第20話 「バルシェログの森」その1~Story of HIKARIチーム(前編)~
ファンタジー編 魔法バトルの開始です。
自分を魔術師のアウルと名乗った青年。
アウルの後ろにいる金髪の少年が、自分の体の三倍はあるパンパンに張り詰めたリュックサックを背負い、リュウセイ達とのやりとりを目で追っていた。
「魔術師って……ハリーポッターみたいな奴か?」
リュウセイの問い掛けに、「は、はりーぽったー?」と意味が解らないと言った様子で言葉を繰り返すアウル。
「じゃあもしかして、さっきの炎は?」
確信を抱きながらもアンリは訪ねた。
「あぁ。さっきのは火の化身、召喚獣『サラマンダー』って言うんだ」
自慢げに突き出した手を蛇のように見せるアウル。
「どうやったら俺達も召喚獣を出せるんだ?」
リュウジがアウルの下へと歩み寄る。
すると、アウルの後ろにいた少年が、自分の出番だと言わんばかりに前へと出て来た。
「僕が教えてあげるよ。召喚獣は、この世界に存在する『マナ』の結晶を具現化した物なんだ。そこに自分が契約を結んだ召喚獣を降ろすと、共に戦ってくれるって訳。だから、召喚獣を呼び出すには、呼び出したい召喚獣に認められ、契約を結ぶしかないんだ。まぁ、認められるにはそれぞれ条件があるけどね」
大きなリュックを背負いながらも、にこやかに説明をする少年。
リュウセイ達の心を察したのか、アウルが少年の事を紹介した。
「こいつは、見習いで、俺の弟子の『パル』だ」
「よろしくっ」
パルが満面の笑みを見せ付ける。
「ところで、アンタらは、こんな所に何の用なんだ?」
アウルが投げかけた質問に、リュウセイ達は顔を見合わせた。
そして、リュウジが答えた。
「俺達は、『不死鳥の御霊』を探しに来たんだ」
途端に空気が凍りつき、態度が変わった二人。
先程までの穏やかな表情とは一変、憎むべき相手を見るような目で、リュウジ達を睨み付ける。
「えっ……俺、何か間違った事言ったか?」
リュウセイ達の方へ振り返るリュウジ。だが、リュウセイ、アンリ、ルナも彼等の真意が分からなかった。
リュウジ達と距離を開け、身構えるアウル達が訊ねる。
「お前ら『セーデン』の遣いか?」
まったく聞いた事のないワードに首を傾げる一同。
「そんなん知らんで」
「だったら、何故『不死鳥の御霊』を狙うんだ? 理由次第では、お前達をココで倒すしかない」
リュウジ達が、自分よりも弱いと言う意味に感じたリュウジのプライドが黙れる訳が無かった。
「んだとコラァ!!」
このままでは状況が更に悪くなると察したリュウセイは、リュウジを手で押さえながら前に出た。
「俺らは、洗脳された人々を救う為に『不死鳥の御霊』を手に入れにきたんや」
「嘘を付くなっ!!」
全く聞く耳を持たないアウルとパルに、こちらも応戦しなければならないのかと、思案し始める。
「戦うしかないの?」
他の解決策を探ろうとするアンリをよそに、長剣を呼び出すリュウセイと、黒いバトルグローブを握り締めるリュウジ。その後ろで、木の陰に隠れるルナ。
「またおかしくなったの?」
「いや、今は正気やで」
困惑するルナに答えるリュウセイ。
「悪いけど、俺らも、アンタらに構ってる場合や無いねん。さっき助けて貰ったんは感謝してるけど、どうしても俺らと戦うって言うんやったら、こっちも容赦はせえへんぞ」
レーザーアローを呼び出したアンリがリュウジの隣に着いた。
「あぁ、望む所だ。行けっ、パル!!」
そう言うと、飛び出したパルが、両手を前へ突き出した。
「エアルガぁ!!」
途端に発生した暴風がリュウジ達を包み込む。
一斉にスーツの力を解放する。
鋼の鎧の様に膨らんだバトルウェアで、暴風を耐える。
風の魔法を使うパルの後ろで、詠唱を始めるアウル。
赤い魔方陣が草木の地面に映し出される。
「集え、大いなる火の精霊達よ。森羅万象のマナと共にその姿を現せ」
魔方陣から吹き荒れる風で森の草木や花がなびく。
今度は、パルが突き出した指先から、電撃を纏う針が無数に飛び出した。
「サンダーニードルッ!!」
いくらスーツを着ていても、何かしらのダメージがあると察知したアンリは、ブレスレットからエネルギーの盾を呼び出し、光のヴェールを展開させた。
リュウジとリュウセイの前へ立ち、自ら盾となる。
大気を切り裂く稲妻の針が、エネルギーの盾に反射し、パルの元へと帰る。
それに驚くパル。
「うそッ!?」
そのままパルとの距離を縮める。
一気に飛び出したリュウジとリュウセイがパルに殴りがかった。
「ガキは寝とけ」
そう言い、腕を振りかぶろうとしたリュウセイの頭上に灼熱の気配を感じた。
恐る恐る顔を上げた。
こちらを睨み付ける炎の大蛇が大きく口を開ける。
「はは、何のアトラクションやねん」
その時、リュウジが叫んだ。
「寺村さん、下がれぇッ!!」
咄嗟にバックステップしたリュウセイの横を光の球が突き抜けた。
召喚獣サラマンダーへと突進する光の玉。
「やれ、サラマンダー」
大きく開いた口から火炎を吐き、光の球を消し去ろうとした。だが、途端に無数の光の球に分散し、アウル目掛け突き進んだ。
その不思議な動きに驚く。
「何なんだ、あの魔法は?」
銃口から煙を上げる大きな銃を構えるリュウジの後ろで、レーザーアローの赤い弦を解き放ったアンリ。
無数の赤光の矢がサラマンダーを突き抜ける。
アウルは、高く掲げた手を地面に当てた。
「ディフェクト!!」
瞬時にアウルの周りに発生した光の壁が、リュウジとアンリが放った銃撃と矢を跳ね返した。
パルが地面から放った水柱を避けたリュウセイに、サラマンダーが襲い掛かる。
巨大な口を開け、再び灼熱の炎を吐き散らした。
「誰が焼き肉になるっちゅうねん。ボケッ!!」
リュウセイは、パルが作った水柱にソニックウェーブを放った。
切り裂かれた水柱が、水しぶきとなり、サラマンダーに降り注ぐ。
その水しぶきを浴び、蒸発音と共に怯むサラマンダーにトドメのソニックウェーブを放つ。
サラマンダーの炎の体が横真っ二つに裂けた事で、倒せると確信を持ったリュウセイが怒涛の連続ソニックウェーブをお見舞いした。
縦横無尽に切り裂かれるサラマンダーの断末魔が、森に響き渡ると、それに気付いたアウルとパルの動きが止まった。
「そんなバカなっ……。サラマンダーを倒す奴らがいたなんて」
「師匠、僕も魔力を大半使ってしまいました」
狼狽する二人を囲むリュウセイ達。
切り裂かれたサラマンダーが燃え尽きるように姿を消した。
悔しさと焦り、苛立ちから舌打ちをしたアウル。
「もう終わりや」
リュウセイが勝利を確信した。その時。
ルナの悲鳴が響き渡った。
振り返る一同の視線の先に、直立する人型の蜘蛛が、歪な黒い手でルナの首を掴んでいた。
「何なのアレ!?」
不気味なその形態に悍ましささえ感じられる。
「ロックスパイデスだ!!」
バツが悪そうに顔をしかめるパル。
「あぁ。しかも大勢居やがる……俺とした事が気付かなかったぜ」
その言葉で辺りを見回したリュウセイ達。
ルナを捕らえている蜘蛛のモンスターがゆうに百体はいた。
そう、リュウセイ達は完全に囲まれていた。
「何なんだコイツら!?」
あまりの不気味な光景に、リュウジまでもが恐怖に負けそうになった。
だが、ルナを助けようと気持ちを奮い立たせ、気合いを込める。
「大ピンチだな。コイツらには魔法が効かない……」
アウルの言葉に、青ざめるパル。
「コイツら、腹ペコですよ……」
「この野郎ッ!!」
意を決して、ルナを掴むロックスパイデスに殴り掛かったリュウジを合図に、ソニックウェーブとレーザーアローが唸った。
つづく
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