第18話 「五人目の戦士」その1
一眼レフのカメラより放たれる閃光が、可愛くポーズを決める琴嶺 瑠奈に放たれる。
ホワイトスクリーン越しに照明を照らし、明暗をハッキリさせる事で彼女の魅力を増徴させる。
カジュアルな服装で、煌く笑顔を見せつけ、唇に指を当てる。
「はーい、もう1枚行くよ。そう。そう。はいラストもう1枚。最後にとびきりのもう1枚。そう」
ルナの変幻自在のポージングに素早く対応し、長年のキャリアと腕でファインダーを切るカメラマン。
ファッション雑誌の女性編集担当が、黄色い声で絶賛する。
「ルナちゃん最高だよ。17歳とは思えない。将来は絶対大物ね」
「ははっ。やめて下さいよ」
ルナは、照れ笑いをしながら控え室へと足を運んだ。
雑誌のインタビュー。
トーク番組の収録。
ラジオのゲスト。
全てをこなしたルナは、仕事の愚痴一つ吐くことも無く、終始笑顔だった。
「ルナちゃん、来月から映画の撮影があるけど、アクションシーンがあるんだ。一応スタントマンの手配は済んでるけど……」
「えっ、私やっちゃ駄目なの?」
爽やかなイケメン風のマネージャーに対し、拗ねた表情を見せる。
「いや、ルナちゃんがしたいって言うなら、監督も大賛成さ。でも……」
言葉に詰まるマネージャーに「でも?」と訊ねるルナ。
「結構激しいアクションシーンやワイヤーアクションもあるし、その為には撮影までの短い時間に格闘技を習いに行かないと。体に打ち身の際のアザも出来るだろうし……」
ルナの表情を伺いながら話すマネージャーに、ルナは即答した。
「私やります。何にでも挑戦したいんです」
ガッツポーズで笑顔を見せるルナに、ホッとしたマネージャー。
「よかったぁ。じゃあ格闘技ジムの予定取ってくるよ」
ニコリと笑ったルナは、帰り仕度を済ませた。
都内の撮影所からマネージャーが運転するワンボックスカーで、いつものようにルナは自宅に送り迎えをしてもらっていた。
無駄使いが嫌いなルナが、最近やっとの思いで購入したブランド物の腕時計に目をやった。
「10:40分かぁ、家に帰って、お風呂に入って……4時間くらいは寝れるかな」
「あんまし無理しないでよ。この仕事は体が資本だからね」
「ありがと、でも、今は仕事が楽しくて仕方がないの」
そんな会話を続けながら、十分程が経った。
マネージャーが運転する車が、薄暗い一本道に入った時、突然後ろから車に衝突された。
大きく揺れ、目の前の電柱に衝突したマネージャーの車の中で、ルナは、前の座席に頭を打ち、意識が朦朧としていた。
「っ……痛いっ」
ルナは、動かない車内で、安全シートを外すと、マネージャーの名前を呼びながら、運転席を見た。
衝撃が走った!!
頭から血を流しているマネージャーがピクリとも動かずに意識を失っていた。
その光景を目の当たりにしパニックに陥ったルナは、目の前が真っ白になり、呼吸が出来なくなる。
次の瞬間、車のスライドドアが開くのと同時に、無数の男の手がルナの細い体を鷲掴みにし、車から引き摺り下ろし、もう一台のワンボックスカーに押し込む。
全てが、一瞬の出来事のように感じた。
気が付いたマネージャーがルナが押し込まれたワンボックスカーに駆け寄る。
「お前達何をしているのか分かってるのか!?」
車の窓を開けた男が、果物ナイフをマネージャーの首に突きつけた。
「お前こそ、そんな口を聞いてどうなるか分かってんのかよ?」
マネージャーの困惑する目と、必死に助けを求めるルナの目が合う。
…………先に逸らしたのはマネージャーだった。
走り逃げ去るマネージャーに愕然としたルナ。
言葉が出なかった。
発進した車の中で、帽子を目深に被った男達がニヤつく笑顔をチラつかせる。
「ルナちゃんゲットぉ」
ルナの両腕を掴み身動きを取れなくしている男が言った。
「メチャメチャ可愛いじゃん。俺一番ね」
「おいおい、俺が先だろ」
「やべぇ、涎が出てきた」
興奮する男達に囲まれ、尋常では無い恐怖がルナを襲った。
「おっ、おね……お願いです。た、助けてください……」
顔面蒼白で目に涙を浮かべ、震える唇で訴えるルナに対し、男達は高笑いをした。
「何言ってんの、こ・れ・か・ら、俺達と楽しい事をするんだから、安心して良いんだよ」
そう言うと、一人の男が、ルナの着ていたブラウスのボタンを一つずつ丁寧に外して行った。
もう一人の男が、ミニワンピースの下から太腿に手を滑らせる。
絶対絶命の中、ルナは必死に思い浮かばない救世主に助けを求めた。
――「お願い、誰か助けて!!」
その時、又も車が急停車した。
ルナの体を掴んでいた男達が運転席の男に状況を確認する。
「おい、どうしたんだっ!!?」
そう言った男を、開いたドアの隙間から伸びた手が引き摺り下ろした。
何事かと、車の外に飛び出した男達。
スモークフィルムが貼られたガラス越しで、状況が良く見えないが、震える体では起き上がる力も残っていなかった。
男達の悲鳴のあと、しばらく静寂が辺りを包んだ。
ゆっくりとドアが開いた。
心臓が大きく脈を打ち息を呑むルナ。
如何にも怖そうな金髪の男が現れた。
黒いカジュアルな服装を着こなす謎の男。
だが、心の底で助けを求め続けた救世主のようにも感じた。
「助けに来たぞ。琴嶺 瑠奈」
差し伸べられた手を、ルナはゆっくりと掴んだ。
「あなたは?」
「俺か? 俺は沢田 龍二だ。お前を確保しにきた」
「確保?」
その引っかかる言葉にルナは考え込んだ。
「ちょっと待って。今、私を助けてくれたでしょ?」
頷くリュウジ。
「で……確保?」
「言い方が悪かったかなぁ。お前の身に危険が迫っているから、当分の間、ノアと言う宇宙要塞で守らせてもらう」
ルナを車から降ろしたリュウジは、ルナの腕を掴み引っ張った。
「ちょちょちょちょ。ちょっと待ってよ。助けて頂いた事は感謝するけど、その後の言葉が理解できない」
そう言い、リュウジの腕を振りほどくルナ。
「お前は、俺達の仲間だ。前世からのな……」と難しそうな表情で頭を掻くリュウジ。
リュウジ自身、自分がこんな事を言い、人を説得するとは夢にも思っていなかったからだ。
「ごめんなさい。せっかく助けていただいたけど、明日も仕事があるしあなたの話に付き合っている暇は無いの、本当にごめんなさい」
そう言い、振り返るルナを追おうとしたとき、後頭部に衝撃が走った。
振り返るリュウジの目の前には、金属バットを握り締める男達が立っていった。
リュウジと男達が揉めている間に、走り去るルナ。
「テメェ、ぶっ殺す」
帽子を目深に被った男は、再び金属バットをリュウジ目掛けて振りかぶった。
それを左手で掴むように受け止めた。
バトルスーツを着ているリュウジには、皆無のダメージだ。
普通の人間なら手の骨が砕けていても可笑しくない衝撃だっただけに、涼しい顔をしているリュウジに驚きを隠せない男達。
「テメェ化け物か?」
「はぁ? 俺は俺だ!!」
一瞬にして、男の腹部に拳を突きこんだ。
十数メートル程吹っ飛んだ男が、想像を絶する苦痛に嘔吐した。
その光景に恐れおののき走り逃げる男達を見ながら、リュウジは舌打ちをした。
「クソがぁ」
振り返る、その先には既にルナの姿は無かった。
「あぁ、マジうぜぇ。だるい女だぜ」
そう言うと、リュウジは走り出した。
息を切らしながら繁華街まで走ったルナ。
タクシー乗り場で一台のタクシーを捕まえると、すぐさま乗り込んだ。
「聖和台4丁目までお願いします」
行き先を告げるルナ。
だが返事をしない運転手。
よく見ると、運転手では無く、黒いローブを全身に纏った何者かだった。
「そこへは行かない。我々と来るのだ」
冷たい女の声がルナの鼓膜を掻き毟った。
薄暗い洞窟の中を歩くソラとアンリとリュウセイ。
この遺跡には、モンゴルの大草原のはずれにあったスフィアゲートからやってきた。
「リュウジの奴、うまく確保できてるかな」
ソラが、心配そうに口を開いた。
「まぁ、大丈夫やろ」
二人以上に深刻な表情のアンリ。
「みっちゃん……助かるのかな。本当に……」
「取り合えず、不死鳥の御霊を手に入れるしかないやろ」
「でも、宇宙に行くんですよね? 心配だな……」
三人の足音が洞窟の置くまで木霊した。
しばらく歩いていると、前の遺跡でも見たような円形のホールが現れた。
中央の台座に目をやった一同だったが、あるはずのスフィアが見当たらない。
「あれ? 無いで。何でや?」
その時、天井から男が飛び降りてきた。
慌てて距離を取るソラ達。
「マインダーっ!!」
アンリが叫んだ。
舌打ちをするリュウセイが、拳を握り締めた。
「遅かったか……」
「でも、緊急防衛システムが作動するんじゃ?」
構えるソラがリュウセイに訊ねる。
「いや、あいつらレベルやったら潜り抜けれるやろ……レグザ……」
襲い掛かるマインダーを高速アッパーで天井に叩き付けたリュウセイに続き、スフィアブレスレットから呼び出した、光のロープでマインダーの男を拘束するソラとアンリ。
「あなたも助けてあげるからねっ」
振り返るリュウセイに、嫌な予感が走った。
「沢田……」
三人は、来た道を戻り出口へと戻った。
つづく