第14話 「奇跡の瞬間」その3
ついに遺跡バトル完結!!
衝撃の決着をお見逃し無く♪
コーペン・クラウンの槍を握り締めるアンリだが、羅嬬の言う通り『核』を見つけなくては、ただの無用の長物だった。
雷光の塊を守護神像の胸部へ放つも、表面が粉砕するだけで、直ぐに再生されてしまう。
羅嬬は、リュウセイの下へと歩み寄った。
「おい、先程あの化け物を跡形も無く吹き飛ばした兵器は出せるか?」
「へへっ……この有様や」
リュウセイは、脂汗を流しながら、壊れたブレスレットを羅嬬に見せ付けた。
「クソッ。邪赦螺は何処へいる……?」
一人でも、力になれる者が欲しかった。
琥我は、両目を瞑り辺りを見渡した。
「邪赦螺のエナジーが感じられない……」
「邪赦螺……まさかトラップにやられた訳ではあるまいなぁ」
羅嬬の言葉が耳に入ったソラは、何も言えずに、体の痛みを耐えていた。
邪赦螺はソラが倒してしまったからだ。
再び神像の放つ金色のエネルギーが、広間中を駆け巡った。凹凸の床が更に、砕け散り、もう原型すら分からない。
羅嬬はリュウセイを担ぎ、エネルギーを跳び避けた。
琥我は、床に転がる無数の柱に手の平からエネルギーを送った。
すると、無数の柱が宙に浮き、神像目掛け突進した。
神像の、顔を柱が貫き、両腕両足を貫き、胴体を吹き飛ばす。
最後に、神像の頭上で束になった柱が、巨大なハンマーのように叩き落した。
強烈な振動と爆音が鳴り響いた。
見事に粉砕した神像。
琥我が、息を吐くと、束になっていた柱が地面でばらけた。
この中に『核』があるかも知れないと思い、アンリは散乱した神像の砂粒や、瓦礫を調べ始めた。
だが、そうしている間にも、宙に浮く一粒の砂に部屋中の、砂や瓦礫が集まりだす。
その時、アンリは気付いた。
――最初の一粒……。砕け散った体を呼び寄せる最初の一粒の砂が『核』なんだ!!
核の在り処に気付くも、その時には、先程の巨体が目の前に立ちはだかっていた。
「『核』の在り処が分かった!! もう一度、こいつを粉々にしないとっ」
叫ぶアンリに、「わかった」と答え、気合を込める琥我。
その時、神像の両手が、琥我を挟んだ。
「琥我っ!!」「琥我っ!!」
アンリと羅嬬が同時に叫んだ。
なんと、ギリギリで神像の掌を、両手を開き押し返す琥我。
恐ろしいスピードで強まる神像のプレッシャーに顔を真っ赤にし、歯を食いしばる。
琥我を助けようと跳びかかる羅嬬だったが、神像の目から放たれる赤い光線が、左肩を貫通した。
「ぐわっ」
「このやろうっ」
痛みで麻痺する足をふらつかせ立ち上がるソラ。だが、思うように動くことすら間々ならない。
羅嬬に続き、救出しようと試みるアンリ。
「来ないでっ!!」
跳びかかろうとしたアンリを制止する琥我。そして、琥我は神像の掌に耐えながらも後ろを振り返ると、アンリにギリギリの笑顔を見せ付けた。
その笑顔が何を物語っているかに気付いたアンリ。
「ダメっ!! 絶対にダメっ」
叫び、説得をするアンリ。
「アンリ、ありがとう。私に友達のように接してくれたのは、あなただけだった。ここで全員が死んでしまうわけには行かないの」
「他にも方法があるかもっ!」
琥我は、苦しみに顔を歪めながらも顔を振った。
「アンリ。お願い、約束して。私が死んでも決して悲しまないで。その隙に神像が復活してしまう。一瞬を感じ取って『核』を破壊してっ」
「そ、そんなの……できない……」
アンリの目から溢れた涙が頬を伝う。
「信じてる……そして……ありがとう」
そう言い残すと、琥我は全身から紅蓮のオーラを発した。
神像の掌を少しずつ押し返す。
全身が真っ赤に染まり輝くと、神像の胴体へ強烈なエネルギー砲が全身から放たれた。
神像の両腕以外が木っ端微塵に吹き飛んだ。力を使い果たした琥我は、神像の掌の中でトマトが潰れるかのように赤い血を吹き出し、息絶えた。
「うわぁぁぁぁぁああああっ!!」
絶叫したアンリは、宙で再生を始める中心の砂に狙いを付け、一気にコーペン・クラウンの槍を投げ飛ばした。
コーペン・クラウンの槍の刃先でイエローサファイアの様な輝きを放つプレートが、急速に回転を始め、金色の渦を作りながら『核』との距離を縮める。
空を切り裂く槍に、アンリ、ソラ、リュウセイ、羅嬬。それぞれの思いが重なる。
次の瞬間、コーペン・クラウンの槍は、反対側の壁に突き刺さった。
それは、絶望と言う言葉が相応しかった……
「は……はず、外した……」
宙に浮く一粒の砂粒を、槍で射抜く事すら神業である事からして、仕方ないとは言いたいが、この状況に置いては例外だった。
頭が真っ白になり、言葉を失ったアンリは、電池が切れたロボットの様に崩れ落ちた。
絶望に堕ち行く全員の前で、再生を始める守護神像スプリガン。
「終った……か」
ソラが、諦めの一言を吐いた時、空から一粒の水滴が、落ちて来た。
天井を見上げる一同。
すると、穴の開いた天井から、大量の水が再生中の神像の上に降り注いだ。
『核』の周りに結合していた砂が水を含み、重みに耐えれず床に流れる。
「これが、イッツ……ショウタイム……だろ?」
穴の開いた天井から見下ろしていたのは、邪赦螺だった。
ソラが満水し溺れ掛けたトラップの壁を、邪赦螺が突き破り、神像のいる部屋へと流路を開いたのだった。
血を流す腹を手で押さえ、薄れ行く意識の中そう言うと、息絶えながら地面に激突した。
「邪赦螺っ!!」
羅嬬は、邪赦螺の下へと走った。
再生を始めようと宙で浮遊する一粒の砂。
『核』が、砂や瓦礫を引き寄せる力を高めようと赤褐色に染まる。
その核を、金色の刃先が貫いた。
荒い呼吸、ふらつく足で、壁からコーペン・クラウンの槍を抜き取ったソラは、力の限り突き刺した。
「これで終わりだ、クソ野郎っ……」
そう言った瞬間、核が弾け飛んだ。
それぞれに、悲しみと、安堵の色が滲み出る中、再び、振動が大きな部屋を包み込む。
「また何かあるんすか?」
ソラは、尻餅を付いた。
すると、部屋の中心の床が開き、蒼いサークルが描かれた床が現れた。
「出口や……」
それは、ソラ達が遺跡に来る時に、エベレストの頂上より通ってきたスフィアゲートだった。
「帰れる」と、ホッとした息を漏らすソラ。
琥我を失った事に悲しみ、涙するアンリ。
――「ご苦労」
聞き慣れない言葉に、視線をスフィアゲートに向ける一同。
ただ、リュウセイだけは、その声に聞き覚えがあった。
黒いローブを纏うゲラヴィスク教の一人。
白く、平静を表す仮面を付けた男。
「レグザ様……」
羅嬬はローブの男に向かって答えた。
「よくやった、羅嬬よ。褒美を与えよう」
その言葉に、仏の表情をした仮面より見える、羅嬬の口元が怒りを表した。
「我々が、此処から脱出出来ぬ事を知りながら、どうして遣わせたっ!!」
「だが、こうして出れた」
「仲間を失った。琥我や邪赦螺を」
「まぁ、良いではないか、たかがゴミの一人や二人。それよりスピリットを頂こうか」
羅嬬は立ち上がると、手の中に長剣を表せた。
「拒否する。我々は、貴様の奴隷では無い」
羅嬬は、レグザとの距離を一気に縮めると、至近距離でソニックウェーブを放った。
だが、次の瞬間には、レグザは空高くに舞い上がり、不適な笑みを見せ付けた。
レグザを追いかける羅嬬。
強烈な一撃をレグザに与えようとした時、羅嬬の体を大きな剣が貫いた。
三人に衝撃が走る。
「仲間を殺すなんて……」
アンリが、口を開いた。
リュウセイが使用した『光の大剣』よりも一回り大きな剣に、口から血を吐く羅嬬。
その時、羅嬬は震える手で、懐から取り出したスピリットをリュウセイへ投げ渡した。
「早く逃げろっ!!」
その言葉に後押しされた三人は出口を目指した。
足を神像に踏み潰され起き上がることが出来ないリュウセイを、まだ若干の余力が残るアンリが担ぎ上げ、蒼いサークルを目指した。
「させるかっ!!」
レグザの手から放たれた光が、ソラと、アンリ、リュウセイの間の床を切り裂いた。
五メートル程の亀裂が三人を引き裂く。
リュウセイは、手に持っていたスピリットを、ゲートに近いソラに投げ渡した。
「取り合えず行けっ!! お前が、沢田 龍二に渡して来いっ。お前ら同様にゾンビ共が向かってるかもしれん!!」
「寺村さんと、松之宮はっ!?」と叫び問うソラ。
「ええから、行けっ。絶対に此処から抜け出すから」
「行って、神城君っ!!」
リュウセイとアンリの目を見つめると、ソラはスフィアゲートに飛び込んだ。
リュウセイを担ぐアンリが、五メートルもの亀裂を跳び越えようと、助走する距離を開ける。
その頭上では、羅嬬がレグザにしがみ付き、リュウセイ達が脱出するまでの時間を稼ぐ。
フルパワーのアンリでも、跳び越える事を躊躇しそうな距離なのに、疲れ果てたアンリには、相当苦しい状況だ。
「行ける、お前やったら跳び越えれる。スーツの力を解放しろ」
リュウセイの励ましを貰い、意識を集中するアンリ。
「行きますっ」
すると、アンリのバトルスーツのジーンズパンツが足に吸い付き、スピリットの力を吸収し始めた。
アンリは、助走をし、一気に跳び上がった。
巨大な亀裂の上を通過するアンリ。
向こう岸のギリギリの淵に着地する事に成功したアンリは、羅嬬の方を振り返った。
「行けっ!!」
羅嬬の言葉に後押しされるかのように、アンリとリュウセイはスフィアゲートに飛び込んだ。
「ざまぁ見ろ、レグザ」と、血を流す口元に喜びを表す羅嬬。
だが、羅嬬の思惑に反し、レグザは笑い出した。
「お前が、俺を止めただと? 冗談は仮面だけにしてくれ」
「何だと?」
「あの三人をこの場で殺そうと思えば簡単に出来ていたさ」
「まさか……わざと行かせたのか」
不気味な笑い声を上げるレグザ。
「これも計画の内さ」
そう言うと、レグザは、羅嬬の腹部を貫通させていた大剣を真上に引き上げた。
飛び散る鮮血と共に、仏の仮面が真っ二つに割れた。
~次回 第15話「沢田 龍二」~
今だ闇に沈む沢田 龍二の下へと急ぐソラ。
だが、リュウジは、決してソラを認めようとはしなかった。
氷壁のオブラートで心を閉ざすリュウジの運命の歯車は動き出すのだろうか?