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第2話 「覚醒」その3

 ソラは自分が植物園に居たのを覚えていたが、爆発なんて記憶になかった。  

 思い出せるのは、最後に手の平から転げ落ちた水晶玉だけだ。

「水晶玉っ!」

 と言い掛けたが、体中に激痛が走り顔を歪めた。

 腹を殴られただけだったはずが、ソラの頭や体中に包帯が巻かれている。


 ――「そのスピリットを渡してもらおうか」――


「あいつは一体何だったんだろ?」

 ソラは、天井を見つめながら、アノ時の光景を思い出そうとした。

 

 その時、オヤジが起きた。

「大丈夫か……ソラ。心配したぞ」

 ソラの父親は目を擦りながら欠伸あくびをした。

「ゴメン……」

「何があったか知らんが、あの爆発でよく助かったな」

「爆発って……?」

 ソラは耳を疑った。 

 だって身に覚えが無いのだから。

 

「まぁ今はゆっくり休め」

 そして、オヤジはソラにゆっくりと優しく語り始めた。

 

「なぁ、ソラ。 お前が5歳の頃、母さんが家を出て行ってずっと1人だったよな。寂しい思いさせちまった……」

「こんな時に何言ってんだよ」

 ソラはなぜ急に親父が昔の事を話し出したのか解らなかった。

 

「こんな時って、こんな時しかないだろ。いつもお前と入れ替わりで、面と向かって話しする事なんて無かったしな」

 そして親父は続けた。


「なんで、僕だけ弁当が無いの? なんで僕の母親参観日はお父さんが来るの? どうして僕のお母さんは居なくなったの? って、いつも聞いてきたよな。その言葉聞く度に父さん凄く申し訳無くてな。俺のせいで母さんが出て行ってしまって。だから、お前へへのせめてもの償いだと思い、必死に頑張って来たつもりだった。本当にスマン」

 親父の目から一筋の涙が頬を伝った。

 

「別に良いよ、今更……」

 オヤジは涙を手で拭い、ニコリと笑った。

「ちょっくらタバコ吸ってくるわ、ゆっくり体休めとけ」

 そう言ってオヤジは、手をポケットへ突っ込み病室を出て行った。

 

「オヤジの涙、初めて見たなぁ。あんな涙流すんだ……」

 ソラから見たオヤジの印象は、強く、挫けず、決して涙なんか見せない、そんな父親だった。


 ………………


 

 やはりあの後が思い出せない。

「俺はいったいどうなったんだ? どうして覚えていないんだ」


 その時、病室の扉が横に開いた。

 ソラは驚いた。

 

「松之宮っ!」

 そこに、ソラが心を奪われていたクラスメイト(まつのみや あんり)が現れた。

 

 だがソラは思った。 こんな遅くに面会なんて来れるのだろうか?

 警備員に止められるはずなんじゃ……?

 

「良かった、無事ね」

 アンリは右手を腰に付けながら言った。

「えっ、まぁ」

 

「ずっと待ってたわ、あなたを」

 ソラはその言葉を聞いた瞬間に心臓に一気に血液が流れ込んだような感覚に襲われた。

「お、俺を……?」

 唾を飲み込もうとしたが口の中がカラカラに干上がっていく。


「スピリットの持ち主」

 ソラは何かの冗談かと思ったが、アンリの目は真剣だった。

「!?」


 ――「そのスピリットを渡してもらおうか」――

 その時、あの男の言葉がフラッシュバックした。


 それと同時に再び水晶玉の存在を思い出した。

「あっ、水晶玉っ」

 ソラは病室を見渡したが水晶玉が見当たらない。

 

 混乱しているソラを追い込むかの如くアンリはさらに意味深な

言葉を投げかけた。

「安心して、あなたが取り込んだわ」

「取り込んだ……?」

 ソラは聞き返した。


「アレは水晶玉じゃなくてスピリット。あなたの前世での力の結晶よ」

「あっ、えっ……俺の?」

 全く訳の分からない話にソラはポカンと口を開けたままになっていた。


 

 アンリは両腕を組みながら「今は解らなくても仕方ないわ、私も同じだった。 ただ、今日をさかいにアナタの人生は一変するわ。早く体を治す事ね、アイツらは待ってくれないわ」と言い、ソラの沢山の質問を振り払うかの様に病室を後にした。


「何なんだよ! 訳わかんねぇよ」

 ソラは、頭の中がゴチャゴチャで状況がいまいち解らなかったが、

考えたって解るはずが無い。

 沢山のモヤモヤを振り払うかの様に、ソラはとりあえず目を閉じた。


 退屈で平凡な毎日に終止符が打たれた……。



 




 〜次回 第3話「松之宮 杏里」〜


 時は坂登る事、1週間前

 

 アンリの身に降りかかる危機と悲しい運命が血の海となる。

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