第17話 「アンデッド再び」その3
今回は会話9割です。
宇宙の話とか、破綻してると思いますが、付いてきていただければうれしいです。
「呪いを解く方法って?」
アンリは希望が蘇る眼でヴァキルト博士に訊ねた。
「『不死鳥の御霊』があれば呪術に掛けられている者を救う事ができる」
「それマジっ!?」
ソラは、勢い良く立ち上がり、ヴァキルト博士の黒いサングラスを覗き込むようにして見た。
「まぁ、落ち着いて聞け」
そう言って、ソラをイスに座るように手で促す博士。
「不死鳥の御霊は『第四宇宙』の『コールディン』と言う惑星にある」
その言葉に、四人は違和感を感じ取った。
「あのさぁ、『第四宇宙』って……何?」
先に口にしたのはリュウジだ。
すると、博士は手に持っていた吸い掛けのタバコを、レッドクリスタルの灰皿に押し付け、アンリの背後に見える月を眺めながら答え始めた。
「今我々がいるこの宇宙が『第一宇宙』だ。 地域が沢山あり国がある。 国が沢山あり地球がある。 地球や周辺の惑星が沢山あり銀河がある。 銀河が沢山あり宇宙がある。 そして……沢山の宇宙を取り巻く『無界』がある」
「むかい?」
アンリは、聞いた事のない名前を繰り返した。
うっすらと想像は付くが、すんなりと理解する事が出来なかったからだ。
「そのままの意味だ。 何もない世界……無界。 今確認されている五つの宇宙の内、ワシが言っている『コールディン』があるのが『第四宇宙』で、そこにある『不死鳥の御霊』があれば、マインダーになってしまった人間を元に戻す事ができる」
「なんか、もう見た事があるような言い方だな」
リュウジは、取り出したタバコを咥えながら言った。
すると、博士は再び宇宙を遠くに見ながら過去の出来事を語り始めた。
「もちろん見たさ。 お前達の前世と共にな……」
四人の真剣な視線が博士に向けられた。
「お前達の前世の親がゲラヴィスク教にマインダーに変えられてしもうてなぁ。 お前達の友達同様、一時拘束し、栄養を与え続けて呪術の解除方法が見つかるまで命を繋いでおったんじゃ。 それから一ヶ月程経った時、彼らは『ダークマター』と言う暗黒エネルギーの中に微量に含まれる『ゴッドマテリアル』と呼ばれる光エネルギーを探しに、宇宙の壁を目指した」
「宇宙の壁って、光のスピードでも追いつかへんのんちゃうん?」
リュウセイは、後ろのテーブル席に腰を下ろすと、立ち話をしている博士にもクリスタル製のイスを差し出した。
「おぉ、すまんな」
イスに腰を深ぶかと下ろすと博士は話を続けた。
「特殊な宇宙船があってな、何百光年先に自らワームホールを作り出し瞬間移動をすることができる。 それを繰り返し、6日で宇宙の壁へ到達するはずじゃった」
「じゃった?」
ソラが、不自然に聞こえるフレーズを繰り返した。
「ワシはその船には乗っておらんかったが、3日程経った時、重力渦に飲み込まれてしまってのぉ」
「ブラックホールの事ですよね」
アンリの言葉に頷く博士。
「そうじゃ。 普通の宇宙船なら米粒よりも小さく圧縮されてしまう程のパワーのあるブラックホールじゃ。 じゃが、彼らの乗っていた特殊な宇宙船は、至る所が故障に見舞われたが、崩れ去る事なくホワイトホールと呼ばれる出口から飛び出し、さっき言った『コールディン』と言う惑星に不時着したんじゃ。 そしてそこで手に入れたのが『不死鳥の御霊』」
そこへ、ラウンジのマスターから差し入れが届けられた。
「そんなに話されていれば喉が渇くでしょう」
ヴァキルト博士とリュウセイの目の前には液体と泡の比率が七対三と調度良い加減のビール。 ソラ、アンリ、リュウジの前には、ポテトチップスが入ったプレートが置かれた。
整えられた髭とオールバックヘアーが印象的なマスターがポテトチップスを指さしながら「地球の日本製ですよ」と紳士的なスマイルを飛ばしてくる。
それに対しソラは「あっ、ありがとう御座います」と応える。
「ちなみに『ガルビー』のポテトチップス」
あえて説明を交えるマスターに、「ありがとう御座います」と二度返事をした。
「コンソメ味」
「ありがとうございます……」
さすがのしつこさにイラッとしてしまったソラの笑顔が引きつる。
博士は冷たいビールジョッキに口を付け一気に飲みほした。
ポカンと口を開けながらアンリは、サイボーグなのにビールなんか飲んでも大丈夫なのかと疑問に思った。
博士は、白衣の袖で白い口髭に付いた泡を拭き取ると、先ほどの話を再開した。
「もう一度コールディンへ行き、不死鳥の御霊を持ち帰ることが出来れば、君等の友達、これからゲラヴィスク教に操られる人々を救う事ができる。 お前達も彼等と同じように……」「やるよ!!」
博士の言葉を遮り、ソラは強い決意を露にした。
「私も!!」
「やるしかないやんけ」
「何処へでも行ってやるぜクソが」
ソラに続く三人。
四人の熱い視線を目の当たりにした博士は、大きな口を開いて笑った。
「大地達と同じ目をしておる。 台詞もなぁ。 よし分かった、以前使っていた宇宙船を今オーバーホールに掛けておる。 パーツの交換と、データの書き換え、エネルギーを補充したら準備は完了じゃ。 ざっと50時間ってとこだ」
「博士も宇宙船を整備されているんですか?」
リュウセイの問いに「ワシはこれから『ミサエ』ちゃんとデートじゃ」と相変わらずのニヤつき顔で席を立った。
それが本当かどうとか関係なく、ヴァキルト博士は、真剣にみんなの事を考えていてくれた。 博士の背中を見送る四人の心は同じ気持ちで満たされた。
そして、必ず不死鳥の御霊を手に入れると強く誓った。
「じゃあ、俺達は宇宙船の準備が完了するまで待機すか?」
二本目のタバコに火をつけたリュウジが、リュウセイに訊ねた。
「おいおい、何が待機やねん。 せめてトレーニングですか? くらい言えや」
すると、リュウセイは、手に持っていた二枚の用紙をテーブルの上に並べた。
人の顔写真と、地図。
「もしかして」
アンリが、期待を込めた瞳をリュウセイに向けた。
「五人目の生まれ変わりと、最後のスピリットの場所が判明したんや」
「でも、この写真の子って……」
「女優や」
一同の視線が一枚の写真へと注がれる。
ソラは書かれている名前を読み上げた。
「琴嶺 瑠奈、17歳」
大和撫子と言う言葉が正に当てはまるような、アジアンビューティーな女の子。 艶やかで長い黒髪から覗かせる大きく優しそうな瞳。小さな鼻の下には、綺麗な弧を描くふっくらとした唇が光る。
そして、甘いミルクのような白い肌。
この女の子に、どれだけの国民が恋焦がれ甘い溜息をついた事だろう。
ソラが認める『美女』アンリでさえ、彼女の輝きの前では若干陰りそうな程だ。
「最近、ドラマやファッション雑誌でよく見る『Runa』(るな)だよね。 本当にこの子が……私達と一緒に戦うの?」
アンリの言うとおり、ルナは一番「戦い」と言う言葉から程遠い存在だ。
「俺かて、お前を初めて見た時は、ホンマにコイツ戦えるんか? と思ってんで」
アンリの肩に手を置き、リュウセイは笑った。
「俺は、知らねぇけどな……」
リュウジは、初めて見る様子で、写真に写るルナをマジマジと覗き込む。
「取り合えず、俺と松之宮と神城はスピリット探索。 悪いけど沢田は琴嶺 瑠奈の確保を頼むわ」
「確保って?」
リュウセイの言葉にリュウジは問い返した。
「俺らが、宇宙に出たら、ゲラヴィスク教は何をするかわからん。 下手すると、そいつが五人目って事がバレて殺されるかもしれん。 だから、ノアで保護しようと思ってるねん。 ……まぁ誘拐に近いけど、この際や、しゃーないやろ」
「しゃーないって……」
リュウジは、額をボリボリと掻いた。
「そんじゃあ、行動開始や」
~次回 第18話「五人目の戦士」~
最後のスピリットを探しに遺跡へと向かったソラ、アンリ、リュウセイ。
五人目の戦士を誘拐しに地球へと向かったリュウジ。
刻一刻と宇宙出発の秒読みが進む。