第1話 「神城 空」その3
ニヤニヤと不適な笑みをチラつかせながら、五〜六人の不良学生達が、ソラに向かっていく。
一人は黒い詰襟の学蘭を脱ぎ捨て、また一人は肩を慣らす様に回している。他の不良学生達も指を鳴らしたりなど、自分の中で喧嘩の準備をしていた。
龍二に胸ぐらを掴まれているタケルは覚悟を決め、関節技を掛けようとした。
しかし、龍二はタケルの腕を振り払い、肩を両手で引き寄せ、顔面に渾身の膝蹴りを喰らわせた。
重く鈍い音が辺りに響き渡り、タケルの顔から血が流れた。
「おいっ! タケルっ……大丈夫かっ」シンジはいつも以上に自転車のハンドルを握りながら叫んだ。
耳に大きなリングピアスを付けている不良が、ソラの顔面に渾身の拳を振りかぶる。
だが、ソラは手の平であっさりと受け流し、相手の顎に強烈な肘打ちを喰らわせた。
白目をむき、崩れ落ちる不良を前に、周りの不良達の足が止まる。
「止めとけ、お前らじゃ相手になんねぇ」ソラは不良達に鋭い目つきで言い放った。
流血が止まらない顔を、泣きながら両手で押さえ、のたうち回っているタケルの顔を、足でアスファルトに押し付け、龍二はソラに向かい口を開いた。
「お前、格闘技でも囓ってんのか?」
「だったらどうなんだ?」
怒りを冷静さで押さえ付けながら、質問を質問で返したソラ。
「お前ら、手ぇ出すな。コイツは俺が殺る」
龍二は残りの不良学生達に言った。
不良達は龍二の言う事には逆らえないのだろう、黙って身を引いた。
龍二は拳を握りしめた……
ソラが足首を慣らす。
次の瞬間、龍二はソラの腹部目掛け前蹴りを放った。タイミングを見計らい、ソラは体を半回転させ蹴りをかわした。
バランスを崩した龍二を追い込むかの如く、ソラのパンチの連打が、龍二の体中に撃ち込まれる。
ソラは止めに龍二の顔面へ渾身の回し蹴りを放った。
――しかし、龍二はその時を待っていた。
ソラのパンチの連打を堪え忍んだ龍二は、放たれた蹴りを手で巻き込み、振り払った。
ソラは足を振り払われた反動で遠心力が強くなり、龍二に背を向けてしまった。
それは、正に無防備といっても過言ではない。
次の瞬間、ソラは地面に崩れ落ちていた。
バランスを崩したソラの顔目掛け、龍二は渾身の回し蹴りをお見舞いしていたのだ。
ソラの鼻から血が流れた……
「大したことねぇなぁ」龍二は息を荒くしながら言い放った。
鼻血を腕で拭きながら、ソラは「フンっ」と鼻で笑った。
龍二は、地面に座り込んでいるソラ目掛け、拳を振り下ろした。しかし、さすがは空手部のソラ。
カウンターのアッパーが龍二の顎を弾き飛ばした。
糸の切れたマリオネットの様に崩れ落ちた龍二……
「舐めんなっ」
そう言うと、ソラはタケルの肩を担ぎ上げ、シンジの元へ向かった。
「ゴメン……俺、何も出来なかった」シンジが申し訳なさそうに詫びた。
「何言ってんだ、それで良いんだ」優しく声を掛けるソラ。
シクシクと泣きながらタケルは口を開いた「ゴメン、ソラ、シンジ……ゴメンっ!」
「何にせよ無事で良かった」
そう言いながらソラ達は夕日に向かって歩いていった。
〜次回 第2話「覚醒」〜
一条の光と共に現れる水晶玉……
今、ソラの運命が大きく動き出す。