第21話 「召喚獣と神獣」その3~Story of HIKARIチーム(前編)~
目が覚めたパル。
板木が繋げられている天井にランタンが吊り下げられていた。
「ここは?」
パルはベッドの上で起き上がると、辺りを見回した。
ログハウス的な、木に囲まれている一室。
窓の外は真っ暗な夜の世界が広がっている。
「僕は、確かロックスパイデスに……。で、みんなが助けに来てくれて。……助かったんだ」
置かれた状況から、今の状況を推測するパル。
床に足を下ろすと、アウルに会う為、扉を開けて階段を降りた。
長い廊下に幾つもの部屋が存在している。
格扉の表札に番号が記されている所を見ると、、恐らくここは宿なんだと悟った。
パルは、おもむろに目の前の扉の取っ手を掴んだ。
どうやら鍵は掛かっていないみたいだ。
部屋の中に誰かいないか覗き込む。
丸太を敷き詰め、その上にマットを敷いたお粗末なベッドの上でシーツからはみ出る女の白い足。
所々から顔を除かせる長い太もも。
下着姿のルナが、シーツ一枚に包まっていたのだ。
途端に、心臓が早鐘のように鼓動が激しさを増した。
確かに、この季節は暑くて夜は寝苦しい時もあるが、女の子が下着姿で寝るなんて、この世界の常識では考えられなかった。
見てはいけないモノ。しかし、思春期の少年には、高鳴りを増し続ける心臓の鼓動を沈める術は知らなかった。
寝返りを打つルナのショーツとピンクのブラが曝け出され、息を呑むパル。
その時、パルの肩に何者かの手が乗った。
「なーに見てんだ。糞ガキ」
驚き飛び退いたパルの目の前に、ボクサーパンツ一枚を身に纏うリュウジがいた。
「お、おお、お前こそこんな時間に何してるんだよ。しかも下着一枚なんて」
「暑いんだよココ。クーラーもねぇしな」
そう言うと、リュウジはルナが寝ている部屋の扉を閉めた。
「お前には、まだ刺激が強すぎるだろ。まずはナンパから始めやがれ」
「な、なんぱ?」
繰り返すパル。
「てかお前、彼女はいるのか?」
リュウジは、寝癖ではねた髪の毛を手グシで整えながら訊ねた。
「カノジョ?」
その言葉を初めて聞いたかのようなリアクションを見せるパル。
「ガールフレンド? 女友達……よりはもうチョイ親しい関係だな」
「そんな言葉もないし、コールディンでは、生涯に愛する異性は一人と決まっているんだ」
「おぉ、すんげぇ硬派だな。人生の大半を損してるぜ」
リュウジの言っている言葉が理解できないのか眉を潜めるパル。
「ちなみにお前、今何歳だ?」
「12歳だけど……」
リュウジは、鼻で笑うとパルの頭を掴んだ。
「俺が、女の落とし方を伝授してやるよ」
「べ、別にいいって」
嫌がるパルを強引に引きつれ、リュウジは、階段を降りていった。
真っ暗な部屋に、男のうめき声が木霊していた。
「ぐっ、ぐぉぉぉっ……」
床に落ちている乱れたシーツ。
枕もとのに置かれていた花瓶が粉々に割れ、水が木の床に飛び散っている。
「また……やんけ……痛ッ!! クソぉ」
頭を両手で抱えながら悶え苦しむリュウセイ。しかし、その原因はリュウセイ自身も身に覚えが無かった。
「この世界に来る前に、ヒール博士に治療して貰えばよかったのに……うぅ……ッ……」
翌朝、荷支度を済ませたアウルが、赤いバンダナを額に巻きながら、一階のロビーへと現れた。
一番乗りだと思っていたが、すでにリュウセイが、テーブルに付きスープを飲んでいた。
「もう起きてたのか?」
「あぁ……まぁな。暑くて寝不足や」
「たしかにこの季節は夜になると昼よりも暑くなるからな」
アウルも席に着くと、宿主にスープを頼んだ。
モーニングサービスと言うヤツだ。
「あとドンくらいでバーン二クスに着くんや?」
アウルは湯気が立つスープを一口すすると、カップをテーブルの上に置いた。
「順調に進めれば、今日中には着くと思うぜ。それに、急がないとセーデンの軍勢がバーン二クスにまで到達してしまうしな」
「じゃあ……」
その先の展開が読めたリュウセイ。
リュウセイの言葉の続きをアウルが直接口にした。
「バーン二クスが攻められるのも時間の問題だ。あそこが陥落し、フェニックスが殺されたらこの世は終わりだ」
再びカップを手に取ったアウルの手に、力が入る。
「勝てるのか?」
その言葉に、アウルはため息をついた。
「セーデンの軍勢は何人くらいか分かるか?」
「そんなん分かる訳無いやんけ」
「無限だ……」
「無限て……」
小馬鹿にした笑いを鼻でしたリュウセイ。
「それがセーデンの強みだ。闇の属性を持つ軍団を率いている。このままでは間違いなくこの世界は終わる。だけど、君達『HIKARI』が現れた」
再び、希望に満ちた眼差しをリュウセイに向ける。
「いや、だから、俺らはそんな事言われても、戦えるか分からんし、相手は無限やろ? 無理やろ……」
「でも、伝説の通りになっているんだ。きっと君達がこの世界を救う」
「んなアホな」
リュウセイは、残りのスープを飲み干した。
ロビーに集まった一同を確認し、アウルは、椅子から立ち上がった。
パルが、大きなリュックサックを担ぐと、小走りで後を追う。その後ろを、リュウセイ達が付いていった。
宿を出発し、草原地帯を突き進む。
もちろん行儀良く道なんか用意されていない。高々と生い茂る硬い草を掻き分け続けた。
「あぁ~もう嫌。手が痛いぃ。どこまで行く気なの?」
真っ先に根を上げたのはルナだった。
バトルスーツを着用していないルナだけ、手が真っ赤に腫れていた。
アウルは立ち止まると、遠くに見える山を指差した。
「もう少しだ。あそこの山にバーンニクスがある」
それは、まだ、大気で霞んで見えるほど遠くに見えた。
「ふざけんなよッ」「え~冗談でしょ」
途方も無い距離に意気消沈したリュウジとアンリが、地面に座り込む。
「なぁ、アウル、本間に今日中に着くんか?」
「あぁ、今日の深夜には着くはずだ」
あっさりと答えるアウル。
一同の顔からは余裕が消えていた。
しかし、アウルとパルは、リュウセイ達以上に長い道のりを越えてきた。
そんな彼らにとっては、残りの道のりは『もう少し』なのだろう。
その時、リュウセイ達が掻き分ける草の先に、薄い緑の半透明の物体が蠢いていた。
直径二メートル程の巨漢の液固体モンスター。
「コイツは『グミ』だ。そんなに手ごわくも無い」
身構える一同の中から真っ先に飛び出したリュウジが、笑みを見せながら拳を振りかぶった。
「退屈してたんだ。遊ばせてもらうぜクソが!!」
~次回 第22話「平和過ぎる国」Story of HIKARIチーム(前編)~
バーンニクスに到着した一同。
しかし、そこは「戦い・争い」と言う概念を全く持たない国だった。
それが、平和に繋がると豪語する王に、不信感を募らせる。
セーデンの軍勢に対抗する術はあるのだろうか?
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