第2話 「覚醒」その2
男はどう見ても学校の関係者には見えなかった。
だらしなく、シワだらけのスーツに、白髪まじりの五十歳代の男は、首が座って無く虚ろな目をし、口からはヨダレがポタポタと流れている。
目の焦点も合っていない姿にソラはゾッとした。男から感じる気配は尋常じゃない。
――普通―― ではなかった。
ソラが地面から立ち上がった次の瞬間、男はソラを殴りつけた。
男の拳が、ソラの腹部を剔り込む。
内蔵まで届きそうな拳の力に、ソラの口からは息と同時に声にならない声が出た。
四〜五メートルは飛ばされただろうか……
ソラは後方にある、五段の階段状になっている花壇に背中から激突した。
プラスチック製の花壇は原形が想像出来ない程粉々に割れ、中の土や数種類の花は無惨な光景になっている。
背中に強烈な痛みが走り息が出来ない、ソラの意識が遠のいてゆく。 男が歩み寄って来るが、それどころでは無い。
「任務完了だな……」男はニヤリと不気味に笑った。
男の姿が霞んで見えなくなってくる。
ソラは地面にへたり込み遠のいていく意識の中で、手の平から転がって行く水晶玉が、ただ目に映っていた……
そしてまばゆい程の白い光に包まれた……
……………………
次に視界に入ってきたのは真っ白な天井だった。
――どこだ?
口には呼吸補助の為のマスクが付けられ、腕にはチューブが巻き付き
無数の針が体に刺さっている。
その姿を見て、ようやく自分が病院のベッドに居るんだと悟った。
小さな置き型時計に目をやった。
――『22時15分』――
隣の簡易ベッドでは、親父が眠っていた。 泥まみれな作業着を身にまとっている。 きっと会社から直で病院に来てくれたのだろう。
しかし、あの男に襲われた後の記憶がない。
あの男はどこへ行った? 誰が俺を病院へ?
ソラは枕元にあった自分のケータイに視線をそらした。
折りたたみ携帯の表にはサブディスプレイがあり、最新のニュースや天気予報などがリアルタイムで表示されている。
――『星野高校植物園で原因不明の爆発』――
「俺の学校……だ?」
ソラは目を疑った。
つづく