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第20話 「バルシェログの森」その3~Story of HIKARIチーム(前編)~

 空を覆いつくす木々の隙間から、オレンジ色の光が差し込む。

 暖かみを感じられるその光は間違いなく夕日によるものだ。

 そしてそれは、当たり前のように日が沈む事を意味している。と同時に、奴等の夕食の時間が迫っている事を暗示していた。


 それまでに、奴等の巣に到着しなければ、間違いなくパルは、食される事になる。


 ――「是が非でも、パルを救い出す」


 その思いを胸に、焦るアウルを筆頭に、樹海の奥へと道無き道を突き進む。


 大木の枝から大木の枝へと飛び移る。

 硫酸の滝の裏へ回り、七色に光る植物を掻き分ける。

 その先に、巨大な洞窟が現れた。

 ビルを丸ごと飲み込む程に開いた、巨大な開口部。


「あそこが怪しいよなぁ」

 岩場の隙間から顔を覗かせるリュウジが、背に担いでいたルナを降ろし、中の様子を伺う。

「いや、ここで間違いないだろう。奴等の足跡が中へと続いている」

 ロックスパイデスの気配が無いと分かったアウルが、開口部へと歩み寄る。

 アウルに続こうとするアンリの肩をリュウセイが掴んだ。

「お前は、ここに残ってろ」

「えっ!?どうしてですか?」

 豆鉄砲を喰らったような顔でアンリが訊ねる。

 すると、リュウセイは、後方からおぼつかない足取りで近づくルナを背後に、親指で指し示した。

「アイツまで、餌になるやろ。ここで守っといてくれ」

「でも……」

 少々納得の行かないアンリに、半ば強引にリュウセイは命令した。

「頼む。お前しかおらへんねん(いない)。なっ」

 アンリは、ねた様に頬を膨らませながら渋々了解した。

「わかりました……」


 ルナを守る為に、人員を一名残す。

 消去法で残った自分は、実質上戦力外なのだと思い、落ち込むアンリ。

「やっぱりそうなるか……。私……一番役に立って無いし……」

 いつまで経っても非力な自分への悔しさ。目に涙を溜めたアンリは、ゆっくりとルナの元へと近づいた。



 洞窟に入ったアウルとリュウセイとリュウジ。

 光さえ届かない暗黒の空間に驚く二人。

「寺村さん。何も見えねぇっすよ」

「完全に真っ暗やな」

「ライターライター。ポケットに入ってなかったっけ?」

 手探りでリュウジは、自分のポケットを探った。が、そんな存在すらなかった。

「あのジジイッ。ライターまで盗るかよッ!!」

 ノアを出発前にヴァキルト博士が、リュウジから没収したのはタバコだけではなかった事に改めて怒りを露にする。

 その時、アウルが呪文を唱えた。

「アスディケール・エルペェンタム」

 すると、三人の視界にハッキリと洞窟内部が見えるようになった。

「おぉっ!!メッチャ見える」

 驚きと喜びが同時に飛び出たリュウセイとリュウジ。

「今の魔法は、暗闇でも目が見えるようになる魔法だ。これで、暗闇も怖くないだろう」

 洞窟の奥の様子を伺いながら、アウルは説明した。


 ゴツゴツとした岩の塊のような洞窟。

 一つ一つの大きさが三トントラック程の岩が、折り重なり、支え合う形で、洞窟となっている。

 上を見上げても、天井の岩まではハッキリ見えない。

 どこか埃っぽい臭いの中、地面をる音が響き渡る。

「パル……直ぐに助け出してやるぞ」

 三人は、更に奥へと進んでいった。




 意識を失っていたパルはゆっくりと目を開いた。

 長い間眠っていたかのような感覚が残る。

「あれ?真っ暗だ……それに、体が動かない」

 暗闇の中、体を揺すっていると、硬い爪のようなモノが体に当たった。

「ん?」

 それが、パルの体を引っ張り、突く。

 更に体に当たるモノが増えた。

 パルは、その正体を確認する為に魔法を唱えた。

「アスディケール・エルペェンタム」

 同時にパルの絶叫が洞窟内に木霊した。


 蜘蛛の糸で雁字搦がんじがらめにされたパルは、巨大な蜘蛛の巣の真ん中に貼り付けられていた。

 その周りで、腹を空かせたロックスパイデスが、パルを囲む。


「この野郎ッ、あっち行け!!」

 何とかこの状況を切り抜けようと試みるパルだったが、攻撃魔法を使えるだけの魔力は残ってなかった。

 故に、体を揺する事が精いっぱいの抵抗だった。


 その様子を見て、興奮するロックスパイデスの群れ。

 八本の手足を研ぐように擦り合わせる。

 先にパルを食べようと飛び出した一体を、周りの何体もが、阻止し、蜘蛛の巣から落とされる。

 互いに牽制しあっているのだ。

「お前達なんかに食われてたまるか!!」


 その時、ロックスパイデス達が一本の糸道を開けた。

 その糸道の置くからゆっくりと近づいてくる何かを覗き込むパル。

 現れたのは、他のモノよりも二倍ほど大きなロックスパイデスだった。

 手足の太さも比べ物にならず、大きな八つの目全てにパルが映る。

 そして、久しぶりの新鮮な餌に、噛まれると二度と獲物を離さないような口から、涎が垂れ流れていた。

 間違いなく、コイツが先にパルを食すのだろう。


 嫌でも察知してしまうその予感に、全身の血の気が失せる。

 言葉も出ず、冷や汗だけが噴き出る。



 大きく開いた口が、パルの体に纏わり付く蜘蛛の糸を噛み千切る。

 凄まじい噛む力に、驚きと恐怖を隠せないパル。

 パルのはらわたから一噛みと行きたいのか、蜘蛛の糸を切除していく過程を楽しむ。

 次の一噛みで、パルが羽織っていたショートマントが食い千切られた。

「うわぁ!!もう駄目だぁぁッ。師匠ぉぉぉぉッ!!」


 断末魔にも似た叫び声をあげたパルの頭上を、炎の球が突き抜け、大きなロックスパイデスに直撃した。

 更に、驚き距離を取ったロックスパイデス達へ、無数の光の球が激突する。

「パルッッ!!待ってろ、助けに来たぞ!!」

 アウル達の登場に歓喜の声を上げるパル。

「師匠ぉぉッ!!」


 『エネルギー充填までおよそ164秒』と書かれている銃のモニターを確認したリュウセイは、一度ブレスレットで帰還させると、今度は光の大剣を呼び出した。

 一気に飛び上がり、上空の蜘蛛の巣をメッタ斬りにしてゆく。


 その隙に、零れるように落ちゆくパルを見事空中でキャッチしたアウル。

 着地すると、通路の岩場へ避難させた。


 雨のように落ちるロックスパイデスの大群目掛け、リュウジが、ヴァキルト博士特製のスフィアランチャーを放った。

 前回の遺跡でリュウセイが使い、守護神像を粉々にした破壊力抜群の兵器だ。

 六発の砲弾が、先頭のロックスパイデスに衝突するや、大爆発を巻き起こし、その爆発に巻き込まれたロックスパイデスが更に爆発を起こし、それに巻き込まれ大爆発を起こす。

 凄まじい爆発の連鎖が、巨大な岩の空間を激しく揺さぶる。


「へいへーい。効果絶大だぜ、バッキャローめ」

 ガッツポーズを決めるリュウジの目の前に、一際大きなロックスパイデスが降り立った。

 仲間を殺された怒りから仁王立ちになり、六本の太い腕を大きく掲げる。

 その様は、まるで不動明王に近い。


 上空から急降下をするリュウセイが、ボススパイデス(省略)の背後を狙い、人一人分の大きさもある光の大剣を振り下ろす。

「死にさらせ蜘蛛野郎」

 だが、八つの紅い目がそれを見逃す訳が無かった。

 大剣がボススパイデスを両断するよりも、リュウセイの腹部を殴りこむ腕の方が速かった。

 強制的に吐かされた唾を残し、遠くの壁に激突するリュウセイ。手から零れた光の大剣がブレスレットへと帰還した。


 バトルウェアスーツを着ていても、腹部に掛かるプレッシャーに怯むリュウセイが、リュウジに激を飛ばす。

「やったれ沢田ッ……。スピリットの力を解放しろ。宇宙船の中でも出来てたやろ」

「任してくださいよ」

 自信に溢れた笑みを見せ付けたリュウジは、足を開き、腰を低くし、全身に力をめ始めた。

「ふんっ!!」

 瞬時に肌に吸い付き膨れ上がる、ジーンズジャケットの下に着たシャツとズボン。


「おい、沢田。それは単にスーツの力を解放しただけやろ。お前本来の力を解放しろやっ」


「分かってますよ」

 再び全身に力を籠め集中するリュウジだったが、それ以上の変化は見られなかった。

 目の前の現実に嫌な予感がリュウセイを襲う。

「お前、もしかして……、まだ自由に力を解放でけへんのか?」

 リュウセイの言葉にゆっくりと体勢を戻したリュウジは、振り向きざまに照れ笑いをした。

「へへへ……」

「へへへちゃうやろ、アホぉぉッ!!」



 その間に、飛び出したアウルが、ボススパイデスの膨らむ腹部に刀剣を突き立てた。

 一瞬、怯んだボススパイデス。だが、すぐさま反撃を開始した。

 アウル目掛け振り下ろす大きな鍵爪。

 バックステップでかわしたアウルは、五指を地面にえぐり込ませた。

「グウェン・ダイナソー!!」

 指先より発せられた魔力が、地中を激走し、土のマナを吸い上げる。そして、ボススパイデスの足元から一気に地上に噴出した。

 金色のエナジーと共に、凶器と化す地盤がボススパイデスに襲い掛かる。

 しかし、荒々しく尖る地盤を、全ての手で受け止める。

 そして、そのまま地盤を押し返し、元の平坦な地面へと戻した。

「バカな……。無属性でも、物理的な攻撃なら勝てると思ったのに」


「お前は下がっとけ。コイツは俺等が退治したる」

 リュウセイとリュウジが、剣を構え、アウルの前に立った。

「馬鹿言うな。俺だってまだヤレる」

 そう言いながら、二刀流で構えるアウル。


 その時、洞窟内に地鳴りが鳴り響いた。

 地鳴りと言うよりは、百獣の王ライオンの吠える音に近い。

 一体、何の音……声なのか……。

 一同の動きが止まる。


 そしてそれは一瞬の出来事だった。


 天井から瞬時に降りてきた化け物が、巨大な牙でボススパイデスを噛み砕いた。


 ――金色こんじきの鋭い眼光に、逆立つたてがみ


 ――岩石をも跳ね返す程に膨れ上がった胸板に、丸太のような太い腕。そしてダークグレーの尖った爪。


 ――それらの強靭な肉体を覆う重厚なボディーアーマー。


 頭部はライオン。体は、人間タイプだが、迫力と大きさが桁外れだ。

 『モンスター』と呼ぶには聞こえが弱すぎる。

 この化け物は、それすら凌駕した存在を放っていた。


 目の前の化け物を見上げる一同。

「なんぼ程デカいんや……?」

 十メートルはあろう背丈の化け物を見上げ、リュウジがこの洞窟の謎を解いた。

「寺村さん。この洞窟……コイツの住家っすよ。だから入り口があんなにデカかったんすよ」


「こいつは……この森の主だ。バルシェログ……」

 攻撃、もしくは回避の為に腰を屈めながらアウルが言った。



 再び、吠えるバルシェログ。

 次の瞬間、バルシェログの巨大な拳が三人を纏めて弾き飛ばした。

 脳が揺れ、骨が軋み、心臓の脈が一瞬止まった。

 壁に激突し、めり込むリュウジ。通路まで弾き飛ばされたリュウセイとアウル。

 バルシェログが、指を動かすと、巨大な岩盤が通路を塞いだ。

 通路を遮る岩盤に歩み寄るリュウセイ。

 中に残っているのは……リュウジ、ただ一人。

「沢田ァァァッ!!」

 スーツの力を解放し、岩盤を殴るが、ビクともしない。

 力なく立ち上がるアウル。

「駄目だ、その岩盤は、バルシェログが作り出した結界だ。アイツを倒さない限り、どうにもならない」

「無理やろそんなん。今の一撃ハンパないやん」

 見えぬリュウジの姿を見るように、どうする事も出来ないリュウセイは岩盤を見つめ続けた。



 地面に崩れ落ちるリュウジ。

 気付けば、リュウセイとアウルの姿が、壁の向こう側に消えていた。

 スーツのお陰で、致命傷には至らなかったが、内臓に届く程の衝撃が今でも残っていた。


 立ち上がるリュウジを見下すバルシェログが、太い腕を胸の前で組み、口を開いた。

「オマエハ、ココカラ、デラレナイ。我ヲ、タオサナイカギリ……」


「あ~そうかい。だったら倒せば良いんだろ?俺は帰らなくちゃなんねぇんだ……。タバコも無くてイライラしてたしよぉ」

 すると、リュウジの体から、金色の光が噴出してきた。

 更に膨れ上がるバトルスーツ……。

 いや、このパワーアップは、バトルスーツによるものではない。

 スーツの内側から押し上げられた為だ。


「ぶっ殺すぞ……クソがッ!!」

 拳に闘気を纏い、バルシェログの頭部を目指して、飛び掛った。






 ~次回 第21話「召喚獣と神獣」Story of HIKARIチーム(前編)~


 遂に始まった鬼神バルシェログ VS 覚醒したリュウジ


 互いの実力は今だ未知数。


 覚醒したリュウジの力とは、どれ程の物なのだろうか?


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