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第27話 「炎の社と闇の戦士」その3~Story of HIKARIチーム(中編)~

 地鳴りに近い息吹が聞こえた。

 岩石の内部をくり抜いた様な巨大空間。

 その内部にも段差の激しい岩山があり、その一番高い岩場に、長き道のりを経て捜し求めて来た神獣が、丸まる様に眠りに就いていた。


 真紅の羽根と橙の羽根が混じり合い、それだけでも火を司る神獣だと分かる。

 今いる全員を、覆い被せる程の一翼に鼻先を入れ、閉じる目蓋の膨らみが目立つ。


 先陣を切って前へ進むアウルに一同が同行する。

 不死鳥=フェニックスは、足音に気付くと片目だけを開いて、そっと閉じた。

 そして、再び眠りに就く。

 フェニックスを怒らさないよう、ゆっくりと距離を縮め、アウルは恐る恐る声を掛けた。

「あのぉ……」

 恐縮し過ぎのアウルの声など、フェニックスの耳には聞こえる訳もなく、闇の軍勢到達までの時間を気にしていたリュウセイが前に出た。

「スンマセン。ごっつう寝てるみたいですけど、闇の軍勢がこっちに向かってて危険なんですよ。もう、アンタの仲間が全員殺されてるらしくて、次はアンタが殺されるかも知れないんですわ」

「おいッ!!」リュウセイの、礼儀の知らない口調にガイが一喝した。

 リュウセイの言葉にガイが補足する。

「今の貴方は、目立ち過ぎます。御霊になって頂ければ、私が隠し守り抜きます。そうしなければ、この世は終わりを迎えるかも知れないのです」


 ガイの言葉を聞いても、フェニックスは起きようとするどころか、目を開けようともしなかった。

 本当に眠ってしまったのか?

 言葉が通じないのか?

 一同に苛立ちと不安が募る。


 その時、後ろで様子を伺っていたマリカが先頭へ立った。

 途端に、フェニックスの目が開く。

「いつまで寝たフリをしている。こっちは時間が無いので手短に事を進めたいのだ」

 すると、フェニックスは、マリカに興味を示したのか、重い頭をゆっくりと持ち上げた。

「お前は……以前に会った」

 地面を響かせ、全身に振動が伝わる程の重低音な声を発したフェニックスにリュウセイ達が驚いた。

「喋りよった!!」

 リュウジ、ガイ、アウルが、マリカとフェニックスのやり取りを目で追い始めた。


「そう。以前に会ってる」マリカが答えた。

「古の大戦おおいくさ。我も紅蓮の炎を身に纏い空を赤く焦がした。そなた達と共に戦った事がつい昨日のようだ」

 過去の記憶に思いを馳せる不死鳥。

「昔話は後にして貰いたい」

 冷たくマリカは制止した。

「残念だが、我はこの場所を動かん」

 アウルとガイは予想外な結果に耳を疑った。

「何故だ?」

 すると、フェニックスは、大きな一翼を上げた。

 そこに隠れていたのは二つの卵だった。

 適度に体温を調節し、翼で覆いながら、卵が孵化するその瞬間を心待ちにしていたのだ。

「不死鳥が卵を産むなんて……」

 あっと驚くガイにアウルが続けた。

「奇跡だ。特に不死鳥は寿命が無い故、子供が出来ない」

「だから、眠るようにして卵を温めていたのか」

 フェニックスの行動に納得したリュウジ。

「そりゃ動かれへん訳か」リュウセイが言った。


 納得したのも束の間、事態はそんな悠長ゆうちょうなモノではない。

「いやいや。じゃあどうすんねん?」

「この社には強力な結界が張っている。闇の軍勢でも入る事はできぬ」

 フェニックスの言葉にアウルが反論した。

「だが、相手は魔術師セーデン。結界を破るすべを心得ていなければ、この計画を進めないだろう」

 しばらく沈黙が続いた。


「我はこの場所を動きはせぬ。だが、最大限の協力はさせて貰うつもりだ」

 そう言うと、フェニックスは両翼を広げ、咆哮ほうこうした。

 眼が赤く染まったかと思うと、一瞬の閃光が駆け抜けた。

 眩しさに顔を伏せる一同がゆっくりと顔を上げた。

「一体、何が起きたんだ?」

 ガイの問いかけにフェニックスが答えた。

「この土地の広範囲に結界を張り巡らせた。もちろんバーンニクスと言う国も入っている。結界が破壊されない限りは、闇の軍勢は入って来れん」

「さっすが!! じゃあ、闇の軍勢を足止めしている間に魔術師セーデンをフルボッコにすれば良いって訳じゃん」リュウジは、殴る仕草をしながら言った。

 闇の軍勢が入って来れないなら、確かにバーンニクスは襲われる心配は無い。だが、リュウセイには気になる事があった。それを確かめるために、フェニックスに訊ねた。

「あのさぁ。他の神獣もその結界って作れたんすか?」

 フェニックスが首を縦に振った。

「じゃあ、他の国は何らかの原因によって結界が破られた可能性が高いなぁ」

「風の神獣を司る国は、結界すら張っていなかった。既に殺されていたのかも知れない」

 ガイは、顎をさすりながら言った。


「恐らく、ある程度の足止めは出来るやろう。でも胡坐あぐらをかいて居れるモンでもなさそうや。だから、やるとしたら、沢田が言ってたように闇の軍勢を足止めしてる間に、セーデンがおる本拠地に乗り込んでブッ潰す」

 リュウセイの中で、着々と作戦が練られて行った。

 それをマリカが簡素に述べた。

「バーンニクスを守るチームと、セーデンを殺すチームが必要だな」

 だが、リュウセイには、まだ不安要素があった。

「やけどさぁ、どうやって闇の軍勢を掻い潜って大平原を越えて山越えて行くねん。あんな無限の敵に突っ込んでもセーデンの所まで突き進むのは無理に等しいぞ」

「それならエクスフェリオンで行けばいい」

 ガイがニコリと笑った。

「駄目だ」そう言ったのはマリカだ。

「相手が地上部隊だけだと思うか?」

 意味深なマリカの言葉。

 その言葉をストレートに受け取るなら、あのような闇の軍勢が空を飛ぶとでも言うのか?

 どう答えて良いか分からず言葉を詰まらせたリュウセイとガイ。


「光だ」

「光?」マリカの言葉にリュウセイが繰り返す。

「相手は所詮闇の塊。強烈な光があれば掻き消す事も可能だ」

「でも、どこにそんな光が…………」

 この問題に直面する事はマリカには分かっていた。それだけに大きな溜息を吐いた。


「私達には出せる」

 そう言うと、マリカの全身から疾風と共に、強烈な閃光と白銀のオーラが噴出した。

「スピリットを使いこなせれば、出せる技だ。前世のメンバーはこの力を体に纏い、闇の軍勢を玉砕した。だが、今のメンバーの誰が出せる?」

 リュウジが前に出た。

 そして、黄金のオーラを体から噴出した。

「こっちの色なら出せるぜ。スーパーサイヤ人みたいだろ」

 だが、マリカは鼻で笑った。そして、今度はマリカの体から黄金のオーラが噴出した。

「これの事か?」

「これじゃダメなのか?」

 マリカは再び落胆の溜息を吐くと、口を開いた。

「赤の炎と青の炎。どちらが熱いと思う?」

「さぁ、てかいきなり何だよ」

 すると、リュウセイが答えた。

「青い炎の方が温度が高い。つまり、黄金のオーラよりも更に上の段階。白銀のオーラの力を引き出さなアカンちゅう訳やな」

「その通りだ。黄金のオーラなど、若い色だ。中途半端な……。それがお前達に出せるのか?」

 口ごもるリュウジとリュウセイ。

 その様子にマリカは蔑んだ笑い声を漏らした。

「だから、私もシオンも、今回のメンバーは脆弱だと懸念しているのだ。これは、今に限った事ではない。最低限、白銀のオーラを纏える位でなければゲラヴィスク教にも勝てん」

 こみ上げる苛立ちと腹ただしさ歯がゆさに、鼻息荒げに胸の前で腕を組むマリカ。

 そして、マリカは吐き捨てるように言った。

「今のお前達じゃ、前回のような奇跡は起こせん。それだけは確かだ」


 ここ最近でも大幅に力を上げた。

 それでも非力だと突き付けられた現実に、リュウジは悔しさが滲み出し、拳を強く締めた。そしてやり場の無い怒りを吐き出すかの如く叫んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 リュウセイも、自分の掌一点を見つめながら、険しい表情を崩さなかった。


 そのやり取りを目で追っていたアウルとガイは、目の前で薄れ行く希望を、ただ黙って見ているしかなかった。




 雲を突き抜けるエクスフェリオン。

 船に戻ってきたリュウジ達の様子が、出発前よりも沈んでいる事に気付いていたルナ。

 マリカは、相変わらず船尾から下界の様子を眺めている。

 リュウジ、リュウセイ、アウルにガイ。まだ一言も言葉を発してはいない。


 船首から見える森。

 宇宙船が不時着した森でもあり、リュウジがバルシェログと闘った森だ。

 それを見た瞬間、リュウセイはガイがいる舵場へと歩み寄った。

「なぁ、あの森に降りたいんやけど」

「どうしてだ」

「俺が乗ってきた船があんねん。倉庫の武器を片っ端から回収してくるんや」

「わかった」

 エクスフェリオンはゆっくりと高度を下げた。



 巨大な円盤の宇宙船に乗り込んだリュウセイ達。

 メインドライブルームの横にある武器庫。

 壁に掛かっている銃に剣、弓にブーメラン。

「エエやん。コレもエエやん。おぉ、エエやんかぁ」

 うっとりしながら、武器をカバンに詰め込む。

 必要最低限の武器は、転送台に載せた。

 その時、リュウセイは、武器庫の隅に隠れるようにして置いてあった木箱を見つけた。

「何やコレ?」

 おもむろに、蓋を開けると、レンズ球体が所狭しと埋め込まれた黒いメカニックボールが数十個入っていた。

「これ何に使うんやろ?」

 リュウセイは、その内の一つを掴み上げると、唯一色が違うレンズを指で押し込んだ。

 すると、メカニックボールに埋め込まれた無数のレンズに、十個の模様が表示され、それが一つずつ消えていくのが見えた。

 手に伝わる微妙な機械振動。

 一秒ごとに消えていく模様が、何かのカウントダウンを告げている事に気付いた。

 それは、明らかに攻撃型で凄まじい破壊力を秘めている事は明確だ。

「ばっ、ばばば爆弾かよ!?」

 今爆発すれば、地球へ帰る為の宇宙船が木端微塵になってしまう。

 何としてでも、そんな最悪の事態だけは防がなくてはいけない。

 リュウセイは、慌ててメインドライブルームを飛び出し、出入り口の昇降式ターンテーブルに乗り、外に出た。

 そして、無我夢中で空に向かって全力で投げ飛ばした。


 メカニックボールが、木々の枝をへし折り、おい茂る葉を弾き飛ばす。

 次の瞬間、無数のレンズから強烈な閃光が、耳をつんざく程の甲高いビーム音と共に森一体を駆け巡った。

 驚き、顔を伏せ両手で耳を押さえる一同。

 強烈な光は、それから一定時間、辺りの影を完全に消し去った。


「めちゃめちゃエエやーーーーん!!」







 ~次回 第28話「命を捨てる価値があるのなら」Story of HIKARIチーム(中編)~


 バーンニクスに戻ってきたアウル達は、脱獄犯として、ペトレ王や民衆に責め立てられる。

 だが、リュウジは、「今こそ命を懸ける時だ」と民衆に説得を開始する。


 そんな中、アウルはパルを突き放し、パルは城を去る事に。


 そして遂に、闇の軍勢が結界まで到達する。


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