第14話 「奇跡の瞬間」その1
羅嬬に殴りかかるリュウセイ。
拳が空を斬り、羅嬬の長剣がリュウセイの髪先を削る。
しゃがみこみ、羅嬬の顎へ渾身のアッパーを決め込もうとした時、神像の巨大な足が二人諸共、蟻を踏み潰すかのように振り下ろされた。
瞬時にバックステップで交わしたリュウセイと羅嬬が、それぞれ神像の顔面へエネルギーの塊を捻じ込んだ。
爆発を起こし、苦しいのか、顔を両手で押さえながら後ずさりする神像に追い討ちをするかの如く、リュウセイが走り出した。
神像の膝の上を走り、腕へ跳び乗る。
再び、神像の顔面に渾身の一打を喰らわせようとした時、羅嬬が放った真空波が、リュウセイの体を掠り、神像の首を貫いた。
「ふっ、終ったな」と仮面の下で不適な笑みを見せ付ける羅嬬。
だが、神像の首の切り口が、みるみる内に塞がってゆく。
「バカな……」と驚く羅嬬に、「そんなんで倒せたら苦労はせえへんわ」と言い、ブレスレットを青く輝かせたリュウセイ。
手の中に現れたのは、縦四十センチ、横六十センチほどの黒い兵器。全面には六つの穴、背面には排気口、側面には、ロックオンマークが表示されているモニタが突起されている。
それは、「未来型ロケットランチャー」だった。
「何故、それを私との闘いで使わなかった」と問う羅嬬に「これ位のスピード、どうせ避けるやろ?」と皮肉混じりに答えたリュウセイ。
「ドカンと一発ぶちかましたるっ」と言い、肩に担いだロケットランチャーのトリガーを引いた。
爆音と共に、火を噴いたロケットランチャー。
光る弾頭が神像へ当たるや大爆発を起こし、天井が吹き飛び爆煙が部屋中を包み込んだ。
徐々に爆煙が薄まる中、二人の目の前に、大きな巨体はなくなっていた。
「倒したのか?」
「どうやろ? 多分無理ちゃう?」
すると、コンクリートの床に散乱していた砂粒が集まり出し、宙に浮き、引き寄せられるかの様に、部屋中の砂粒、石、瓦礫が結合を始める。
「やっぱり無理か……」
「不死身と言う訳か……」
成す術なく立ち尽くす二人の前で、元の姿へと戻った神像。
「だから、アホみたいに俺ら同士が喧嘩してる場合や無いと思うで」
リュウセイは、これ以上効果が期待できないと悟り、ロケットランチャーを消し去った。
「仕方ない。だが、私が協力したところで、どうやってアレを倒す」
「そうやねんなぁ、それが一番の問題や」
神像に効果的な作戦が思いつかない二人をよそに、金剛力士像の様な怒り狂った表情を見せる神像。
眉間にシワを寄せ、開いた口から金色のエネルギー砲が発射された。
長く伸びる放射エネルギーが、コンクリートの地面をえぐり、リュウセイと羅嬬の間を通り抜けた。
咄嗟に跳び避け、左腕をリュウセイ、右腕を羅嬬が駆け上がる。
右腕を上げ、腕に止まった蚊を叩くように、リュウセイに平手を放つ神像。
神像の攻撃に慌てて、膝へと滑り降りたリュウセイ。
肩にまで上った羅嬬に、再び、神像の両目から赤い光線が照射される。
羅嬬は、前方宙返りで光線を交わし、神像の目に長剣を突き刺した。
だが、手応えは、砂山に剣を突き刺した様なモノだった。
すかさず、リュウセイが放ったソニックウェーブが、左膝の下半分を切り落とし、地面に膝をつく。
だが、瞬きをする間もなく、地面に散らばった砂粒が膝に吸い付き、復元を始める。
リュウセイは、復元された足に蹴られ、後方の壁に激突し、巨大な拳が、羅嬬を弾き飛ばした。
地面に着地し、大きく息を吸い込んだリュウセイ。
すると、神像が手を前へ突き出し、壁に向かって指を二回ほど曲げた。
途端に、巨大な部屋全体が振動を始める。
「これは何だ?」と言う羅嬬に「メッチャ嫌な予感がする」と苦笑いをするリュウセイ。
リュウセイの嫌な予感の通り、次の瞬間、神像が指差した方向の壁から、無数の槍が飛び出した。
その槍は、確実に二人に狙いを定めていた。
槍を避けたリュウセイと羅嬬だったが、今度は、隣の壁からブーメランのような刃物が宙を舞い、二人を襲い始めた。
襲い掛かる刃物を、手に持っている剣で弾き返す二人を容赦なく、神像の拳が振り下ろされる。
剣を弾き、拳を避け、槍をも弾くリュウセイと羅嬬。この二人でなければ、何れかの攻撃を免れることは出来なかっただろう。
しかし、神像の攻撃は休むどころか激しさを増し始めた。
指を地面に向け動かすと、床が不均一に動き始める。
バランスを崩し、尻餅を付くリュウセイ。
すると、いきなり、二メートル四方の床が急上昇を始めた。床から浮き出た床は、立方体の形をしており、次々とその数を増してゆく。
「ふざけんなやっ」
リュウセイの目の前には、先ほどまでの平坦な世界はなく、まるでアスレチックのような、凹凸の激しい世界へと変わっていった。
神像が、今度は両手を胸の前で叩くように合わせると、宙に浮いている二メートル四方のコンクリートブロックが、縦横無尽にお互いを弾き合い始めた。
間違った場所に居れば、確実にブロック同士に押し潰されかねない。
感覚を研ぎ澄ませ避け続ける二人。
しかし、永遠に避け続ける事など不可能だろう。何時かは、押し潰されてしまう。
それまでに、あの神像を破壊しなければならないと焦るリュウセイと羅嬬だが、コンクリートブロックに気を取られ近づく事すら間々ならない。
その時、部屋の壁が開き、中から、アンリと琥我が現れた。
「何コレっ!?」と声を揃えて、目の前の光景に驚く二人を尻目に、応える余裕もなく、ブロックを避け続けるリュウセイと羅嬬。
次の瞬間、次々とコンクリートブロックが爆発を起こした。
縦横無尽に飛び回る光の玉が、ブロックを破壊している。
荒い呼吸で、上を見上げたリュウセイの目の前に、銃を片手に持つソラが、穴が開いた天井から見下ろしていた。
「みんな揃ったぞ、形勢逆転かぁ?」とリュウセイは、希望に満ちた笑みを見せた。
つづく
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