第21話 「召喚獣と神獣」その2~Story of HIKARIチーム(前編)~
通路を塞ぐ岩盤が砕け散った。
舞い上がる砂埃に、顔を伏せるリュウセイとアウル。
少しずつ砂埃が薄まり、視界が確保できた二人の目の前に、血だらけで横たわるバルシェログの姿が見えた。
――「誰がやったのか?」は、言うまでも無く、その傍らで立ち尽くすリュウジだ。
「お前が……やったんか?」
恐る恐る訊ねるリュウセイ。
いくら年下だからと言っても、自分でもどうこう出来る相手じゃない物を倒したリュウジに、恐怖すら感じた。
頭部の一部が吹き飛び、えぐれた脳が血に染まっている。それらの状況を整理し、アウルが口を開いた。
「君がやったんだな」
リュウジは、血に染まっている右手で垂れた前髪をかき上げると、大きくため息を吐いた。
「俺だけど、俺じゃない……」
「もしかして、入れ替わったんか?」
ある可能性を察知したリュウセイ。それは、スピリットの記憶と、自分の意識が入れ替わる事。
リュウジは声には出さずに首だけ縦に振った。
落ち込んでいる訳でも無い。ただ、自分と入れ替わった記憶に対しての激しい憤りと、そして、そこまでスピリットを追い詰めた自分への怒り。何よりも、自分の力で、バルシェログを倒していないと言う、やり場の無い、例えようの無い脱力感が全身を満たしていたのだ。
「でも、お前が無事で何よりやんけ。結果良ければ全て良しや」
まだ、納得の行っていない不満気な表情を浮かべるリュウジ。
その時、バルシェログの亡骸が青白く輝き始めた。
振り返る一同の目の前に、無傷のバルシェログが両腕を胸の前で組み、リュウジ達を見下ろしていた。
――復活したのか!?
そんな最悪の状況を想定したが、バルシェログの亡骸は今でも、無残な姿で横たわっている。
「幽霊……か?」
リュウセイが首を傾げた時、バルシェログが口を開いた。
「我ヲ倒ス者ヨ 我ノ力ガ欲シクバ 願ウガ イイ」
「契約を持ちかけている。バルシェログが」
驚いた様子で見上げるアウル。
「力になってくれるのか?」
リュウジの質問にバルシェログはゆっくりと頷いた。
「だったら、願ってやるよ。今度は、思う存分に暴れさせてやる」
笑顔を取り戻したリュウジの元へ、亡骸から浮かび上がっていたバルシェログが無数の光の粒となって集まり始めた。
掌の中に集まる青白い光が、その濃度を更に上げてゆく。
そして、その光は、透明なダイヤモンド型の魔石へと変化した。
「これは……?」と、指で掴んだ魔石を覗き込むリュウジ。
透明な魔石の中で、蒼い光が蠢いている。
「おめでとう。それが君の召喚獣だ」
祝福を込めたアウルの言葉にリュウセイも続いた。
「マジか!? お前やったなぁ」
「これが……俺の召喚獣……」
「じゃあさぁ、アウルも持ってるんか? 召喚獣が封印されてる魔石を?」
「あぁ。もちろん」
リュウセイの言葉に返事をすると、アウルは、腰に括り付けていた革袋から、四つの魔石を取り出した。
形も色も様々な特徴を持っている。
すると、アウルは、直方体の紅い宝石を取り上げた。
「コイツが、君達の前にも姿を現せた『サラマンダー』さ」
「へぇ」
「で、これが、アストラルの荒海で契約を結んだ『アクエリオス』。これが、グルナール大砂漠のウィン遺跡で契約を結んだ『ハイマンドクオレイス』。そしてこいつが、聖地サフォーヌで契約を結んだ聖騎士『ヴァンストライク』だ」
自慢げに説明するアウル。
「俺達が探してるフェニックスも召喚獣なのか?」
リュウジの言葉にアウルは眉をひそめた。
「それマジで言ってんのか?」
アウルは、魔石を革袋に入れながら説明を始めた。
「他の世界から来たんなら、知らなくても仕方は無いけど。一応この世界は、召喚獣とは別に存在する、4体の神獣によって支えられているんだ」
「4体の神獣?」
リュウセイは繰り返した。
「この世界の基礎を司る4つのマナを作りし神。風を司る神獣『グレイオ』。水を司る神獣『マリモア』。土を司る神獣『ガルダンテ』。そして君達が探している火を司る神獣『フェニックス』。この四体の神獣のお陰でこの世界にマナが存在し、生命が育まれている」
アウルは、岩陰で気を失っているパルを担ぎ上げると、出口に向かい歩き出した。
「4体の神獣は、この世界の生命を育んでいるのと同時に別の役割もあるんだ」
「それは?」
リュウジがアウルの顔を覗き込んだ。
「今から、約800年前に、闇の勢力がこの世界を飲み込もうとしたんだ。その時に、4体の神獣は人間と協力し、闇の勢力を封印した」
「つまり、4体の神獣が、闇の封印の扉を塞いでるって訳やな」
頷くアウル。
「だが、今現在、その扉の4つの鍵の内3つが破られている」
次第に神妙な面持ちへと変わる。
「もしかして、寿命で死んでもうたとか?」
「いや、殺されたんだ。『セーデン』と言う魔術師が闇に堕ち、この世界を闇で覆い尽くそうと、神獣を……。あと残るはフェニックスのみ」
「だから俺は、最後のフェニックスを守るべく旅をしていたんだ」
「そんで、俺らが『フェニックスの御霊』がいるって言った時に襲ってきたんか」
アウルは、頭を掻きながら「てっきり『セーデン』の仲間かと思ってしまったんだ」と軽くはにかんだ。
洞窟から脱出したリュウセイ、リュウジ、アウルとパルを見つけ、駆け寄るアンリとルナ。
傷だらけの一同に驚く二人。
「大丈夫ですか!?さっき、蜘蛛の大群が洞窟内から飛び出してきて、中で何があったのかと……」
心配するアンリの肩をリュウセイはしっかりと掴んだ。
「大丈夫や。パルも救出したし」
「で、アウル達はこれからどこに行くんや?」
「とりあえずこの森を抜けて、『バーン二クス』と言う城国へ行く。そこで、魔法の許可証を手に入れないと、フェニックスが住む場所には行けなくなっているんだ。もし良かったら一緒に?」
「あぁ。俺らも一緒に行くわ」
リュウセイは、即答した。
つづく