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第22話 「平和過ぎる国」その3~Story of HIKARIチーム(前編)~

「古の大戦争で現れた5人の戦士。我々の先祖達が『HIKARI』と名づけた。荒れ狂う戦場で暴れる召喚獣に闇の軍団。バーンニクスの兵力は1000人、そしてHIKARIの5人」

 年老いた男が、小さな子供達を集め、昔話を披露する。

 そこにやってきたアンリとルナは、ケーキを頬張りながら耳を傾けた。

「HIKARIの5人の力は凄まじく、瞬く間に敵勢の半数近くを蹴散らした。対する敵側は闇の世界の王『デズモン』、そこへ現れた勇者ラッシュ・ヴェルターナは、4体の神獣と協力し、デズモンと闇の世界そのものを、封印した」

 真剣に聞き入る子供達。

 アンリは、リッツナローの花を浸した紅茶を飲むと、ルナに話しかけた。

「アウルさんの話じゃ、今この国で戦えるのは3人だけなんだって」

「じゃあ、伝説よりも圧倒的に不利って訳ね」

「だから、どうしてもフェニックスを守らないといけないって」


 アンリは、一人で皿に食べ物を取るリュウセイを見つけると、ルナに「ちょっとゴメン」と言い、彼の元へと向かった。


 一人になってしまったルナは、最後のケーキの一切れを口に入れると、退屈そうに、席を立った。

 そして辺りを見渡す。

「こんな世界があったなんて……私達、無事に帰れるのかしら。早く帰らないとみんな心配してるだろうなぁ」


 ルナは、催し物コーナーへと来ると、射撃ゲームを見つけた。

 射撃ゲームは、唯一娯楽として、認められている、貴族達の遊びの一つだ。

 手作りで作られたエリアに、木で作られたターゲットがランダムで登場すると言ったものだ。

 銃は、もちろん女性でも扱えるオモチャだ。カルクと呼ばれる木の実を詰めて撃つ仕組みだ。


 ルナは銃を手に取ると、ランダムで登場する人型のターゲットに狙いを定めてトリガーを引いた。

 乾いた破裂音が響いたが、弾は大きく右に逸れた。

「あれぇ、はずしちゃった」

 続けて撃つ、撃つ、撃つ。

 外す、外す、外す。

 その時、後ろから射撃をした何者かが、全てのターゲットを撃ち抜いた。

 振り返るルナの目の前に、銃を握ったリュウジがいた。

「テメェ、どんだけ狙いが定まんねぇんだ」

「だって、これ難し過ぎるよ。って言うか、私の銃は不良品?」

 首を傾げるルナにリュウジが歩み寄る。

「貸してみろよ」

 すると、ルナが持っていた銃で、リュウジは見事全てのターゲットを打ち抜く事に成功した。


 ――ほら見ろ

 と言わんばかりのリュウジの目に、ルナは照れ笑いをした。

「えへへへへへ」


「そう言えば、ちゃんとお礼言ってなかったよね」

「何の?」

「私が車に連れ込まれた時に、助けてもらった事」

「あー、気にすんなよ」

 リュウジとルナは、バルコニーの片隅で城下町を見ながら会話をしていた。

「凄く怖くて、あの時は、いきなり『付いて来い』って言うもんだから、私も余計に警戒しちゃって」

「仕方ねぇさ」


「時々思うんだよ……」

 リュウジは遠くを見つめながら語り始めた。

「何?」

 リュウジの横顔に視線を向けるルナ。

「俺が、今の俺じゃなかったらどうなっていたのか? ってな。前世がどうだのスピリットがどうだの、そんな事を考えずに生きていたんだろうなって」


 ――悪として……。


「私はまだ、そんな思いをするのは早いのかな。これからかも……」

 ルナはぎこちない笑顔を作った。

 やはり、本当の気持ちは怖くて堪らないのだろう。

「何かあったら俺に言え。必ず守ってやる。どんな事があろうとな」

 その言葉に、ルナの心臓が大きく脈を打った。

 月の光に照らされるリュウジの横顔が凛々しく思えた。

 ルナの桜色の頬が、赤みを帯びる。

「うん」

 ルナは恥ずかしさを隠す様に小さく頷いた。



 リュウジと、ルナが、城下町を見下ろしていると、一人の老婆が道で倒れているのを発見した。

 助けようと、城を抜け出し老婆の下へと向かう二人。

「大丈夫か!?」「大丈夫?おばあちゃん!!」

 すると、老婆は蚊の鳴くような声で「大丈夫じゃ」と答えた。が、見るからに元気がない。

 酷く痩せ細った体に、こけた頬。

 飢餓特有の外見だった。

「腹減ってんのか?」

 リュウジの言葉に老婆はゆっくりと頷いた。

「私、何か食べる物を持ってくるよ」

 ルナはそう言うと、宴の場へと走って行った。

「すまないのぉ……なんとお恥ずかしい」

「いいって、そんなの。でもどうしたんだ?」

 すると、老婆は、乾いた唇を開いた。

「王の使いが私の家に突然やって来て、食料を全て持って行ってしまったんじゃ」

「だったら断れば良いじゃねぇか」

 すると、老婆は怯えた様子でリュウジの手を握り締めた。

「そんな事をすれば、『争い』とみなされ外の世界に放り出されてしまう。この国で生きていく為には仕方が無い事なんじゃ」


 どうやら、この国には、大きな貧富の差があるようだ。

 争いを禁じられている為、民は国に対して拒否出来ないのであろう。

 言いなりと言うヤツだ。

「あの、ぬーん野郎。アイツが食ってた物も、俺達が食っていた物も……みんなこの町の人達の食料だったんだ」

 リュウジは、理不尽な事実に激しい憤りを感じた。

「許せねぇ」



 牛肉の照り焼きを頬張るリュウセイの下へとやってきたアンリ。

「まだ食べてるんですか?」

「だって、メッチャうまいやん、コレ。しかし、この国も結構裕福な所やなぁ」

 そう言いながら、リュウセイはグラスに注がれていたワインを飲み乾した。


「寺村さんっ」

「何や?」

「私達、ゲラヴィスク教にマインダーにされてしまった親友を元に戻せる『不死鳥の御霊』を探しに来たのに。そのフェニックスを持ち帰ると、この世界が滅んでしまうなんて……どうすれば良いのかなって。この国にいつまでもいるより、帰って別の方法を探した方が良いんじゃないかなって……」


 確かに、アンリの言っている事は正しかった。

 リュウセイ達に冷酷な心さえあれば、フェニックスを御霊にし、持ち帰る事でマインダーにされてしまった人々は元の姿に戻る事ができる。

 だが、現実は、この世界で必死に生きようとしている人々がいて、フェニックスを崇め、守ろうとしている人達がいる。

 そんな人々を裏切れる訳がなかった。


「なぁ、杏里ちゃん。確かにそうやな。でもな、みんなの目ぇ見てみ。俺らの事を『HIKARI(光)』と思い、希望の眼差しを向けてくる。みんな俺らに期待してんねん、この世界を救ってくれるって。それに、俺らの前世もこの世界を一度救ってる。その戦いの続きが今起きてるんや。ここで俺らが帰ったら俺らの前世がどう思うやろか?」

 アンリは考え込むように俯いた。

「それに俺らには前世が残した『力』がある。人の為に使わんでどないするっちゅうんや」


「でも、相手は無限の軍勢なんでしょ? 負けてしまったら元も子もないですよ」

「ここで負けてまうレベルの俺らが『ガジャル』に勝てると思うか?」

 その言葉にアンリは息を呑んだ。

「そうですよね……」


「そうやし、神城を残して帰られへんやろ」

 頷くアンリ。

「どこにおるかは分からんけど。きっと会えそうな気がするんや。やから、もう少し前を……希望の光を見据えてみようや」

 少し間が空いた後、アンリはハッキリと答えた。

「分かりました」



 宝石を身に纏った四人の貴族が、リュウセイとアンリに挨拶をしてきた。

「これはこれは『HIKARI』の方々。お目にかかれて光栄でございます」

 深々と跪き頭を下げる中年の貴族。

「いやいや、頭を上げて下さいよ」「そうですよ、私達、そんな事されるような者でもございませんよ」


 リュウセイとアンリが、貴族の対応に困っていた。

 その時。


 大きな音と共に、王宮の扉が開いた。

 尋常ではない轟音に静まり返る会場の空気。

 アウル、ロイド、ガイ達も入り口に顔を向けた。


 入り口に立っていたのはリュウジだった。

 呼気荒げにペトレ王を睨み付けるリュウジ。

「この糞野郎ッ!!」

 その言葉にペトレ王が慌てふためく。

「ななな、何を怒ってるかぬーん?」

「悪政、貧困に喘ぐ人々の上で、贅沢三昧とは……ふざけるのも大概にしやがれ」


 後から駆けつけたルナがリュウジに静まるよう説得をする。

「ちょっと、いくらなんでもソレは駄目よ!!」

「るせーッ!!」

 ルナに黙るように一括したリュウジ。


「『争い禁止法』を作ったのはテメェなんだよな? テメェが消えれば皆は自由になるんだよなぁ? だったら」

 瞬時に飛び掛ったリュウジ。

 振り上げた拳から光が噴出す。

 怯えて顔を伏せるペトレ王。

「ぬーーーーーーんッ!!」

 そして、激しい衝撃音が王宮に木霊した。


 凍りつく会場。


 リュウジの拳は、ペトレ王には届かなかった。

 ロイドが突き出した剣が、受け止めていたのだ。

「いくら『HIKARI』であっても、この無礼は違法に値する。もしくは『反逆罪』だ」

 銀髪の隙間から、リュウジの怒りに歪む顔を覗き込む二つの眼。

「んだと? この野郎」

 そこへ駆けつけるリュウセイとアンリ。

「沢田ッ。お前何やってんねん!?」「そうよ沢田君」


「こいつら全員牢屋行きぬーーーーんッ!!」

 ペトレ王の大声が会場に響き渡った。


 その言葉にガイは、自分の顔に人差し指を向け、声を出さずに唇だけ動かした。

「お・れ・も?」



 予期せぬリュウジの反逆に状況が一変したHIKARIチーム。

 一体、この先どうなってしまうのか?

 Story of HIKARIチーム(中編)に続く。





 ~次回 第23話「もう一つの世界」Story of 神城 空(前編)~


 宇宙船での事件により、消えてしまったソラ。


 彼は一体どこへ行ってしまったのか?


 その謎が次回明かされる。


 HIKARIチームと同時進行で進むもう一つの物語が遂に幕を開ける。


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