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第19話 「アナザーワールド」その1

 黒いバトルスーツを来たソラ、アンリ、リュウセイ、リュウジは、円柱のエレベータで『6階』へと向かっていた。

 一つの階層が大きく、頭上の回数ランプが切り替わるまで二分は掛かっていた。

 壁に背をもたれていたアンリがリュウセイに訊ねる。

琴嶺ことみねさんは、大丈夫なんですか?」

「あぁ。2階のライフスペースに預けてるねん」

「ライフスペース?」

 リュウジは、黒いジーンズジャケットの襟を整えた。

「簡単に言えば、家具一式が備えられた生活部屋や。一応扉にはロックが掛かってるから出られへんけどな」

 納得と言った表情のアンリとリュウジの後ろで、ソラは階数ランプを見上げながら、物思いにふけていた。

 その様子に気付いたリュウジが、ソラの耳に息を吹きかけた。

「ふぅ~っ」

「ぐわっ!!」

 全身の身の毛がよだったのか、耳を押さえながら慌てて怯む。

 その光景にリュウセイとアンリから笑いが零れた。

「何すんだよっ?」

「それはこっちのセリフだろ。何さっきからボーっと突っ立ってるんだ?」

 するとソラは、神妙な面持ちで答え始めた。

「だってさぁ、あと数時間で俺達『宇宙』に行くんだぜ……しかもブラックホールに突っ込むなんて。怖くない……の?」

 ソラは、三人の顔を順に視線を巡らせた。

「俺等が乗る宇宙船は、昔に前世達がブラックホールを越えた時に乗ってたモンとおんなじヤツや。しかもヴァキルト博士がオーバーホールと装甲強化も施してくれてるし、まず安心やろ」

 即答するリュウセイに、ソラは、難しそうな顔で頷いた。



 百型の巨大液晶テレビに大型のシアターアンプ。一カ月分の食料が入りそうな冷蔵庫に、独立型のアイランドキッチン。パキラの観葉植物の脇にある大きなフランスベッド。

 リュウセイが言っていたライフスペースと言うやつだ。

 あらゆる娯楽設備や、生活環境機器が備え付けられている『3LDK』程のスペース。

 そこの玄関のスチール製のドアを、中から幾度と無く足で蹴る者がいた。


 ――ルナだ。


「出しなさいよ!! ねぇ、誰か聞いてるの? ここから出してよ、家に帰してよ」

 何度も重い扉を叩いたのか、細く白い手が真っ赤に膨れ上がっていた。

 それでもビクともしない扉を前に、成す術が無くなってしまったルナは、大きな瞳に涙を浮かべながら膝から崩れ落ちた。

「夢なら覚めてよ……」




 宇宙船の格納庫にやってきたソラ達は、目の前の宇宙船の造型に圧倒された。

 直径五十メートル程の円盤。高さは五メートルと言った所だ。

 鉛色の船体に、光のメーターが流れる。

 その周りで、大勢の研究者達が、宇宙船の最終調整を行っているところだった。

 目の前に浮く大型のプレートをキーボードの様に指で操作する者や、船体の外装に傷が無いかを確認する者。

 その中にヴァキルト博士を見つけた一同が歩み寄る。

「おぉ、来たか。もう間もなく準備が終わる所じゃ。その間にお前達に大切な事を教えておく」

 そう言い、格納庫の隅にあるクリスタル製のテーブルへと案内された。


 乱雑に積み重ねられている古い資料や、宇宙理論の本。レッドクリスタルの灰皿にタバコの吸殻で不気味な山が出来ている。

 それらを何食わぬ表情の博士は、腕いっぱいで床になぎ落とした。

 大切な資料をなぎ落としてでも自分達に見せたい物があると言うのも分かるが、何もクリスタル製のテーブルに乗っていない事に一同に疑問が湧いた。

 顔を見合わせてお互いに答えを求めるが、その真意は博士にしか分からない。


 こちらの様子など気にも留める事無く、博士は四角いテーブルの隅にある赤いボタンを押した。

 すると、テーブルの卓上に宇宙船の図案が映った。

 テーブル自体がモニターのようになっているのか。そこに映し出されている宇宙船の図案を博士が指でなぞると、宇宙船の図案が向きを変えた。

「へぇ、クリスタル製のタッチパネルか」

 材質を確かめるように、指でコンコンと叩きながらソラは、興味津々に覗き込む。


「この宇宙船は先日も言った通り、自らワームホールを作り出し瞬間移動を行いながら宇宙を進む。もちろんオート操縦だ。最新の技術を組み込んだこの船なら1日半でブラックホールに到達するだろう」

「へぇ、1日半てメチャメチャ早いなぁ」


 博士の動く指に反応し、映し出されている宇宙船の図案が次々とスケルトン化し、核と思われる部位を映し出した。

「うむ。従来の『ハイパーニトロ・エナジードライブ』と言うエンジンから、『スフィア・リベルアンノーン・VH―PE6』と言うエンジンに進化させた事で可能となった。もちろんその衝撃を中和し君らの体に影響が出ないようにも調整している」

 エンジン部が、グルグルと卓上の中で回転し、全ての方向からのデザイン・重厚感をアピールしている。

「VH―PE6って?」

 アンリの質問に博士のサングラスが光った。

「ヴァリアブルヒート―ポンプエンジン。6段加速と言う意味じゃ。ワシの自信作じゃよ」

「そ……そうなんだ」

 訊いても理解できなかったアンリは少し後悔した。


「ここからが重要じゃ」

 その言葉に先ほどに増して卓上を覗き込む。

 博士が指で卓上をクリックすると、ブラックホールの映像が現れた。

 煌く銀河のど真ん中に不気味に漂う大きな暗黒の円。

 近寄る衛星の光を飲み込み、崩れ去る星を吸い込む。

 その後に残るのは完全なる『無』だ。

 モニターに移っているその光景だけで一同の背筋に冷たい物が流れた。


 博士が説明を続ける。

「宇宙船が重力場に到達し、100キロ圏内に差し掛かると船内にアナウンスと警報が鳴り響く。そして、宇宙船を転送する力を持った強力なスフィアが光速で射出される。もちろん自動でじゃ」

 説明と同じように、映し出される宇宙船の船体からスフィアが射出されブラックホールの中に消えていった。

 しばらく経つと、宇宙船の船体に光の魔方陣が現れ姿を消した。

「なるほどぉ」

 顎を擦りながらリュウセイが頷いた。

「つまり、あの中を通らなくても良いって訳ですよね?」

「そう言う事じゃ」

 ソラの表情に元気が湧き出てきた。



『宇宙船発射まであと、5分42秒』

 格納庫に、女性のアナウンスが流れる。


 宇宙船の中に搭乗したソラ達は、用意された自分達の部屋に荷物を置き、メインドライブルームに集まっていた。

 五つのリクライニングチェアーが、赤褐色のリノリウムの床に設置されており、その周りを囲むように数々のモニターやアナログメーターが宇宙船の状態を表示している。

 正面の巨大スクリーンには、船の前方の映像が映し出されていた。

 強化ガラスや、バリアをコーティングした素材であろうと、ブラックホールの中では圧迫破壊を起こしてしまうので、この宇宙船には『実質的な窓ガラス的存在』がない。


 リクライニングチェアーに腰を深く預けたリュウジは、バトルスーツの上着のポケットに手を入れ、険しい表情を浮かべていた。

 それに気付いたアンリが声を掛ける。

「沢田君どうしたの?」

「俺のタバコがねぇんだよっ」

 その時、船内のスピーカーからヴァキルト博士の声が流れてきた。

「船内は禁煙じゃ。精密機器のオンパレードじゃからなぁ。没収じゃ」

「このクソじじぃっ!!」

 眉間にこれでもかと言わんばかりにシワをよせ、歯を食いしばるリュウジがスピーカーを睨み付けた。

「仕方ないだろ」

 ソラは、まるで人事のように、席に着くと安全ベルトを体に巻いた。

「テメェ、俺にとってタバコがどんな意味を持ってんのか知ってんのかよ!?」

「さぁ」

「んだとコラぁ!!」

 熱くなるリュウジと、宇宙に出ると言う緊張で一杯一杯のソラ。

「おい沢田。丁度エエやんけ、禁煙できるかも知れんねんやから。肺活量も良くなるし」

「でもよぉ、寺村さん……。あれが無きゃ落ち着かねぇんすよ」

 情けない声を出すリュウジにアンリがクスっと笑った。

「禁煙、禁煙。どんどん良い子になっていくわね、サ・ワ・ダくん」

「ははは……女で良かったな」



『宇宙船発射まであと、10秒、9、8、7、』


 しっかりと安全ベルト締め、握り締める一同。


『6、5秒前』


 発射台に一番近い場所で彼らを見送る博士。


『4、3、2、1』


「ほんじゃあ行くで!!」

 リュウセイの気合に三人が続く。

「オー!!」「やってやるぜクソが!!」「…………ひぃ!!」


『ゼロ』


 巨大な宇宙船が、一瞬の閃光を残し消え去った。




 つづく


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