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第19話 「アナザーワールド」その3

 一同が絶望と恐怖に浸る間も無く、船内が大きく傾いた。

 両肩から腰へと伸びる安全ベルトを握り締めるソラが歯を食いしばる。

「寺村さん!!」

 ソラが叫んだ。

「コレって……」とアンリが続く。

「超ヤバイんじゃねぇ!?」

 リュウジの腰がチェアーから浮いた。だが、辛うじて安全ベルトのお陰で持ち堪えている。

「取り合えず、自動操縦から、手動操縦に切り替えるわ」

 リュウセイは、腰を巻きつけている安全ベルトのアタッチメントを外すと、右に傾く船内を進んだ。


 その時、ブラックホールの重力圏内に入った為、急激な加速が始まった。

 宙を浮き、電光監視盤に激突するリュウセイ。

「お前等は来んなよ!!」

 危険な為、一同に注意を促すも、既にルナ以外はベルトを外し、リュウセイの元へと飛び出していた。


「来んなって言ったやろ」

「でも、私達だけじっとしていられません。このまま終わっちゃうなんて嫌なんです」

 アンリは、そう言いながらリュウセイの手を掴んだ。


 しばらくの沈黙の後、リュウセイは、操縦席に座り、目の前の複雑に用意されているボタンを触り始める。

「ボタン配置を聞いてて良かったわ。こんな所で終わって堪るかクソ野郎」

 その時、メインドライブルームの扉が開いた。


「もう遅い、ここで皆死ぬのさ」

 振り返る一同の目の前に、ルナをタクシーで連れ去ったローブの女が立っていた。

「なんでテメェがいるんだよ!?」

 リュウジは、左右に揺れる床を踏みしめながらローブの女に歩み寄る。

 リュウジ達の記憶では、タクシーのフロントガラスから、ローブの女の胸を剣で突き刺し、車体ごと高速道路の壁面を突き破って地上に落下した。

 リュウセイ達の救済で奇跡的にルナは助かったが、致命傷を負っていたローブの女は死んだと思っていた。


 すると、ローブの袖の中から碧く光る水晶玉を取り出し、リュウセイに見せ付けた。

「スフィア……?」

 眉をひそめるリュウジにローブの女は鼻で笑い答えた。

「コイツを落とした事にも気付かんとわな。笑える」

 二人のやり取りを目で追うソラとアンリとルナ。


「私が死んだと……本気で思っていたのか?」

 白い仮面の下から見える口元が笑う。

「さぁ。生憎テメェみたいなクズの事を思う程、暇じゃねぇんだ」

 リュウジも負けじと笑みを見せ付けた。



 後方での揉め事が気になるも、リュウセイは、操作ボタンとパネルを指でなぞっていた。

「あった。コレや」

 一際大きな赤い丸ボタンを押し込んだ。

 だが、船内のアナウンスはそれすら受け付けようとしなかった。


『スフィア手動射出失敗。射出口が損傷しています』


「このボケぇえ!!」

 リュウセイは、やり場のない怒りを拳に込め、操作パネルを殴った。

 すると、アナウンスより『スフィア射出完了。設定経路から大きく離脱しています』と、どうにか発射させることに成功したが、結局目標に向けて飛んでいない事が判明した。

 そして……。


『スフィアシグナルロスト。スフィアシグナルロスト』と繰り返す。


 振り返るリュウセイの目の前でローブの女の高笑いが木霊する。

「何がおもろいんや?」

 ローブの女は、悲しい表情の白い仮面を自ら外した。

 露になった女の顔。


 その顔は何処にでもいそうなハーフ顔だった。

 ただ、その瞳には光が無く、笑い顔と怒り顔とがない交ぜになっている。

 その表情にルナが叫んだ。

「あっ!! 私を宇宙船に案内した人……」

「なんやって!? ほんじゃあコイツが部屋の鍵を開けて琴嶺を宇宙船に招き入れたんか」

 計画通り故、それとも別の感情も関与しているのか、ローブの女の笑い声が更に激しくなる。

「全員纏めて宇宙の塵にしてくれる」

「お前も死ぬぞ」

 ソラは、リクライニングチェアーを掴み体を支えながら言った。

「構わん。お前等を消しさえすれば、復活したガジャル様からどんな褒美を貰えるのか。私は願う、生命を超越した新たなる神となる。そしてガジャル様とこの世の再生を行う」


「ふざけた事をベラベラと吐きやがって。その前に俺がテメェを地獄に叩き落とす」

 リュウジのバトルグローブに嵌められたブレスレットが碧く輝く。

 握り締められた長剣をローブの女に向ける。

「貴様のような雑魚に私が負けるものか」

 ローブの女も懐から剣を抜いた。


 不規則に揺れる足元の中、ソラとアンリも加戦しようと近づいた。だが、リュウジは拒んだ。

「来んじゃねぇ。コイツをるのは俺様だ」

 そして目の前の敵を睨み付ける。

「ホログラフィも必要ねぇ。サシで勝負だ」

 途端に、リュウジの体から金色のオーラが噴出し始めた。

 そのオーラが長剣に纏わり付き輝きを増す。


「自分から、スピリットを発動させよった。センスあるなぁ」

 リュウセイは、目の前のリュウジの姿に笑みを見せた。


 次の瞬間。


 互いの一閃が激突し閃光が散った。


 交わり離れた二人。そして……。


 ローブの女が崩れ落ちた。

 もう口も開く事無く、即死だった。

 ローブの女に唾を吐きリュウジは捨て台詞を放った。

「神は願ってなるもんじゃねぇ。人々に思われてなるモンだ。クソが!!」



「さすが……ッ!!」

 リュウセイが言葉を発しようとした時、宇宙船の天井と床が入れ替わった。

 安全ベルトを締めているルナ以外が床となった天井に衝突した。

 今度は、床が縦になった。

 天井と床の間を落ち、壁に激突する。


 既に、宇宙船は暗黒の渦の入口へと差し掛かっていた。


 まるで動く洗濯機の中に入れられたような感覚が襲う。

 同時に、圧力が高まり始めていく船体がきしみ始めた。


「船が潰れるんじゃ」

 武器転送台にしがみ付くアンリがリュウセイに訊ねる。

「いや、大丈夫やろ。この船は前にも宇宙を越えてきた事があるんや」

 その時、更なる悪い知らせが船内に木霊した。


『耐圧シールド作動不能。耐圧シールド作動不能。エネルギー供給回路に損傷有』

 つまり、このままではブラックホール内の重力により宇宙船が押し潰される事を意味していた。

「このアマッ!!」

 リュウセイは、操縦席に飛び移ると、液晶モニターを指でクリックした。

「何をするんすか?」

 ソラの問いにリュウセイは、険しい表情で答えた。

「回路を繋ぎかえるしかない。出来るか分からんけどやってみるわ」


 そして、ついに船内の照明が赤色灯へと変わり警報が鳴り響いた。


「マズイぞマズイぞマズイぞマズイぞマズイぞマズイぞ……」

 慌てるソラ。だが慌ててもどうしようも無い事が分かっていただけに、同じ言葉を繰り返す。


 その時、新たなるアナウンスが流れ込んできた。


『耐圧シールド回路切替完了。シールド展開』


「用意されてた耐圧シールド用のエネルギーはもう回路がどこも使い物にならんかった。やから、生命維持装置以外のエネルギーを全てシールドに注ぎ込んだ」

 必死に説明するリュウセイに一同が頷く。

「頼む、耐えてくれよ宇宙船」

 ソラが掌を組んで宇宙船に祈った。



 水平を保った宇宙船は、警報を解除した。そしてどんどんと暗黒の底へと突き進んだ。


 一息着こうと、ソラ、アンリ、リュウセイ、リュウジがリクライニングチェアーに戻ろうとした時、再び、警報が鳴り響いた。船内が真っ赤に染まる。

「今度は何なんだ?」

 リュウジが身構える。


『耐圧シールドパワーレベルが足りません。あと60秒で、限界値が突破されます』

「おいマジかよ冗談じゃねぇぞ!!」

 リュウジが叫んだ時、船体が大きく横になった。

 再び船内の壁へと衝突した一同。


 その時、謎のオーロラが船内に現れた。

 虹色の淡い空間が、まるで船体をすり抜けているかのようだ。


「アレは何なんですか?」

「わからん、初めて見る」

 アンリの質問が終わったとき、再び船体が逆方向に傾いた。

 バランスを崩し、壁に寄りかかるアンリに謎のオーロラが急接近してきた。

「あぶない」「あぶないぞ!!」

 アンリを助けようと飛び込んだ、ソラとリュウセイが同時に手を差し伸べる。

 二人の必死な気持ちに答えようにも、二人の手を同時に掴むのには距離があり過ぎた。

 どちらかの手を取らなければ……。


 どちらかを…………。



 アンリが咄嗟に掴んだその手……大きく繊細で、頼もしい手。

 リュウセイの掌。


 アンリを引っ張り抱き寄せるリュウセイの横で、ソラが壁に衝突した。

 そして、次の瞬間。

 虹色のオーロラがソラを包み込んだ。

「えっ!?」

 その言葉を残し、消え行くオーロラと共にソラの姿も消えた。



 真紅の光が、けたたましい警報音と共に、電子盤が円形に囲む部屋を包み込む。

 五つのリクライニングチェアー。目の前の様々な形状のアナログメータが『0』を指す。電子盤に埋め込まれたモニターの九十九パーセントが暗い沈黙を続ける。

 凄まじい振動がそれらを強引に揺らしていた。


「神城君が……死んじゃった……」

 リノリウムの床に放心状態で崩れ落ちるアンリの周りで、リュウセイとリュウジが、平衡感覚を保てずに電子盤にしがみ付いていた。

「マジかよ!? 寺村さん、神城はどうなったんだっ!? 消えちまったぞ!」

「俺もわからん。感じからすると強力な磁気嵐やけど……こんなん理解の範疇はんちゅうを越えてる」

 放電プラズマが、リュウジの顔の脇にあるモニターを破壊した。天井の板を固定している強力なボルトが振動で緩み、音をたてる。

「宇宙船が持たねぇ!!」

「このやろう。これがブラックホールの内部なんか……」

 狼狽ろうばいする一同を乗せる宇宙船が、不規則な回転を続けながら、底なしの闇に引きずり込まれていった。




 …………………………………………………………………………


 …………………………………………………………………………


 …………………………………………………………………………


 リュウセイの目蓋がゆっくりと開いた。

 静かな船内。

 目の前には、見るも無残に変形した天井が、ブラックホールのダメージを物語っていた。

「生きてる……?」

 顔を横に向けると、意識を失っているアンリとリュウジ、そしてルナも安全ベルトに守られながらも意識は無くなっていた。


 ゆっくりと立ち上がったリュウセイは辺りを見回した。

「神城……。ホンマにおらんようになったんか?」

 すると、アンリ達の意識が戻り始めた。


「神城は……どうなったんですか?」

 ひどく打ったのか、頭を抑えながらリュウジが訊ねる横で、その事実の非が自分に有る事への思いで放心状態になるアンリ。

「わからん。でも死んだとは思われへん……て願いたい」

 重苦しい沈黙が続いた。


「ところで、宇宙船が静かなんすけど、今どこなんすか?」

「あぁ。ちょっと待ってや」

 そう言うと、リュウセイは操縦席の操作パネルを触り始めた。

 船内のスピーカーより、状況が報告される。


『船体ダメージ70% 残エネルギー30% ……。現在地点 惑星コールディン。酸素濃度問題無し』


「コールディンって目的地っすよね?」

「あぁ。何か知らんけど来れたみたいやな、目的地に。恐らくブラックホールを抜けきれたんやろ。ホワイトホールから抜けた時にとてつもない加速力で一気にこの星まで飛ばされたんやろうなぁ。マグレ……か」


 ルナの意識が戻った。

 リュウジは、ルナの安全ベルトを外すと、細い体を引き寄せた。

「大丈夫か?」

「あ、うん」

 ルナは、リュウジの瞳を見つめ、どこかボーッとしていた。

「寺村さん。とにかく外に出ましょう」


 円盤の船体から、スロープが下ろされた。

 落下の衝撃で吹き飛んだ土の地面にゆっくりと突き刺さる。

 一同は、辺りの光景を伺いながら地上へと下りた。




 そこは、深い森の中。

 大きな木が密集し、太陽の光をほとんど遮っている。見たことも無い鮮やかで奇妙な植物や、美しい花が咲き誇る。

「ジャングルみたいやなぁ。取り合えず人がおりそうな所まで行こうや」

 草が生い茂る地面から突き出た巨木の根の上を這い上がる。琥珀色の川を飛び越え、踏むと色が変わる岩地を進む。


 その時、宙を舞う一匹の生き物と遭遇した。

 愛くるしい『くまのぬいぐるみ』に羽が生えたようにも見える。その生き物がリュウセイ達に興味を抱いたのか、不思議そうに眺める。

「なんか可愛い」

 ルナがそう言うと、更に五匹の同じ生き物が現れた。

「妖精みたいだ」


 その時、リュウセイの頬を光の矢が掠めた。

 振り返るその先に、レーザーアローをリュウセイに向けるアンリがいた。

「おいお前、何考えてるねん」

「黙れぇっ!!」

 アンリが召喚した剣が振り下ろされる。リュウセイは、咄嗟に召喚した長剣で鍔迫り合いに持ち込んだ。

「松乃宮ッ!?」


 歯を食いしばるアンリの腹をリュウジの拳が弾き飛ばした。吹っ飛ぶアンリが巨木にめり込んだ。

「テメェら全員皆殺しだクソが!!」

 鋭い目付きに変わったリュウジが、リュウセイ殴りかかった。額のギリギリで拳を交わしたリュウセイが、エネルギーを纏った長剣を振りかざす。

 青光の真空波が、木々を切り倒す。

「お前が死ねやクソガキ!!」


「みんなどうしちゃったの!?」

 尻餅を付き、狼狽するルナの目の前にアンリが立ちはだかる。

「アンタも死ねば良いのよ。神城君と同じように……」

 アンリは、妖艶な笑みを零すとルナに切りかかった。


 その時!!


 紅蓮の炎が木々をすり抜け辺りを包み込んだ。

 そして、その炎が大蛇の如き容姿へと変貌し、宙を舞う生き物を焼き払う。

 逃げ惑う生き物達を、意思を持つかのように追尾し、火炎の牙で喰い尽くす。

 鼓膜が破れるほどの断末魔を上げながら、燃えてゆく生き物の前で、リュウセイ達は我に帰った。

「俺等……」

「何してたんだ……?」

 アンリの手から滑り落ちた剣が、地面を跳ね姿を消した。


 そこに二人の男が現れた。

 一人は、まだ幼い感じが残る金髪の少年。

 もう一人は、カジュアルなジーンズと長袖の黒いシャツの上からダークグリーンのジャケットを羽織り、額には、紋様が施された赤いバンダナが黒い前髪の下に見える。

「大丈夫かお前ら」

 青年の言葉よりも、何が起きたのか理解できない一同。


「『デアピクシー』の惑わしの術に掛かるなんて、冒険者の初心者でもそんなミスは犯さねぇぜ」

 両腕を組み、落胆混じりに青年は皮肉った。

「あぁ、ありがとう。アンタ名前は?」

 リュウセイの質問に青年は答えた。

「俺はアウル。魔術師のアウル=ヴェルターナだ」






 ~次回 第20話「バルシェログの森」~


 ソラを失くしたまま到着した新世界『コールディン』


 そこで出会った魔術師アウル。


 リュウセイ達は、アウルと共に、森を抜けようとするが、数々のモンスターが行く手に立ちはだかる。


 そして、森の主、バルシェログが、リュウセイ達に襲い掛かる。


 怒涛の魔法&剣戟バトルの幕が開かれる。


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