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第10話 「不良の楽園」その2

最近、真剣に小説の書き方を勉強し始めました。

やっぱし、文て面白いけど難しいですね。

単語の並べ方で、感じが変わるし、表見も変わる…

楽しくて仕方がないです。

 玄関と、その先に見えるリビングを繋ぐ廊下の間に、6畳程の広さの和室がある。

 

 引き戸を開け、中に入る龍二。

 畳の匂いと、木の暖かな香りが龍二を迎え入れる。

 部屋の中には、龍二の母親が生前趣味としていた『トールペイント』と言われる、色々な形をした木の板に、絵の具で可愛い花や動物や、子供の絵が描かれている作品が、所狭しと飾られている。

 それらを見渡せる様に、母「しずく」の仏壇が部屋の隅に置かれていた。


 龍二はゆっくりと母親の仏壇の元へと歩み寄った。しかし、仏壇の中を見るなり龍二は舌打ちをした。

 「親父オヤジの奴、全く手入れしてねえじゃねーか。死んだらもう用済みかよ」


 龍二は、目の前のカチカチに固まったご飯が、そのままにされている仏器を持ち上げ、台所に向かった。



 仏壇の前で、手を合わせる龍二。

 

 「すまない母さん…もう、抜け出せないんだ。憎しみや恨みがどんどんと俺を黒くしてゆく。自分でも最近何をしているのか解らないんだ…止められない。母さんを苦しめたアイツらを地獄に叩き落としたら…俺もそっちに行くからな…」と龍二は心の中で母に優しく語り掛けた。


 母さんの前で手を合わせている時だけ、真っ黒な俺の中にある、一欠片の白い俺が姿を現す事ができる。でも…この、母さんが居る部屋を一歩でも外へ出ると、俺は黒く染まっていく…



 ◇◇◇◇◇



 「ちょりーす」

 授業中にも関わらず、教室の戸を勢いよく開け、大声でクラスの仲間に挨拶をする龍二。

 「龍二、今日も『昼から登校』なんてやるね〜」と火の着いたタバコをくわえながら、入口の直ぐ隣の席で山本が笑いながら声を掛ける。

 「うっせーよ、バァ〜カ」と返す龍二。

 

 すると、教室の窓側にいるピアスを顔中に付けているクラスメイトが、龍二に挨拶をする。

 「龍二さん、昨日の女マジ最高でしたよ。今度はいつ『狩り』をするんすか?」

 「さぁな、今晩辺りも行っとくか」と笑う龍二。


 

 好き勝手に遊んでいるクラスの生徒達。キャッチボールをする者、携帯をいじっている者、ゲームをする者、喧嘩をする者…

 数学の講師である西岡は、誰も聞いていない受業を黙々と口にしながら黒板へ向かっている。


 龍二は、山本の隣の席に着き、さっそくタバコに火を着けた。


 「お前に頼まれていた例の男の調べが着いたぜ」と山本は紫煙を吐きながら龍二に語りかける。

 「さすがは山本、仕事が速いねぇ」と言い、龍二はタバコの煙を吸い込んだ。


 山本は折りたたみ携帯を開け、ボタンを押していき、メールに書かれている内容を龍二に伝え始めた。

 「星野高校の『神城 空』(しんじょう そら)、2年。空手部で地方の大会でも優勝するくらいの強者、最近まで病院に入院してたらしいけど、今日から登校してるってさ」

 「なるほど、通りで動きが良い訳だ」と、龍二は先日、神城 空と闘った時の記憶を脳裏に甦らせているのだろう。

 

 ほとんど吸っていないタバコが龍二の手の中でグシャリと音を立て、その形を変えた。まるで彼の憤りの程を表しているかのようだ。


 途端に勢いよく立ち上がった龍二。

 「テメェら行くぞ、目標は星野高校の神城 空。俺らの怖さ教えてやろーぜ!」

 龍二の掛け声に奇声を発するクラスの仲間達。

 

 数学の講師の西岡が、受業終了のチャイムが鳴り、教室を振り返った時には、誰一人居なかった。



 ◇◇◇◇◇



 ソラは黒板に書かれている内容をノートに書き写していた。ふとアンリの机に目をやったが、やっぱりアンリは居ない。


 一体どうしてしまったのだろう…とソラの心に不安がぎる。


 「よっ、野菜戦士」と声を掛けてきたのはタケルだ。

 「だから、野菜戦士って呼ぶなよ」

 「何さっきから松之宮の席バッカ気にしてんだよ。お前は入院してたにせよ、松之宮まで休み出すからてっきりお前ら出来てんのかと思ってたよ」とニヤニヤと笑いながらソラに語りかけるタケル。

 「んな訳ないだろ」と返しつつも、その反面、そうなら良いなぁと心に思ったソラ。


  

 休み時間になり、席を離れようとした時、ソラの携帯電話が震えた。

 ズボンのポケットから携帯を取り出し画面を確認した。


 「なんだ、この番号…?」

 ソラには全く身に覚えの無い番号だった。

 不審に思い、電源ボタンを押し、コールを断ち切るソラ。

 だが、また直ぐに同じ番号からのコールが始まった。

 「なんなんだよ」

 ソラはどうせ間違い電話だと思い、仕方なく受話ボタンを押し、スピーカーを耳に押し当てた。


 「神城君? 松之宮よ」

 なんと、ソラの耳に流れてきた声はアンリの声だ。

 「ま、松之宮…」

 驚き、同様するソラ。

 内容はともかく初めて好きになった女の子から、自分の携帯に電話が来たのだから、冷静でいられる訳がない。

 「今学校?」とアンリの声がスピーカーから流れる。

 

 「なんて可愛い声なんだ…」と、その声に酔いしれるソラ。あの病院での晩にも松之宮と会話を交わしたが状況が状況なだけに、よく覚えていなかった。だが直ぐに、ある疑問がソラの頭に浮かんだ。

 「お前、今どこに居るんだよ? 学校にも来ねーし」

 「それどころじゃ無くて。今から神城君を迎えに行くから正門前に来て」

 「今から!? そりゃマズイだろ。加藤の説教はマジ勘弁だぜ」と焦るソラ。

 「あんたスピリットの使い手なんでしょ?だったら…」と話を続けるアンリの声をかき消すかの如く、クラスメイトのシンジが窓の外を指差し叫んだ。

 「なんだアレ!?」


 携帯を耳から離し、窓の外を見たソラに衝撃が走った。


 十数台のバイクにまたがり、金属バットや鉄パイプなどを握りしめる不良学生達が正門広場を占拠している。

 バイクから発せられるエンジンやマフラーの爆音が教室の床や窓ガラスを揺さぶる。


 その不良グループの先頭にいる男には見覚えがある。

 この間、下校途中にタケルが襲われ、俺が殴り倒した奴だ。


 「しんじょう そらぁぁっ!出て来やがれ!この間のお礼をしに来たぜ」と校舎を見上げ叫ぶ龍二。


 「もしもし…? もしもし…?」

 スピーカーから漏れているアンリの声は、茫然と立ち尽くすソラの掌から滑り落ちた。


 「今から、殺してやるから首洗って待ってろやコラぁ!」

 そう言って、バイクから降りる龍二は金属バットを握りしめ校舎へ踏み込んできた。

 後を続くように、他の不良達がそれぞれの武器を手に校内をくまなく探し回る。




 ◇◇◇◇◇



 「おいソラ、完全にこの間の仕返しだぞ」と慌てふためくタケル。


 そんなの解っている…どうする…戦うか…でもあの人数勝てんのか?

 困惑するソラの顔はいつに増して険しい。


 教室の後ろの戸が音を立てて開いた。

 「神城ぉぉ、見っっっけ!」と、スキンヘッドの学生が仲間へ居場所を知らせる様に叫んだ。

 舌打ちをするソラ。


 スキンヘッドの学生は、不適な笑みを浮かべながら手に持っている鉄パイプを振り回す。その様子に、クラスの女子達は怯え、教室の隅へと固まり出した。

 その時、スキンヘッドの学生の後ろに、一人の男が現れた。

 ――加藤だ。

 「先生っ!」と女子生徒が一斉に声を上げた。

 いつも煙たく思われる加藤も、今だけは、凄く頼れるようだ。


 「お前ら何やってんだっ!」

 加藤は、スキンヘッドの学生に怒鳴り、拘束しようと歩み寄る。元々ガタイの良い体を更に強調するかの様に胸を張り、鼻息を荒立てている加藤…かなり頭に来ているようだ。


 「ふん、オッサンは引っ込んでなっ」

 スキンヘッドの学生はそう言うなり、加藤に向かって鉄パイプを振りかぶる。鉄パイプはしなり、空気を裂く様な音を響かせた。

 だが、加藤は一気に間合いを詰め、体に当たる前に鉄パイプを掴んだ。そして、スキンヘッドの学生の胸ぐらを掴み、持ち前の腕力で一気に持ち上げる。

 

 「いける!」

 ソラを含め、クラスのみんなの気持ちは一緒だった。


 だが、胸ぐらを捕まれているにも関わらず、スキンヘッドの男はまたしても不適な笑みを浮かべ口を開いた。

 「オッサン、後ろ見てみな」

 その言葉に加藤が後ろを振り返った時には既に遅かった…


 加藤の顔面を、龍二の金属バットが弾き飛ばした!

 崩れ落ちる加藤の頭から止めどなくどす黒い血が流れ出す。その光景に教室の端に固まっていた女子達の悲鳴が廊下まで響き渡り、男子達の顔からも血の気が引いていた。

 さすがのスキンヘッドの学生も「おい、沢田、これはマズイんじゃねぇか…」と怖じけ出す程だ。


 「お前、狙いは俺だろ…ここまでする事ねぇじゃねーか!」と震える拳を押さえ、龍二に訴えるソラ。

 「黙れ、邪魔者は排除するだけだ。俺と勝負しろ、神城 空…タイマンだ。俺が負けたらいさぎよく去ってやるよ」


 「神城…やるのか?」とタケルが聞く。

 「ここまで、やられたんだ。引く訳にはいかないだろ」


 ソラはゆっくりと構えだした。




 つづく


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