら猛進するエネルギーの塊。

 それに向かって、邪龍王は、威嚇する様に大きく口を開き、爆音の如く咆哮ほうこうした。

 凄まじい音波の波と空気の振動が大気を歪めながら、ダーク・リーパーを瞬時に掻き消す。

 その波動は、ヘルズブレイズに直撃するや、激しい雷撃を発生させ互いのプレッシャーの削り合いにまで発展した。


 ヘルズブレイズは、少しずつ加速力を失い、遂には、邪龍王の波動に跳ね返されてしまった。

 青いエネルギーの尾を引く塊が、ディアグロドラゴンの許に帰り、大爆発を起こした。

 爆煙の中から現れたディアグロドラゴンは、傷だらけの翼をはためかせ、邪龍王に突進した。ドラゴンを振り払うかの様に手を振る龍を掻い潜り、蛇のような腹を一噛みにした。

 ディアグロドラゴンの鋭い牙が邪龍王の腹に食い込み、黒い血を垂れ流す。

 意地でも離すまいと噛み付くディアグロドラゴンだったが、邪龍王は、長い体を巻きつけ、ドラゴンを締め上げた。

 ディアグロドラゴンの悲鳴が木霊する。

 神とも呼ばれる程の龍の前では空の支配者など、敵では無かった。

 胴体を締め上げる程に、ディアグロドラゴンの体中の骨が折れていく。

 全く身動きが取れず、苦しそうにしているドラゴンを、頭から丸呑みにしようと、唾液が滝のように流れる邪龍王の口が近づいた。


 弱肉強食の野生の世界なら当たり前の光景かも知れないが、舞台と成っているのは遥か彼方の上空だ。

 リュウセイ達がいた地球なら到底考えられない光景だ。


 ディアグロドラゴンは、苦し紛れにヘルズブレイズを口から放ち、体に巻きつく邪龍王の胴体に直撃させた。

 爆発と衝撃で、仰け反った隙にディアグロドラゴンは邪龍王から抜け出し、首許に噛み付いた。

 そして、鋭い爪で引っかく。

 邪龍王もドラゴンを引き離す為に鋭い爪を振り回した。

 空中で繰り広げられる二大ドラゴンの肉弾戦。

 少し距離を取り、一気に掴みかかる。そして噛み付く。

 互いの体に幾つもの噛み跡と垂れ流れる血が、雨のように地上に降り注ぐいだ。


 一瞬の隙を突き、邪龍王が再び、ディアグロドラゴンを締め上げる。

 今度こそ逃すまいと邪龍王は一思いに喰らいついた。

 ディアグロドラゴンの顔がすっぽりと邪龍王の口に飲まれる。

 次の瞬間、邪龍王の口の隙間から碧い閃光が放たれ、その直後に咥内で大爆発が起こった。


 ――ヘルズブレイズだ。


 断末魔を上げ、苦しみに悶える邪竜王の口から、煙と共にドラゴンが現れた。

 そして、チャンスは今しかないと察知したのか、ディアグロドラゴンは最大級のヘルズブレイズを放とうと、大気中のマナを翼に吸い込み始めた。

 背ビレを伝い、咥内にエネルギーが蓄積されてゆく。

 だが、邪龍王も、負け時と咥内に真っ赤なエネルギーを蓄え始めた。

 空から無数の黒いいかずちが発生し、邪龍王の体中に降り注ぐ。

 それを自らのエネルギーに変換し、背ビレを伝い、咥内にエネルギーを蓄えているのだ。

 それはヘルズブレイズとは似て非なる物だが、破壊力は言うまでもなく邪龍王の方が上だ。

 ディアグロドラゴンは勿論、本能的にその事を悟っていた。だが、マリカと邪龍王を遠ざける為なら命さえ捧げる覚悟だったのだ。

 何故そこまでして、空の支配者がマリカに尽くすのか?

 その答えこそ、リュウジがバルシェログを復活させる為のヒントでもあった。



 全速力で空を突き進むエクスフェリオンでは、再び襲い掛かるダーク・リーパーとの応戦が続いていた。

 リュウセイの剣から発生するソニックウェーブが数十体の敵を真っ二つにする。その後ろで、剣舞の如き華麗な動きで次々とダーク・リーパーを一網打尽にするロイド。

 マリカは、体の周りに発生させた無数の光の武器を意のままに操り、次々と目の前に現れる者全てを塵と化していた。

 そんなマリカが振り返ると、遠くの空で二色のエネルギーが衝突し、その内の紅い色が全てを飲み込み大爆発を起こした。

「すまない……」

 マリカがそう言って、気を取り直し、次の攻撃に備えようとした。


「おい、マリカさん。この流れを止める方法は無いんか?」

 そう言いながらリュウセイが振り返った時、マリカが甲板に横たわり意識を失っていた。






 つづく

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