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第30話 「絶望のシナリオ」その3~Story of 神城 空(中編)~

 目の前の巨大な円盤の宇宙船に驚愕する一同。

 それは、間違い無くソラが地球を出発する際に乗って来た宇宙船だった。

 ただ、表面は既に錆ついていて、こびり付いた苔が相当な年月が経っているの事を示していた。


 村長は、宇宙船を見上げながら語り始めた。

「この船は、約二千年前の物だ」

「二千年前!? 意味わかんねぇよ。はぁ?」

 混乱するソラを尻目に村長は続けた。

「親から子へと先祖代々伝わる話では、この世界には当時、闇の軍勢とそれを従える悪の魔術師がいたそうだ。悪の魔術師は、この地に眠る不死鳥を殺そうとし、完全に世界を制圧する所まで来ていた。じゃが、ある伝説があった」

「どんな?」とシオンが訊ねる。

「五人のHIKARI(光)の戦士が現れる時、その光は闇を飲み込まん。この世は再び浄化されん。とな。じゃが、当時現れたのは四人じゃったそうじゃ」

 その言葉を聞いて俯いたソラ。

 一人足らないのは自分が居なくなったからなのだ。

「やはり、いくら光の戦士でも五人揃わなくては意味が無い。不完全な伝説では駄目じゃった……。結局、激しい戦争の末、不死鳥は殺され、光の戦士もろとも全滅してしまったのじゃ」

「そんな……馬鹿なッ!!」

 膝から崩れ落ち、手を付いたソラ。

 そんな事信じられなかった。目を瞑ればみんなの笑顔がソラには見える。

 みんなが死んでしまう事など考えられなかった。ましてや、あの頼もしいリュウセイまで死んでしまうなんて、想像も付かない。

 だが、目の前の宇宙船を見上げれば、残酷な結末の全てを物語っている。

 この宇宙船は、この星から飛び立っていないのだ。


「そして、暫くの間は完全に闇が世界を支配した。じゃが、人々はまだ生きていた。当時の勇者の娘が父親の仇を打ち、世界の平和を取り戻し今に至ったと言う事じゃ」


「なるほど……。大体読めてきた」

 シオンは胸の前で腕を組みながら冷静に納得した。

「おい、何納得してんだよ!! みんな……死んでしまったんだぞッ」

 ソラはシオンを見上げながら叫んだ。

「これで俺の推測に全てのピースがはまったのさ」

「ピース……?」

 シオンは、後ろの木に背を付けながら説明を始めた。


「此処は間違いなく、惑星コールディンだ。そして、お前の仲間が辿り着いた所も惑星コールディン。違うのは……」


 ――「時間だ」

「時間だって?」

 悲壮感漂う表情で訊ねるソラ。


「恐らく、ブラックホール内部でお前をさらった虹色のオーラ。あれが時間と次元のひずみから生まれた波。言わば『タイムウェーブ』だ。それで俺達は二千年後のコールディンに飛ばされたんだ。そして残されたあいつ等は、今より二千年前のこの地で、大戦争に巻き込まれたんだ。そして……」

 シオンは、次の言葉に詰まった。心底ショックを受けているソラに気を遣ったのかもしれない。

「死んだって事か……」

 その言葉をソラが囁くように言った。

「その事実から考えられる事だとすると、そこに居る松之宮 杏里にそっくりなヤツこそ、お前と結ばれるはずの松之宮 杏里の生まれ変わりだと言う事だ」

 ユキを指差すシオン。一同の視線がユキに集まる。

「わ、私が?」

 ユキも自分に指差し訊ね返した。

「マリカから引き継ぐ魂の記憶では、俺の生まれ変わりと出会えば、お互いが惹かれあうようになっている。ソウルメイト以上だったからな。だから、お前もソラが気になって仕方が無かったはずだ」

「私が……。私の前世がソラの……?」

 ユキもまた、自分の存在の理由、状況が掴めずに混乱していた。

 自分が愛したソラは、目の前にいて居ないような錯覚に囚われた。

 そのソラと結ばれるはずの人間は自分の前世。

 そんな破綻した事実が今のユキの脳内で整理できるはずもなかった。


「何を話しておるのだ?」

 清明に訊ねる博雅。

「ソラは今、真実と向き合っておるのだ。果たしてソラは、受け止める事ができるのか? ユキもな」

 崩れ落ちるソラと狼狽するユキを見ながら清明は心配そうに言った。


 ソラは、目に浮かべた涙を狩衣の袖で拭った。

「いや、信じられない。信じられない……」

 まだ、状況を受け止める事が出来ずに立ち尽くすソラを尻目に、清明は、宇宙船から離れた大木の裏に石像が立てられている事に気付いた。

 小枝をパキパキと踏みながら歩み寄ると、その石像は七人の人間をかたどった物だった。

 そこへ近寄る村長が説明を続けた。

「この石碑こそ、四人の光の戦士と勇者、そしてその仲間だ」

 その言葉を聞き、近寄るソラとシオンだったが、その石碑を見るや、絶望への疑いは完全に消え去り、全てが確信へと変わった。

「左から、勇者ロイド=ヴェルターナ様。その弟で魔術師のアウル=ヴェルターナ様。大空賊船エクスフェリオンの船長、ガイ様。そして、光の戦士であるリュウセイ様、リュウジ様、アンリ様、ルナ様だ」

 他の三人は知らないが、光の戦士達こそ、風化はしているが、ソラが知っている仲間だった。

 もう、言葉を失うしかなかった。


 ユキも、その石像を見て驚いた。

「あの石像。私とそっくりだ……」


「おい、清明。あのアンリと書いておる石像。ユキにそっくりではないか」

 博雅は、石像のアンリとユキの顔を交互に見比べながら訊ねた。

「そのようだな」

 清明は、開いた扇を額に当てながら膨大な情報を整理し始めた。

 それは、今までの常識を全て取り払い、夢物語を真実と捉えるしかないのだと、清明は悟った。そして、それこそがソラに隠された正体でもあるのだと。


 村長は、ソラの激しい動揺と混乱している仕草にようやく只ならぬ物を感じ取った。

「そなた達、先ほどから訳の分からぬ事を言っておるが、この石碑や船に関して知っている事があれば教えてはくれぬか? この船には恐ろしい力が眠っていると伝えられ、悪しき者達に利用されぬ様、守って来たのじゃ」

 するとソラはゆっくりと立ち上がり口を開いた。

「アンタに話した所で理解できない事さ」

 そう言うと、ソラは宇宙船の真下に立った。

「もしかしたら……」

 ソラは底部にある赤いボタンを確認するとジャンプし、親指で押し込んだ。

 途端に、宇宙船の全体が微弱な振動を開始し、錆や苔が剥がれ始めた。

 底部のターンテーブルが油切れの金きり音を上げ高架し、昇降用のスロープが地面に重々しく突き刺さった。

 その光景に驚く一同。

 村長でさえ驚きを隠せず腰を抜かしていた。

「う、うう動いた。なぜ、使い方を知っているのじゃ?」

「持主だったからさ」

 ソラはキッパリと答えた。

「も……持主じゃとッ!?」

 ソラに続き、一同が船内に搭乗した。


 各自の部屋と居住スペース。メインドライブルーム。

 ソラは、船内をくまなく歩き回った。しかし……。

「からっぽだ」

 照明関係は全く機能しておらず、清明が念力で木の棒に灯した火の明かりを頼りに周っていた。

「こんな物が……あったとは」

 ユキは、初めて見る乗り物に若干の恐怖を感じながらも清明と博雅の後ろに付いていた。


 ソラとシオンは、武器庫へとやってきた。

 そこも既に空になっている。

「俺達が来る前に盗賊でも入ったか?」

 シオンは、舌打ちをしながら火の付いた棒の向きを変えた。

「こんな所に扉なんてあったっけ?」

 天井より開いた扉から下降している武器収納ワゴンを見つけたソラはシオンを呼んだ。

「隠し扉だ」

「隠し扉? 何でそんなモノがあるんだよ?」

「さぁな。俺に聞くなよ。うっすらとした記憶しかないんだ。大地のな」

 ソラは、ユキにもらった黒い鉄の塊を取り出すと、天井から飛び出ているワゴンの開いた穴にはめてみた。

「ぴったりだ……」

「ビンゴだな。それもお前様の何かしらのアイテムだ。もしかすると、伝わる伝説や、勇者の娘が生き残って居た事、また松之宮 杏里の生まれ変わりが存在している事。それらから推測するに、松之宮 杏里は生きていたのかも知れんな」

「生きていた?」

「あぁ。まぁ、今となっては死んでいるとは思うが、お前がいつか現れる事を信じて、このアイテムを後世に引き継いだのかも知れない」

 その言葉を聞いて、ソラは掌の中のアイテムを強く握り締めた。

 ずっと感じていた重みの答えは、シオンが言った通りなのかも知れない。

 ユキも、親の親からずっと引き継ぎ、好きな人が出来た時に贈ると言っていた。


 どれほど堪えようにも、涙が止め処なく溢れてきた。

 もう、みんなには会えないのだ。

 喪失感、虚無間がタイムラグのように押し寄せる。


 ソラが求めていた答えは分かった。

 だが、これからどうすれば良いのか?

 何が出来るのか?

 タイムスリップなんて夢のような事が出来る訳がない。

 仲間を生き返らせるなどもってのほかだ。

 第一、本当の地球でも二千年が進んでいるかも知れない。


「俺は……。このままこの世界で生きて行くしか無いのか……」





 ~次回 第31話「失った光」Story of 神城 空(中編)~


 どうする事も出来ない状況に自暴自棄になるソラ。


 清明達もまた、どうする事もできなかった。


 そんな思いのまま平安京に帰って来たが、道満の策略は既に動き出そうとしていた。


 清明と道満の戦いも最終決戦へと向かっていく事となる。

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