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第23話 「もう一つの世界」その3~Story of 神城 空(前編)~

 ソラは、頭に乗っている黒い帽子の位置を微調整した。

 丈が長い帽子の為、ちょっと顔を振るだけでズレてしまう。

 この世界の人達は、よく安定させているもモノだとソラは関心した。


 陰陽師が着用する『狩衣』(かりぎぬ)を身に纏ったソラは、陰陽寮おんみょうりょうの片隅で空を眺めていた。

 白く盛り上がる雲がゆっくりと千切れてゆく。


 バトルスーツでは、目立ち過ぎるとの事で、清明の服を着せて貰ったのだ。

 そして、帰る所も無いと話した所、何の疑いも無く、陰陽寮へ入れてくれた。

 本当は、疑っているのかも知れない。

 だが、清明はそれ以上の事は聞こうとしないし、普通にソラと接してくれる。


「あーあ。マジで、帰れないのかよ……。ずっとこんな世界に閉じ込められて。どうなるんだ俺は。ゲラヴィスク教やガジャルとはどうやって決着を付けるんだ? 誰が、シンジやタケル、松之宮の友達を助けるんだよ? …………」


 アンリの名前を口にした時、最後の出来事が脳裏に蘇る。

「松之宮……」

 アンリを助けようと差し伸べたソラの手とリュウセイの手。

 若干ではあるが、ソラの手の方が近かった。

 それなのに、アンリはリュウセイの手を取った。

 その事が、ソラの中で引っかかる。


 目の前のアンリが、リュウセイに引き寄せられ、宇宙船の壁に激突したソラが最後に口にした言葉……。


 ――「えっ!?」

 それは、壁に激突し、オーロラに吸い込まれたから発した言葉ではなく、あの距離でリュウセイの手を取ったアンリに対しての言葉だった。

 今思うと、ソラの心に小さな傷として刻み込まれていた。


 そんな心のモヤモヤを、大きな溜息と一緒に吐き出した。



 そこへ、白い狩衣を着た清明が、現れた。

「何を思うておる?」

 そう言いながら、ソラの隣に座った。

「いや、色々と……」

「心に思うておる人でも?」

 清明は、持ち前の読心術で、ソラの心を覗き込もうとしていた。

「それもあるかな……」

 ソラは、庭先に見える梅の木を遠くに眺めながら答えた。

「お前の思いは伝えたのか?」

 ゆっくりと顔を左右に振ったソラ。

「なぜ伝えんのだ?」

 清明が、若干の驚きを顔に出しながら訊ねる。

「色々と……」

「また、色々と言ったな」

「えっ?」

「そんな事ではいつまで経っても前へは進めぬぞ」

 そして、清明は続けた。

「色々と言うのは、その名の通り、『色』が沢山あると言うことだ。その色を使ってどんな絵を描くかはお前次第。筆を持つお前が、前を向かずして、どんな綺麗な絵が描けようか? 今のお前の絵はまだらだな」

「まだらか……」


「でも、俺、今は汚い色しか持ってません」

「だったら綺麗な色を作れば良い」

 その言葉にソラの中で何かが変わり始めた。

「作る? ……作る」

 ソラは、心の中の汚い色に惑わされ、それをどうにかしようともがいていた。だが、そこに綺麗な色を足せば明暗や濃淡が生まれ、何かの絵が生まれてゆく。

 辛い事バカリを考えるのでは無く、楽しい事も考えれば良い。

 今は、まだ難しいかも知れないが、いつかはそう出来そうな気がした。


 そして、少しの沈黙が続いた後、ゆっくりとソラは口を開いた。

「清明さん」

「何だ?」

「綺麗な絵、描けるかな?」

「そうだなぁ、それは、お前次第だな」

 ソラに笑顔を投げかける清明に釣られ、ソラも笑顔を見せた。

 清明は立ち上がると、ソラに手を差し伸べた。

「俺がお前の色となろう」

「はい。良い絵、描いて見せます」

 ソラは、清明の手をしっかりと掴んだ。

 その顔は、この世界に来て、一番前向きな表情だった。



 次の日、ソラは、陰陽寮で目を覚ますと、他の学生と共に、朝食を取った。

 陰陽寮は、言わば、陰陽師になるための学校みたなモノだった。

 法術・占い・暦の作成に、星の観測など、様々なモノがある。

 清明は、天文博士として、星の動きから様々な事の流れを読み取る授業の先生をしていた。


 清明が、渾天儀こてんぎと呼ばれる天体観測用の模型を操作している所へ、ソラがやってきた。

「清明さん、それは何をしてるんですか?」

「これか?」

 手を止めた清明が説明を始めようとした時、陰陽頭おんみょうのかみ賀茂忠行かものただゆきが、難しい顔をして、やって来た。

「清明」

「どうされました?」

 体を忠行の方へ向けた清明にソラが続いた。

「陰陽師になりたいと申す者が来ているのだが、ある理由から断ったのだ。だが、一向に引く様子が無く困っておる」

「その『ある理由』と言うのは?」

 すると、忠行は、踵を返し「お前も見た方が、早かろう」と良い、陰陽寮の門に案内した。


 玄関の門へとやって来た忠行、清明、ソラ。

 そこに一人の女が立っていた。

 その女を見た瞬間、ソラに衝撃が走った。


「ま、……松、之宮……!?」

 何と、目の前に立っていた女は、アンリと瓜二つだったのだ。


 清明は、女に問いかけた。

「御主、名は?」

「ユキです」

 女は、凛とした表情で答えた。

 だが、その表情とは相反して、女の衣は薄汚れた安物の着物だった。


 ソラは、その言葉に更に混乱した。

 目の前のアンリそっくりな女は、ユキと言う名前だからだ。

 ソラがはぐれてしまったアンリでは無く、別人である事は確かだ。 だが、偶然以上の何かが心に引っかかるのだ。

 その混乱する様子を清明は見逃してはいなかった。


 忠行は、先程も言ったであろう言葉を繰り返した。

「女の陰陽師など聞いたことが無い」

「それは承知の上です」

 ユキの決意は固かった。


 そして、清明の質問が更に続いた。

「何故、そこまでして、陰陽の術を学びたいのだ?」

 すると、ユキは、鋭く光る眼光を放ちながら、強い言葉で答えた。

蘆屋道満あしや どうまんを殺したい!!」

 その言葉に、清明と忠行の眉が微かに動いた。

「そのような不純な事を思うておる者に、陰陽の術を授けるわけにはいかん!!」

 忠行は、陰陽師を統括する陰陽頭である以上、断固として断った。

 だが、ユキは、それでも食い下がった。

「両親の仇を取りたい。私の両親はアイツの金儲けに利用され殺されたのです。相手が陰陽師なら、私も陰陽師として仇を取りたい。それが私の復讐でもあり、アイツの誇りを打ち砕く術なのです!!」


 清明は、少し考えた後、忠行にある提案をした。

「先生。では、この娘は私が育てます」

「清明ッ!! 乱心したか?」

「いえ、この娘に……何か大きな使命が見えます」

「何だと?」

 忠行は、清明から、ユキへと視線を流した。


 そして清明は、ユキにも、ある約束をさせた。

「お前を受け入れるが、決しておのが復讐の為に術は使わせん」

 ユキは、少し沈黙した後、「はい」とだけ答えた。

 その約束を絶対に守るという保障はどこにも無かったが、清明は、彼女を自分の側に置く事を決めたのだ。

 それは、ユキを初めて見た時のソラの表情の変化を見逃さなかったからだ。

 ソラの秘密を解く鍵となるかも知れない。

 それが、怪しき星の暗示とどう関わっているのかを知る術でもあると清明は考えた。



 そして、この出会いが、ソラ……そしてHIKARIメンバーの、全ての運命を動かす事となる。





 ~次回 第24話「禁断の恋」Story of 神城 空(前編)~


 ソラの前に現れた、アンリとそっくりな女。


 ユキ。


 別人とは分かってはいるが、いくら葛藤しても何故かユキに心惹かれてしまうソラ。

 それはユキも同じであった。


 平安の時代で生まれた恋の行方はどうなってしまうのか?


 そして、清明とソラの前に、闇の陰陽師あしや 蘆屋道満どうまんが現れる。


 ソラは、本当にこの世を滅ぼす星の兆しなのであろうか?


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