第10話 「不良の楽園」その3
まず仕掛けたのは龍二だ。
地面を蹴り上げ一気に間合いを詰めた、そして渾身の右ストレートをソラの頬に突き込む。
しかし、ソラは顔を少し傾けパンチの軌道から外した。そのままソラは龍二の右腕を掴み、背負い投げの様に投げ飛ばした。
龍二の体が机に激突し、大きな金属音を立てながら辺りの机や椅子を巻き込んでいく。
怒りで顔を真っ赤にしながら龍二が立ち上がるや否や、龍二は側にあった机を持ち上げソラに向けて投げ飛ばした。
生徒達が勉強する為に使われる椅子は、宙を回転しながら舞い、驚いて顔を伏せるソラの頭に衝突した。
痛みで、後頭部を手で押さえながらソラは立ち上がった。
「卑怯だぞ」
「勝ちゃあ良いんだよ。結果良ければ全て良しって奴さ」
そう言い、再び龍二は近くにあった机をソラに向けて投げた。
しゃがみ込むソラの頭を掠り、すぐ後ろの小さな黒板に大きな穴が開いた。
龍二は、直ぐさま次の椅子に手を掛け、持ち上げようとした。しかし、辺りの机などに引っかかり持ち上がらない。
その時、ソラの拳が龍二の顎を弾いた。
衝撃で、仰け反った龍二は気を取り直し、ソラの頬を殴り込んだ。
まともに龍二の拳がソラの頬にめり込む。
だが、負けじとソラは回し蹴りを龍二の脇腹に放った。
龍二は痛みに顔を歪め、脇腹を手で押さえた。
「コノ野郎っ」
「もう止めろ、これ以上闘っても無意味だ。お前に俺は倒せない」
「ふざけやがってっ!」
体勢を立て直した龍二は、ソラに向かい助走し軽くジャブを放った。
手でジャブを押さえたソラ。しかし、それは龍二の罠……フェイントだった。
ジャブを押さえる事で、がら空きになった顔目掛け飛び膝蹴りを御見舞いした龍二。
綺麗に顎をカッティングされ、膝の力が抜けたソラは床に跪いた。
「クソがっ!」
そう言うと龍二は、ソラの胸ぐらを掴み上げ、パンチの連打を頬、顎、鼻に浴びせる。
鈍い音と共に、ソラの鼻から赤い液体が飛び散る。
「あんたバッカじゃないの! そんな事がカッコいい事だと思ってんの?」
そう龍二を野次ったのは、アンリの友達の奈菜瀬 美津穂だ。
教室の隅で固まっている女子達の中、一番先頭に立っている。
龍二は、力なく弱っているソラを離し、美津穂の下へと歩み寄る。
「女のクセに舐めた事言いやがって」
龍二はそう言うと、後ずさりする美津穂の髪の毛を引っ張り首を掴んだ。
力を強めていく手の中、美津穂の細い首が悲鳴をあげる。上を向き、苦しそうに口を開ける美津穂。
その時、龍二のパンチが美津穂の腹を打ち込んだ。
無理やり出される息と一緒に痛みを伴った声が出た。
崩れ落ちる美津穂。
「てめぇっ!」
怒声を吐きながらソラは、龍二に組掛った。
バランスを崩す龍二の上に馬乗りになり、パンチの連打を放つソラ。
顔を弾く音と共に、歯を食いしばった龍二の顔が左へ右へと持って行かれる。
だが、馬乗りになっているソラの背中を、すかさず膝で蹴り上げた龍二。
前転をするかの如くソラが床に転がった。
今度は逆にソラの上に馬乗りになり、龍二はパンチの連打をソラの顔面に浴びせた。
その時、ソラの心臓が大きく脈を打った。
――「えっ?」
そして、何処からともなく声が聞こえる。
「お前の力はこんなモノか? 少し体を借りるぞ」
何が起こったか考える間もなく、ソラの意識が途絶えた。
次の瞬間、殴られ続けていたソラの手が龍二の腕を掴み止めた。
「しつけぇんだよっ!」
龍二が罵声を浴びせたのと同時に、掴んだ腕を龍二ごと天井に投げ飛ばすソラ。
その信じられない光景に教室にいる全ての生徒達の口が開きっぱなしになっていた。
いくら何でも、人一人を片手で放り投げたのだから。
龍二は、天井にぶつかる際で勢いを失い、木の床に叩き付けられた。
その時、教室の扉が開き五人ほどの警察達が、床で苦しむ龍二を取り押さえた。
「クソっ、コノッ! 離せチクショーめが!」
怒れ狂う龍二。
警察が到着して直ぐに救急隊も到着し、頭部が赤く染まる加藤先生をストレッチャーに乗せ運び出した。
「おいっ、大丈夫か? 神城」
と、ソラに問いかけるタケル。
だが、全く反応しないソラ。
「おい、神城っ冗談のつもりか?」
タケルがそう言った時、ソラは崩れる様に床に倒れた。
五人の警察に両手両足、背中を押さえ付けられても、なお、暴れる龍二。
「この野郎っ、まだ決着は着いてねぇぞ!」
その時、龍二の手首に手錠が掛けられた。
見上げる龍二の目の前に、ベージュのロングコートを着た如何にも「ベテラン刑事」が仁王立ちでいた。
「遂にやってくれたな」
そう冷たく言いながら、龍二を見下ろす刑事。
龍二は、その刑事を睨み付けながら口を開いた。
「オヤジッ……」
円柱のカプセルの中に透明の液体が注ぎ込まれてゆく。
キュアラクトの中でソラが回復液に浸されて行く様子を見ながら、アンリとリュウセイは近くのベンチに腰を下ろしていた。
「神城君が回復するまで、どれだけの時間が掛るんですか?」
アンリが足を組みながらリュウセイに問いかけた。
「そうやなぁ、大体一時間半ってとこやろ。そんなに傷も深くないし」
「でも、私が居ない間に学校であんな惨事が起きるなんて想像も付かなかった」
険しい顔のアンリ。
「それより俺がビックリしたんは、探してた『沢田 龍二』が意外と近くにおって、おまけに神城と敵対してたとわな……これから一緒に協力して行かなアカンって言うのに、大丈夫かなぁ」
リュウセイは胸の前で両腕を組んだ。
「まぁとにかく、神城が回復次第、遺跡に出発や」
そこはまるで「廃墟」と呼ぶに相応しい人気の無い病院。
日の光も届かない地下にある手術室の様な空間が、彼らが落ち着ける場所でもあった。
「ほう、揃った様だな……我が同志達よ」
知的が似合う男の声。
すると別の男の声が暗闇に響く。
「レグザ様、我らゲラヴィスク教はガジャル様の下部で御座います。必ずや全てのスピリットを手に入れてみせます」
「実に頼もしい、今のお前達なら、あのリュウセイと言う男でさえ一捻りだろう」
「必ずやご期待通りに」
暗闇の中、レグザの不気味なほどの笑い声が木霊した。
〜次回 第11話「前世が残した遺跡」〜
新たなるスピリットを求め、遺跡に入るソラ・アンリ・リュウセイ
だが、数々のトラップとゲラヴィスク教軍団が三人の行く手を阻む
果たして、新たなるスピリットに辿り着く事が出来るのだろうか?
今、ダンジョン・バトルの幕が開かれる。