第11話 「前世が残した遺跡」その2
「さぶ(寒)ぅぅっ!」肩を振るわせるリュウセイ。
ザクザクと足音を立てながら、三人は、エベレストの山頂に姿を現せた。
青く晴れ渡った空の下、白銀に染まる山々が雲を突き抜け天を仰ぐ。
フォースライドのラウンジから見える銀河の景色とは、まるで正反対の大自然が、彼らの眼前に広がっていた。
「遺跡の入口ってドコなんですか?」
ソラも肩を震わせ、リュウセイに話しかけた。
「確かこの辺やったかなぁ」
リュウセイは、ズボンのポケットから、手の平に収まるほどの液晶画面を取り出すと、その画面を見ながら歩いていく。
五歩程歩いた所で、リュウセイは歩みを止めた。
「あったあった」
「えっ、何がですが?」不思議そうにリュウセイに問いかけるアンリ。
目の前は、雪山意外何も見えない。
「ここ、ここ」と地面を指さすリュウセイ。
アンリとソラが、リュウセイが指さす地面を見ると、人一人分が入る事が出来る蒼い光のサークルが見える。
「これって……」とソラが口を開く。
「スフィアゲート?」とアンリがソラに続いた。
「そうや。このスフィアゲートが、他の星にある、前世が残した遺跡までワープさせてくれるんや。つまり、こっから先は、地球じゃないって事や」
「でも、なんでこんなややこしい場所に入口なんか作ったんですか? もっと分かり易い場所でも良かったんじゃ?」
鼻を赤くしたソラに、リュウセイが答える。
「そんなん、町中に作ってみろや、こんなん目立ってしゃーないやろ。それに、これはスフィア無しで転送できるタイプやから、どこぞやのオッサンが飛ばされる事にもなりかねん。人目の付きにくい場所がエエって事や」
「そんじゃあ、先に行っとくから、お前らも俺に続くように」
そう言うと、リュウセイは光のサークルの中に入った、と同時に一筋の光を残し消えてしまった。
「じゃあ、次は私が行くわ」
ソラに告げると、アンリは踵を返し、光のサークルへ入った。
とうとう一人になってしまったソラ。
極限の寒さと孤独感がソラの心を締め付ける。
「クソっ、やってやるさ!」
ソラは、光のサークルの中に飛び込んだ。
途端に目の前に、大きな通路が現われた。
天井高は五メートル程でかなり高く、横は車二台分と言った所だ。
コンクリートの様に見える壁が延々と続き、両サイドの天井から照らされるスポットライトの光が少し眩しい。
「何ボーっとしてんねん?」
ソラの後ろで腰に手を当てながらリュウセイが言った。
「あっ、すいません」
延々と続く通路を突き進むリュウセイの後ろをアンリとソラが付いていく。
三人の足音が、何もない通路の中を反響し、幾重にも聞こえてくる。
突き当たりの角を右に曲がると、またもやコンクリートの通路が視界が届く限り遠くまで続いている。
すると、リュウセイの声が静寂を破った。
「遺跡ってくらいやから、映画とかで見掛ける、もっと岩とか草木とか石像がある様な所を想像してたやろ?」
首だけ後ろを振り返りながらソラとアンリに問いかけるリュウセイにアンリが頷く。
「そうですね。なんか凄く閉塞感があって息が詰まりそう」
続いてソラが問いかける。
「この通路、一本道でゴールに着くんすか?」
「あぁ、でも、ゴール手前に門番がおるし、黒いローブの奴らも来て無さそうやから、今回は問題なく帰れるやろ」
「良かったぁ」
ソラの安堵が混じった声が通路に響き渡った。
暫く歩いていると、目の前に二体の機械が剥き出しのロボットが地面に倒れているのが見えた。
途端に、それらのロボットの下に走り寄るリュウセイ。
片膝を付き、ロボットを調べ始める。
「何なんですか? このロボットの様な物は?」ソラが問いかける。
「ここのスピリットを守ってる門番や。メインチップまでぶっ壊されてる……マズイぞっ!」
途端にリュウセイの顔が険しくなるや否や、リュウセイは一気に通路の奥に走った。
「スピリットが危ないぞ! 急げっ」
「マジかよっ!?」
ソラとアンリはリュウセイに続いた。
既に、人間が出せるスピードを越えている三人が、目の前の角を曲がると、ゴールらしき、一際明るく広いホールが見える。
ソコに、黒いローブを頭から着た三人組が見えた。
「アイツらっ!」
リュウセイは叫んだ。
ローブの者達の前には、小さな水晶玉が中に浮いているのが見える。
「あれがスピリット!?」
アンリはそう言うと、ソラと共に走るスピードを上げていく。
「羅嬬、アイツらが来たよ」
ローブの連中の内の一人、悲しき仮面を付けた者が暗い声で言った。
「慌てるな琥我よ。これからが面白いのだ」
スピリットの真向かいにいるローブの者「羅嬬」は琥我を諭した。
「イッツ ショウタイム でしょ」
三人目の者が満面の笑みを表した白い仮面を琥我に向ける。
「邪赦螺よ、落ち着け」
羅嬬は、そう言うと、リュウセイ達の方に振り返り、仏にも似た白い仮面から唯一見える口に、溢れんばかりの喜びを表した。
再び、羅嬬は踵を返すと、スピリットを握りしめ、懐に隠した。
途端に、遺跡中に警報音が鳴り響く。
「シンニュウシャ シンニュウシャ キケン ヲ カンチ シマシタ シンニュウシャ ハイジョ カイシ シマス」
冷たくも、冷酷な言葉が何処かから聞こえる。
「寺村さん、何なんですか。コレは!?」アンリは走るリュウセイに問いかける。
「スピリットを手にした者が、俺らじゃ無いから、遺跡に仕掛けられてる緊急防御システムが作動したんや」
「緊急防御システム?」ソラが走りながら繰り返す。
「侵入者を外に出さんように排除するって事や!」
リュウセイがそう答えた途端に、コンクリートの床の繋ぎ目が解ける様に崩れ出した。
すると、三人の左右上下の壁までも、ブロックごとに動きだし始める。
バランスを崩し、三人のローブの者達がいるホールの手前で立ち止まるリュウセイ達。
「おまえらぁっ」
リュウセイの表情が怒りに満ちてゆくのと同時に、黒いバトルスーツのシャツが体に吸い付き、瞬時に膨れ上がった。
まるでスーツが新たな筋肉になったかの様だ。
「うわぁっ!」
その声にアンリとリュウセイが振り返った時には、ソラの姿が床ごと消えていた。
「神城君っ!」アンリが叫ぶ。
すると、今度は、アンリとリュウセイの間を分厚いコンクリートの壁が遮った。
振り返るリュウセイの目の前で、三人のローブの者達でさえも、緊急防御システムにより、地形が変化し、離ればなれになっていく。
リュウセイと羅嬬の間に分厚い壁が下から遮ろうとしてゆく。
「待てコラぁぁっ!」
リュウセイは、閉鎖される通路の隙間を間一髪すり抜け、羅嬬に向かい殴り掛った。
つづく