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第18話 「五人目の戦士」その3

 透明な液体に浸されるルナを、リュウジは神妙な面持ちで、スチール製のベンチに座りながら見つめていた。


「おい、飲めや」

 リュウセイに缶コーヒーを手渡されると、リュウジは軽く会釈しタブを押し上げた。

 隣に腰を下ろしたリュウセイが缶コーヒーを一口飲むと、キュアラクトで治療を受けているルナを見ながら口を開いた。

「まぁ、良かったやんけ。5人目も無事に助かった事やし。……まぁ、多少怪我はしたけど、直ぐ治るって」

「そんなんじゃ無いんすよ」

 リュウセイはリュウジの方へ顔を向けた。

「神城と松之宮、寺村さんがあの車を受け止めてくれなかったら、アイツは確実に死んでいた。女一人守れねぇなんて……最悪っすね……俺」

「何しょぼくれた事言ってんねん。この間の神城と松之宮に激を入れてたお前とはまるで正反対やないか。お前言ってたよなぁ? 『なったモンは仕方ない。それよりも次にどうするか考えろ』って」

 その言葉で、落ち込んでいた自分の殻から抜け出せたリュウジは、ルナからリュウセイの方へ視線を向けた。

「そうっすね。俺らしくネェっすよね。ところで、神城と松之宮は?」

「あともうちょいで宇宙船のオーバーホールが終わるから、一旦家に戻って着替えとか、色んなモンの整理に向かったわ」

「じゃあ俺も一旦家に帰ります」

「そうせぇや。どうせコイツが目ぇ覚ますまで2時間は掛かるわ」

「ちーす」

 そう言うと、リュウジはポケットに手を入れながらいつものように扉を出て行った。

 その後姿を見ながら、リュウセイは安堵の表情を浮かべ軽く笑った。

「世話焼かせよる。ガキが」



 太陽が照りつける中、ソラは父親の墓前に立っていた。

 綺麗に墓石を洗い、花を挿し、父親の好物でもある『メロンパン』とビールを供えた。

「オヤジ……。俺、ちょっくら旅行にで出かけてくる。カナリ遠いけど、仲間も一緒だからそんなに不安とかも無いんだ。……って、言っておきながらも少しは怖いんだけどね。真っ暗闇の宇宙へ行くんだ。そんでもってブラックホールを抜けるんだってさ」

「見守っていてくれよな」

 ソラは、最後に線香を立てると、墓地を後にした。



 アンリは、自分の部屋のクローゼットを開けると、服を数着と下着、洗面用具一式などをキャリーバッグに詰め込んだ。

 そして、一息ついたアンリはフローリングの床に座り込み窓ガラスを眺めた。

「全てはこの窓ガラスが割れた時から始まったのよねぇ。母さんったら、血相変えて扉を開けてさ……『杏里っ大丈夫? 何があったの!?』って。…………」

 不意にゲラヴィスク教に殺された母の事を思い出したアンリ。

 勉強机の上に立てかけられた母との笑顔のツーショット写真に目をやった。

 そして一瞬、自分の運命を呪った。

 自分がこんな使命をもって生まれて来なかったら母は死なずに済んだかもしれないと。

 そして親友の美津穂の事も……。

 だが今は、そんな思いを自分の糧にし、臆病者で心の弱い自分を奮い立たせなければならない。

 あの時も、そう誓ったのだ。

 アンリはゆっくりと立ち上がると、再び心が折れぬよう、振り返ることなくキャリーバッグを引いた。



「あ、兄ちゃん、おかえり」

 以前の重い心臓病を患っていた時とは別人のように元気な弟『功輝』が玄関の扉を開けたリュウジを出迎えた。

 止まりかけていた弟の心臓を、ノアにいる『ヒール博士』が『マテリアル手術』と呼ばれるオペで復活させ、完全治癒させてくれたのだ。

「今日は、母さん特性のハンバーグだってさ」

「いつも『特性』だな」

 リュウジはニコリと笑うと、リビングへと向かった。

 そこには、刑事でもある父親と、父親の再婚相手の香織さん。その子供の祐介が夕飯の準備をしていた。

「おかえり」と声を揃える親父と香織さんと祐介。

 リュウジは「ただいま」と返事をした。


 しばしの別れは食事の後に言おうと思っていたが、今言いたくて仕方が無かったリュウジ。

 隠し事が苦手なのだ。

「あのさぁ……。俺、当面の間、旅に出ようと思ってる」

 その言葉に一同の動きが止まった。

 父親を除いて。

 父親はゆっくりとリュウジの目を見つめながら歩み寄ると、リュウジの肩をしっかりと掴んだ。

「仲間と人を助けに行くんだろ?」

 父親だけはノアでの記憶は消されなかった。

 あの時、お互いを分かり合えた思いを消されたくなかったリュウジが、リュウセイに頼み込んだのだ。

 地球で唯一ノアの事、仲間の事を知っている、リュウジの事情を分かってくれる存在なのだ。

「あぁ」

 リュウジは言葉と同時に力強い目で父親に答えた。

 それに安心した父親が笑顔を見せた。

「変わったな、お前。それでこそ俺の息子だ……『しずく』とのな。思う存分、納得が行くまで頑張ってこい。お前等が留守の間は俺が地球を守る」

「うるせぇよ」

 リュウセイは照れ隠しのつもりで強がりに答えた。

 二人の会話が途切れた所で、出来立てのハンバーグが食卓に並べられた。



 薄暗いアパートの一室にいたリュウセイ。

 雑貨やテーブル、テレビもオーディオコンポも無い、ただ「住む」だけの部屋のようだ。

 パイプベッドの上で両腕を頭の後ろで組み、寝転がっていた。

 天井の一点を見つめながら物思いにふける。

 しばらくしてベッドから起き上がると、リュウセイは和箪笥わだんすの上に立てかけてあった一枚の写真立てを掴み取った。

「ほんじゃ行ってくるわ。美香みか……れん

 そう言うとリュウセイは、荷造りを済ませていたバッグを肩に掛け、鉄扉の扉を開いた。



 それぞれが、それぞれの心、思い出に別れを告げ、壮大なる旅へと進む決意を固めた。






 ~次回 第19話「アナザーワールド」~


 それぞれが地球に一旦別れをし、「不死鳥の御霊」を手に入れる為に、ブラックホール突破を目指す。


 しかし、そんな中、ある事件が起きHIKARIメンバーに最大のピンチが訪れる。


 荒れ狂い全てを無に帰す暗黒の渦の中で繰り広げられる最悪の事態。


 果たして無事に、新世界へと辿り付く事ができるのだろうか?


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