第30話 「絶望のシナリオ」その1~Story of 神城 空(中編)~
やっと、第3章の核に触れる事が出来ました。
また、パート2では、陰陽師編では珍しいファンタジックバトルシーンを組み込んでます。
ボクの伝えたい構想が理解できるでしょうか?
あまり伝わらなかったら批判して下さいね。
改良しますので。
HIKARIも全体の半分まで差し掛かった気がします。
およそ60話で終わるかも?
「何なのだコレ?」
「わかんねぇ。でも、ユキに貰った石から出てきた事は確かなんだ」
ソラは、黒い金属の塊を掌に乗せて転がしていた。
ユキは、その物体を人差し指と親指で掴むと、あらゆる角度から考察した。
「あの石は何処で手に入れたんだよ?」
「私も、母が死ぬ間際に私にくれたので、良くは分からぬ。ただ、ずっと昔からだと言う事は言っていた」
「そうか……」
シオンは、この人工的な金属を目の当たりにして同様していた。
そしてこの物体の事を知っていた。
――「馬鹿野郎。誰だか分かっても襲いはしねぇよ。ただ、この世界の秘密と、何故俺達がココにいる理由が分かるかもしれないだけだ」
一体、この塊には、どんな真実が隠されているのだろうか?
もし、シオンが言っていた通りの真実が判明でもすれば、ユキは、どう関わっているのか?
今のソラには、この塊の重みの意味すら分からなかった。
ただ、嫌な胸騒ぎだけが、不思議と続いていた。
ユキは、黒い塊の凹みや、溝の部分に自分の爪を引っ掛けて僅かな変化を期待した。
「ここが硬いッ!!」
力んだ顔が紅潮するも、ビクともしない塊。
ソラは、ユキの手から塊を受け取ると懐に仕舞い込んだ。
「まぁ、その内に謎が解けるかもしれないし。この塊の事もね」
そう言うと、二人は陰陽寮へと歩いていった。
洞窟内の岩場に腰を下ろし冥想をしている道満。
胡坐をかぎ、丹田(たんでん:下腹部の力が入る部分)の前で手の平を絡める。
彼を囲むように並べられた蝋燭の火が揺らぎ始めると、空間が歪み出した。
道満の体に漆黒のオーラが絡み始めるその姿を、岩場の隅から鋭い眼光で眺めていた織田信長。
茶筅髷に濃い口髭をし、将軍に相応しい程の重厚かつ豪華な装束を纏っている。
「お主。その力、如何様にして手に入れた」
道満は、閉じていた目蓋をそっと開いた。
「鬼と契約したのだ」
「そうか。では、鬼を喰らったらどうなるのだ?」
その言葉に道満の顔色が変わった。
鬼を喰らうなど考えもしなかったからだ。
だが、信長の表情は至って真剣で、冗談を言っているようには見えない。道満は、信長が持つ暗黒面の力に若干の不気味さを感じた。
「さぁな」
道満は再び冥想に入った。
「なぜ、我輩をこの世に呼び出したのだ?」
揺らぐ火が静止を保つと、道満が目を瞑りながら口だけ開いた。
「お前から来たのであろう。お陰でワシの計画の要になったがな」
「何がしたいのだ?」
信長の低音で太い声が洞窟内に反響した。
「巨悪の心を持つ二人の要が門となり、この世と魔界を繋ぐ……。この世を鬼が蔓延る暗黒の世界へと変えてやるわい」
道満の言葉を聞き、信長は踵を返した。
「お前のくだらん策に付き合っている程、我輩は暇ではない。再び得たこの命を存分に奮い、天下統一と言う覇業を成し遂げねばならんのだ」
「勝手な真似はさせんぞ」
そう言うと、道満は目蓋を開いた。
黄色い目が顔を出す。
途端に、信長は苦しみ出し、口から血を流しながら跪いた。
「あの愚か者と違い、お前は生身の人間。ワシの術中にある。本来の計画とは少々ズレが生じたが……まぁ、別の方法を考えるとしよう。逆らえんのだよ結局はな」
道満の不快なうすら笑いが洞窟内に木霊した。
ソラの荷物が入っている籠をじっと見つめる清明。
蓋の中には、ソラが着ていた黒い服が収納されている。
ソラの体から出てきた人間や、不思議な力の謎が解ければ、悪しき星の兆しに関して、何かが解るかも知れないと思っていたのだ。
もしかすると、全く関係が無いのかも知れない。
それを確かめる為に、ソラが居ない隙に中を調べようとした。
障子で囲まれた和室を見渡し、人の気配を探った清明は、誰も居ない事を確認すると、そっと籠の蓋を開いた。
綺麗に折り畳まれた黒い服。
この時代には無いであろう手触りが清明の指先に伝わる。
羽のように軽く、皮膚に吸い付く不思議な生地に驚く。
ロングコートを取り出した時、ポケットの部分から何かが転げ落ちた。
銀色の光沢感のある塊。
その表面が時折、青い光を発していた。
それが、平安時代に生きる安倍清明に「携帯電話」だと解るはずもない。
その時、ソラが帰ってきた事に気付き、慌てて出していた物を籠に戻した清明は、気付かれないように部屋を跡にした。
「ただいまぁ。清明さんいる?」
ソラは、黒い塊を清明に透視して貰おうとしていた。
ユキに隠された謎を探ろうとしていたのだ。
縁側を歩き、障子を開けた。
清明に与えられた自分の部屋を見渡すと、屏風の裏に置いていた籠に目をやった。
中には、もちろんこの世界に来た時に着ていたバトルスーツが入っている。
この世界では目立ちすぎる格好だった為、清明に譲り受けた狩衣に着替え、収納していたのだ。
その籠をソラはじっと見つめ、物思いに深けた。
今こそ、このスーツを着る時なのかも知れない。
シオンや道満と生身で戦うには、リスクが大きすぎるだろう。
スーツの力に頼っているとか、ズルだとか思われるかも知れない、だが、生きなければ行けないのだ。
籠の蓋を開け、携帯電話を開くとメンバーの全員と宇宙船の中で撮った待ち受け画面の写真を見つめた。
満面の笑みでピースをするリュウセイとアンリ。
照れくさそうにポケットに手を入れカメラを睨み付けるリュウジ。その側で、まだメンバーに馴染めずにぎこちない表情で直立するルナ。
その中央でピースサインを突き出すソラ。
この暖かな写真を見てより一層、そう思った。
「何黄昏てんだ?」
聞き覚えのある声に振り返るソラの前に、柱に背を預けるシオンが居た。
「お前ッ!!」
ソラは、咄嗟に立ち上がると戦闘態勢をとった。
「待てよ。戦いに来た訳じゃねぇ」
「何だって?」
そう言い、ソラは握っていた拳を解いた。
「禁断の地……」
「禁断の地?」
シオンの言葉を繰り返す。
「そこへ行けば、この世界の謎が分かるだろう」
「謎……?」
「あぁ。お前が知りたがっていた謎だ」
そう言いながら、ほくそ笑むシオンを見て眉を潜めたソラ。
「何が可笑しい?」
「やはり、ユキと言う女が鍵だった」
「何だって!?」
予感はしていたが、シオンの口からその言葉を聞いて、ソラの全身に電気が走る感覚が巡った。
だが、目の前のシオンは、あくまで道満側の人間だ。
信憑性に欠ける。もしかすると、ソラを惑わせようとする作戦かもしれない。
シオンは、ソラの反応を予測している様な面持ちで、続けた。
「もう日が暮れる。明日の朝にでも俺は禁断の地に向かう。お前も来るなら来い。羅城門の前で待っている」
「待てよ。本当は、もう知っているんだろ? 全てを……。俺をハメる為の罠か?」
するとシオンは呆れた表情を浮かべた。
「そんな事して何になる? 帰りたいのは俺も同じだ。帰らなければ俺達が存在する意味は?」
そう投げかけるシオン。
その続きはソラにも分かっている。
「ゲラヴィスク教との戦いに決着が着かないんだろ?」
「違う……この世が終わるのさ」
その言葉を聞いて顔を上げたソラの前からは、シオンの姿は消えていた。
「明日の朝か……」
囁くように繰り返した言葉を、清明は廊下の隅から聞いていた。
翌日。
ソラは、烏帽子を頭に乗せずに、紫色の狩衣姿で清明の屋敷を抜け出した。
辺りはまだ薄暗く、ひんやりとした世界が太陽の姿を心待ちにしていた。
朱雀大通をまっすぐ進み、平安京の出入り口でもある羅城門へと向かう。
朱色の柱が立ち並ぶ門に少しずつ近づいてゆく。
ソラは、まだ悩んでいた。
シオンを信じて良いのか?
そして、もし、リュウセイ達の居場所が分かれば、この場所ともお別れする事にもなるだろう。
清明や、ユキ。博雅。
いつか来るであろう別れが、間もなくかも知れない侘しさ、寂しさが心のどこかで揺れ動いていた。
羅城門で待つシオンの姿が次第に大きくなってゆく。
相変わらず、バトルスーツに身を包んでいる。
ソラが近づくと「じゃあ行くぞ」と言って羅城門の外に足を出した。その時。
「待たれよ」
その声は源 博雅だとソラは直ぐに分かった。
声の方向は羅城門の端。最後の柱の裏からだ。
そこから現れた博雅、清明、そしてユキ。
「どうして……?」
来るはずも無い三人が目の前に現れた事に豆鉄砲を喰らった顔をしたソラ。
「我々も共にゆくぞ」
清明の言葉にユキが力強く頷く。
「でも」
「ユキにも関係があるのであろう。彼女にも真実を知る理由があるのでは?」
清明は、門の所で立つシオンを見つめながら訊ねた。
「まぁ、良いさ。何人居ようがな」
シオンがそう言うと、全員で羅城門を潜った。
そして、禁断の地に向かう。
真実を求める旅へと。
つづく