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第3章~アナザーワールド~ 第16話 「ノアの箱舟」その1

新章突入!!


ファンタジー編スタート……

 真紅の光が、けたたましい警報音と共に、電子盤が円形に囲む部屋を包み込む。

 五つのリクライニングチェアー。目の前の様々な形状のアナログメータが『0』を指す。電子盤に埋め込まれたモニターの九十九パーセントが暗い沈黙を続ける。

 凄まじい振動がそれらを強引に揺らしていた。


「神城君が……死んじゃった……」

 リノリウムの床に放心状態で崩れ落ちるアンリの周りで、リュウセイとリュウジが、平衡感覚を保てずに電子盤にしがみ付いていた。

「マジかよ!? 寺村さん、神城はどうなったんだっ!? 消えちまったぞ!」

「俺もわからん。感じからすると強力な磁気嵐やけど……こんなん理解の範疇はんちゅうを越えてる」

 放電プラズマが、リュウジの顔の脇にあるモニターを破壊した。天井の板を固定している強力なボルトが振動で緩み、音をたてる。

「宇宙船が持たねぇ!!」

「このやろう。これがブラックホールの内部なんか……」

 狼狽ろうばいする一同を乗せる宇宙船が、不規則な回転を続けながら、底なしの闇に引きずり込まれていった。



 一週間前。


「ええか、考えるんとちゃう。体で、心で感じ取るんや。スピリットの力を」

 超強化エネルギーガラスで囲まれた広い空間で、リュウセイの特訓が開始されていた。

 トレーニングルームと呼ばれるこの部屋。フォースライドのスフィアルームより、徒歩五分の距離にある。弾丸はもちろん、ロケットランチャーや高密度のエネルギー砲ですら跳ね返すガラス。

 色々な星の文明を取り入れてあるフォースライドだが、地球の『硝子』が一番加工し易いらしい。アンリが遺跡での戦いの際に使用した盾が発す、『エネルギーヴェール』を練りこんでいるそうだ。


 両腕を組むリュウセイの目の前で、ソラ、アンリ、リュウジが、難しい顔をしながら、目の前で人差し指の先端を見つめていた。

「戦いで武器を使うのも戦略の一つやけど、それに頼りっぱなしやったら、いつまで経ってもスピリットの力が上がらん。それに、いつまでもバトルスーツの限界を超えられへんぞ」

 三人の中で一番先に根を上げたのはリュウジだった。床に仰向けになり、疲労困憊ひろうこんぱいを隠し切れない。

「くっそ、寺村さん。俺は別に良いでしょ。覚醒しても自分のままでいれるんだしよぉ。……こんな事しなくても。それよりタバコ、タバコぉ」

 オモチャをねだる子供のように手足をバタつかせるリュウジを見下ろすリュウセイ。

「甘ったれんな。覚醒しても意識があるんは、お前の意思がスピリットの意思を押さえ込むだけの力があっただけの事。この二人は、まだそこにも辿り着いてないけどな」

 リュウジは、顎でソラとアンリを指した。

「いくら覚醒しても、基礎が出来てるんと出来てないんでは、雲泥の差や。ろくに気弾も飛ばされへんのに、まだ根を上げるんは早いぞ」

「あぁー、マジだるい」

 渋々起き上がると、リュウジはアンリの隣に立ち、指先に意識を注ぎ込んだ。

「二時間経ってこのレベルか……はぁ、先が思いやられんなぁ」

 再び、リュウセイのげきがトレーニングルームに木霊した。



 暗い夜道を学生服で歩くソラ。

 トレーニングはリュウセイの提案であり、学校が終ってから部活と同じ感覚で行われていた。

 もともと空手部だったソラだが、今では顔を出す事もなく、友達で部活仲間でもあるタケルから、部長に退部させられるかもと警告を受けていた。だが、今のソラにとって、『強くなる』意味では、リュウセイとの特訓の方が第一優先だった。

 

 父親を失ってから、毎日、自分でご飯の支度をしていた。手に握られたスーパーの袋から透けて見えるカップラーメンのロゴ。そう、ご飯の支度と言っても、カップラーメンや、弁当、惣菜ばかりだ。

 別に、ソラにとって苦ではなかったが、アルバイトをする暇もなく、どうやって収入を得ようかが悩みの種の一つでもあった。父親の遺産金も入ったが、有意義に使える額でもない。


 すると、目の前にアンリが同じようにスーパーの袋を片手に家路を歩いている所だった。

 ソラに気付き、ニコリと笑うアンリ。

 その煌く笑顔に釣られるように笑顔を見せるソラに、アンリが近づく。

「神城君も今帰り?」

「うん、晩飯が何にも無かったからね」

 ソラの返事を聞き、手に持っているスーパーの袋を覗き込むアンリが驚く。

「あんた、こんなの毎日食べてんの?」

「えっ? そうだけど。俺、料理できないし」

 そう言うアンリの袋の中身は、白菜やニラ、豚肉など、如何にも体によさそうな『食材』が入っていた。

「今日の晩御飯は『チゲ鍋』なのよ。いつも一人だし良かったら一緒にどう?」

 気さくに誘うアンリに、心臓が大きく脈を打った。

 前もそうだったが、戦いの途中は生き抜く事だけで精一杯で、協力していても意識していなかったが、プライベートだと『初恋の相手』なのである。

 もちろん断る理由は無かった。



 ソラが座る木製のリビングテーブルの目の前で、アンリがモスグリーンのエプロン姿でキッチンに向かう。

 スラっとした細長い体に、しっかりトリートメントがされている綺麗な髪が結られている。白く細い手に似つかわしくない包丁。そのプラスのギャップが、ソラの目に焼きつき、心臓と脳を締め付ける。

 まるで音楽を奏でるように、リズム良く包丁の音が鳴る。手際よく鍋に具材を入れ、コンロの火を入れた。

「こんなデカイ家に今も一人で住んでんの?」

 そわそわする思いを押し殺すかの様に、ソラはアンリに問いかけた。

 アンリは、洗った手をタオルで拭いながら答えた。

「お母さんが死んでしまってから、ずっと一人よ」

「そっか……、ゴメン、変な事思い出させちゃって」

 ソラの言葉にアンリが首を横に振った。

「うんん、良いの。だって神城君もお父さんを失ったでしょ。同じ痛みを味わってる者同士しか分からない事だしね」

 ソラがゆっくりと頷いた。

「私達、似た者同士だね」

 二コリと笑うアンリに、「そうだね」とソラは返した。



 咥えタバコでリュウジは、家路を歩いていた。

 新しい腕時計の針は、十九時を差していた。もちろんこんな時間に帰るのは、ずいぶんとご無沙汰の事だ。

 すると、目の前の公園に、親父の再婚相手の子供の裕介がいた。ただ、少しばかり大きな少年達に囲まれている雰囲気からして、カツアゲかイジメかのどちらかだった。

 鼻から血を流し、ポケットからゆっくりと財布を取り出した。

「ちっ、カツアゲか」

 リュウジの目の前で、少年達は裕介の財布を奪い上げ千円札一枚をむしり取ると、薄ら笑いを浮かべながら裕介を追い払った。

 目を真っ赤にした裕介が公園を出たとき、リュウジと目が合った。

「帰んのか?」

 リュウジが静かに問いかける。

 狼狽する裕介の心くらいリュウジにも分かる。リュウジは、裕介の心に問いかけた。

「このままで良いのか? ここで負けたらずっとアイツらの言いなりだぞ」

「だって、あんな奴ら勝てないよ」

 裕介が涙を流した。

「お前男だろ? 根性出せよ。良いか、喧嘩は根性だ。心根が折れない奴が最後に勝つんだ」

「でも……」

「俺はそれで天辺てっぺんに登ったぜ」

 裕介の言葉をリュウジの言葉が掻き消した。

 しばらく沈黙すると、裕介は腹を括った。

「分かったよ、兄ちゃん。行ってくる」

 力強くリュウジに告げると、裕介は再び公園に入って行った。


「僕のお金返してよ」

「なんだお前、せっかく逃がしてやったのにわざわざヤラれにきたのか?」

 リーダーと思しき少年が、眼光を鋭く見せた。

 裕介は、折れそうな心を必死に奮い立たせた。

「僕のお金返してよ!!」

 裕介は、リーダーに頭から体当たりをした。

 腹にまともに頭が当たり、苦痛に顔を歪めたリーダーだったが、裕介を振り払うと、地面にねじ伏せた。

 そこに、周りにいた少年達が蹴りを浴びせようとした時、リュウジが公園の出入り口をまたいだ。

「おいテメェら、それじゃあ喧嘩じゃなくて、単なる暴力だ。こいつは、裕介とそこのガキの喧嘩だ。手ぇ出すな」

 あっさりとリュウジの言葉を聞き入れた少年達。当たり前だ。少年達から見れば、リュウジは、怖い不良学生そのものだからだ。むしろ怯えていた。

 リーダーが、裕介の上に乗りかかり顔を殴る。

 鈍い音が、続いた。が、裕介は負けじとリーダーを押し返した。

 脹れ上がった目蓋の奥から、裕介の眼光が鋭くなったのをリュウジは見逃さなかった。

 決死の覚悟で跳びかかる裕介に、若干のひるみを見せたリーダー。

「勝負有りだな」

 リュウジは口角をゆっくりと上げた。

 足がもつれ、後ろに倒れたリーダーに馬乗りになり、顔を左右に弾き殴る裕介。

 リーダーの戦意が喪失したところで、リュウジは裕介の拳を掴んだ。

「そこまで」

 我に返った裕介。

 リーダーは、ゆっくりと起き上がると、泣きながらお金を裕介に返した。

「良くやったな。てかお前強いじゃねぇか」

 リュウジは、裕介の頭を撫でると、背中におんぶし、家へと向かった。

「あぁ、腹減ったな」

「今日はママ特製のカレーライスだよ」

「マジか! 旨そうだな。功輝も喜ぶぞ」

「ご飯食べたらゲームしようよ」

「いいねぇ、でもまずは顔の怪我の言い訳を考えねぇとな」





 つづく


誤字脱字がございましたら、指摘していただけると嬉しく思います。


感想・批評・酷評等、大歓迎ですので、お時間のある方は一言宜しくお願いします。

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