第26話 「大空賊船エクスフェリオン」その1~Story of HIKARIチーム(中編)~
アンリは、格子の窓から青い空を見た。
薄暗く、陰湿な六畳程の牢屋で、リュウセイ、アンリ、リュウジ、ルナ。そして、アウルとガイが閉じ込められていた。
リュウジは、怒りが治まらない様子で、地面に座っていた。
「あの『ぬーん野郎』ふざけやがって」
石の地面に押し付けていたリュウジのバトルグローブが、地面にめり込んだ。
「てか、なんで俺までまたブチ込まれるわけ?」
ガイは、両手を顔の横で広げて肩をすくめた。
すると、リュウセイが鼻で笑った。
「お前が、俺等の仲間やって言うからやろうが」
「まぁ、確かに……」
すると、アウルが立ち上がった。
「それ以上に、俺まで閉じ込められた理由が分からんが、此処から出ないとな」
「そうやな」
アウルは、リュウセイの返事を聞くと、再び牢屋の鉄格子に手を掛けた。
そこへリュウジが駆け寄る。
「無理だって。スーツの力をフルに引き出しても破れなかったんだぜ」
「そんな事は分かってる。魔法の結界が掛けられているんだ。それも、炎の社に掛けられているモノと同じモノだ」
鉄格子の向こう側で、貧相な警備兵士が木の椅子に座り、深い眠りに就いていた。
アウルは、警備兵士が腰に付けている魔法の鍵を引き寄せようと念を送り続けた。
しかし、結界の中からでは、アウルの力でも完全に遮断されていた。
「クソッ!!」
アウルは、諦め、床に腰を下ろした。
頭の後ろで手を組み、壁に背を預けたアウルが口を開く。
「兄さんの事。あまり悪く思わないでくれ」
「思うって」
リュウジが言った。
「何で、あの野郎に付くんだ? 誰が見たって、ここの王は最低だろ?」
「家族が居るんだ」
その言葉に一同がアウルに視線を向けた。
「もう直ぐ子供も生まれるのさ。王に逆らえば、兄さんの家族は国からの補助が受けられなくなってしまうんだ。家族の為なんだよ……許してくれ」
リュウセイは、「と、言うことだ」と言わんばかりに、リュウジの肩を叩いた。
「わぁったよ。しゃーねぇなぁー」
リュウジは、自分らしくない言葉を吐き、むず痒い感覚に襲われながらも、身を引いた。
三角座りをしていたルナは、格子窓から見える空に、何か小さく黒いモノを見つけ、声を上げた。
「あっ?」
その物体を同じく見ていたガイが立ち上がる。
「よしッ」
そう言うと、ガイは、ブーツの中から二本の針を取り出した。
「そんなので開くの?」とルナが問いかける。
「だから、さっきも出れたのさ」
一同の脳裏に、ペトレ王が、最初にガイに会った時の言葉が甦った。
――「どうやって牢屋を抜け出したぬーん」
「その針は?」
アウルは、ガイが握っている針の正体が知りたかった。
「コレは、ロックスパイデスの毒針だ」
「ロックスパイデスって、あの蜘蛛野郎か?」
リュウセイは、手で蜘蛛を表現しながら訊ねた。
ガイは、格子から手を出し、格子の背面になっている所へ感を頼りに針を刺した。
「そこの魔術師も知ってるだろ? ロックスパイデスは、無属性だから、魔法が通じないのさ」
「結界も魔法の一種。だから、魔法の牢屋を脱出できたのか」
アウルは関心した。
「じゃあ、炎の社も、その毒針で開ければ良いんじゃねぇ?」
リュウジの問いかけにアウルは、首を横に振った。
「あそこの結界は、ここよりももっと頑丈だ。何層にも結界が張り巡らせているから、この短さの毒針なんか奥に届かない」
「よし、もう少しで開くぞ」
ガイがそう言った時、牢屋の間へと続く階段から誰かが降りてきた。
慌てて、針をブーツに隠して身を引いたガイと一同。
「兄さん!?」
アウルは、現れた男を見て言った。
その手には、パルの首の襟が強固に握られていた。
「放せッ、コノ!!」
パルは浮いた体で足をバタつかせていた。
ロイドは、持っていた魔法の鍵で牢屋の入口を開けると、パルを投げ込んだ。
そして鍵を閉める。
「おい、警備兵ッ!!」
ロイドの大声に、警備兵は慌てて立ち上がった。
「すいません。寝ていませんです」
「メチャクチャ寝てたやんけ」
リュウセイは空かさずツッコミを入れた。
「もう上がれ。後は俺がコイツ等を拷問する」
「わかりましたです」
そう言うと、警備兵士は階段を上がっていった。
ロイドの行動を目で追う一同。
すると、ロイドは、再び牢屋の鍵を開けた。
「早く出ろッ」
その言葉に、皆が従う。
そして、アウルに一枚の通行証を手渡した。
「兄さんコレは?」
「炎の社への通行証だ」
ロイドはリュウジの方を見て、頭を下げた。
「悪かったな。許してくれ」
「良いって、別に」
一同の顔を眺めるロイド。
「君達がこの国、世界の最後の希望だ。頼む、必ずフェニックスを守り、セーデンを倒してくれ」
「任せとけって」
リュウセイは、拳を縦にし、親指を上に突き出した。
「急げ、今なら誰にも見つかるまい」
「分かった。ありがとう兄さん」
そう言って、去ろうとするアウルの肩を掴んだロイド。
「おい」
「へ?」
そして、ロイドは、自分の顎を突き出し、指でポイントを指示した。
アウルは、その意味に気付き、ニコリと笑った。
そして、軽く拳を突き出したが、ロイドは又も制止した。
「おい、本気でやれよ」
「分かってるって。3つ数えるぞ」
頷くロイド。
「1、2ッ!!」でアウルは、ロイドの頬を全力で殴った。
その方が、変に力まず、不意を付けるからである。
バーンニクス城から、抜け出したリュウセイ達は、城下町から外へ出る門までの斜面を、全速力で駆け下りた。
それに合わせるように、巨大な空飛ぶ船が低空飛行で急接近をしてきた。
「何だアレ!?」
目の前の空飛ぶ船に驚くリュウジ達。
「俺の船だ。エクスフェリオンだ」
自慢げに答えるガイ。
西洋映画で見るような巨大な木製の船が、不思議と空に浮いている。
動力源や、どうやって宙に浮いているのかは分からない。
吹き荒れる風に砂が舞い上がり、草原の草が飛び散る。
船の甲板から幾本のロープが垂らされ、ソレを掴むと、一気に引き上げられた。
そして、全速力で離脱し前進した。
甲板へと乗り込んだガイ達。
そこへ、血相を変えた船員が近づき、慌てた様子でガイに告げる。
「キャプテン!! ディアグロドラゴンがッ!!」
「目を付けられたのか!?」
「はい!!」
「何だとッ!!」
険しい表情を浮かべるガイに訊ねるリュウセイ。
「ドラゴンって、あのドラゴンか?」
「そうだ」
「冗談でしょ」
その言葉に声を上げたアンリ。
「でもアレ見て」
アンリの肩を叩き、雲の上に見える生き物を指差したルナ。
そこには、青いドラゴンが大きな羽を羽ばたかせ、全速力でこっちへ向かって来ていた。
雲を貫き、一直線で向かってくる。
「ディアグロドラゴンは、空の生物を統括する主だ。バルシェログと違って知性も無い、完全なる破壊獣だ!!」
アウルとパルは、突き抜ける風を手で塞ぎながら説明した。
「いきなりピンチかよ!!」「殺るしか無いなぁ!」
リュウジとリュウセイは、ブレスレットを輝かせ、スフィアガンを召喚し、エネルギーを充填し始めた。
「ルナちゃんは隠れてて。私達が必ず仕留めてみせる!!」
アンリも、ブレスレットを輝かせ、レーザーアローを呼び出すと、紅いレーザーの弦に光の矢を引っ掛けた。
「パルッ、魔力は回復しているか?」
「バッチリです」
「じゃあ行くぜ!!」
アウルとパルは、甲板の床に光の魔方陣を出現させ、詠唱を始めた。
「俺達も援護する!!」
そう言って、ガイは、腰巻から取り出した笛を鳴らした。
途端に慌しく現れた船員達。
手には不思議なクリスタルが握られていた。
全速力で雲を突き抜け、風を切るエクスフェリオンの上で、ディアグロドラゴンを迎え撃とうと、全員が身構えた。
「行くぜッ!! 総攻撃だぁぁぁあああ!!」
ガイの掛け声でHIKARIチームは、総攻撃を開始した。
つづく。