第22話 「平和過ぎる国」その2~Story of HIKARIチーム(前編)~
大玉の花火が漆黒の夜空に煌びやかな花を咲かせた。
演奏家が奏でるアップテンポな組曲が城から洩れる。
王宮で食事やダンスをする貴族達の中で、リュウセイ達もそれぞれの休息を楽しんでいた。
ペトレ王は、相変わらず王座に座り、牛フィレステーキにナイフとフォークを突き刺している。
「たまらなく美味いぬーん。3日ぶりぬーん」
王に気に入れられたい上流階級貴族や、大臣候補、議員などが、王を囲み、胡麻を擦っていた。
人ごみから離れ、城下町が一望できるバルコニーにいたアウル。
パーティーには興味がないといった感じで、物思いにふけていた。そこに歩み寄る一人の男。
「アウル」
振り返るアウルの先に、銀髪の剣士が立っていた。
「ロイド兄さん!!」
二人は、お互いのこれまでの思いを分かち合うかのように抱き合った。
「お前が戻ってきたと聞いて、炎の社から戻ってきたんだ。元気そうで何よりだ」
「兄さんこそ」
「噂は聞いている。『HIKARI』が現れたんだって?」
ロイドは、バルコニーの格子に両肘を付きながら訪ねた。
「あぁ、伝説が現実になるんだ。あのバルシェログを従えたんだぜ」
「バルシェログを? あの森の主だぞ、信じられない」
ロイドは、振り返ると、食事を楽しむアンリとルナを眺めた。
二人で皿にケーキを取り分けている。
「信じられない事が現に目の前で起きている。だから、彼らは奇跡を起こす。そう信じているんだ」
アウルは、期待に目を輝かせた。
「しかし、セーデンが、闇の軍団を引き連れ、ここを目指していると言うのも信じがたい」
「だが、これも事実なんだ。まもなくデカイ事が起きる……。準備が必要なんだ、兄さん」
「だが、この国には、戦える戦士が俺たち以外にいない。しかも、『国宝剣士制度』とか訳のわからん法律が出来ちまったせいで、お前が国を出て行く事に……」
申し訳なさそうに頭を下げるロイドの肩をアウルはそっと掴んだ。
「仕方ないさ。争いを必要としない国に剣士は2人もいらなかったんだ。それに、どちらかを選ぶ戦いで負けたのは俺なんだしさ。でもお陰で魔法が使えるようになったんだ」
アウルは、ニコリと笑った。
「ところで、兄さん。その様子だと炎の社はまだ襲われていないようだな」
「あぁ、どうせ、強力な結界が張られている。俺なんて飾り付けのチェリーみたいなものだ。王が発行する魔法の許可証がないと、たとえセーデンであろうと入る事はできん」
「だと良いけど……」
アウルは、セーデンがどんな技を使い、結界を突破するのか、不安で仕方がなかった。
右手にチキン、左手にパンを握り、数日分の食料を胃に溜め込まんばかりの勢いで食事をする空賊の男。
自らをHIKARIだと偽り、リュウセイ達に掛けられた疑惑を払い去った。
「さっきはスマンな」
そう駆け寄ったのはリュウセイだ。
「いやいや、良いって事よ。俺も自由の身だしな。しかしこの国はアホみたいに警備が薄いな」
男は、チキンを頬張ると、その手でワイングラスを掴んだ。
「まだ名前聞いてなかったな。俺は流星や」
男は、パンパンに腫れ上がった口で自己紹介を始めた。
「うぉへは、ふぁいふぁ。ふぉふぉふぃふふぁ」
「ま、……まず飲み込めや」
男は、口の中の物を飲み込むと改めて自己紹介を始めた。
「俺は、ガイだ。よろしくな」
握手を求められた油だらけの手をリュウセイは、一瞬躊躇したが、仕方なく手を握った。
どこかリュウジに似ているガイ。
しかし、リュウジよりは、毒が少なく感じる。
「ところで、『空賊』って何なん?」
「天を駆け巡る大盗賊。盗賊、海賊と違って俺達は道を選らばねぇフリーダムな盗賊なんだ」
油まみれの手の平を空飛ぶ船に見立てて飛行させる。
「そんなお前が何でこんな警備の薄い国に捕まったんや?」
リュウセイは、傍らのテーブルに置かれていたオードブルを齧った。
「あそこの剣士にコテンパンにやられちまってよぉ。俺としたことが鉄柵の中にポイッだ」
ガイは、バルコニーでアウルと会話をしているロイドを指差しながら言った。
「でも、何かを盗もうとしたんやろ?」
「まぁな。『魔法の許可証』ってヤツさ」
「そういやアウルも『魔法の許可証』とか言ってたなぁ。フェニックスの所に行く為に必要なんやろ?」
「あぁ、俺は『フェニックスの御霊』を頂きに来たんだ」
「なんやて?!」
リュウセイの顔から笑みが消えた。
フェニックスを殺せば、闇の軍勢の勝利となってしまう。
それを望んで『フェニックスの御霊』を手に入れようとするのならば、この瞬間から敵となってしまう。
その為に、リュウセイ達を利用して自由になったのか?
「目的は?」
リュウセイは、単刀直入にガイの真意を訪ねた。
すると、ガイはゆっくりと口を開いた。
「この世界が滅ばない為に、フェニックスの御霊を俺達がかくまう。この国には任せておけん」
「なんやと?」
予想外の返答に、リュウセイは少し混乱した。
「いいか、フェニックスや、その他の神獣は、『御霊』になったからと言って死んでしまう訳じゃない。その御霊を破壊して初めて死んだ事になるんだ」
ガイは、左手に握っていたパンを齧った。
「この国はじきに滅ぶ。必ずな。だから俺がフェニックスを御霊にし、持ち逃げするのさ」
「なぜ、滅ぶと決め付けるんや?」
リュウセイは、自分達でも太刀打ちできないと言わんばかりのニュアンスに聞こえ、イラッとしながら訪ねた。
すると、ガイは、手に持っていた食料をテーブルに置き、遠くを見つめながら答えた。
「俺は、見た。空からな。大地を染める暗黒の大海原。奴らの軍勢の端から端が視界内では捕らえられない……まさに無限だ。戦う以前に飲み込まれちまう。風の神獣を崇めていた国。ここよりも数倍も大きな国が、たったの5分。たったの5分で跡形もなくなったんだ」
ガイは手の平を広げ、指で五を示した。
「本当に、アンタ達に奇跡が起こせるもんなら、見てみたいもんだぜ……」
その言葉に、リュウセイは「任せとけ!!」とは言えなかった。
ガイの言葉が真実ならば、想像以上だったからだ。
フルーツを齧るパルが一人の女の子を見つめていた。
金の巻き髪の女の子。ホワイトピンクのドレスに赤いヒールの音を鳴らす。
「あんなのが好みなんか? お前には似合わんぜ」
パルの後ろで声を掛けるリュウジ。
「うるさいな」
「んだと、俺がせっかく必殺の口説き文句を教えてやろうと思ったのによ」
「そんなのいらないよ」
パルは拗ねた表情を見せた。
「そんなに拗ねんなよ」
その時、パルと同年代程の、三人の男の子がパルの元へとやってきた。
「負け犬パル何しに帰ってきたんだ」「お前の居場所なんかもう無いんだよ」「負け犬アウルのお供だもんなぁ」
へらへらとパルを蔑む三人。
悔しいのか、パルの手の中にマナが集中し始める。
魔法をこんな所で解き放つのか。
争いを絶対に許さないこの国でそんな真似をすれば間違いなく牢屋行きだ。
リュウジがパルを止めようとした時、パルは自分から手の中のマナを消し去った。
何も言わずに無視を続ける。
何の反応も無いパルに飽きたのか、三人の子供達は遠くへと遊びに向かった。
「争いを禁止してる国にしては、ガキが、争いを起こそうとするとはな」
「僕達子供はそんなもんさ。15歳になれば法律で規制されるんだけどね」
そうリュウセイに説明をするパル。
そんな話をしている内に、パルが見つめていた女の子は、別の男の子と手を繋ぎアツアツのカップルのように楽しい一時を味わっていた。
「なんだアイツ!! 俺が、蹴散らしてやろうか?」
「もう良いよ!! 僕が居なくなった間にも時間は進んでいたんだ……仕方ないよ」
そう言うと、パルは寂しそうに人ごみの中に紛れて行った。
何故か、自分の弟のように感じるリュウジは、心配そうにパルの背中を最後まで見送った。
宴は、まだ始まったばかりだ。
最初で最後の……。
つづく
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