表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/136

第18話 「五人目の戦士」その2

 息を切らしながら、ネオン煌く繁華街を疾走するリュウジ。

 歌手を夢見る若者達が自慢の歌を披露している。


 ――「おぉ、『デュオ』が歌ってるぞ」「マイレールだって」「ランカちゃんガンバレー」……。

 二人組みの男女の周りに出来る群集を掻き分けながら、道路の向こう側を目指した。

「呑気に歌を聴いてる場合じゃねぇんだって」


 車が行きかう国道に出たリュウジの目の前を、一台のタクシーが通り過ぎた。

 横に流れる視界に映った光景……。


 ――ハンドルを握るローブを纏った者。


 ――後部座席で、気を失っているルナ……。


「マジかよっ!?」

 ルナが、先にゲラヴィスク教に捕まってしまったと言う、驚きと悔しさで……いや、むしろ無意識の内に、気付いた時にはタクシーを追いかけていた。

「こんの野郎ぉぉぉぉっ」

 気合と共に、バトルスーツが起動する感覚が全身に伝わる。レザージーンズが足に吸い付き、スピリットの力を糧に第二の筋肉と化す。


 猛スピードでルナを乗せたタクシーを追跡するリュウジ。

 車内のバックミラーで発見したゲラヴィスク教は、アクセルを深く踏み込んだ。

 双方の距離が徐々に離されてゆく。


 リュウジは、路肩で『250CCバイク』に跨ろうとしていた男を見つけると、無我夢中で引き摺り下ろした。

「何しやがんだテメェこら!!」

 尻餅を付いたヘルメットの男が怒鳴りつける。

「うるせぇぇクソがッ!!」

 リュウジの凄みに圧倒された男の隙を見計らい、リュウジは、バイクに跨り、一気にグリップを握った。


 重厚間溢れる仕様の大型バイク。

 スタイリッシュでメタリックブルーの外装が、男心をくすぶる。

「ひぃぃやっほぉぉっ!! これなら追いつけるぜっ」

 更に加速をするリュウジ。


 サイドミラーでリュウジの姿を確認した白い仮面。

 交差点に差し掛かると、ハンドルを大きく左に切った。

 甲高い音と共に、タイヤがアスファルトに擦り付けられる。

 その衝撃で目を覚ましたルナ。

「…………ここは?」

 揺られる車内で、先程までの状況を思い出したルナ。咄嗟にドアを開けようと手を掛けたが、同時にロックが掛かった。

「今外に出れば死ぬぞ」

 黒いフードから聞こえる女の声。

「どうせ私は殺されるんでしょ? だったら」

「殺しはしない。今はな」

 バックミラー越しに、仮面の下から見える口元が怪しく孤を描いた。


「スピリットの場所を案内してもらおうか」

「スピリット?」

 ルナは聞いたことのない言葉を繰り返した。

とぼけても無駄だ。お前が、スピリットに選ばれし生まれ変わりだと言う事は分かっている」

 左右にハンドルを切るローブの女。

「本当に何を言っているのか分からないの。さっきの男の人にも良く似た事を言われたけど……」

「後ろでバイクに跨っている男か?」

 その言葉に、後ろを振り返ったルナ。その視線の先に、暴漢に襲われそうだった所を助けてくれたリュウジが、鬼のような形相でバイクに跨りこちらに向かってくる。


「必ず助けてやる」

 リュウジは、ゲラヴィスク教の荒いハンドル捌きに対応しながらも、しっかりと後を追っていた。




 高層マンションのベランダから、夜景を眺めるローブを纏いし者。

 そこに、フードと仮面を外したレグザが困惑した表情で歩み寄る。

「ジェリルが、五人目を拉致したと仲間より連絡があった」

「そうか」

 淡白に答えるローブを纏いし者。

「良いのか? 奴はセラス様の命令を知らない。生まれ変わりを殺すなと……」

「案ずるな。我が地位より転落したジェリル。死に際に自分に何が足らなかったのか分かるかもな」

 レグザは、懐から取り出した水晶玉を月に透かした。

「これがスピリット……。なんとちっぽけな」

 鼻で笑うレグザにローブを纏いし者が振り返った。

「雑に扱うな。それは『鍵』でもあるのだ」

 すねた表情でスピリットを懐へ仕舞い込むと、二人は、再び夜景を眺めた。

「これでセラス様からの我々への指令も一先ひとまずは終了だ」…………。




 前方の車をなぎ払いながら、ルナを載せた車が暴走を繰り返す。

 その隙間を縫うようにバイクに乗ったリュウジが追いかける。

 交差点の角を曲がり、高速道路へと突入した。

「逆に好都合ッ」

 高速道路の方が、停車している車や障害物が少ない為、スムーズにマックススピードが出せると睨んだのだ。


 全速力で料金所に差し掛かったタクシーが、「ETC」のバーを突き破った。

 空を裂くように、割れたバーが刃のようにリュウジの額を掠める。

「あっぶねぇっ!!」

 料金所を越え、一気にタクシーとの距離を詰める。

 その時、窓から出たゲラヴィスク教の手より紅蓮の炎の球が飛び出した。

 しなやかなカーブを描きながらリュウジに急接近する。

「喰らうかよ」

 車体を斜めにし、炎の球を避けたリュウジだったが、後ろの車に激突し、大爆発を起こした。

「クソッ!!」

 リュウジのブレスレットが青く輝く。

 長い長剣を握り締めたリュウジは、迫りくる炎の球を切り伏せた。



「ねぇ、もうやめてっ」

 なぎ倒される車や、ねられる人、炎上する車や、ルナを追うリュウジ。見かねたルナが、止めるようにと訴えかける。

 だが、おいそれと聞く訳がなかった。

 バックミラーを見ながら舌打ちをしたローブの女は、片手で韻を結びながら呪文を唱え始めた。

 途端に、左右の車が失速を始める。そして、迫りくるリュウジを阻むかのように車体を衝突させた。

 壁に挟まれたリュウジは、慌てて崩れたバランスを取り戻した。

「おいっ、何考えてんだっクソが!!」

 接触する車体と壁に挟まれ、バイクの外装から火花が散った。


 運転手をにらみ付けたリュウジだったが、その姿に衝撃を受けた。

 男は涎を垂れ流し虚ろな目を向けながら、ハンドルを握っていた。

「マインダー!?」

 リュウジは、一度ブレーキをかけ、車と壁の間から脱出すると、再び加速を始めた。


 すると今度は、四台の車が旋回し、リュウジのバイクとタクシーとを遮るかのような形で横一列に並んだ。

 もちろん、リュウジの目に映る運転手はみな同じ顔をしている。

 このまま進めば行く手を遮る車に衝突してしまうと想像が付いたが、ブレーキを掛けても間に合わないのは目に見えていた。 

「こうなりゃっ!!」

 リュウジは、股で車体をしっかりと挟むと、全体重を前に傾けた。バイクの後輪が浮き前のめりとなった時、突き出した両手でアスファルトを掴んだ。

 前方宙返りで車を越えようとしたのだ。

 バトルグローブのおかげで掌が削れることは無かったが、凄まじい衝撃と振動で肩が抜けそうな感覚に襲われた。


 肘を少し曲げ、一気に伸ばす。

 綺麗な放物線を描きながら、前方に縦回転したバイクが遮る車を飛び越えた。

 しっかりと着地を決め、遠くに見えるタクシーを睨み付けた。




「…………と言う訳だ。つまりお前は、その前世達の思いを受け継いだ生まれ変わりなのだ」

「そんなの嘘よ……」

 ローブの女に、真実を伝えられたルナだったが、「はい、そうですか」と納得できる訳も無く、否定すると言う選択肢しか残っていなかった。

 だが、今、目の当たりにしている光景や、巻き込まれている事態が、ローブの女の言っている事に信憑性を増していた。

「でも何故、敵である私にそんな事を教えてくれるの?」

「冥途の土産さ。スピリットを手に入れればもう殺すしかないからな」

 嘘とは聞こえないその言葉にルナの全身から血の気が引いた。




 リュウジが乗るバイクとタクシーが横一列に並んだ。

「追いついたぜクソがっ」

「ふん。死にさらせ」

 ローブの女がそう言い、再び呪文を唱え始めると、前方を走る三トントラックが失速を始める。

 そしてリュウジがトラックに気付いた時には既に遅かった。

 急激に失速したトラックに正面衝突し、タクシーの視界から消え去ってしまった。

 両手で口を押さえ絶句するルナ。

 高笑いをするローブの女。


「これで邪魔者がいなくなった……ん?」

 ローブの女が見つめるサイドミラーに映る青い大型バイク。それに跨るリュウジ。

「上手く交わしたようだな」

 そう言い、ふと反対の車外に目をやった時、ローブの女が困惑し始めた。

「どう言う事だ? 何故『後ろ』と『隣』に同時にいる」

 タクシーを囲む二人のリュウジに驚くローブの女とルナ。


 その答えは、リュウジが握り締めているエンブレムが全てを物語っていた。


 ――「ホログラフィティ装置」

 ブレスレットから召喚したアイテムだ。


「どっちが本物だ? ……いや、両方殺せば良い事!!」

 慌てるローブの女に呼応するかの如く、前方のトラック、乗用車が失速し二人のリュウジに激突した。

「はははは、甘いな。もっと頭を使えぇっ」

 後ろを振り返りながら笑うローブの女。


「それはお前だっ!!」

「何っ!?」

 前に顔を戻したローブの女に衝撃が走った。

 前方のトラックの上からタクシーを目掛け飛び降りるリュウジを乗せたバイク。

 タクシーのフロントガラスをバイクの前輪が突き破るのと同時に、リュウジが握り締めていた長剣がローブの女の心臓を貫いた。

「ぐはっ!! っ何故ぇぇっ!?」

 口から血を流し、胸元のローブに滲み出る流血を手で押さえながらリュウジを悲壮感漂う目で睨み付ける。

 リュウジは、二つのエンブレムを見せ付けた。

「二つ持ってたんだ。クソが」


 

 その時、コントロールを失ったタクシーがリュウジを振り解き、ルナを乗せたまま高速道路の壁面を突き破った。


「しまった!!」






 つづく


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ