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第31話 「失った光」その3~Story of 神城 空(中編)~

 無数のいかずち内裏だいりを囲むように降り注ぎ、地面をえぐり始める。

 大きな地響きと共に、内裏の敷地のみが浮上した。

 轟音を上げながら、ゆっくりと地面から上昇する地層に、逃げ惑う陰陽師や貴族達が吃驚きっきょうし、腰を抜かす者が後を絶たなかった。

「う、浮いておる。地面が浮いておるぞ!!」

 引き伸びる地層は、高さが百メートル程にも及んだ。その頂上には言うまでも無く、道満がいる内裏がある。

 降り注ぐ雷は、地層部分に向きを変え、その土の塊を削るかの如く、また、意思を持つかのように直撃し、次々と岩や砂の塊を大地へと弾き飛ばした。

 少しずつ浮遊する物体の全貌が明らかになる。

 それは、まるで城であった。

 時代は違えど大阪城のような造りをしており、ツタが垂れ下がる石垣には歪な触手が絡み付いていた。

 それ自体が生物かのように。


 道満は、紫宸殿を抜けると庭を歩き、承明門しょうめいもんの前へと歩み寄った。

 承明門の先に道は無い。

 そこから平安京一体を見下ろすと紫に染まる天を仰ぎ感極まる思いで最後の仕上げに入った。

「さぁ、乾き衰えぬ血に餓えし鬼共よ、尽きる事の無い怨念を抱きし悪霊よ、この世をその怨念と邪心で染めようではないか」

 そう言って、道満が右手でそっと大地を仰ぐと、平安京の右側で民衆の阿鼻叫喚が、今度は左手を仰ぐと左側の民衆が阿鼻叫喚を轟かせた。


 高笑いをする道満の許へ、死体の検非違使が握っていた刀を握り締めたユキが襲い掛かった。

「両親の仇ッ!!」

 背後から一斬りにしようとしたが、その存在を道満は既に気付いていた。

 するりと身をひるがえし片手でユキの両手を受け止める。

「お主か。りもせず、その命を無駄にしに来たか」

「うるさいッ」

 交差する手首の先の鍔がカタカタと軋む。

 道満はそのまま摺り足で、立ち位置を変えると、ユキを絶壁に追い込んだ。

「もはやお前の内なる鬼の心は無きに等しい。諦められよ」

 空いた手で印を結ぶと、ユキの腹部にそっと当てた。にも関わらず、ユキは凄まじい衝撃を受けたかの様に吹き飛ばされ、宙に放り出された。

 悲鳴を上げながらも、辛うじて握っていた刀を必死な思いで城の外壁に突き刺す。

 火花を散らしながらも掴まる事が出来たユキは、無我夢中で開いていた窓らしき穴に飛び込んだ。



 遠くに浮かぶ謎の城を見つけた清明達。

「ななな、何だアレは!?」

 驚き腰を抜かす博雅にソラが手を差し伸べる。

「もしかして……」

「道満。ついに帝を殺め、宮中を鬼や怨霊で溢れさせたか」

 ソラの言葉に清明が続けた。

 その時、屋敷の庭の先にある両開きの門が、荒々しい音を立てた。

 外側から、何者かが叩き割ろうとしているようだ。

「鬼だな」

「鬼? もうここまで来たのか?」

 慌てて構える博雅。

「案ずるな博雅。この屋敷には結界を張っている故、そう易々とは破れぬ」

「でも、このままじっとしている訳には行かないですよッ……?」

 ソラはそう言った瞬間、ユキが陰陽寮に居る事を思い出した。

「まさか……ユキは……」

 死んだのか。殺されたのかも知れない。そんな不安を抱きながら空に浮かぶ城を見上げる。

「いや、まだ生きておる。ユキの僅かな気の流れを感じる」

「助けに行こう」

 博雅はソラと清明の顔を見ながら力強く言った。


 急いで屋敷の中に入ったソラ。

 屏風の後ろに置いていた籠を開け、バトルスーツを取り出した。

「今持てる力を使うのみ」

 狩衣を脱ぎ捨てバトルスーツに着替え始める。

 サイバーブーツを履き、バトルグローブを手に取付けギュッと握る。

 黒いロングコートを身に纏うと、もう一度携帯電話機を開けた。

 宇宙船の中で写真を撮った皆の笑顔を見つめる。

「俺は前を向くよ。だから……力を貸してくれよな」

 最後にアンリの笑顔を目に焼きつけると、ユキから貰った黒い塊をコートのポケットに入れ、部屋を跡にした。


 屋敷の庭に現れたソラの服装に、改めて博雅は物珍しそうな目を向けた。

 清明は、三枚の護符を取り出すと博雅とソラに手渡した。

 白い和紙に赤い星が描かれている。

「これを持っていれば、鬼や悪霊に取り憑かれる事は無い」

「サンキューッ」

 そう言ってソラは護符を懐にしまった。

 三人は、ゆっくりと門の前に立った。

 心の準備をしていたのだ。間違いなく門を開ければ数多あまたの鬼、怨霊が襲い掛かってくるからだ。

 お互いに顔を見合う。

「俺はいつでも良いぞ」と清明。

「あぁ。俺もだ」と刀を構える博雅。

「そんじゃ行きますか」

 ソラは拳に金色こんじきのオーラを溜め込むと門を叩き割り、屋敷前に押し寄せていた鬼の群れを薙ぎ払った。


 まだ低空飛行を続ける浮遊城。

「清明。あの方角だと御影山に接触するかも知れぬ」

「そうだな」

「だったら、御影山から飛び込もう」

 細い道に溢れかえる鬼と怨霊。

 紫や青に染まり異様に膨張した人間が伸びきった鋭い爪を振りかぶる。

 逃げ惑う民の体に怨霊が入り込むと、苦しみ出し息絶えるか、内なる悪の心を利用し鬼に変貌する。

 そうして、鬼は増殖し、怨霊が飛び回る。

 土の地面から這い出る鬼が、泣き叫ぶ女の腹を鉤爪で刺し掴むと引き擦り込み、地面から血飛沫が飛ぶ。

 前方の曲がり角にある屋敷の屋根から飛び掛ってきた鬼を、博雅の刀が切り裂き、後方から飛び掛かってきた人とは呼べない容姿の怨霊を清明の呪符が掻き消した。

 朱雀大通りに出ると、そこは地獄絵巻のような光景だった。

 圧倒的な数の鬼と怨霊・悪霊が逃げ惑う人々を容赦なく惨殺している。

 治安部隊の検非違使達が最後の抵抗を見せていたが、瞬く間に奴等の餌食と成って行く。

 その中の頭である男に襲い掛かる鬼を博雅が切り伏せた。

定昌さだまさ殿ッ!!」

「博雅ッ、お前は城を追え。早く行けッ!!」

 助けに入った博雅を振り払いながら、定昌は飛び掛る鬼を串刺しにした。


 鬼の大きな手に掴まれ腹から一噛みにされる子供。

 怨霊に取り付かれ、共に逃げていた恋人を噛み殺す男。

 目の前の悪霊に呪符を投げつけようとした陰陽師に後方から鬼が噛み付く。

 至る所で飛び散る鮮血と断末魔。

 鬼や悪霊達の奇声。

 人として助けるべきだが、浮遊城に乗り込めなければ、道満を倒す事はできない。

 三人は、脇目もくれず向かってくる敵だけを倒し、先を進んだ。


 平安京の出入口である羅城門は、鬼に占拠されていた。

 ソラは、全身から金色のオーラを噴出すと更にバトルスーツの力を解放した。

 走りながら全身のスーツが音を立てながら膨らむ。

 スーツ自体の機械振動を感じながら、ソラは突き出した手の平から大きな光りの塊を投げつけ、羅城門ごと鬼達を吹き飛ばした。

 爆煙と共に木っ端微塵になる羅城門を突っ切り、畦道をひたすら走る。


 そして、三人は御影山に登りゆっくりと近寄る浮遊城を呼吸を整えながら待ち伏せた。

「待ってろよユキ。必ず助けてやる」


 彼らを見下ろす道満、シオン、信長。

「道満。奴等をこの城に侵入させても良いのか?」

 信長の問いに道満は頷いた。

「早い内に清明は殺しておかなくてはならぬ」

「何故だ?」

 シオンが訊ねる。

「万が一、ワシを殺す者が居たとすれば、それは清明しかおらぬ。ならば、そうさせぬよう、我が手で清明を殺めるのみ」



 平安京壊滅は単なる序章なのか。

 世界全てが道満の手に落ちるのも時間の問題だ。

 ソラ、清明、博雅、そしてユキは、道満の野望を潰す事が出来るのであろうか?


 Story of 神城 空(後編)に続く。





 ~次回 第32話「闇の軍勢 対 光の軍勢」Story of HIKARIチーム(後編)~


 リュウセイ達の世界でも遂に最終対決が始まった。


 無限の闇の軍勢に立ち向かう少数の光の軍勢。


 不死鳥が張り巡らせた結界を突破したロックスパイデス。

 それに憑依する闇の軍勢。


 迎え撃つはアウルとリュウジ。そして家族や愛する者を守る為に立ち上がった兵士達。


 リュウセイ、ロイド、ガイ、そしてマリカに覚醒した状態のアンリが向かうは魔術師セーデンの本拠地。



 神城 空編で知ったであろう歴史は変わる事無く実現されてしまうのだろうか?


 次回からは、いよいよHIKARIチーム編の後編が始まります。


 果たして、リュウセイ達は未だ知りえない結末を回避する事ができるのか?

 小さな奇跡でも積み重ねる事で大きな奇跡を生む事ができるのか?


 乞うご期待です。


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